体験者がアーティストの頭の中で記憶や思考を形成するのを見る体験
「drugs(VR Experience)」は2016年に発表されたイギリス・アイルランド出身のアーティスト、EDENによる楽曲「drugs」のVRミュージックビデオです。EDENはエレクトロポップとヘビーギターを用いたオリジナリティあふれる音楽を制作。2017年にはフジロックフェスティバルにも参加しています。
ミュージックビデオの指揮をとったStuart Cripps監督は、体験者がアーティストの頭の中で記憶や思考を形成する過程を見るVR体験を作りたかったと語っています。この抽象的な世界を実現するために、モーションキャプチャを用いてパフォーマーを撮影およびスキャンすることで3Dデータを作成。その周りを仮想カメラを飛ばし、角度を変更したりテクスチャを変更したりして制作されました。結果的に点群とワイヤーフレームを使用したビジュアルが採用されたようです。
EDENの新しいツアーのキックオフに合わせて公開されたこのミュージックビデオは、Facebook、Youtube、Oculus、Littlstar等様々なプラットフォームで公開。YouTubeでは2016年の公開から2022年4月現在640万回再生され、プロモーションとしても成功したものと言えるでしょう。
オススメのポイント
1.YouTubeの空間オーディオ機能
「drugs(VR Experience)」はYouTubeの空間オーディオ機能の先駆けとして作られました。当時はまだそれを体験できる機器も限られていましたが、現在、スマートフォンでも空間オーディオに対応したイヤホンなどを用いれば体験可能であり、その時想定されていた体験にようやく体験環境が整ってきたと言えると思います。
空間内のどこから音を出すかは、音楽自体に新しい軸ができることに近いのだと思いつつ、それに注意してこのVRを体験すると、また新しい音楽を聞いているのではないかと感じました。YouTubeには通常版の「drugs」もあるので、聴き比べてみるとまた、面白いです。音の奥行きというか空間的な展開というものがわかります。
2.点と線によるVR空間の表現
昔のワイヤーフレームのCGのように、点もしくは線の粗密を出し、VR空間を形成しています。1970-1980年代に描いていた未来空間の中に入り込んだような不思議な感覚です。懐かしいような、まだ来ていない未来のような、不思議な感覚を体感する経験はなかなか得られるものではありません。
前述した通り、これらの点や線によるメッシュはモーションキャプチャで得られた3Dデータであり、有機的に動き回り、音楽に合わせて脈動します。
3.ミュージックビデオとしての360度映像
カメラワークは体験者の視点を強制的に移動させることはなく、酔わないようによく考えられています。CG空間に入り込んだ感じのため、没入感というよりかは360度映像の表現を体感するイメージに近く感じました。
表現も流行り廃りがありますが、「drugs(VR Experience)」で行われているプリミティブな形状を用いた表現は、VRの表現の中で古くなるような表現ではなく、10年経っても古びない、強度をしっかりと持った表現なのではないかと感じました。
また、2016年当時もミュージックビデオとVRの相性の良さは当時のインタビューなどに書かれていましたが、尺的にも音楽を体感するという意味においても、VRという媒体をうまく利用した体感するミュージックビデオであったと思います。
作品データ
タイトル |
drugs (VR Experience) |
ジャンル |
ミュージックビデオ |
監督 |
Stuart Cripps |
制作年 |
2016年 |
本編尺 |
4分57秒 |
視聴が可能な場所 |
YouTube、Veer VR、Littlestar等 |
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