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VTuber 2023.03.25

歌唱力を武器にする「Nornis(ノルニス)」の現在地1st LIVE「-Transparent Blue-」ライブレポート

町田ちま戌亥とこ朝日南アカネによる、にじさんじ発のボーカルユニット「Nornis(ノルニス)」。その1st LIVE「-Transparent Blue-」が3月15日(水)に開催されました。

Nornisは、VTuberのユニットとしてはちょっと異質です。なぜなら、通常のVTuberであれば、楽曲のMVやサムネイルイラストなどに自らの姿をメインで掲載するのが普通なのですが、Nornisではそういったビジュアルに、本人たちの姿がほぼ入っていないからです。3人ともそれぞれ生配信や動画が人気のVTuberですが、ユニットではあえてキャラクター性を伏せて、あくまでも歌唱力一本で勝負するスタイルです。

2022年6月にデビューして、オリジナル曲が徐々に増えている段階のNornisの1stライブ。メンバー3人と数多くのスタッフが万全の体制で、じっくり緻密に組み上げている真っ最中の、アーティストとして進みはじめた第一歩の舞台に見えました。

歌唱攻撃力が高すぎる楽曲のライブパフォーマンス

今回のライブで特にインパクトの強かった場面を、順を追って紹介していきます。

オープニング曲は、Nornisの現在のテーマソング的な作品「Abyssal Zone」。公演終了後の最速感想放送で司会のフレン・E・ルスタリオが「イントロで泣いた」と語っていましたが、同じ感想を抱いたファンは多かったのではないでしょうか。なんせVTuberライブでは珍しい、生の弦楽演奏入りです。オープニングから音の厚みが半端ではありません。

高音パートが多い上にかなりの声量が求められるとんでもなく難しい曲ですが、一発目から3人の歌唱力はしっかりと炸裂。腹筋フル活用な力強さ満点の歌声を、会場の人は生で聴いて心臓を鷲掴みにされたのではないでしょうか。

3人とも高音をしっかり歌えるメンバーですが、同時に低音パートを安定感と重厚感を持って歌えるのもNornisの強みです。3人が入れ替わり立ち代わりパートを変えてハーモニーを奏でていきます。

二曲目は「Daydreamer」。シティポップ調の明るいメロディの作品です。こちらはゆったりと余裕を持って、楽しそうに歌っているのが印象的。3人が一緒の車で晴れの日の下を走っていくかのような、音のまとまりが感じられます。

そして「Through the glass」。弦楽チームの音色と歌声の混じり合うバランスにワクワクさせられる作品です。ゴシックテイストのある作品で、その物語の中の1人になったかのように感情たっぷりに歌いあげています。

ここまでで、連続で一気にオリジナル曲を三曲も消費したことにびっくり。というのもまだNornisはそこまでオリジナル曲が多いわけではないからです。ここからはカバー曲やソロ曲がくることに期待が高まります。

「酔いどれ知らず」。ムードの大切さが求められる楽曲です。3人それぞれちょっとずつムードの出し方は異なるのですが、ひとつになるときゅっと締まるのはさすがの調和力。

「君の銀の庭」。これにはコメント欄もTwitterも大盛りあがりでした。3人組ボーカルユニットKalafinaの作品で、Nornis活動当初より、ファンから「Kalafinaをカバーしてほしい」とちらほら声があがっていました。期待していた人の期待を裏切らない、それどころか期待をはるかに超える3人の歌声との噛み合いっぷり。ミュージカルのような音の応酬で、歌声が重なり和音を作っていく美しい作品を3人は見事に再現しつつ、かつNornisらしいみずみずしさも含ませて歌い上げました。歌の実力がもろに出る楽曲なので、Nornisの歌唱力を知りたいという人にはぜひおすすめしたいステージです。

ここから3人のソロオリジナル曲「Unchained(朝日南アカネ)」「名前のない感情(町田ちま)」「六道伍感さんぽ(戌亥とこ)」が連続で披露されます。

それぞれの声質をいかせる曲調の作品群で、3人の名刺代わりとも言える曲になっています。「歌がうまい3人」と言っても、本当に歌い方と声質は三者三様。おそらく初めて聴いた人でもそれぞれの声はすぐ聞き分けられると思います。そんな3人だからこそ、ソロで歌った時の個の歌声には魅力が感じられますし、そろったときに生まれるハーモニーのバランス感覚のうまさにも驚かされることになります。

カバー曲の「Pa.SENSATION」「シニカルナイトプラン」と、ハイテンポな曲が続き、ダンスも披露されました。Nornisのライブ曲はオリジナルもカバーも歌唱力がゴリゴリに問われる楽曲揃い。歌うので精一杯なのにさらにダンスを入れるのは相当大変だったであろうことが容易に想像できますが、歌の味をしっかり引き立てるダンスを披露してくれました。

「fantasy/reality」の「La-da-di,La-da-da」が繰り返されるところの舞うようなダンスは、3人の衣装が映える動きになっており、かなりかっこいいです。ここでは特にカメラワークがガンガン切り替わることでAR映像がたくさん観られるので、3人の実在感を存分楽しむことができます。

一旦のラストとしてオリジナル曲「Goodbye Myself」が披露されます。さきほどとうってかわって、ゆったりとしたバラード作品で、ゆえに3人の歌唱力がむき出しになる作品。ここにきても3人の歌声は一切衰えることがないどころか、温まりまくったことで豊かさすら感じる声になっていました。

アンコールの後に歌われたのがカバー曲の「キャラクター」。晴れやかで、聴き心地のいい音域のポップチューンで、会場が一気に盛り上がります。そのまま続いて、歌声でぐいぐい攻めるタイプの迫力のあるオリジナル新曲の「White blossom」が披露されます。音域、ハーモニー、リズムすべて「Abyssal Zone」と同じくらいの難易度激高の作品で、町田ちまのソプラノロングトーンにはゾクリ。軽快なポップスから重厚な作品までしっかり歌える、という歌唱力の幅を存分に見せてくれました。

最後に歌われたのが「Transparent Blue」。作詞作曲編曲が亀田誠治のキャッチーな作りのオリジナル曲で、今後3人の代表曲のひとつになること間違いなしのキラーチューンです。他の曲のような攻めた歌い方の作りの作品ではありませんが、聴きやすい曲だからこそ歌の地力が問われる構造の曲です。3人のたっぷりの声量と、通りのいい声がフルに生かされたこの曲が、ライブを満足感たっぷりのものにしました。

Nornisを支える「神」

今回のライブは、ステージングに関しては歌のクオリティも表現も、そして曲順もパート分けも、できる範囲の一歩上を目指し続けて作られていたように感じられました。常にトップギアで、息抜きはMCパート以外にありません。特に3人曲では力を入れすぎても抜きすぎても崩れてしまう状態をずっと保ちながら、ずっとバランスを維持して調和させていました。声のハーモニーが一番よく聴こえる状態を、3人が徹底してシミュレーションしていたかのようにすら感じます。

にじさんじのライブの場合、場合にもよりますが、選曲やセットリスト、歌い分けなどはライバー自身が行ったり、意見を出してスタッフに反映してもらったりすることが多くあります。月ノ美兎のソロライブなどは、演出まで含めて自分で考えて、トータルで自己表現の作品にするスタイルでした。

Nornisのスタイルは、音楽性重視でスタッフによって緻密に組まれていたようです。音楽面を決定していくスタッフのことを、3人は「Nornisの神」と冗談半分で呼んでいました(このあたりは「【にじさんじ】Nornis 1st LIVE -Transparent Blue- 最速感想放送」でもかなり詳細に語られているので、ぜひ御覧ください)。

3人とも歌が大好きでライブを楽しんでいるのと同時に、難易度の高いボーカルや舞台でのダンスなど、スタッフ側から求められる水準に対して答えるべく全力で挑むのがNornisのステージスタイルのようです。ステージで観るともちろん3人のキャラクター性はしっかりあるのですが、3人の作品はあくまでも「歌唱力の個性」が目立つように押し出されていて、逆に普段の配信のような個性はほとんど入れられていません。

VTuberとしての姿を武器にしないスタイルで活動をしているNornis。それがメリットになるのかデメリットになるのかは今後次第。少なくとも今回のライブには、どういう方向性でこれから活動を広げていくのかが示唆されており、3人とスタッフの決意表明的な思いが感じられる内容になっています。

そこにいるNornis

今回もう一点注目したいのは、AR表現の技術がどんどん高くなっているという点です。

今回は他にもニコニコ動画での配信の映像で、かなり多様なアングルからのカメラ撮影が入っており、「画面に映っている二次元のVTuber」から大きく飛躍した存在感を放つよう工夫されていました。おなじみの斜めからのカメラの他、観客も映る背面からのカメラ、演者のステージングがわかる上からのカメラなども採用されています。これは配信でしかわからない存在感表現なので、現地で観た人も改めてアーカイブを買って観る価値ありです。

声出し解禁!

今回のライブはついに、現地会場での観客の声出しが解禁されました。コールアンドレスポンス以外のところではどのくらい出していいのかわからず、観客の声がうろたえる場面も多々。声が出せなかった期間の長さを改めて感じさせられます。3人がうまく観客を盛り上げることでしっかりと声が出始め、これからのライブのにぎやかで明るい未来が感じられました。

また今回はオリジナルのペンライトが用意されており、無線で色が揃うようになっていました。これを使うことで会場の色が一体になったり、明滅で波を打つように見えたりするなど、光を使った演出が盛り込まれています。

ライブでは3人それぞれがセンターになれるような楽曲構成なので、ひとりひとりのファンの視点としても楽しめる部分が多々あると思います。MCパートは緊張しまくっていたあーこ(朝日南アカネ)いじりをする先輩ふたりだったり、天然なボケを入れて困惑させてくれる町田ちまだったり、しっかりものながらも茶化しもする戌亥とこだったりと、VTuberとしての個性はMCパートにしっかり出ています。

ただ、楽曲に入るとそれぞれのキャラクター性を見せることはせず、歌のハーモニーを見せることに集中するような作りになっているあたり、3人がアイドル的な方向には進まないであろうことが全編に渡って明示されていました。

バーチャルだけどそれを感じさせないアーティスト集団、Nornis。MVでは彼女たちの歌の個性のみが一点突破しているので、ある意味彼女たち3人の個性に触れられるのは、ライブだけかもしれません。そこも含めて、クオリティの高いMVにも、ファンがつながる貴重な機会であるライブに対しても、今後への期待は高まるばかりです。なんせ既に去り際に町田ちまは「絶対(また)会おう」と言って手を振っていますから。

セットリスト

01:Abyssal Zone
02:Daydreamer
03:Through the glass
04:酔いどれ知らず
05:君の銀の庭
06:Unchained(朝日南アカネ)
07:名前のない感情(町田ちま)
08:六道伍感さんぽ(戌亥とこ)
09:夜永唄
10:PaⅢ.SENSATION
11:シニカルナイトプラン
12:fantasy/reality
13:Goodbye Myself
14:キャラクター
15:White blossom
16:Transparent Blue

©ANYCOLOR, Inc.


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