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VRゲーム・アプリ 2023.05.30

ひとりの若きゲームクリエイターが力業で生み出したVRゲーム『Vertigo 2』は、今年一の傑作である

2023年3月に発表されたVRゲームVertigo 2』が、現在VRゲームユーザーの間で大きな話題を集めている。

5月現在、Steamのレビュー評価で「圧倒的に好評(878件中、97%が好評)」を獲得。そのレビューの中には『Half-Life: Alyx』や『Boneworks』など、すでに傑作という評価を得ている作品と並び評す内容も多く、プレイヤーたちのこの作品への“入れ込み具合”は非常に高いものとなっている。

はたして、この作品のどういったところにプレイヤーは惹きつけられているのか。VRゲーマーのぱソんこ氏に、『Vertigo 2』の魅力を余すことなく執筆いただいた。

目次

(1)『Vertigo 2』はボリューミーで、スリリングで、ワクワクする
(2)武器の使い分けを促すリロードとリソース管理
(3)開発経緯について
(4)すばらしいゲームでも、いくらかの注意書き
(5)総評:2023年のVRゲームオブザイヤーは『Vertigo 2』

『Vertigo 2』はボリューミーで、スリリングで、ワクワクする

先に『Vertigo 2』がなぜVRゲーマーから熱狂的な支持を集めているのかを述べると、このゲームはボリュームたっぷりでネタも豊富で飽きさせず、武器の操作性がよくエリアの探索しがいがあり、ユーモアにあふれた世界でストーリーやドラマを堪能できるからだ。

『Vertigo 2』は研究所の実験事故に巻き込まれて異次元に転送された主人公が家に帰るため、研究所から道行く先々のエイリアンやアンドロイドと戦うVR専用のアクションアドベンチャーゲームだ。銃器を持って敵を迎撃しながらエリアを探索し、パズルを解いたり武器を収集したりカスタマイズさせたりする古典的な一人プレイのFPSがVRで楽しめる。

本作の最大の特徴は「シューターとしてのシチュエーションが多様かつ大ボリューム」だろう。VRゲームは「アイディアが斬新でも品質は粗削りな短編」でリリースされることが珍しくないものの、本作は「そのネタだけで並みのVRゲームが一本作れるのでは?」というシチュエーションを惜しみなく大量に投下し、クリアまで10時間、全18チャプターにまとめあげた。

『Vertigo 2』の前に、軽く前作『Vertigo』(2016年配信)のおさらいをする。Vertigoでは実験事故に巻き込まれた主人公が研究所に転移し、主人公を狙う警備ドローンやエイリアンの闘いのみつどもえの状況下で研究施設からの脱出を目指していた。これは「FPSにストーリーを本格的に組み込んで初めて商業的に大成功した」と言われる1998年のFPS『Half-Life』とほぼ同じあらすじであり、『Vertigo』はHalf-Lifeのパロディを前面に押し出したVRシューター(クリア時間は4時間)だった。

『Vertigo 2』のゲーム冒頭では研究所に迷い込んだ主人公の元にエイリアンが続々と出現して攻撃してきて、これをしのぐと今度は敵対勢力のロボット兵が現われて三つどもえの状況に。そのあとは地下研究所の探索や荒野のヘリコプターで敵ドローンを機銃掃射、巨大な地下鉄でのスナイパー戦や廃棄物処理場などがつづく。むろん、多様なシチュエーションでの質の高い撃ち合いは十分に備わっているものの、序盤の流れは『Vertigo』やHalf-Lifeの面影を強く感じさせる。

ところが、ゲーム全体の1/3ほどに辿り着くとまったく異なる顔を出す。異世界の大自然でケンタウロスの弓兵に襲われ、ジャングルに生える巨大なキノコ群の上をジャンプ台で飛び跳ね、原住民の秘宝を盗んだことで追い回され、ボートを運転しながら他のボートと撃ち合い、巨大クジラの体内で巨大な寄生虫を駆除するといった奇想天外なシチュエーションがずらりと出てくるのだ。

『Vertigo 2』の中でも特に強烈なゲームプレイはChapter 10 ”The Diplomat”で、このステージでは作中の重要アイテム”Hyper Cube”をめぐってソビエト連邦風ロボットの革命軍とカトリック教風ロボットの教団軍が争っている。マルチバースから偶然この世界に流れ着いた主人公はどちらの陣営に味方するか選び、選んだ陣営と共にもう片方の軍を殲滅するのだ。

どちらの陣営に入るかで貰える武器や敵に侵攻する市街地のルート、敵陣営のステージとボス戦がまったく異なるので「18チャプターのうちの一つにここまでネタを投下していいんですか!?」と筆者は驚きっぱなしだった。ゲームの構造としてはどちらか一方だけ作っても十分に成立するので、とにかくシチュエーションの量と質にかけるリソースが尋常でない。

一方で、ただ撃つだけでないパズルや探索、ストーリーテリングを重視したステージも挟まっており、それらは激しい撃ち合いの狭間のほどよい清涼剤となる。特に筆者の記憶に残ったのは『Portal』のパロディステージと真っ暗闇の廊下で大量のマネキンに追いかけられるホラーステージだった。

『Portal』のパロディステージはパロディというよりもほぼ忠実な再現であり、権利的な心配を通り越して「Portalの世界をVRで体験できる……!」と惚れ惚れとした。もしPortalシリーズの経験があれば以下のスクリーンショットを見ると一発で理解できるだろう。

武器の使い分けを促すリロードとリソース管理

当然ながらシューターはステージだけでなく銃が不可欠であり、とくにVRのシューターは銃の手触りのよさがそのままゲーム全体の手触りに直結する。自分の思った通りにすっと弾をリロードできないVRシューターがどれほどプレイヤーにストレスを与えてプレイ意欲をじわじわと削るか、VRシューターをいくらか触った人はそんな経験もあったことだろう。

『Vertigo 2』の銃火器はバリエーションも手触りも納得の高品質となっており、通常プレイでは10種類近くの武器、ピストルやショットガン、リボルバーにマシンガンなどを手動でリロードする必要がある。

本作がVRシューターとして独特なのはマガジン(銃に装填する銃弾のパッケージ)がプレイヤーの視界左下に浮いていてそこから取り出すことができ、一定時間が経過することでマガジンが自動的に復活することだ。このため、本作はプレイ中に銃弾を完全に使い切って詰んだり、銃弾を切らさないようフィールドを四方八方に探しまわる必要はない。

だが、この「マガジンが自動的に復活する」が本作のバトル設計のキモだ。ちょうどマガジンの上にある白い円のアイコンには「マガジンを同時に何個までキープできるか」「マガジンが復活するまでにどれくらいの時間がかかるか」が書かれており、攻撃力の低い武器はキープ個数が3~4つで復活までの時間も短いものの、攻撃力の高い武器はキープ個数が2つで復活時間も長い。

このため、強い武器を手に入れたからといってずっと同じ武器ばかり使っていることはできないし、弾切れが生じなくても当てずっぽうに狙って外しまくるとマガジンが復活するまでの間に追いつめられる。

ゲーム後半では強い武器もいくつか揃って高火力な状態を維持しやすくなるものの、強い武器はそれぞれリロードの仕方がやや異なるのでプレイヤー自身のしぐさの慣れや手さばきも試される。このため、後半でもリロードのしやすさを重視してあえて火力の低い武器を運用することも戦略として十分ありうる。

また、フィールドには武器をアップグレードする装置が配置されており(シークレットエリアに隠されていることも……)、どの武器の攻撃力を高めるかやリロード、エイムをしやすくするかプレイヤーが自身のスタイルに合わせて選ぶ余地がある。銃器を触って狙って撃っているだけでも気持ちよく、プレイヤーが煩雑に感じない程度にフィールドを積極的に探索する動機づけにもなっていて、本当にバトルの設計に隙がないのだ。

開発経緯について

VRゲームを好んでプレイするゲーマーであっても「VRゲームのボリュームが少ない」問題を意識したことが一度はあるだろう。

小規模な開発スタジオが工夫を凝らしてみるものの、ローグライクを採用したもののゲームプレイの変化に乏しかったり、ボリュームのためにコピー&ペーストの水増しだらけになることがVRゲームでは本当によくある。ビデオゲームはボリュームが多ければ良いというわけではないし、コンパクトで美しいゲームも良いが、質と量を兼ね揃えてないと実現できないことは確かに存在する。

では、どのように『Vertigo 2』という「クリアまで10時間以上のボリュームたっぷりで、ちゃんと面白いVRアクションアドベンチャー」が作られたのかといえば、個人開発者である「Zach Tsiakalis-Brown」氏が6年かけて制作したからに他ならない。

まったくもって信じがたいことに、プログラミング、ビジュアル、BGM、効果音、脚本を一人で担当しており、しかも2023年時点で弱冠22歳だという(Zach氏以外にも声優やスペシャルサンクス、テスターなど協力者がいることは前提として、開発のコアメンバーが一人であることに変わりない)。

とはいえ、「多方面の才能を兼ね揃えた個人開発者が途方もない時間を注いだから」という身もふたもない結論にすがりつく前に、Zach氏が本作をリリースするまでの経緯から質の高さの理由の別の側面を見てみよう。

まず、Zach氏が2016年時点(氏が16歳の頃だ!)で一度オリジナルの『Vertigo』をリリースしていて、2019年から2020年にリリースされた『Boneworks』や『Half-Life: Alyx』といった物理演算重視のVRシューターの影響を受けて『Vertigo 2』の物理演算システムを作り直し、2020年は『Vertigo 2』の開発を中断してリメイク作『Vertigo Remastered』を挟んだ。

また、『Vertigo 2』の体験版を2019年と2022年に2度リリースした上で体験版それぞれをアップデートしつづけるなど、Zach氏が何度もVRゲームのリリースを重ねてユーザーからのフィードバックを回収するサイクルを繰り返したことが伺える。開発者の経験や製品のブラッシュアップに近道はないのだ。

そして、記事冒頭でも触れたFPSの金字塔『Half-Life』、特に初代にZach氏は強い影響を受けていて、PVで自ら「Half-Like」を名乗るほど明確に「VRの『Half-Life』のようなゲームを作る」という強いビジョンがあったことも見逃せない。「Half-Life」シリーズ本家は2020年に『Half-Life: Alyx』をリリースしており、筆者は「Alyx」がVRゲームの最高傑作だと考えているが「Alyx」がVRゲーム初心者に最大限に配慮した作風であるためテンポ感や激しい撃ち合いなど、従来作の魅力だった部分がやや抑えられていたことは否めない。

Zach氏は「Half-Life」初代の「ゲームの一部始終が一本に繋がっていて没入感があり、ストーリーやドラマがゲームプレイと密接に繋がっている、三つどもえの状況で逼迫したサバイバル体験」を見事にVRゲームに落とし込んだ。筆者もHalf-Lifeシリーズをほとんどプレイしているので、Zach氏の狙いや意図がある程度は読める。

『Vertigo』初代はわかりやすくHalf-Life初代のパロディであることを押し出していたが、『Vertigo 2』はHalf-Life初代の影響を受けたうえでオリジナリティのある要素をふんだんに盛り込み、「Half-Lifeのパロディ」から「Vertigo 2という面白いVRゲーム」に見事に成長してみせた(なお、先述の二つの対立陣営の戦場のステージは『Half-Life 2』の市街戦のステージからインスピレーションを受けたとも言及している)。

すばらしいゲームでも、いくらかの注意書き

上記までほとんど筆者が絶賛したい部分について説明したが、ここでは筆者が感じた心残りやいくつかの注意点について説明する。『Vertigo 2』はストーリーやキャラクターなどがダークコメディで満ち溢れているのだが、本作の字幕を読んでも筆者はおそらく本作のジョークの半分も理解できていない。基本的に日本における中学英語の範囲が分かればゲームプレイに支障はないが、やはりフルで堪能できないのは非常に悔やまれる。

注意点としては「VR酔いが起きやすいかもしれない」「痛みの伴う描写が多い」の2点を挙げておきたい。

『Vertigo 2』はプレイヤーの移動方法としてはスティック移動とテレポート移動の両方がいつでも使える(のでスティック移動で酔ってしまう人でも挑戦できる)のだが、プレイヤーがジャンプ台でぶっとんで移動するステージがあること、プレイヤーの乗っている電車がレールにそってくねくねと動いてプレイヤーの視界が左右に大きく振れるシーンがあること、ボス戦が「巨大な敵の周囲をぐるぐると回る、飛び跳ねる」という構造になっているため目が回る可能性が高いことがある。

ジャンプ台や電車のレールに関してはプレイヤーが目をつぶる(これらの状況ではプレイヤーが操作しなくてもゲームが進行する)ことでギリギリ対応できるが、ボス戦の最中に目をつぶったらゲームが進められない。もしボス戦で体力が過度に消耗することを懸念している場合は、ボス戦の最中のみゲームの難易度を最低設定の”Story”にする(ボス敵の体力を極限まで下げる)ことで解決できる。プレイヤーがいつでもオプション画面から難易度やアクセシビリティを設定して即座に反映されるのは本作の素晴らしい点の一つだ。

また、本作はコメディ調なゲームであれどグロテスクな描写がそれなりにある。愉快な見た目のエイリアンも銃撃を食らえば血まみれになったのちに肉片としてバラバラになり、プレイヤーが自身の人差し指に注射器を刺さなければいけないシチュエーションや敵から撃たれて自分の胴体に刺さった弓矢を自分で引っこ抜かないといけないシチュエーションがあったりする。

普段からバイオレンス描写に慣れていないプレイヤーは事前にプレイ動画などを確認した方がいいだろう。なにせVRはプレイヤーの感情をより強く喚起するので、気を付けるに越したことはない。

総評:2023年のVRゲームオブザイヤーは『Vertigo 2』

もし筆者が「2023年のもっとも優れたVRゲームは何か?」と聞かれれば、間違いなく『Vertigo 2』だと断言する。

本作は2023年3月30日よりSteamで販売されており、5月末時点ですでにユーザーレビューが1000件(圧倒的に好評、97%が好評)を超えるというSteam VRゲームとしてかなりの好成績を叩きだしており、VRゲームに新たなロングセラーが誕生したといってもいい。『Vertigo 2』はかつて2019年の『Boneworks』や2020年の『Half-Life: Alyx』をプレイしたときの「こんな骨太で面白いVRゲームをもっとプレイしたい」と期待していたあの興奮の先にあるVRゲームだ。

なお、『Vertigo 2』のプレイにあたって前作となる『Vertigo Remastered』(オリジナルの『Vertigo』は配信終了済み)をプレイしている必要はないが、『Vertigo Remastered』もオリジナルが2016年のVRゲームとは思えないほど高い品質のVRゲームであり、Vertigo 2にもVertigoオリジナルのリファレンスやセルフオマージュが少なからず含まれている。Vertigo Remasteredはクリアまで4時間なので、時間と体力に余裕があればプレイしてみてほしい。

本作はSteam VR以外にもPS VR2への移植も検討中だと開発者のZach氏は語っている(ただし明確な決定事項ではなく、時期も未定)。一方で、Zach氏はMeta Questへの移植に否定的であり、「モバイルVRのためにZach氏のビジョン(Vertigo 2)を縮小したくない」と述べている。『Vertigo 2』をクリアした筆者としても、本作の体験をまったく損なわずQuest 2に移植するのは相当な困難が伴う、というか本当に不可能なのだと想像に難くない。

なお、直近では引き続きバグ修正などアップデートのほか、プレイヤーがオリジナルのステージを作成できる公式MODモードのオープンベータが始まっている。才能と作品への情熱が留まることを知らないZach氏の今後の活躍をぜひとも追い続けたい。


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