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VR動画 2020.09.05

心臓の“音”が作品に影響するVRアニメ「BEAT」とは?先行体験レビュー

絵本のページをめくるように、アニメをただ眺めるだけではなく自分の力で動かす事が出来る時代になりました。しかも使うのは自身の手ではなく、自分の心臓の音なのです。

第77回ベネチア国際映画祭バーチャルリアリティ(VR)部門にノミネートされたVRアニメーション作品「BEAT」。「自分の心音で物語を操作する」という新感覚のアニメーションです。

心臓の鼓動が物語に光を与える

「BEAT」は、貴方が主人公のロボットに自らの心臓を分け与え、”心”を持たせる事で物語が始まります。見る人を傍観者ではなく、必要不可欠な登場人物として物語世界に誘うこの作品は、「あなたが出演しなければ始まらない」のです。


(聴診器で拾った心臓の音がアンプを通して心臓デバイスに伝わるようになっている※写真の手は映像スタッフのもの)

体験を始めた筆者はまず、HMDゴーグルを被せられたのちに、「これは、あなたの心臓です」と心臓大の大きさのセンサー(VIVEトラッカー)を左手に渡されました。

そして右手に聴診器を渡され「自分の心臓に当ててください」と言われます。その聴診器を自身の胸に当てると、左手に持つ心臓が「ドクンドクン」と自分の鼓動に合わせて脈打ち始めたのです。

そして暗闇だった世界が、自分の心臓の鼓動が発する光で照らされ始めました。目の前に無骨な機械の舞台セットが組まれている事に気づくと同時に、1体のロボットが現れます。

ロボットが困っている際に助けたり、心臓を近づけて心を通わせ合う事でストーリーが進行します。


(筆者の心臓の鼓動をロボットに分け与える様子。室内に光源はなく、心臓の光で互いを視認する)

このアニメーション作品の中に照明はありません。あるのは自分やロボットの「心臓から発される光」だけ。その事に気づくと同時に、心臓が期待と興奮で自然に早鐘を打ち、どんどん辺りが明るくなっていきました

「BEAT」は「映画は作品世界に入り込めば入り込むほど楽しめる」という当たり前の事実を、鑑賞者の鼓動を物語世界に取り入れる事で「実用化」し、より強く物語の中に没入する事が出来る作品だと言えます。

伊東ケイスケ氏の作品が予感させるVR映像作品の未来とは?

「BEAT」の監督は、前年度のヴェネツィア映画祭VR部門にもノミネートされたVR映画「feather」も手掛けた伊東ケイスケさんです。

絵本風の世界観を得意とし、モデリングもアニメーションも演出も全てを1人で手掛けきた伊東さんですが、本作「BEAT」では自分1人の力だけで完結しようとするのではなく、心音デバイスのエンジニアと協力。その結果、作品世界をより魅力的に作り上げる事に成功しました。

構想に半年、制作に3ヶ月を費やして作り上げられたこの「BEAT」では、「企画段階でボツになったシナリオ、演出の数は20や30をゆうに超えた」と伊東さんは語ります。そして彼は最終構想として、人とロボット、そしてロボットとロボット達が「助け合い、心を通わせる」ことを前作よりも重点的に描きました。


(ロボット達は、協力して機械に歯車を嵌め、心を通わせます)

自分1人で完結するのではなく、他者と協力する事」への作者の心境の変化なども見受ける事が出来、今後作られる次回作がより一層楽しみになりました。

ベネチア国際映画祭にVR部門が出来たのはここ数年のことで、VR映画作品は未だ発展途上です。何よりVRデバイスの普及率は未だ低く、どれだけ優れた作品を作っても商業的に成功することは難しい状況です。大学で手描きアニメーションやCGアニメーションを制作していた伊東さんも、「VRの映像作品は平面よりも難しい」と語ります。

それでも今は可能性を広げる期間として、次回作でもより良い体験を作りたいと意気込みを新たにされていました。

今回のように、体験用の追加デバイスを活用する映画は商業展開が難しい訳でもありません。かつて、3Dメガネというデバイスを活用する事で映画「アバター」が大ヒットを遂げたように、次世代の歴史に残るVR映画作品はここから生まれるかも知れません。

今後このようなコンテンツが発展していった先のVRアニメやVR映画では、映画館で隣の席の人と協力する事で物語が進行したり、観客全員の身体性をリアルとVRで連動させたりするような作品がより多く現れるのではないかと考えます。

「BEAT」は、現在VIVE PORTにてどなたでも視聴、体験が可能です。(心音デバイスの代わりに、コントローラーで操作を行います)ぜひ「アニメの中の登場人物」になる体験を、ご自身で体感してみませんか?

執筆:届木ウカ


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