2018年5月1日に発売され1ヶ月で10万本を売り上げ、日本でも話題を集め続けているVRゲーム「Beat Saber」。MoguLiveでは、制作を行ったBeat GamesのCEOでもあり「Beat Saber」の楽曲を作曲したJaroslav Beck氏のインタビューを行いました。
前編に続き、制作の経緯や「Beat Saber」の今後について聴きました。
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最初の90%を数週間で、残りの10%を1年で磨き上げる
――「Beat Saber」の開発には何人で取り組んでいたのですか?
- Jaroslev:
-
3人です。作曲家でCEOの私と、ウラジミールとヤンという2名の開発者です。
――小さなチームで大きな成果を手にしたのですね。開発はいつ頃から?
- Jaroslev:
-
「Beat Saber」の開発は2016年中頃に始まりました。ウラジミールとヤンはリズムゲームが大好きで、VRゲーム開発に取り組み始めたのです。私はその頃はまだチームに加わっていません。2人のチームはHyperbolic Magnetismという名前でした。2016年にApp Storeで高評価(※)となった「Chameleon Run(カメレオンラン)」というゲームはこのチームが制作したものです。とてもシンプルなゲームですがよく出来ています。
(※「Chameleon Run」は2016年のApple Design Awardを受賞しているスマホ向けゲーム。iOS、Androidでリリースされている)
「Chameleon Run」が一段落して、彼らは「Beat Saber」に取り組み始めました。まずはコンセプトから。「Beat Saber」のコンセプトはとてもシンプルです。2つの剣を持っていて、それでキューブを切り払っていくリズムゲーム。この基本的なメカニズムは、非常にわかりやすくプレイしやすいものでした。
私達が成功に至った理由として、最も大事だと思っているのは、このゲームの90%を作るまでに数週間しかかかっておらず、このコンセプトを磨きに磨いて完成させるまでの残りの10%に1年以上の時間をかけたという点です。その結果、「Beat Saber」はとてもスムーズかつ快適にプレイできるゲームになりました。
一度ゲームが注目されると、その仕組みを真似たゲームが出てくることを私達は知っています。ゲームのメカニズム自体はすぐに真似されてしまいます。しかし、メカニズムをよりシンプルにして、ゲームの各構成要素を磨き上げることに時間をかけることで、そのメカニズムを誰よりもうまく活かすことができました。
ちょうど1年前(2017年6月)に、2人はアルファ版のティザー動画を公開しました。私はその頃Blizzardなどに向けて楽曲を作っていました。その動画を見て、ヤン(共同創業者の1人)が作った音楽を聴いたとき、まるで私にとっては啓示のように感じられたのです。「これこそ自分が携わらなければいけないものだ」と。私は作曲家として、音楽がどうあるべきかを常に考えていました。音楽を次のレベルに引き上げるにはどうすればいいのか、と。彼らにすぐに連絡をとりました。偶然なことですが、彼らはチェコの出身で、私もチェコ出身だったのは驚きましたね。チェコで会って、「Beat Saber」のサウンドトラックを作りたいと話したのです。
私はそれまでインディーゲームに関わったことはあまりありませんでした。私は彼らに10曲の楽曲を作ることになりました。その後、私はサウンドトラックを完成させ、2人の開発者はゲームを磨きました。
――「Beat Saber」はSNS上で最初から話題になっていた印象があります。
- Jaroslev:
-
そうですね。SNSでの宣伝には一切お金をかけていないのですが。2018年の1月に、ヤンがただ「今作っているこのシーンが好き」と伝えるためだけに、一人称視点でシンプルな動画をTwitterに投稿したのです。彼は何かをアナウンスするつもりなんてなかったのですが……。いわゆるトレイラーでもなく、面白い動画を投稿しただけのはずが、8,000リツイート、17,000いいねされてしまいました。
Working on new levels for @BeatSaber. This one is one of my favorites! 🙂 Use headphones. Music by @Sqeepo is excellent! #madewithunity #gamedev #indiedev #VR pic.twitter.com/63ZKsOb1gM
— Jan “Split” Ilavsky (@Split82) 2018年1月19日
アーリーアクセスが始まる前に、私達は「Beat Saber」が思っていた以上に成功する可能性があると考えるようになりました。私はLIVというMR技術の会社の人々と知り合いました。少し話しただけでしたが、そこで第2の啓示を得たのです。「VRのために作ったリズムゲームはただのリズムゲームではなく、音楽を感じることができる全く新しい方法で音楽を楽しむものだ」と。
そのLIVがグリーンバックを使って作ってくれた動画がこちらです。「Escape」という曲を使い……これが全てを変えました。とんでもなく話題になってしまったのです。
VR向けのリズムゲームはすでにたくさんありました。しかし「Beat Saber」では、他のリズムゲームよりも強く音楽を感じることができると考えています。
私たちはこのゲームの将来について話し合い、Beat Gamesという新しい会社を立ち上げたのです。私がCEOになってビジョンを考え、音楽を作り、ウラジミールとヤンという2人の開発チームで構成される小さなスタジオです。
そして今に至ります。5月1日に私たちは「Beat Saber」をSteamとOculus Storeで発売しました。
――そしてこの大成功ですね。いったい次は何が起こるのでしょうか?
- Jaroslev:
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E3でも発表しましたが、PSVR版を配信します。また、マルチプレイのモードをさらに増やしたいと考えています。今はシングルプレイのみでワンセイバーモード(通常2本の剣を持つところを1本の剣だけでプレイ)などがありますが、マルチプレイもできるようにしていきます。時間はかかるかと思いますが。
個人的には、この作品はeスポーツのようになっていくと思っています。将来は友達と「Beat Saber」ができるようになります。ただスコアを競うだけではなく、1つのゲームをみんなが楽しめるように。トーナメント戦なんかもできたらいいですよね。
チェコで開かれたイベントでこんなこともありました。DJが演奏している部屋とBeat Saberが遊べる部屋が並んでいたのですが……その、みんなBeat Saberの方に来てしまって、DJは部屋でひとりぼっちになっていたのです。申し訳なかったのですが……Beat Saberはみんなで楽しめるものだということが分かりました。eスポーツのように、みんなで競ったり一緒に楽しんだりしていくことは必然だと思っています。
現在はまだアーリーアクセス版ですから、製品版に向けて、まず最初にやるべきは曲数を増やすこと、そしてユーザーが自分の楽曲を入れてステージを作れるようにするレベルエディターを実装することです。Beat Saberには2つの方向性があります。1つ目は最初から入っているプリセットの曲で最高の音楽体験を実現するということ。2つ目は、ユーザーが自身のもっている曲をインポートして、ステージを自分で作ること。曲のシェアリングについては知的財産権の問題など、まだ解決しなければいけない課題があります。法的な問題なので時間がかかりますが、できるだけ早く解決して実装したいですね。
――エディットモードではステージが自動的に作られるのではなく、ユーザー自身がキューブを配置していくのですね。
- Jaroslev:
-
Jaroslev:そうです。レベルエディターでは、手動でステージを作ります。時間をかけずにランダムにキューブを置くことは可能ですが、私たちはユーザーに正確にキューブを配置することに時間をかけてほしいと心から思っています。シェアリングに関しては、まだ問題が解決していないため正式に言うことはできませんが、少なくとも自分のPCで自分だけで楽しむ実装が最初になると思います。
――PSVR版はトラッキングに課題があると思いますが、調整はいかがでしょうか。
- Jaroslev:
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確かにPSVRのトラッキングは最高のものとは言えません。しかし、私たちは最善を尽くし、快適なプレイを実現したと考えています。私たちは「Beat Saber」が100%完璧な状態で体験できると考えるプラットフォームにしか展開をしませんよ。
――体験の質を落とさないようにするというのは、非常に大事な考え方ですね。
- Jaroslev:
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PSVRに出さないということは売上を失っているようなものですから(笑)あらゆるツイートやブログで「PSVR版はいつ出るのか」と言われてきましたが、失望させるような出来では出せません。なんとか待っていただいていただけの価値はある、と思ってもらえるクオリティで開発できたと思います。
――最後になりますが、日本では今バーチャルYouTuber(VTuber)という人たちがいまして。バーチャルYouTuberの皆さんがBeat Saberを楽しんでいる動画が話題になっています。こちらの動画を。
- Jaroslev:
- すごい! これこそまさに未来だと思います。思わずファンになってしまいました(笑) 技術がもっと進んで馴染むようになったら、もっと素晴らしいことになると思いますよ。
――今回はありがとうございました!