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AR/MR 2020.02.04

机の上がライブ会場に!? スマホARの可能性を見た「超現実ライブ」

1月26日(日)、バーチャルライブ配信アプリ「SHOWSTAGE」にて、対バンライブ「超現実ライブ#1」が開催されました。リアル側のメジャーアーティストとバーチャルアーティストの対バンという、異色の組み合わせで行われた本ライブは、VRのみならずARでも参加可能というめずらしい特徴がありました。

今回このイベントを手持ちのデバイスのAR機能を利用して取材しました。「ARで見るバーチャルライブ」がどのようなものだったか、アーティストのライブパフォーマンスはどのように映っていたかレポートします。

「SHOWSTAGE」のARライブとは?

「SHOWSTAGE」はSHOWROOMより提供されているバーチャルライブ配信アプリです。
Oculus Goに対応したVR版と、iOS/Androidに対応したAR版の2種類が存在するのが特徴で、とりわけ「スマホから参加できる」というのは大きなセールスポイントでもあります。

今回の「超現実ライブ#1」では、筆者の自宅よりAR版で参加しました。

チュートリアルの「おためしライブ」を起動した様子はこのような感じ。たとえば机の上にライブ会場を呼び出し、スマホの画面越しにライブを観覧できます

視点もタップ操作で自由に変更可能です。操作感はかなりシンプルで、チュートリアルではわかりやすい説明も入るため、迷うことはないでしょう。

今回はiPhone Xと、iPad Pro(第3世代)の2つのデバイスにて検証してみました。いずれのデバイスでも問題なく動作していて、手軽さを重視するならスマートフォン、固定して大画面で見たいならタブレットと、用途別の使い分けも問題なくできそうです。

超現実ライブ#1 ライブレポート

今回のライブは対バン方式。前半後半でそれぞれのライブに30分ずつ、場面転換に1時間、という構成でした。

セトリはこちら。互いに5曲ずつの比較的短めなライブとなっていましたが、双方ともに満足のいくボリュームであったことは先に記しておきましょう。

ライブ会場はこちら。廃工場をイメージしたような、チュートリアルライブとは比較にならないほど作り込まれたステージです。

全体像はこのようになっていました。この作り込み具合は、いい意味で期待を裏切ってくれました。少し散らかっている部屋や、人の行き交う屋外から観覧することになっても、これだけの会場を用意してもらえれば気にならないというものです。

前半戦:中二さゆり

前半戦を担当したのは中二さゆり。2.5次元パラレルシンガーソングライター・さユりの分裂した精神から生まれた存在です。濃紺のセーラー服に左目のアイパッチという姿が印象的な彼女は、SHOWSTAGEのおためしライブのひとつにも登場し、さながらSHOWSTAGEのガイド役のような存在でもあります。

今回披露した全5曲はさユりの楽曲です。苦しみを抱えながらもひたすらに前に進もうとする「酸欠世代」の心情を吐露するような歌の数々を、「永遠の14歳」たる中二さゆりが歌う姿は、それだけで内外一致の心地よさがありました。

目を引いたのは各ステージ演出。楽曲ごとにまったく異なる演出が仕込まれており、なかにはステージを丸ごと書き換えるようなダイナミックなものもありました。

ラストに選曲された『ミカヅキ』は特に楽曲とマッチした演出となっていて、さながらMVをリアルタイムに作り出していくような印象を受けました。

30分という短い時間でしたが、アーティスト(の姿)、歌、ステージと演出、これら全てがひとつのコンセプトのもとに束ねられており、ライブとしても映像としてもかなり完成度が高いものでした。中二さゆり、初見でしたが、これは推せます。

後半戦:波羅ノ鬼

続く後半戦の担当は波羅ノ鬼。「第2回アルテマ音楽祭」にて鮮烈なデビューを飾り、「DIVE XR FESTIVAL」にも出演。さらには定期的に路上ライブを実施するなど、いま注目が集まっているバーチャルアーティストの一人です。

今回はオリジナル曲3曲と、カバーを2曲という布陣。代表曲である『余命宣告』はトップバッターとして選曲されました。筆者はDIVE XR以来ひさしぶりにライブでこの曲を聴きましたが、切実さと力強さが重なるような歌声はやはりかっこいいです。

演出の力の入れ具合も中二さゆりに引けをとりません。3曲目の『白日』では、サビ部分で空間が白色に染まるという、原曲のMVを連想させるような演出が披露されました。この曲のカバー動画で彼女を知った方も多いとのことで、どことなくリスペクトが込められているように感じられました。

印象的だったのは、MCパートの声にコンサートホールのようなエコーがかけられ、コメントやギフトへの反応もしっかりと返すなど、「ライブ」であることを強く意識しているように感じられました。「リアルタイムのMV」のように振る舞っていた中二さゆりとはここが対照的だったように思います。

歌唱中には「実在か非実在かどうかはあなたが決めてください」と語りかける場面もあり、「バーチャル」に囚われない彼女の在り方を、直球で見せてきた30分でした。

大きな可能性を感じる「ARバーチャルライブ」

自宅からでも、出先からでも、時間が来たらスマホを準備するだけ。SHOWSTAGEのこのお手軽さは、やはり大きな強みであると同時に、バーチャルライブの敷居を大きく下げ得るものだと感じました。

操作も簡単ながら、自分でスケールやカメラ位置を定められる自由度を獲得しているのも見逃せない点です。とはいえ、その操作感はさながらカメラマンのようでもあり、ライブ中でも位置取りを意識しすぎて、ややせわしないものになってしまうかもしれません。

また、今回はAR参加でも周囲の光景を意識しなくてよいほど作りこまれたステージでしたが、ここまでくるとVRと大差がないといいますか、傍目には「両手でVRヘッドセットの接眼部を持っている」という状況でした。これは、「AR参加でもVR参加と同じ光景を見ることができる(≒VRが必須ではなくなる)」というメリットにつながると同時に、「没入感においてはVR側が完全優勢になる」というデメリットにもなり、一長一短です。

おためしライブのように、「現実側にバーチャルを呼び出しライブをしてもらう」という、無二の個性があることは事実ですので、この特性を活かすようなライブも開催されると、また強みが生まれるのではと感じました。

と、新しいプラットフォームであるがゆえに、課題も少し見つかった次第なのですが、今回のライブそのものは、アーティストも各種演出も高いレベルでまとまった「超現実ライブ」の第1回公演にふさわさしい秀逸なライブでした。次回以降の公演にも、大きく期待を寄せることができるでしょう。

2月2日(日)には、まりなす(仮)が無料でライブを開催予定ということもあり「体験するには遅すぎる」という時期ではまったくありません。これまでのバーチャルライブとは異なる切り口で届けられる、新しいライブ。ぜひ一度は体験してみてください。

執筆:浅田カズラ


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