Home » 【VR映画ガイド第81回】輪廻転生をテーマにしたフルCGのVR映画


VR動画 2022.01.02

【VR映画ガイド第81回】輪廻転生をテーマにしたフルCGのVR映画

世界で注目されている台湾のVR映画

ここ最近、世界で注目されているのが台湾のVR作品です。2021年のヴェネツィア国際映画祭のVR部門Venice VR Expandedで展示された37作品中7作品が台湾で制作された作品でした。

その中でも一際目立っているのが、Hsin-Chien Huang監督。大学教授、アーティスト、デザイナー、エンジニア、ゲーム開発者のバッググラウンドを持ち、先端技術を使ったアート、文学、デザイン、ステージパフォーマンスを行っています。2017年にVenice VRでBest VR Experienceを受賞したニューメディア・アーティストです。

彼は今年のVenice VR ExpandedのコンペティションにフランスのアーティストNina Barbier監督と共同で制作した「The Starry Sand Beach」と、今回紹介する作品「Samsara Ep.1(輪廻)」(以下「Samsara」)の2作品がノミネートされました。

「Samsara」はHsin-Chien Huang監督が今までやってきたVR映画の集大成的な作品です。近い未来、人類によって地球環境が破壊され、人類は宇宙に新しい居場所を見つける旅に出るところから話が始まります。

何年も彷徨った後、辿り着いた先は新しい惑星ではなく、異なる時間に新たな生命体が住んでいる地球でした。過去人類が行ってきたことを振り返り、近未来に起こりうることを予知したような作品です。

台湾のVR映画がここまで発展したのもTAICCA(Taiwan Creative Content Agency)の存在が大きいと言われています。台湾文科省管理下の元、TAICCAはコンテンツ産業の発展を促進させるための組織として2019年に設立されました。VRやARなどの先端技術を使ったコンテンツにも積極的に支援しており、作品制作への国際共同出資や助成金制度、国際組織と連携してコラボレーションなどを推進しています。

オススメのポイント

1. 強烈な空間イメージの連続

冒頭説明なしで自分自身が母親にあやされる赤ちゃんになった目線で静かに始まります。その後体験者は次々と衝撃的なシーンを移動していきます。

棍棒を使ってのアザラシ狩り、象牙の密猟、熱帯雨林の破壊、強制収容所、自爆テロ、核爆発など、人間が過去行ってきた様々な破壊行為を行なっている様子と体験者は強制的に対面することになります。私は途中でVR酔いとは違った、気分の悪さが残りました。地球環境破壊について考えさせる作品としては印象的な体験でした。

しかし、物語はこれだけで終わりません。人間たちは地球を捨てて新たな住処を過ごそうとしますが、結局、自分たちのDNAを進化させ続け、別の生命体として元の地球に住み続けようとします。まさに近い未来人類が迎える、今後何度も繰り返されるであろう“輪廻転生”を描いた作品かもしれません。

2. 作品のキーとなる手の表現とインタラクション

「Samsara」では体験者に重要な役割が与えられています。自分自身の心の声が聞こえて、様々な過去の記憶・シーンを辿っていきます。そのシーンごとに自分の手が変わっていきます。

最初は赤ちゃんのような手、次に血みどろになった手、傷だらけの手、火傷をしてぶくぶくになった手など、シーンと自分自身の手で様々なことを連想させます。その手は動かすことはできるのですが、何かに触ったり、それぞれのシーンに影響を与えることはできません。それはまるで行なってしまった過去は変えられないと言われているような気がしました。

後半、意識と体が離れるシーンだけは自分の首から下の体が見えるようになりますが、それ以外は手だけを表現です。その手だけの表現で、ここまで自分自身の肉体を想像させる演出はとてもよく考えられてると思いました。

3. ストーリーテリングからストーリーリビングへ

あるインタビューでHsin-Chien Huang監督は、このような話をしていました。

「インタラクティブ・メディアやバーチャル・リアリティを使った私の最近の取り組みは、ストーリーテリングから“ストーリーリビング”に移行しています。今は没入型のインタラクティブな手段を使っていかに物語を体験するかを考えています。インタラクションは、ユーザーの思考、記憶、行動を作品の一部として取り込むものであり、VRは、ユーザーの身体が物語の重要な要素になるという新たな可能性をもたらすものです。瞑想のように、鑑賞の過程で読者は作り手の領域に入り、物語の構造体の下で自分の記憶や身体と対話することになります」

ストーリーテリングは作家が一方向的に体験者に物語を伝えるものとすると、ストーリーリビングは物語の「枠組み」を体験者に提示し、その「枠組み」の中で体験者は自分の物語を生きることになります。VRの特徴を考えると“ストーリーリビング”という考え方はとても重要だと思います。

また、最近の様々な映像作品を見ていると、これはVRだけの話でなく、他のメディアでも“ストーリーテリング”から“ストーリーリビング”への移行は起こっていくかもしれません。

作品データ

タイトル

Samsara Ep.1(輪廻)

ジャンル

アニメーション

監督

Hsin-chien Huang

制作年

2021年

制作国

台湾

本編尺

約21分

視聴が可能な場所

Viveport:
https://www.viveport.com/8f07328d-1664-4123-8fa9-edd406467129

Teaser

この連載では取り上げてほしいVR映画作品を募集しております。
自薦他薦は問いません。オススメ作品がありましたら下記問い合わせ先まで送ってください。よろしくお願いします。
VR映画ガイドお問い合わせ:[email protected]


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード