アヌシー等で評価されたVRアニメーション
今回紹介する「JAILBIRDS:Bwa Kayiman」は、ベルギーの漫画家・Philippe FOERSTERの1988年に発表された「PAULOT S’EVADE」を原作とした作品です。Thomas Villepouxが脚本・監督を担当しています。
舞台はサディスティックな所長に支配された地獄のような刑務所です。主人公・フェリックスは終身刑を宣告された犯罪者。長身の筋肉質な男で、絵を描き、瞑想をし、平穏な日々を送っています。
そんな彼を、受刑者は日々苦しんで償うべきだと考える所長はよく思っていません。そんな設定のもと、物語は進みます。後述しますが、とてもVR的な寓話であると言えます。
「JAILBIRDS:Bwa Kayiman」は、そのストーリーのクオリティと映像技術が開発中から評価され、開発中の2018年にアヌシーで脚本賞、そして完成したものが2021年のトライベッカ映画祭、NewImages Festivalの両映画祭でプレミア上映されています。
オススメのポイント
1. 対比される映像・構造
主人公のフェリックスは眠りにつくと、彼の目は体から離れ、外の世界へと飛び立ちます。自由になったフェリックスの目は、刑務所を抜け出し、美しい風景の中へ。
悪夢のような刑務所内の閉ざされた空間の暗いシーンと、夢のような美しい風景の中を飛行する明るいシーン。これらが交互に繰り返されるのですが、あたかも現実とバーチャル空間という対比の構造に思えてきます。映像そのものが美しく、対比がより効果的になっており、現実とバーチャルの違いを浮き彫りにするような“寓話”として捉えられるのです。
実際、Thomas Villepoux監督は「この物語はVRの素晴らしいメタファーです」とインタビューで語っています。この対比に注目して見ることで、VRの新たな側面に気づく部分もあるかもしれません。
2. 独特の映像表現
今作は「Fluide Glacial」に掲載されたPhilippe FOERSTERの6ページの漫画「PAULOT S’EVADE」を原作としています。ここからアヌシーで脚本賞を獲得するストーリーがあるのですが、視聴者に革新的な視聴覚体験をもたらしたいという制作陣の意志のもと、かなり複雑な映像制作の仕方をしています。
まず、キャラクターに存在感を与えるために俳優に演技をしてもらい、それをモーションキャプチャすることで動きと表情を取り出します。これをPhilippe FOERSTERの漫画のスタイルに近づけるために、鉛筆で描いたかのようなスタイルを、特殊なシェーダーでレンダリングすることで実現しています。
これらの工程を経ることで、「JAILBIRDS:Bwa Kayiman」は独特の映像表現を可能にしています。
3. 進行中の続編
「JAILBIRDS:Bwa Kayiman」は3つ予定されているチャプターの1つ目です。チャプターが3つに分かれている理由は、現在のVR映画の状況の課題も反映しています。
「JAILBIRDS」はかなり長い期間行われているプロジェクトで、開発中の2018年にはアヌシーで脚本賞を受賞するなどし、その実績から出資者を募り、またフランスとベルギーで地域支援を受けるなどしてプロジェクトを進めています。
配給会社や出資者を安心させながら作っていくためにはチャプターに分割する必要があり、また多くの映画祭でセッションを行う必要があったとThomas Villepoux監督は語っています。
しかし、これだけのものを作りながら、まだ残りの2つのチャプターを制作するには資金が不足しているそうです。VRというか映画業界自体の抱える課題なのかもしれませんが、資金面の課題は大きな問題であることは間違いありません。
1つ目のチャプターの出来を考えると残り2つの進行中のチャプターも素晴らしい映像なのではないかと期待してしまいます。無事に体験できる未来を願って止みません。
作品データ
タイトル |
JAILBIRDS:Bwa Kayiman |
ジャンル |
アニメーション |
監督 |
Thomas VILLEPOUX |
制作年 |
2021年 |
制作国 |
ベルギー、フランス |
本編尺 |
9分48秒 |
視聴が可能な場所 |
Oculus TV |
Trailer
Jailbirds_Teaser_ENG.mp4 from Digital Rise on Vimeo.
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