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VR動画 2020.11.14

【VR映画ガイド第24回】広島からカナダへ移住した家族の歴史をVRで辿る

ドキュメンタリーの新しい可能性を追求した意欲作

ドキュメンタリーVRも年々進化しています。今回は第77回ベネツィア国際映画祭を皮切りに他多くの映画祭で非常に高い評価を得ている作品を紹介します。

「The Book of Distance」はドキュメンタリーの新しい可能性を追求し、VR表現としてルームスケールとインタラクションを利用した新しいストーリーテリングに挑戦しています。

題材となったのは、監督Randall Okita氏の祖父・沖田米三氏の生涯。1935年に広島の自宅を離れてカナダに移住した米三が、戦争や強制収容所での体験、人種差別を乗り越えて3世代に渡ってカナダで生活する様子を伝えます。

現在リリースされている物は日本語対応されています。ぜひ体験してもらいたい作品です。

オススメのポイント

1. 没入感を高めるインタラクション

Randall監督が遊んだ蹄鉄投げ遊びを体験したり、過去の様々な思い出を写真で撮影したりと、各シーンにはシンプルなインタラクションが用意されています。

印象的だったインタラクションの1つは、カナダへの入国のシーンです。パスポートを手渡され、ハンコが押され、現地に入国する疑似体験ができるのですが、現在の入国審査とは少し違う緊張感があります。

また強制収容所のシーンなど重要なポイントでは、必ずユーザーに荷物を詰めさせます。これにより、ユーザーは当時の社会状況に思いを馳せつつ、当時の人達の複雑な心境を体験することになります。この作品を語る上で非常に重要なポイントだと思いました。

2. 追求されたVRストーリーテリング手法

当時を振り返る物として実写の写真や新聞を利用していますが、空間や人物のほとんどはCGアニメーションで描かれています。

空間の表現はかなり制限されており、人物の表情などの描き方も非常にシンプルです。制作当初はリアルな表現を目指したそうですが、ハードの制限やユーザーのVRリテラシーもあるということで最終的にはストーリーテリングを優先した最小限の演劇的スタイルを採用したそうです。

360度空間全てを描くのではなく、演劇のように見せるべきところを描き、人物の表情も最小限に描いています。ただ、ストーリーテリングのうまさによって、空間イメージは広がり、人物の表情も明確に想像できるよう制作されています。

3. 想像を体験に変えるドキュメンタリーVR

この作品は1930年代の広島やカナダが舞台の作品です。Randall監督はもちろんその時代には生きていません。

父親から聞いた話や残された手紙や写真、また記録書類や新聞などを元に当時の状況をCGアニメーションで描いています。Randall監督の記憶に残っている祖父の歩き方なども忠実に再現するなど、細かい演出にこだわったそうです。

ここまで沖田家の歴史を振り返るためには膨大な資料が必要だったと思います。そのため企画から完成まで約4年かかったそうです。その甲斐あってか、Randall監督の記憶に存在しなかった1930年代の風景や状況が非常にクリアに表現されていました。

作品の中をアバターのRandall監督が案内してくれるのですが、その中で監督が「この時の祖父の気持ちはどうだったのだろう?」と自問自答したり、「皆さんはどう思いますか?」とユーザーに投げかけたりするので、監督と一緒に1930年代を時間旅行したような気分になりました。

作品の最後、過去についてを何も語りたがらなかった祖父に宛てたRandall監督の手紙は静かな感動を生みます。皆さんも学校や教科書では語られないプライベートな歴史に触れてみませんか?

作品データ

タイトル

The Book of Distance

ジャンル

ドキュメンタリー

監督

Randall Okita

制作年

2020年

本編尺

25分

制作国

ドイツ

体験できるサイト

OculusStore
Viveport
Steam

この連載では取り上げてほしいVR映画作品を募集しております。
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