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その他VRヘッドセット 2020.11.14

全身トラッキングのハードルを下げる 注目のデバイス「Haritora」詳細レビュー

Oculus Quest 2の登場で、多くの人が気軽にVRを体験できるようになった昨今。しかしバーチャル世界で全身を動かすためのフルトラッキング環境は未だに高いハードルがそびえ立っています。国内ではVIVE Trackerを中心に需要が増加しているものの、価格や設備条件などの面から諦めてしまう人が少なくありません。

そんなフルトラッキング環境を、安価かつ手軽に実現しようという、新しい試みが登場しました。ジャイロベースの下半身トラッキングデバイス「Haritora」です。

11月14日18時より一般販売を開始した、この新しいデバイスをレビューします。

Haritoraとは?

Haritoraは、主にVRChatユーザー向けに開発された、下半身トラッキングデバイスです。SteamVRにてViveTracker互換のエミュレータデバイスとして動作し、動作環境もこの仕様に準じます。また企業プロダクトではなく、有志による趣味のプロジェクトとして開発されています。

これまでpixiv fanbox限定でプレオーダーを行っていましたが、2020年11月14日18時より一般発売を開始しました。注文は公式サイトから可能です。注文から到着までは1~1.5ヶ月ほど要するとのこと。

プロダクトオーナーであるizm氏は過去には3Dアバタートラッキングシステム「Luppet」の顔認識処理の開発や、VTuber・花奏かのんさんのベース演奏モーションキャプチャシステムの開発など、VRやVTuber業界の技術的なシーンに広く携わっている個人開発者です。

アプリは親切だが、事前準備が意外と大変

こちらがHaritoraの全体像です。大きく分けて、腰、太腿、膝の3箇所にセンサーを装着する構造となっています。

このうちトラッキング対象となるのは腰と太ももとスネの角度情報で、これらの情報から両足と腰の位置と姿勢を計算しています。やや特殊な3点トラッキングです。トラッキングの情報は、Bluetooth接続したPCへ送信されます。

実際に装着してみるとこのような感じです。

各部はベルトで固定します。各センサーのベルトは自由に換装できます。

太腿のベルトはどちらかと言えば脚の付け根近く、膝のベルトは膝下に装着するのがポイントです。人によってサイズ感が異なるため、ズレ落ちないよう調整する時間が必要でした。

コアとなるのがこの腰部分。ここに小型のマイコンモジュール「M5StickC」を設置すると、Haritoraが動作します。Haritoraは、M5StickCが必須で、現時点で他マイコンの動作保証はできないとのこと。

またベルトやマイコンにつなぐためのモバイルバッテリーなども、事前に調達が必要です。

Haritoraそのものは30,000円という価格設定となっていますが、Haritoraはトラッカー本体のみ。使用するために事前調達が必要なものを公式サイトより列記していくと、

・M5StickC(マイコンモジュール):2,000円
・LANケーブル4本:2,000円
・ベルト類:3,000円前後
・Bluetoothレシーバ(PCに搭載されていない場合):1,000円
・モバイルバッテリー:1,000円
・プラスドライバー(マイコンモジュールのネジ止めに必要)

となり、Haritoraを含めた総額は、少なくとも4万円弱ほどになるとのことです。このほか、Haritoraを動作させるためのPCにも、各種ドライバのインストールなどが必要でした。

このように事前準備がかなり多く、専門性もやや高めです。公式ドキュメントが整備されているので「なにをしたらいいかわからない」にはならないはずですが、少し作業にハードルの高さを感じる場合は、詳しい人を頼ると安全かもしれません。

一方で、Haritoraを管理するための専用アプリケーションは、とても扱いやすい印象でした。SteamVR設定、Bluetooth設定、キャリブレーションはここから一発で実行可能です。「準備OK」か否かも、ひと目で分かるUIとなっています。

ここまでしっかりと準備すれば、以後の運用はとてもかんたんになる……というのが、導入作業の大まかな印象です。

VRChatで動いて分かったトラッキングの実力

Haritoraは現在、VRプラットフォーム「VRChat」と「バーチャルキャスト」に対応しています。このため今回の体験も「VRChat」で試してみることに。VRヘッドセットはVive Proを使用しました。

「VRChat」にてHaritoraを動作させる流れは、簡潔にまとめると以下の通り。

  1. Haritoraのキャリブレーションを実施。(下半身が対象となるため、「気をつけ」の姿勢で行うイメージ)
  2. 「VRChat」内にてアバターを選択し、キャリブレーションモードを起動。(この時点ではアバターはT字ポーズで表示される)
  3. 足先の位置が合うようにT字ポーズをとり、キャリブレーションを実施。

アプリケーション内で行うことは「ポーズをとってキャリブレーション」のみ。細かな調整は、装着している各センサーの位置調整で行います。両脚で高さを合わせるのはもちろんですが、向きを調整すれば「内股」にしたりといった細かなことまで変更できました。

トラッキング性能は比較的良好と感じられました。太腿と膝の位置取りさえ成功していれば、膝の動きを中心に、下半身にいきいきとした動きがフィードバックされるようになりました。下半身の動きの更新頻度は今回は60fpsとなっていましたが、肉眼で見る分には違和感は皆無に近いです。


また、脚のボーンさえ設定されていれば、頭身の高い人間アバターでも、頭身の低い獣人アバターでもおおむね問題なく動きました。大腿と小腿の比率(≒脚の長さ)次第では、センサーの細かい位置調整が必要となりそうですが、アバターを切り替えた瞬間に即座に機能不全に陥らないところはユーザーフレンドリーです。

そして、「座る」「かがむ」といった、何気ない動作の再現性がちゃんと担保される点は特徴的と感じました。脚の先端まで思いっきり強く動かすような動作(本格的なダンスやハイキックとか)は少し難しいものの、VRChatで長時間人とふれあうのに特化しているといえるでしょう。

特に、Oculus Linkを使用する(=Lighthouseベースステーションを設置しない・できない)環境で、Bluetoothのみで下半身の動きを再現できるのは、お手軽さという面でも評価できるところです。

これからの進化に期待できるデバイス

Haritoraは「VRChatで下半身の何気ない動きを反映したい」という需要を、大掛かりな投資と設備を要さずに実現できる、今までにないトラッキングデバイスでした。これまでWalkOVRKATloco などは登場していましたが、どちらも英語のみ、かつVRChatでの運用は未実装でした。

とりわけ、これから増えてくるであろうOculus Quest 2+Oculus Linkという組み合わせに対する相性は良いと感じられました。運用難度を低くすることで、日常的に使い続けることも十分に可能でしょう。

一方で、小型マイコンの調達、ドライバの準備、そして装着時の調整など、そのセットアップは比較的ハードルが高め……というのが正直な印象です。基本的には「わかっている人」向けだと思われます。

このデバイスを使用するなら、少なくともPCVR環境にもある程度慣れてからが無難でしょう。そうした意味では、ハードウェア面ではまだまだ改良の余地がありそうです。

現在は万人向けではないものの、フルトラッキング環境のハードルを大きく下げてくれるデバイスなのは間違いありません。「フルトラの民主化」を掲げて誕生したHaritoraは、これからの進化にも期待が持てるアプローチとなるでしょう。

Haritora公式サイトはこちら
(公式サイト経由で注文可能。Q&Aなども掲載されています)

情報発信を行っている公式Twitterはこちらです。

執筆:浅田カズラ


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