心が痛くなるほど感情が揺さぶられるVR映画
「Amends」は疎遠になってしまった母親との複雑な感情を、子供の視点となって追体験する作品です。心が痛くなるほど感情が揺さぶられました。
このプロジェクトはデンマークのアニメーションワークショップでの制作セッションの一環として12人の学生のチームによって制作されています。監督はデンマーク出身のディレクター兼コンピュータグラフィックアーティストでありワークショップの参加者の1人でもあるMikkel Battefeld監督です。
Mikkel Battefeld監督は第77回ベネツィア国際映画祭 VR部門「VENICE VR EXPANDED」でグランプリに輝いた「THE HANGMAN AT HOME」のCG部分も担当しており、今後の活躍が期待されています。
オススメのポイント
1. 作品導入部分の重要性
VR映画にとって導入は結末と同じか、それ以上に重要だと思います。導入の1分ほどで「この作品はどういう世界を描いているのか」、「その世界で自分はどういう役割を与えられているのか」といったルールが把握できないと物語に没入できないからです。
その点「Amends」はよく研究されています。冒頭、押し寄せるように記憶の音声が自分に迫ってきて、音声の走馬灯のようです。Mikkel Battefeld監督は冒頭のこのシーンで、体験者がこの作品の主人公であり、これから体験する大変なことを予感させようと考えていたのではないでしょうか。
2. 積み木を使ったインタラクション
作品内では積み木が印象的に使われています。まずは母親との思い出。物語は母親との積み木遊びの思い出から始まります。
ここのシーンで面白いのが、テーブルの上の積み木を体験者の好きな位置に置くことができるのですが、積み木をどこに置いても、その上に母親が積み木を重ねてくれるインタラクションがあります。母親との楽しい思い出という重要なシーンで使うインタラクションのお陰で印象的なシーンになっています。
さらに物語が進むと母親とパートナーとの別れから家族の崩壊が始まっていきます。体験者は自分の部屋らしき場所で積み木に触れることができるのですが、その積み木を壁に向かって投げると次々と積み木が壊れてしまいます。
体験者は物語の主人公として、何とも言えない思いを積み木にぶつけているようなシーンになります。また自分がいる部屋も1つの積み木のような立方体の部屋になっていて、その部屋も崩れていきます。
家族の崩壊を体験によって想像させる見事な演出だと思います。ラストシーンでも積み木は登場します。テーブルの上に積まれた立方体の積み木とソファで安らかに眠る母親の手に握られている三角錐の積み木。私はそれらを確認した際に自然と母親の手から積み木を手に取り机の積木に積んでみました。
そのシーンで物語はエンディングを迎えるのですが、冷静に考えると最後の自分の行動は、崩れかけている家族の状況を元に戻したいと無意識に思ったのかもしれません。ここまで考えて演出していたと考えると、本当にすさまじい作品を作る監督だと思います。
3. 体験者に向けられた母親の目線
この作品の中で体験者は母親と暮らす子供の役割になります。最初の積み木で一緒に遊んでくれる母親の目はすごく優しく愛情に満ちています。しかし、パートナーと別れた後の自分に向けられる眼差しは冷たく、生気がありません。恐怖すら感じます。
作品の印象的なシーンで、体験者を囲むように無数のドアが置かれているシーンがあるのですが、母親が冷たい眼差しを向けながら、ドアを次々と閉めていくシーンが今でも忘れられません。
子供の役割である自分は助けを求めているのに、母親は助ける素振りも見せず、子供との間にあるドアを閉じていきます。母親と自分の距離を感じさせ、孤立していく子供の感情を体感させる巧みな演出だと思いました。
作品データ
タイトル |
Amends |
ジャンル |
アニメーション |
監督 |
Mikkel Battefeld |
制作年 |
2020年 |
本編尺 |
約12分 |
制作国 |
デンマーク |
体験できるサイト |
Trailer
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