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VRChat 2023.03.13

【VRChat】厚さ0の無限大な世界 「切り絵シェーダーアート展」はVRの街並を変えるかもしれない

現在VRChatにて「切り絵シェーダーアート展」が開催されています。「切り絵シェーダー」がなんなのかは、次のgif動画を見てもらえば一発でわかると思います。

レイヤーを重ねることで絵に奥行きをつけて立体的に見せる技術です。ペーパークラフトやシャドーボックスなどを連想する人も多いと思います。「切り絵シェーダーアート展」には、この技術を用いた作品・39点が展示されています。

面白いのは、3D空間の中に奥行きは存在しないにも関わらず、切り絵を重ねた立体感を出すことができる、という点です。展示作品は全て壁から離れて展示されており、横から見ると厚みが完全に0なのがわかります。

想像力と制作意欲をかきたててくれる技術です。もしかしたら今後、VRChatの街並みがぐっと変わる可能性すらあります。

シェーダーだからこそ実現できる表現

画像を重ねることで立体的に見せる、という手法自体は、空間の幅があれば画像を並べるだけなのでそこまで難しいものではないです。しかし今回の「切り絵シェーダー」は、シェーダーであることに大きな意義があります。

「シェーダー」とは3DCGの表面に陰影処理を施し、ディスプレイに映す技術です。どんなに緻密に作られたモデルでも、あるいはローポリのシンプルなモデルでも、シェーダーひとつで質感と雰囲気はガラッと変わります。見え方を変化させることで世界観を築く技術、と言っても過言ではないと思います。

切り絵シェーダーは「奥行き」を作るシェーダーです。額縁に絵を入れているような奥行きでリアリティを出すのにもつかえます。果てしなく深くまで奥に続くように錯覚させることも可能です。それらが全て厚み0の平面の中に閉じ込められている、というのは現実ではありえないユニークな光景です。

「切り絵シェーダーアート展」だと、絵を覗き込もうとしてつい頭を突っ込んで絵の向こう側に出てしまう、なんてことも多々あります。配信で展覧会を初めて見る人たちの様子が撮影されているので、ぜひ反応もあわせて御覧ください。

”奥行き”の使い方は多種多様

このシェーダーのキモは、立体的に見せるというだけでなく、レイヤーを重ねることで平面の中に世界を作ることができることです。

たとえばこの作品は、背景とキャラクターイラストをレイヤー分けすることで奥行きを付けています。ただそれだけではありません。斜めから見ると、この作品の本質が見つかります。

こちらを向いている半透明の別レイヤーが置かれることで、ガラスに映っているキャラクターを表現。一気にこのシェーダーアートの中に、物語性が生まれます。

こちらのシェーダーアートは、壁と扉を描いて立体的に見せた作品なのですが、これも見る角度を変えることによって新しい光景が浮かび上がります。

一視点だけでは映しきれないくらい、扉の向こうが描かれています。これだけ隠してしまう表現もできます。ついついどこまで見えるか、覗き込んでしまいたくなる魅力があります。

こちらはかなり意識的に、切り絵シェーダーの技術を使って描かれている作品です。教室を舞うチリに光が当たることで空間を立体的に表現し、さらに開いている窓とその向こうの空もレイヤーわけすることで、広がりのある奥行きの感覚を与えてきます。切り絵シェーダーは半透明のレイヤーを駆使することができるので、視点移動によるぼかしなどで繊細な空気感を表現することができます。

デパートのショーウィンドウの飾り付けレベルに凝ったアートも、切り絵シェーダーなら厚み0。そしてこの作品は奥行きを大きく取ることで、仕掛けが施されています。

奥に包丁が! 記事冒頭の「くまちゃんをさがせ!」や、この作品のように「隠す」表現ができるのは切り絵シェーダーの特徴です。

奥行きがあるということは、視点移動によって角度が変わって見える、ということでもあります。それを利用して、視点をどう動かしても一致しない指を描いた「同期ズレ」という作品は、切り絵シェーダーの本質を使った鋭い発想のアート作品です。今回はイラストが多かったアート展ですが、回を重ねていくごとに、このような思想性のあるアートや物語性を持ったアート表現も増えていくかも知れません。

切り絵シェーダーが開く可能性の扉

ポスター類は切り絵シェーダーの出現で、VRChat内に革命を起こすかも知れません。タイトルや文字が図から浮かんでいるだけでも、ものすごく目を引きます。動いている単体の写真と背景を組み合わせ、そこに光などの効果レイヤーを入れることで、躍動感は何倍にも膨れ上がります。全て厚み0なので、VRChat内の喫茶店やクラブなどにならべて貼り出せます。

VR空間上の本に切り絵シェーダーを使えば、奥行きがある立体的な表紙の本を並べることも可能です。「バーチャルマーケット」や「ComicVket」で使えるようになれば、それぞれのブースのエンタメ性は段違いなものになりそうです。

こちらは応用例。切り絵シェーダーの中のレイヤーの一枚が「絵の前に置かれたカメラが撮った画像」になっているので、このシェーダーアートを覗き込むと自動的に自分の顔が顔はめパネルに一致する、というもの。切り絵シェーダーのレイヤーは、想像力次第でかなり使い道がありそうです。

切り絵シェーダーを用いた作品の制作にあたっても、現在のVRChatの環境とかなり相性が良さそうです。特にカメラ機能に追加された「マルチレイヤーカメラモード」は機能的にどんぴしゃです。

「マルチレイヤーカメラモード」は「通常の写真」に加え、「背景だけの写真」と「プレイヤーだけの画像(周囲は透過)」が同時に撮影できるモードです。これを使えば、人物を複数配置するスタイルの切り絵シェーダー画像が簡単に作れそうです。切り絵シェーダーを使った立体的な思い出の集合写真なども作成できることでしょう。

展示物を見せる際にも、切り絵シェーダーはVRChatと相性抜群。この写真は「自身のフィギュアのパッケージ」風のシェーダーアート。場所を取らず、ユニークなイメージを、軽い容量で制作可能です。作り方さえ工夫すれば、厚さ0のお店をポスター風に並べることもできます。

「切り絵シェーダーアート展」は、3月10日より常設ワールドとしてオープン中です。本展示はぜひともVR環境で見ていただきたいです。動画やデスクトップでも面白さは伝わると思いますが、感覚を狂わせるような不思議さはVRでこそ体験できます。

ワールドへのアクセスはこちら(PC接続型VRヘッドセット、および高スペックPCが必要です)。
https://vrchat.com/home/launch?worldId=wrld_9ca01f09-cba6-4a88-925f-890832f3b20a

また「切り絵シェーダー」は、制作者のおにさわさんのBOOTHにて、無料で入手可能です。製品ページはこちら。
https://onisawa.booth.pm/items/4535781

(参考)公式サイト


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