第1回Beyond The Frame Festivalのグランプリ受賞作品
2021年2月21日、国内初のVR映画に特化した国際映画祭Beyond The Frame Festivalが閉幕しました。第1回目のグランプリ受賞作品として選ばれたのがHsu Chih-Yen(台湾)監督作品の「Home」と、今回紹介するJonathan Hagard(日本、インドネシア、ドイツ)監督の「Replacements 諸行無常」でした。
審査の際に「Replacements 諸行無常」を一番に推していたのが園子温監督でした。園監督は「VRの可能性を一番感じさせてくれた作品で、何度でも見られる」と言っていたのが印象的でした。
そして3月12日(金)、第24回文化庁メディア芸術祭で、エンタメ部門優秀賞を受賞。「鑑賞者をストリートに立たせ肌で感じさせる、切なく啓発的な作品だ」と評価されてます。
今作を制作したのはフランスとインドネシアにルーツを持つJonathan Hagard監督です。
2009年に制作された短編アニメーション作品「TimeLapse」をもとにVR映画作品用にリメイク。「TimeLapse」では、祖母が住んでいたジャカルタの記憶をもとに変わりゆく街並みを描いていましたが「Replacements 諸行無常」で新たに描かれているのは政治や宗教の移り変わり。風景や人、文化などが変化していくなか、何が失われ、何が新しく根付くのか、丁寧に描写されています。
オススメのポイント
1. 魅力的なVRアニメーション
Jonathan Hagard監督はイラストレーターでありアニメーターでもあります。監督が描くイラストやアニメーションは緻密。まるで浮世絵のようです。人物や風景の細々としたモノにまでストーリーが込められており、眺めているだけでイラストの世界に引き込まれます。
そんなイラストが動き出すVRアニメーションはさらに魅力的。360度の世界の中に入り込むので、あちらこちらで起こっている物語を巡りながら、街の雰囲気を味わえるよう設計されています。
2. リアルとファンタジーの融合
この作品の街並みは、監督の記憶と実際のジャカルタの歴史を調べて作り上げられた架空のものです。リサーチとイラスト、ストーリー開発に1年も費やしています。
VRで最初のプロトタイプを見た時、監督も想像以上の出来に感動したそうです。VRの持つポテンシャルを感じて完成品が間違いなく素晴らしい物になる確信を感じて、最終的には会社を辞めて制作に集中して作品を完成させたそうです。
それゆえにとてもリアルで、ジャカルタのどこかに行けば同じ街角があるように思ってしまうぐらい高い完成度です。
3. VRアニメーションだから伝えられること
VRならではの作品を追求することは非常に大変な作業です。きっとJonathan Hagard監督自身、VRで作ることに意味がある作品を模索して制作されていると思います。
前作「TimeLapse」からかなり踏み込んだVRならではの作品になっていると思います。1つの街角を舞台に、大きな変化の中で無くなるものと生まれるものの存在という、非常に伝えにくい物語を「VRならでは」の作品として、いえ「VRだからこそ伝えることのできる」作品にできたのだと思います。
すでに次回作を2つ構想しているそうで、1つは6DoFを利用したインドネシアのミュージカル作品。もう1作品は日本の近未来を舞台にしたロボットの話だそうです。企画からすでに魅力的ですが、きっと素晴らしいVR映画作品を体験させてくれるでしょう。
作品データ
タイトル |
Replacements 諸行無常 |
ジャンル |
アニメーション |
監督 |
Jonathan Hagard |
制作年 |
2020年 |
本編尺 |
約12分 |
制作国 |
日本、インドネシア、ドイツ |
配信サイト |
Trailer
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