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VTuber 2022.06.20

弁護士が解説 VTuberデビューする前に知っておきたい基礎知識(法律編)

せっかくVTuberとしてデビューしたのに、視聴者とのトラブルに巻き込まれたり、自分の行動が炎上を引き起こしてしまったりといった事例が少なくありません。VTuber活動を息長く続けていくためにはどういったことに気をつけるべきでしょうか?

今回、弁護士の関真也氏に「VTuberデビューする前に知っておきたい基礎知識」として、法律関係のお話をお聞きしました。

関真也氏プロフィール

関真也法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士、日本バーチャルリアリティ学会認定上級VR技術者。漫画、アニメ、映画、ゲーム、音楽などのコンテンツやファッションに加え、XR (VR/AR/MR)、メタバース、VTuber/アバター、NFT、eSports、AI・データなどコンテンツ・ファッションとテクノロジーが関わる分野を中心に、知的財産問題、契約書作成、紛争対応、事業の適法性審査等を多く取り扱う。XR分野では、一般社団法人XRコンソーシアムにて社会的課題ワーキンググループ座長、同メタバースワーキンググループ共同座長を務めるなど、XRと法に関する調査・研究、政策提言等を行っている。

覚えておきたい「権利」の問題

――「個人でVTuberデビューして活動したい」という方が、押さえておくと良い法律はどういったものがあるでしょうか?

関真也:
まず「著作権法」を押さえておくべきでしょう。配信等の活動をするに当たって他人の動画、イラスト、音楽等の素材を利用する場合のルールに加え、自分のアバターなどの素材が他人に無断利用された場合にどのような対応をとることができるかが定められています。

著作権情報センター公式サイト:
http://kids.cric.or.jp/intro/01.html

また、アバターの外観や名称等を保護する商標権について定める「商標法」も重要です。たとえばグッズ展開などに活動の幅を広めていく場合に、様々な商品・サービスのカテゴリーを対象にして自分のアバターの名称等で商標登録をしておけば、他人が同じ名称等を無断で使って同種の商品を販売したりすることを防止できます。

プレゼント企画のように視聴者に景品をあげたり、商品やサービスの紹介をしたりする配信を行う場合には、「不当景品類及び不当表示防止法」、略して「景表法」を知っておくとよいでしょう。どのような場合にいくらまでの景品をあげてよいか、虚偽広告その他やってはいけない広告表現などについて定めています。

加えて、法律ではありませんが、企業から対価を得てその企業の商品等の紹介をする場合には、「#PR」「#AD」などのように、その配信が広告として行われていることを明らかにする表示をすることが推奨されています。この表示をしないと、いわゆる「ステマ」(ステルスマーケティング)として炎上するケースがあるので注意が必要です。

あとは、出演契約、ライセンス契約、所属事務所とのマネジメント契約などの契約関係を含めた民事的な原則を定める民法や商法もよく問題になります。誹謗中傷等による名誉・プライバシーの侵害についても民法が大きく関係しますが、これについては主だった裁判例を把握しておくのがよいでしょう。

関真也法律事務所ウェブサイト
「 【メタバースの法律《誹謗中傷》】『バーチャルな存在』に対する名誉毀損・侮辱は成立するか?~VTuberに関する裁判例の紹介~」:
https://www.mseki-law.com/archives/976

関真也法律事務所ウェブサイト
「【メタバースの法律《プライバシー》】VTuber、アバターなど『バーチャルな存在』のプライバシーは守られるのか?」:
https://www.mseki-law.com/archives/984

加えて忘れてはならないのが、YouTubeその他の動画投稿サービスやSNSごとに定められている利用規約です。これを守らないと、アカウントの停止、コンテンツの削除、権利侵害があった場合における氏名等の情報開示などの措置を受けることがあります。VTuberとしての活動そのものに関わってきますので、しっかり確認しておきましょう。

YouTube利用規約:
https://www.youtube.com/static?template=terms&hl=ja&gl=JP

Twitch利用規約:
https://www.twitch.tv/p/ja-jp/legal/terms-of-service/

Twitter利用規約:
https://twitter.com/ja/tos

――個人で活動する場合、2Dイラストや3Dモデルなどのアバターをクリエイターに制作してもらう場合に注意すべき点はありますか?


関真也:
アバターの著作権を譲渡してもらうか、それともクリエイターに残したままで利用を許諾してもらうかがポイントとなります。VTuberとしてはアバターを自由に利用しやすいように譲渡してもらった方がやりやすいと思いますが、他方でクリエイターとしては、自分の作品の権利を全て他人に委ねることには抵抗がある場合もあります。

また著作権を譲渡した場合、クリエイターが自ら創ったアバターと類似する他の作品を創作しにくくなるリスクもあり、難しい問題です。

VTuberの立場から重要な点としてもう1つ、そのアバターを真似した他のアバターが出てきた場合など、権利侵害に対して誰が対応できるかという観点からも、アバターの著作権をどちらに帰属させるかが重要となります。

著作権侵害を理由に侵害行為をやめるよう請求できるのは、著作権者です。したがって、アバターの著作権をクリエイターに帰属させた場合、VTuberは模倣アバターに対して自ら侵害行為の停止を求めることができず、クリエイターの協力を得なければならない事態が生じかねないのです。

この点、VTuberに権利を譲渡してもらえれば、VTuberが自ら対応でき、クリエイターとしても負担が軽くなる側面があります。こうした点を踏まえて、著作権をどちらに帰属させるか、侵害行為に対して誰が対応し、それについてどちらが費用負担をするのかなどを取り決めておくのがよいといえます。

なお、最近、著作権法を改正し、著作権者からその作品を独占的に利用する権利を許諾された者にも、侵害者に対して侵害行為の停止を求めることができる権利を認めようという方向で議論が進んでいます。

こうした法改正の動きも見ながら、クリエイターとの契約の内容も考えていくとよいでしょう。

――素材として使用する動画、画像などのコンテンツのなかには、権利的に利用できないものがあり、それが原因でYouTubeからBANになるといった事例もあります。こういったケースで気をつけるべきことはどういったことでしょうか?

関 真也:
他人が創作した動画、イラストなどは、その多くが著作権で保護されているため、無断で自分の配信に利用することは常に著作権侵害のリスクがつきまといます

他人の創作部分と自分の創作部分を明瞭に区別し、かつ、自分の創作部分が主であるといえる形で利用するなど、いわゆる著作権法32条の「引用」に当たるものであれば許諾がなくとも他人の著作物を利用できますが、その要件を満たすのはそう簡単ではありません。一つひとつ慎重に判断する必要があります。

他方、利用する動画投稿サイトやSNSの利用規約では、そのサービスにおいて他のユーザが投稿したコンテンツを一定の方法で利用することができると定められていることがあります。

たとえばTikTokサービス規約では、他のユーザが投稿したコンテンツを抽出して別のコンテンツを作成することができると定められています。これにより、TikTokでは、他のユーザがTikTokに投稿した動画を取り入れたコラボ動画などが数多く投稿され、盛り上がりを見せているわけです。

YouTubeの利用規約でも、YouTubeの機能を使ってコンテンツを利用する権利を他のユーザに付与するという規定があります。このように、利用規約をきちんと理解すれば、権利の問題を気にすることなく配信等を行うことができる幅が広がります。

ただ、他のユーザが投稿した動画など一見して利用規約上使ってよさそうなコンテンツであっても、それを投稿したのが真の権利者ではなかった場合には権利侵害となる可能性が残るため、注意が必要です。権利者自らが投稿したコンテンツなのかが分からないときは、利用するかどうか慎重に検討すべきです

――VTuberの場合「歌ってみた」などでの楽曲使用も多くありますが、音楽を利用する場合の注意点はありますか?

関真也:
音楽にはさまざまな権利が関わってきます。まず、曲や歌詞を創作した人(作曲家、作詞家)には、それぞれ著作権があります。また、これとは別に、実演家やレコード製作者などには著作隣接権と呼ばれる権利が認められています。

「実演家」とは、音楽に関していうとその楽曲を歌唱・演奏した人です。「レコード製作者」とは、その音を媒体に固定した者のことで、いわゆるレコード会社などです。一般に「音源」とか「原盤」とか呼ばれるものを作る人の権利です。

いわゆる「歌ってみた」動画など、他人が作った音源は使用せずに自分で歌唱・演奏する場合は、その曲や歌詞に関する著作権だけが問題になります。

この場合、原則として著作権者(作曲家、作詞家)から直接許諾を得る必要があるのですが、YouTubeやバーチャルライブ配信アプリなどの中には、JASRACやNexToneをはじめとする著作権等管理事業者と利用許諾契約を締結しているものがあります

それらのサービスでは、VTuberを含めてユーザが個別に著作権等管理事業者と利用許諾の手続きをすることなく、その管理楽曲を自分で歌唱・演奏した動画等を配信できる仕組みになっています。

利用するサービスがJASRACなどと利用許諾契約を締結しているか、また、配信で歌唱・演奏しようとする楽曲がその著作権等管理事業者の管理楽曲であるかを事前に確認してから利用するとよいでしょう(たとえばJASRACと利用許諾契約をしているサービスの一覧はこちら。JASRACやNexToneの管理楽曲も、それぞれのウェブサイト上で検索できます)。

注意が必要なのは、市販のCDに収録されていたり、ダウンロードで入手したりした音源を配信に利用する場合です。この場合、著作権とは別に、その音源についてレコード会社などが著作隣接権を持っています。

そして一部を除き、JASRACやNexToneなどの著作権等管理事業者は、この著作隣接権の管理を行っていません。したがって、他人が作った音源を配信に利用するには、レコード会社などから直接許諾を得なければならないのです。

裁判例では、カラオケ店舗において自身が歌唱する様子を撮影し、カラオケ伴奏が記録された動画をYouTubeにアップロードした行為につき、その音源を製作した通信カラオケ機器業者の著作隣接権を侵害すると判断した事例があります。

他人が作った音源(この裁判例ではカラオケ伴奏)を勝手に使ってはいけないということです。

炎上トラブルはどう気をつけるべき

――VTuber活動中にプライベートの情報が漏洩し、ストーカー行為や誹謗中傷行為といったトラブルが起き、活動が継続できなくなるケースがあります。こういったケースが起きる前に事前に注意すべき点はどういったものでしょうか?

関真也:
まず、個人を特定できる情報を配信しないよう注意することです。本名、住所、所属先などを言わないことはもちろんです。そのほか、たとえば撮影場所によっては、周囲の環境音が入らないよう注意すべきです。特徴的な環境音から撮影場所を特定されることがあるからです。

またVTuberだけでなく、その他の芸能活動などを行っており、それを通じて自分の肉声が一般に知られているような場合には、VTuberとしての配信時にはボイスチェンジャーを使うことも検討すべきです。

また、もし自分が「中の人」であるという情報が流出し、自分の氏名、顔写真などがインターネット上に晒されてしまった場合には、プライバシー侵害を理由に投稿者を特定し、あるいはプラットフォーム事業者などに削除を申請するなどの対応をとることが考えられます。

裁判例でも、ある程度キャラクターと「中の人」との関係が知られたとしても、なおその関係性がプライバシーとして保護される場合があるものとして取り扱われています。

――VTuber活動で動画や生配信を行う際の言動で気をつけるべきことはどういったことがあるでしょうか?

関真也:
他人の名誉、信用、プライバシーを害する言動はもちろん、ヘイトスピーチなど差別的な発言は炎上しやすいですし、場合によっては名誉毀損罪、侮辱罪などの犯罪になることもありますので注意する必要があります。

とはいえ、差別表現とされるものには歴史的な背景などもあり、知識がないと知らず知らずのうちに言ってしまうことがあるかもしれません。このあたりは、いわゆる放送禁止用語について調べてみたり、差別表現に関する資料を読んでみるなどして理解を深めつつ、「人が嫌がることはしない」という大原則に立ち返りながら活動されるとよいと思います。

大阪市人権行政推進本部「人権の視点からの情報発信の手引き(令和2(2020)年4月改訂)」:
https://www.city.osaka.lg.jp/shimin/cmsfiles/contents/0000261/261953/r2jinkentebiki.pdf
(11頁以下に、さまざまな人権課題に係る情報発信のあり方と具体例が示されています)

松江市人権施策推進連絡会「人権の観点からの公的表現の手引き(平成31年1月改訂)」:
https://www1.city.matsue.shimane.jp/shiminsoudan/jinken/hyougentebiki.data/hyougennotebiki04.pdf
(4頁以下に分野別の留意事項が示されています)

企業所属VTuberの気をつけるべきポイントは?

――オーディションやスカウトなどで企業所属のVTuberとしてデビューを志している方は、企業との契約時にどういった点をよく確認すべきでしょうか?

関真也:
まず「契約書を用意しているか」どうかで信頼できる企業かどうかが変わってくるでしょう。約束事を形に残さなかったがゆえに都合よく利用されてしまうような事態を避けるために、契約書は重要です。

契約書があるとして、VTuberが義務として行わなければならない活動があるかないか、そしてその内容を確認しましょう。たとえば「週に数時間以上は配信をしましょう」、「所属事務所が獲得した番組、広告などの案件に出演しましょう」といった取り決めがあるのか、それとも好きなときに配信を行えばよいのか等です。

そして、その活動に見合った対価が支払われるかどうかも重要です。月額報酬、活動によって得られる収益に応じたインセンティブ報酬、それらの組合せなど様々な方式がありますが、納得できる内容であるかどうかを確認しましょう。「軌道に乗ったら支払う」など、いつ、いくら支払ってもらえるのかが曖昧な契約書もありますが、要注意です

また、どのような場合に契約を解除されるのかをチェックしておきましょう。契約書の後ろの方に「解除」という条項があり、契約を一方的に終了させることができるのはどういう場合かが書いてあることが多いです

納得できる理由が書かれているのならよいのですが、企業の裁量が広い解除理由が書かれている場合や、特に理由がなくともいつでも解除できると書かれている場合には、要注意となります。とりわけ、契約が終了した場合に、その後のVTuberとしての活動が制限される場合があるため、それも含めて契約書の内容をよく確認しておく必要があります。

そのほか、広告等の案件獲得、スケジュール管理その他のマネジメントをどれくらいやってくれるか(マネジメント体制の確認)、誹謗中傷対策・プライバシー保護に関してどのような対応・協力をしてくれるか(リスク管理体制の確認)といった点も押さえておくとよいでしょう。

――個人活動のVTuberとは異なる企業所属VTuberならではの注意点としては、どういったものが考えられますか?


関真也:
企業に所属すると、広告案件の獲得など活動の幅が広がったり収益性が高まったりするなど様々なメリットがあります。他方で、個人活動の場合と異なり、所属企業との契約によって様々な制約を受ける場合があります。

代表的なものとしては、①アバターや配信動画などのコンテンツに関する権利の帰属、②競業避止義務、③YouTube等のアカウントに関する権利の取扱いが挙げられます。

コンテンツの権利が所属企業に帰属する場合、たとえばグッズ化などによって収益性が高まった場合でも、VTuber(中の人)に利益が還元されるとは限りません。さまざまな形で得られる収益の還元について、適切に契約書で取り決めておくのが望ましいといえます。

また、競業避止義務の有無・範囲・期間についても、契約書に書いてあるかをよく確認すべきです。契約解消後もVTuberとして活動してよいか、その場合に同じ名称・アバターを引き続き使用してよいかなどです。

最後に、YouTube等のアカウントの権利がVTuberと所属企業のどちらにあるかという点も重要です。主に契約解消後に問題として浮上することが多いといえます。それまでの活動によって獲得したフォロワー、収益化が認められたステータスなどがアカウントに紐付けられているため、それをどちらの管理下に置くかが大切なポイントになるのです。

企業所属のVTuberの場合、企業側が管理すると取り決められている場合が多いと思われます。

これらのメリット・デメリットを勘案して、企業所属として活動するか、どの企業に所属するかを考えていく必要があります。

――ありがとうございます。最後に、これからVTuberデビューを目指す方に心がけておいて欲しいことをお聞かせください。

関真也:
秘密保持の必要もあり、自分が「中の人」であることを明かした上で相談できる人がなかなか周囲にいないという方が多いと思います。そんなときでも気軽に相談できる相手として、弁護士など守秘義務のある専門家を身近に置いておくようにして下さい。

また、VTuberとしてデビューされるみなさんは、何らかの目標があってそれを志しているのだと思います。権利の帰属、契約の内容、いろいろなことをお話しましたが、これらについて最終的に判断する際には、自分がVTuberとして活動する上で実現したい目標との関係で、これらの項目がどれくらい重要かという視点を持つとよいと思います。

――ありがとうございました。


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