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VTuber 2018.10.14

VTuberの最新事情・海外情勢とは?Activ8大坂氏・インドネシアVTuber運営の宋氏らが語る  

2017年末に大きな話題となり、様々なメディアに取り上げられるなどムーブメントが続いているVTuber(バーチャルユーチューバー)。

ここ数カ月では、5,000人を動員した「輝夜月」のVRライブ(ライブビューイング含む)や、遊園地とVTuberグループ「にじさんじ」「.Live」がコラボレーションするという、よみうりランドの大型企画「VTuberland」など、数千人を動員するイベントも増えてきました。

そういった中、VTuberのトップランナーであるキズナアイが行ったのは、東京の映画館・新宿ピカデリーの大きな銀幕に登場し、観客とリアルタイムでコミュニケーションを取るという「インタラクティブな映画CM」という企画。詳細は下記記事にて記載しています。

今回は、そんなキズナアイが参加するupd8・Activ8代表の大坂武史氏、インドネシア発のVTuberとして話題になったマヤ・プトゥリ(Maya Putri)を手がけるShinta VR代表の宋 知勲(Akira Sou)氏、そして先述した映画CMの企画に関わった電通の足立光氏を交え、最新のVTuber事情について話す座談会を開催しました。

「VR」と「リアル」 VTuber活動の可能性とは

聞き手・Mogura VR 永井(以下、永井):

今回なのですが、VTuberを語るうえでのトピックが2軸あると思っていて、1つは、今後のVTuberのビジネスモデルという軸、2つめは、海外展開という軸があるのかなと。

最近のイベントだと、輝夜月さんの「VRライブ」や、よみうりランドのVTuberコラボなど、VR/リアルともに大きなイベントが開催されました。こういった、YouTube以外を含めた活動モデルは今後どうなっていくのでしょうか。また、海外という意味だと、アジア圏でのVTuberの活動が徐々に増えてきている印象があり、そのあたりの事情をお伺いしたいです。まずは前者について大坂さんいかがでしょうか。


(Activ8代表:大坂武史氏)

大坂武史氏(以下、大坂):

VR内イベントとリアルイベント、どちらも並行して増えていくと思います。お客さんが集まってのリアルの音圧だったりとか、ファン同士のコミュニケーションなどは、まだまだ圧倒的にリアルの方が優位なので、私たちとしてもリアルのライブイベントはやりたい。

一方で、輝夜月ちゃんのVRライブも拝見しましたけど、アーティスト本人が伝えたいメッセージを視覚情報と合わせて伝えるには、VRはまさにもってこいのツールだなと。MVのような役割に近いと思っているんですけど、強制的に世界観に没入して音楽を届ける装置として、VRには可能性がある印象です。

今、ストリーミングがメインになってきていて、音楽をライトに消費しがちだと思うんですよね。深い世界観とかを楽しむには、昔はアーティストが1曲じゃ語りつかせない世界観をアルバムで10曲ぐらいで届けていたものが、ストリーミングでつまみ食いできるようになっています。そこでVRが良い意味できっかけとなって、音楽の伝え方が変わってくるんじゃないかなと。

永井:

直近の事例だとキズナアイさんの、映画館での観客を巻き込んだ映画CM企画もありました。このコラボレーションのきっかけや、狙いはありましたか。


(電通:足立光氏)

足立光氏(以下、足立):

これについては、この度ソフトバンクさんの動画見放題のギガサービスのコンセプト「リミッターを外せ」という広告の企画があって、是非キズナアイさんに出演していただきたいと思っていました。過去にもイベントでの対話型コラボレーションをさせていただいたことがありましたが、「その最大効果を計れるのは、最大スクリーンだろう」と思い映画館に協力いただきました。

インタラクティブな映画CMとして話題性をきちんと担保するために、新宿ピカデリーの一番大きなスクリーンを使って、キズナアイさんを何倍にも大きく映したらインパクトがあるだろうなと。劇場に見に来た人に加えて、アーカイブで視聴できるので、こんな試みがあったんだと。

大坂:

この企画のコンセプトの「リミッターを外せ」はすごくキズナアイちゃんらしいなと思いました。制約がないことがバーチャルタレントの良いところだと思っているので、うまくハマったテーマだと思います。

足立:

企画の狙いとしては、今、VTuberは音楽ライブなどもやっていますが、こういった広告領域でも企業が注目してくれると良い流れになるんじゃないかなと考えていました。今回の企画は事前に業界関係者もたくさん入って頂けたし、可能性がさらに広がればと思います。

VTuberがVRの中で活躍していくというのは、エクシヴィの近藤義仁(GOROman)さんとエイベックスさんの取り組みなどもあるんですけど、リアルの場で活躍するやり方もまだまだ出てくるだろうなと。

たとえば今後、街中ではデジタルサイネージ(電子看板)が増えていきます。特に東京の街はサイネージだらけになっていくと思いますので、そこでVTuberを起用した表現などできると面白いかもしれません。オリンピックをひかえて、そういう企画に前向きな企業も多いですし。キズナアイさんも、AIだから1人だけじゃなくて同時に存在できるようになるのかなとか。一度に色んなところで、色んな人と絡めると面白そうかなと。

大坂:

それこそ5Gが普及したら気軽にできそうですね。たとえばスクランブル交差点とかにディスプレイを置くじゃないですか。いつもみたいにアイちゃんが誰かに話しかけるわけですよ、「あっアイちゃんだ!」みたいにざわざわするじゃないですか。

よく見ると遠くにもディスプレイがあって、あっちでもユーザーと会話している。気づいたらどんどんディスプレイが増えてきて、それぞれ会話してるぞ。みたいなこともいつかありうるかもしれません。

永井:

いま話していたのは対話メインの企画かなと思うのですが、少し気になったのが、たとえばupd8さんも関わっているVTuberのYuNiさんって、一部除いてほぼ歌動画オンリーじゃないですか。生放送・トークメインのVTuberとはちょっと違ってますよね。

(バーチャルシンガー:YuNi)

大坂:

YuNiちゃんについてはCandeeさんとの共同プロデュースで、徹底的に歌をやるって決めて始めたんですね。トークをするVTuberの方も増えていますし、そこだけだと差別化しづらいなというところで、より一芸が突き抜けたタレントに。イベントの話でも、歌があると圧倒的に会場の雰囲気も体験も強いと思うんですよね。ライブで1曲歌えるみたいな。

YouTubeでの活動はありつつも、バーチャルタレントって、ネット上だけではなく街中とか人前に出ていける強みがあるので、しっかり音楽に特化したタレントをやりたかった。音楽動画をYouTubeで見る方って、トークの部分はいらないんですよね。フルコーラスの曲を聴きに来ているのに「はいどーも!」みたいな挨拶があると、ノイズなんです。なので、まずは歌に特化するって決めた。そしたら逆にミステリアスな感じで、YuNiちゃんは喋るのだろうか?みたいな反響が生まれた。音楽動画って今も勢いが良くて、多くの人に見られるんですよね。

YuNiちゃんというきっかけを通して、たとえば異邦人みたいなちょっと古い曲だったりとか、一昔前のアニソンだとかというのを、いい曲だなって思ってもらえるといいですよね。異邦人をあれで知りましたっていう視聴者の方もいて、私自身もそうなんですけど(笑)
なのでアイちゃんについても、彼女という存在を通して様々な「本物」に触れてほしいなと。音楽もそうですけど、流行っているものをなぞるだけでは、タレントの可能性が限定されちゃうので。

VTuberの海外事情とは?

永井:

次に宋さんにお伺いしたいのですが、インドネシア発のVTuberとしてMayaさんを運営されていて、YouTubeでの活動やインドネシアの「C3AFA Jakarta」などイベント出演もありました。今後の展望などはありますか?

(インドネシア発のVTuber:マヤ・プトゥリ)

宋 知勲氏(以下、宋氏):

インドネシアは「歌の文化」があって、国民が歌を歌ったり聞いたりするのが大好きです。しょっちゅうカフェとかバーでも生演奏ライブをやったりするんですよ。そういった国民性を見て、歌を中心に活動したいと思ってます。インドネシアって良い歌がいっぱいあるので、インドネシアの歌を世界に届けたい。インドネシアの文化を発信できる子にしたいという思いがあります。

実制作に携わっているのは全員インドネシアのクリエイターです。Mayaちゃんの服って「バティック」というインドネシア独特の織物を使っているんですけど、そういった伝統的な文化も発信していきたいです。

永井:

歌と合わせてインドネシア文化を発信していくということですね。いま動画は数本上げていると思うんですけど、まずは歌の動画を増やしていきたいと。

宋:

そうですね。トーク動画とミュージックビデオを織り交ぜるような感じで考えています。まずはインドネシアの曲を中心ですが、日本のアニメソングもリクエストが多いので、どこかのタイミングで出したいと考えてます。


(Shinta VR代表:宋 知勲氏)

大坂:

日本の歌を歌ってくれると、日本人の視聴者が増えそうですね。日本文化が海外の人に注目されるのって、みんな好きじゃないですか。いまの登録者数の内訳ってどうなっているんですか?

宋:

95%がインドネシア人で、日本人は1%~2%ですね。視聴者のみなさんはインドネシア発っていうことに喜んでくれているので、まずはインドネシアの方々の期待や応援に応える活動をやっていきたいです。

大坂:

日本以外の海外発VTuberの試みはいくつかありましたが、Mayaちゃんは公開後すぐに、多くの人に認知されてますよね。

宋:

Mayaちゃんの活動を開始した時期に、インドネシアでの話題の後押しになったと思うのが、C3AFAで取り上げていただいたことですかね。電脳少女シロちゃんとキズナアイちゃんが来るイベントにこの子が出るよ、という情報で広がっていました。

永井:

インドネシアでもアイちゃん、シロちゃんっていえば、VTuber好きな人が反応するものなんですね。

宋:

そうですね。コアなファンの多くが知っていますし、「VTuberのキズナアイちゃん」という言葉も徐々に認知が上がっています。

大坂:

Mayaちゃんを見てると、視聴者さんからの自己投影に成功したんだなって思います。つまり、応援される存在としてしっかり登場したという。アイドルも総選挙とかで応援できるみたいなところがあって、背負ってる感やチャレンジしてる感みたいな部分は、視聴者が自己投影・応援してくれる要素なんじゃないかと。

足立:

宋さんは行政に近いところでも仕事をされているので、逆に日本のVTuberをインドネシアで広げるとかもできるのではないですかね。

宋:

2018年が日本とインドネシアの国交60周年で、大きいイベントがあってタイミング的にもやりやすいかもしれませんね。

永井:

今後のMayaちゃんの活動で、歌以外にも出していきたいものはありますか?

宋:

例えば、インドネシアの観光地紹介です。食や特産品だったり、島がいっぱいある国なので、島毎の魅力を伝えたり、インドネシアの人でも知らない情報を入れたり(笑)

足立:

観光案内やってほしいなあ。

大坂:

そうなんですよね。もっと出歩いてほしい。海外VTuberのAmi Yamatoさんはすごく綺麗にそれができていて、ああいうことをできればと。Mayaちゃんが、この服の柄はインドネシアっぽいとか、観光とかの紹介とかしてくれるといいですよね。

(イギリスのVTuber:Ami Yamato)

宋:

インドネシアとしてはいま、とにかく観光に力を入れています。そういう意味ではインバウンドもやれるし、Mayaちゃんは日本語も英語も喋れる子なので色々な取り組みをしたいですね。

永井:

日本から海外向けに展開することだと、upd8さんもビリビリ動画など海外イベントに出展されていますが、そこで感じたことはありましたか?

大坂:

「現地の人のことをぜんぜん知らなかったな」と気付かされたことですかね。台湾漫画博のライブステージでは「100分の1チャレンジ(※100人の内、1人だけが該当する質問を投げかけるゲーム)」をやったんですけど、100分の1というフォーマットは、日本人であれば前提として分かるけど現地の人が知らないので、盛り上がらなかったうえに最初の質問で100分の1になっちゃって……(笑)。ビリビリ動画のイベントの時でも、30分ほど出演の時間をもらって、トークだけでは持たないのでクイズもやりましたが、同じようなミスマッチがありました。

そんな中で、アイちゃんのチャンネル登録者は今も海外が多いわけで、それって奇跡というか、毎日どういう気持ちで動画を見てくれているんだろうと考える機会になりました。アイちゃんはAIなので、アップデートして色んな言語を喋れる可能性もあるわけですし。

足立:

海外については、他の国ってウォッチしていますか?

大坂:

台湾は日本と同じ感じで盛り上がっていて、台湾漫画博でアイちゃんがステージに出たときは「一番人を集めた」って言ってくださって。一時間半くらい待機列ができたりして、熱狂的でしたね。中国は洛天依さんとか、初音ミクさんの認知度も高いですし、そういう文脈で見ているのかなと。

ロサンゼルスのアニメEXPOにも行ったんですけど、アイちゃんのコスプレの人が多くて、アメリカもポテンシャルあるなあと。USのユーザーの方は、コメントとか見ていると「人間じゃない存在がYouTubeで活動できる時代になった!」とちゃんと捉えている。日本だと文脈が伝わりづらくて、アニメなのかな?とか。中国だと、新しいボカロかな?みたいな。

宋:

ヨーロッパだとVTuberがあんまり盛り上がっていない気がしていて、そこは何なんでしょうかね。

大坂:

伝聞ですが、初音ミクさんが欧州に進出したときは、歌舞伎とか日本の伝統芸能、アートと一緒に持ち込まれて初めて受け入れられたと聞いています。VTuberにはまだそれがないのかなと。VTuberはアニメではないので、ストーリーがあるわけではない。何かしら文脈をつけないと受け入れられない気がしています。

足立:

韓国でVTuberってないんですかね。K-POPってワールドワイドに広がってるじゃないですか。

永井:

韓国にも何人かいますね。

(韓国VTuberのセア、デリン)

大坂:

韓国は、実は二次元ファンがそこまで多くないらしいんですよね。LINEスタンプになっているようなゆるキャラ系のは受け入れられるんですけど、かわいい・萌えみたいなキャラクターってあんまり響かないみたいです。リアルな人間がやっぱり良いみたいな。

宋:

韓国ってアイドルを見ていてもキラキラ系な印象が強くて。さきほどおっしゃっていたような、応援したくなる文化とはちょっと違うのかなと思っていました。

大坂:

BTS(防弾少年団)はすごい応援されていますね。活動の裏側をドキュメンタリーとしてYouTubeで流していて、生き様をしっかり見せている。たとえば野球のイチロー選手が海外の人で尊敬されているのって、すごく努力家でストイックなところだと思いますし、そこは万国共通かなと。

永井:

なるほど。本日はVTuberに関わる最新事情や海外の状況について、様々に語っていただきました。ありがとうございました。


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