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メタバース最新動向 2023.06.27

日本のメタバース産業政策はどうあるべき?―生成AI・研究投資・人材育成・国際標準化・社会包摂―「Metaverse Japan Lab シンポジウム 2023」レポート

2023年5月29日、一般社団法人Metaverse Japanが「Metaverse Japan Lab シンポジウム 2023」を開催し、Generative AI時代のメタバースを活用した未来社会の構築に向けた議論が行われました。

本イベントでは、持続可能なメタバース空間実現に向けたMetaverse Japanの政策提言を元に、メタバースの未来シナリオや次世代インターネットの可能性について、LAB関係者やゲストパネラーによる議論が交わされました。本記事では、実施されたセッションのハイライトをお伝えします(※詳しいレポートは公式サイト「レポート」ページに掲載されています)。

Generative AIの現在と未来

登壇者:
・松尾豊氏(東京大学大学院工学系研究科准教授)
・平将明氏(衆議院議員 自民党web3プロジェクトチーム座長)
・長田新子氏(一般社団法人渋谷未来デザイン 理事 事務局長 及び SOCIAL INNOVATION WEEK エグゼクティブプロデューサー)
・馬渕邦美氏(PwCコンサルティング合同会社 パートナー 執行役員)

Metaverse Japan Labは「世界を主導する日本のメタバース産業政策」を発表しており、同団体の共同代表理事を務める馬渕氏は、今後10年かけてWeb3.0などのテクノロジーが発展していくと述べています。今年から来年にかけて多くの企業が参入し、公共のメタバースやVRグラスが整備され、メタバースに生活感が現れると期待されています。

子供たちを含めてメタバースの利用が広まっており、デジタルな環境での日常が当たり前になりつつあるとする中で、平氏は政策としての国際的なルール形成や、AIによる規制への関与も重要であると発言しました。

さらにChatGPT等の新しいAIに対しては、リスクを洗い出し、コントロールする視点で活用する考え方が重要であるとし、日本はカルチャーに対して比較的自由な意識があるものの、安全保障や人権・人命にかかわる部分では規制が必要であるとしました。

政治の世界でもAI・Web3PTのホワイトペーパーを発信するなど課題解決に取り組んでおり、PDCAのサイクルに基づいた動きが進んでいると平氏は述べました。大企業の参入を促すためにも、税制や法律の改善、投資の促進などが課題に挙げられ、長田氏により研究機関や学校、企業、自治体などとの連携や実験、提案活動の重要性も強調されました。

松尾氏は、大規模言語モデルは日本全体にイノベーションをもたらす可能性が高いとし、生成AIを積極的に活用し、APIを使ってサービスを開発し、生産性を向上させるべきであると解説。加えて生成AIは、メタバースの分野においても重要な役割を果たすことに期待しているとしました。

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メタバース産業立国に向けたステップ

登壇者:
・玉城絵美氏(H2L, inc. 代表取締役社長 琉球大学工学部教授)
・豊田啓介氏(東京大学 生産技術研究所特任教授 建築家)
・小宮昌人氏(JICベンチャーグロース・インベストメンツ イノベーションストラテジスト)
・小玉祥平氏(三豊市教育センター長)
・馬渕邦美氏(PwCコンサルティング合同会社 パートナー 執行役員)

このセッションでは、日本が産業立国に進化するためのメタバースの活用について議論されました。小宮氏によると、自治体や産業界での取り組みが進みつつも、連携不足や非効率な取り組みが存在する課題があるとされ、具体的なステップとして、共創協調領域の振り分け、国際標準化ルールの形成、人材育成の重要性が指摘されました。

小玉氏は教育において、メタバースを活用した地域格差や情報格差の解消、生徒同士のコミュニケーション促進を期待していると発言。地方自治体は先進的なモデルの構築や制度設計、人材育成に取り組む必要があるとしました。

玉城氏は、産業界でデジタルツインの進化やインタースペースの開発が注目され、効率化やサービス業の改善に貢献する可能性に言及。

豊田氏はインタースペースが異なるドメインのつながりやコミュニケーションの向上を可能にするとし、教育ドメインや他の産業ドメインでのビジネス展開の可能性も模索されていると解説。

玉城氏は、リアルとバーチャルのシームレスな連携は課題となっているものの、日本はハードウェアとソフトウェアの両方を手掛けるメーカーや教育における取り組みが進んでおり、その点では優位な立場にあるとしました。

小宮氏による投資回収の難しさや、豊田氏によるモデルの作成方法、小宮氏による防災や地域コミュニティ形成などの実践事例についても議論され、メタバースの利点や個人の選択肢の拡大、成功事例、地方自治体のワーキンググループの活動が重視されると共に、国際標準化やルールの確立への貢献も注目されています。

今後は社会的なコンセンサスやビジョンの強調、地域ローカルの繋がりの重要性に加えて、具体的な事例の増加や意見交換が重要とされました。

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産業基盤強化について

登壇者:
・金出武雄氏(カーネギーメロン大学ワイタカー記念全学教授/京都大学高等研究院 招聘特別教授/産業技術総合研究所 名誉フェロー)
・豊田啓介氏(東京大学 生産技術研究所特任教授 建築家)
・沼倉正吾氏(Symmetry Dimensions Inc. CEO Founder)
・馬渕邦美氏(PwCコンサルティング合同会社 パートナー 執行役員)

このセッションでは、産業のメタバーストランスフォーメーションに関する議論が行われました。スタートアップの創出育成支援や補助金の技術基盤構築、海外企業との連携など、産業基盤の形成について話し合われ、投資や再結合イノベーションの重要性も強調されました。デジタルツインやメタバースの実証と実践事例の共有が求められ、スタートアップの調達などが課題に挙げられました。

沼倉氏はSiriやQualcomm、SpaceXなどの研究開発を支援するSBIRプログラムについても言及し、日本政府は約1000億円の予算を投入すると発表したものの、日本における資金の使われ方と海外との差があると指摘しました。中国はスマートシティやメタバースなどを国内で大規模に展開しておりその強さを示す一方、日本では全ての分野をカバーしようとするため、追いつくまで時間がかかるジレンマが存在すると発言。また、失敗に対するハードルも高く、未だ昭和時代の価値観が残っているとの指摘もあり、それに対し豊田氏は人材の流動性や組織体制の変革が、馬淵氏は産官学の連携の強化が求められるとしました。

豊田氏からは、中国のような方式で競争を促進し、生き残った分野に集中的な投資を行うべきだとの意見も出ました。アメリカでは個々のプロジェクトにはあまり関与しない一方、日本では特定の大学やグループにお金が集中し、金出氏により政府が特定の分野やトピックに対して競争的に資金を提供するイニシアティブが存在していると指摘されました。

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人材育成について

登壇者:
・稲見昌彦氏(東京大学 総長特任補佐・先端科学技術研究センター 副所長/教授)
・中馬和彦氏(KDDI株式会社 事業創造本部 副本部長 バーチャルシティコンソーシアム代表幹事)
・さわえみか氏(株式会社HIKKY COO CQO)
・根津純也氏(文部科学省 大臣官房政策推進室)
・小宮昌人氏(JICベンチャーグロース・インベストメンツ イノベーションストラテジスト)

このセッションでは、メタバースの人材育成についての議論が行われました。研究所の立ち上げや投資、実践事例などについて触れながら、クリエイターや技術者の育成の重要性や、メタバースでの働き方の多様性、自由な姿勢やコミュニケーションの活用が話されました。

根津氏によりますと、文科省は情報活用能力とデジタル技術の教育に重点を置いており、大学や高専のカリキュラムにも情報技術の基礎を導入する方針とのこと。若手職員の自由な働き方を支援するための制度やメタバース検討チームの設立など、柔軟な人材育成に取り組む試みも行われています。

稲見氏は東京大学ではバーチャル東大やメタバース工学部を通じてオンライン教育や世代・所属にとらわれない学びの場を提供していると発言。中高生もメタバースに積極的に参加しており、東大のプログラムが企業との連携を通じてつながりを築いています。

中学生の理系への興味の促進、大企業の価値観や立ち振る舞いの変容、教育現場の変化についても話し合われました。

セッション全体を通して、変化する社会に対応するためには議論と試行錯誤が重要であり、人材育成の戦略、パワフルな取り組み姿勢を大切にすることが強調され、柔軟な人材育成を実現し、変革期の日本の大企業が技術のキャッチアップだけでなく価値観や立ち振る舞いの変容にも取り組む必要があるとされました。

さらに、メタバースやAIスキルの重要性、情報空間の理解や国際的な人材育成の必要性が述べられ、教育の変化や人事政策の見直しが必要であると言及されました。

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ルール形成・国際標準化について

登壇者:
・江崎浩氏(東京大学 教授情報理工学系研究科)
・玉城絵美氏(H2L, inc. 代表取締役社長 琉球大学工学部教授)
・河合健氏(アンダーソン・毛利・友常法律事務所 パートナー)
・馬渕邦美氏(PwCコンサルティング合同会社 パートナー 執行役員)

このセッションでは、メタバースのルール形成と国際標準化に関する議論が行われました。メタバースジャパンの提言や政府の役割、業界団体のルール形成が取り上げられ、利用者の多様性に応じたプラットフォームのガバナンスについても話し合われました。

河合氏は知財や消費者保護についても重要であるとし、アバターに関する権利や著作権侵害の問題が注目されていると発言。国際標準化や安全性の確保も課題とされ、海外機関との連携やメタバーススタンダードフォーラムの協力が必要であるとの意見も出されました。

玉城氏によると、メタバースとユニバースの中間の部分とされるインターバースにおいてユーザーの環境や安全性を重視し、メタバース空間だけでなくメタバースに没入する上でのユニバース(現実空間)の安全確保についても、国際標準化の必要があるとされました。

セッションを通して政府の規制や法律の適用に加え、独自のアプローチやルール形成が求められる課題とされました。

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ダイバーシティ&インクルージョンについて

登壇者:
・宮田裕章氏(慶應義塾大学 医学部 教授)
・小塩篤史氏(東京⼤学大学院 情報学環 特任准教授)
・水瀬ゆず氏(一般社団法人プレプラ 代表理事)
・佐竹麗氏(一般社団法人たまに 代表理事)

このセッションでは、制約のある人々への支援やインクルーシブな技術開発の重要性が話されました。不登校児や高齢者に対するメタバースが成し得る事柄、メタバースを通じて自己表現やコミュニケーションを行い、新たなチャンスを見出せる可能性が話題となりました。

メタバースが身体的・社会的な制約を超えたコミュニケーションを促進し、異なる文化や組織の力関係にも影響を与える可能性があるとし、小塩氏は健康支援サービスの開発等にも言及。テクノロジーを人に寄せることの重要性が強調され、メタバースが人々の可能性を拡大する手段となるとの考えが示されました。

その後の議論では、メタバースの活動を支援するためのサポートや資金調達の課題も存在しているとされつつ、メタバースやダイバーシティの重要性、高齢者や不登校の子供たちなど、従来のデジタルテクノロジーが届かなかった人々にアピールする必要が改めて認識されました。

セッションを通して、社会性やインクルージョンを重視した技術開発や支援が必要であり、メタバースが新たなコミュニティの一部となることが予想されるとともに、失敗から学びつつ、成功要因を分析し、未来に向けて議論し、共に進んでいく意欲が必要であるとされました。

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特別講演_カナダブリティッシュコロンビア州政府

登壇者:
・ブレンダ・ベイリー氏(カナダブリティッシュコロンビア州政府 雇用経済開発イノベーション省大臣)

ブリティッシュコロンビア州のテクノロジー産業やメタバースへの取り組みについて紹介しました。州政府は成長途上の企業に対して5億ドルのファンド基金を設立し、テックセクターの雇用創出と技術系教育に力を入れています。

バンクーバーは3D関連の人材やAR・VRのエコシステムにおいて世界的なハブとなっており、多くの有名な企業が活動していると解説。州政府がテクノロジーに力を入れ、人材の育成や投資支援に取り組んでいることを強調し、企業がブリティッシュコロンビア州を選ぶことで経済的なメリットや成長の機会があることをアピールしました。バンクーバーを含むブリティッシュコロンビア州の、テクノロジー業界の発展とメタバースへの注力を示す特別講演でした。

参考:Metaverse Japan Lab


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