今一度体感してみるべきコンテンツ
VR映像作家として実写VRをメインにミュージックビデオやPR動画などを企画・制作する全天球映像作家・渡邊徹氏を中心としたチーム“渡邊課”が2016年に制作したHello Sleepwalekersの「ハーメルンはどのようにして笛を吹くのか」のVRミュージックビデオを今回は紹介します。
Hello Sleepwalekersは男女ツインボーカル、トリプルギターの5人組ロックバンドです。「ハーメルンはどのようにして笛を吹くのか」はアルバム「Planless Perfection」の収録曲で、グラフィックデザイナーであるサヤメタクミ氏によるコンセプトアートを渡邊課がVR映像化したものが、今回紹介するVRミュージックビデオです。
VRミュージックビデオはVRを視聴する尺的にもちょうど良いため数は多いのですが、VR映像であることを活かせているものはなかなかありません。VR映像は目新しい映像ではあるのですが、視聴ではなく体感できるという特徴を考えると、使いこなすのが難しい媒体であると言えるでしょう。
この映像が制作された2016年当時に比べるとOculus Quest2等機器が進歩し、新しい機器でVR映像を体験すると、体感という部分が考えられているコンテンツとそうでないコンテンツの差がより顕著に出てきていると思います。当時の機器ではまだ充分に体験できなかったという部分も考慮すると、今一度体感してみるべきコンテンツであると言えます。
オススメのポイント
1.コンセプトアートの世界観を表現した映像
このミュージックビデオができることにあたって、グラフィックデザイナーであるサヤメタクミ氏による全天球静止画によるコンセプトアート「SHINJUKU VR」がきっかけとしてあったそうです。
コンセプトアートは今回のミュージックビデオの後半に出てくる街の光が360度溢れているシーンに近い新宿の夜景を多重露光して撮られた全天球静止画なのですが、この世界観に対して、渡邊課は主に歌舞伎町の街をVRで撮影し、街を疾走して行く映像をVR酔いが起こらない配慮しつつつなぎ合わせ、見事な全天球のイメージを表現しています。
2.いくつも重ねられてできた実写合成
歌舞伎町の街のVR映像は水平・垂直がめちゃくちゃでいくつもの映像が重なりあっています。渡邊徹氏はこの垂直と水平を壊すことが1つの制作のポイントであったとインタビューで語っています。また、そこにHello Sleepwalekersのメンバーのシーンも重ねられ、より複雑なイメージが構築されています。
これはVRの1つの特性である現実感から離れていってしまいますが、360度の映像の表現としてはこの実写による合成は今でもなお新しく、彼が目指す映像の方向性というものがよくわかると思います。
3.VRで音楽を体験するということ
VRで音楽を体験するものは数多くあります。ライブを最前列で見られること、何度でも好きな時にその空間にまた行けるとするものなど、うたい文句も様々です。渡邊徹氏はそれに対し、生のライブに行った方がいいとし、VRの映像には実際のライブとは異なる付加価値をつけようとしています。
空間そのものを、アーカイブの映像として残すことはとても価値のあることであると考えます。しかし、まだまだ入力も出力も機器の制約を受け、アーカイブの映像でできる体験より生のライブの体験の方が優れている事実は否めません。
逆にVRだからできる表現として、現実では実現不可能な演出、例えば空を飛んだり、重力を無視したりする演出が可能であり、実際にVRで行われているライブなどのイベントがそちらに進んでいくことは当然の帰結であったのだと考えさせられました。
「ハーメルンはどのようして笛を吹くのか(360°MV)」においては前述の通り、水平垂直が狂った世界が出現しています。現実ではあり得ないことをVRによって体感させるという意欲的な作品です。
作品データ
タイトル |
ハーメルンはどのようして笛を吹くのか(360°MV) |
ジャンル |
ミュージックビデオ |
制作 |
渡邊課 |
制作年 |
2016年 |
制作国 |
日本 |
本編尺 |
4分19秒 |
視聴が可能な場所 |
YouTube
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