ベルリン空襲の恐ろしさを伝えたラジオをもとに制作されたVR映画
「1943 BERLIN BLITZ」は1943年9月にBBCの戦場記者と録音技師がアブロ・ランカスター爆撃機に乗り込み、ベルリンで行われた夜間空襲の恐ろしさを伝えたラジオ音声をもとに制作されたVR映画です。
彼らが乗った爆撃機はナチスに占領されたヨーロッパの中心部上空を飛行し、次々と打ち込まれる対空砲火や敵の戦闘機の攻撃に耐えながら、眼下の街に爆弾を投下します。
その光景を目の当たりにした戦場記者は「今まで見た中で最も美しく恐ろしい光景」と表現しています。当時のラジオ放送でも生々しい空襲の状況を伝えたことで話題になったそうです。
その音声を、BBC北アイルランドとImmersive VR Educationそして2019年に閉鎖されてしまったBBC VR HubがVR映画作品として復活させました。BBC VR Hubは第一次世界大戦の初期の塹壕生活をするイギリス兵士たちの手紙を取り上げた「Nothing to be written」や人気SFドラマ原作のVRゲーム「Doctor Who: Edge of Time」などで様々な映画祭で受賞するなど、VR映画を牽引しています。
オススメのポイント
1. 細部まで再現されたランカスター爆撃機
第二次世界大戦で活躍したランカスター爆撃機は、戦後のイギリスを象徴する機体です。もちろん現在は空を飛べませんが、バーチャル空間の中であれば機内に搭乗できます。
機内の状況はよく再現できていて、計器や細かい傷、乗組員によって貼られたであろうシールまで確認できます。機内にはパイロットやエンジニア、無線手、銃手などの7人の乗組員の他にBBCの戦場記者と録音技師が搭乗しており、彼らの行動も細かく再現されています。
体験者は幽霊のように機内をウロウロして、それぞれの乗組員の状況や機内の細部まで観察できます。
2. 当時のラジオを使用したリアルな音声
この作品の一番のポイントは、1943年9月に録音されたBBCの戦場記者の声とその周辺の音声です。そもそも実際の空襲の中を爆撃機のコクピットに乗り込んで、生々しい戦時の様子を音声で記録したのもこれが初めてだったそうです。
その音声を元にCGアニメーションで機内の様子や戦火の状況を正確に描いています。音声では戦場記者が戦火の状況を伝える中、機関銃の音や高射砲が炸裂している音、敵の飛行機が撃ち落とされる音、さらには乗組員たちの生々しいやり取りまで収録されています。
戦時を再現したVR映画ということはわかっているのですが、映像や音声だけでは表現されていない乗組員の緊張感や恐怖が伝わってきます。 実際、この映像を見ていると鼓動が激しくなり、手に汗をかいていました。
空襲を抜けると空には静けさが訪れ、最後パイロットはその安心感からなのか、歌を歌い始めます。私自身、パイロットの歌を聞いてやっと肩の力が抜けた気がしました。音声だけでも恐ろしい状況が十分伝わってきますが、VRを組み合わせることによって音声という情報から、体験に変わり、戦争の異常な状況を実感させられる作品になっています。
3. VR×ジャーナリズム
今までもVRを通して伝える報道作品はいくつかありました。この連載でも紹介したナイジェリアの誘拐テロ事件を扱った「Daughter of Chibok」や、シリア難民キャンプで暮らす少女を取り上げた「Coulds Over Sidra」などが代表的な作品だと思います。
何度も言うようにVRはジャーナリズムのあり方を大きく変えていくと思います。実際にあった事件やイベントを文字や音声、フレーム映像からの情報という形から体験に変えてしまうこのメディアは、今後新たなジャーナリズムの形として進化していくでしょう。
今回の「1943 BERLIN BLITZ」を体験してよりその思いが強くなりました。70年以上前の音声素材を利用して過去の出来事を風化させないばかりでなく、情報から体験へアップグレードして体験者の記憶に残すことに成功していると思います。
私自身、第二次世界大戦のベルリン空襲とは無縁でしたが、この作品体験によって、自分の搭乗した飛行機が撃ち落とされてしまうかもしれない恐怖や敵機を撃ち落とした時の狂気的な喜びの状況が体験として記憶に残されています。
作品データ
タイトル |
1943 BERLIN BLITZ |
ジャンル |
アニメーション |
監督 |
David Whelan |
制作年 |
2018年 |
本編尺 |
約14分 |
制作国 |
アイルランド、イギリス |
視聴が可能な場所 |
Oculus Store: |
Trailer
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