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VR動画 2018.08.26

小粋な物語演出に唸る ディズニー初のVRアニメ「Cycles」【SIGGRAPH2018】

「アナと雪の女王」、「ベイマックス」、「ズートピア」。誰もが知っているアニメ作品を世に送り出し続けているウォルト・ディズニー・スタジオのアニメーション部門がウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオです。

新たな表現手法として注目を集めているVRですが、ついにこの世界最高峰のアニメーション・スタジオからも作品が登場しました。2018年8月12日からカナダ・バンクーバーで開催されたSIGGRAPHでは、ディズニー初のVRショートアニメ「Cycles」がお披露目されました。

本記事はその体験レポートとなります。


SIGGRAPH期間中、「Cycles」のブース前を何度も通り過ぎたが体験を待つ列が絶えることはなかった

時間を遡りながら家を見回していく

Cyclesは、わずか5分程度の短編作品です。体験にはPC向けのハイエンドVRヘッドセットVive Proを使用しますが、コントローラーを使ったインタラクティブな動作や、動き回る要素はありません。

ロゴを見たあとに作品が始まると、まず自分が一軒家の真ん中に立っていることに気づきます。自分が何者なのか、ここがどこなのか一切わからないまま、物語が進み始めます。

ここはどこだろうとキョロキョロしていると、この家に住んでいると思しき家族が現れます。そちらを見ているといきなり目の前に現れた女性が玄関のそばで遺体らしきものに向かって悲しんでいます。次の瞬間には、タイムラプスのように高速で情景が切りかわっていきます。続くシーンは玄関の方向から90度ほど回った方向にあるキッチンで老齢の男性が倒れるところでした。そして再び情景が高速で切り替わっていきます…。

最初は何を見ているのか全く分かりませんが、徐々に「過去にこの家で起きた出来事をさかのぼって再生している」ことに気づきます。この家に住む夫婦の夫が亡くなったシーンから、彼が病に倒れたシーン、娘と団らんを過ごしたシーン、など様々な感情が入り交じるシーンを経て、初めてこの夫婦が結婚してこの家に来たシーンでこの回想は終わります。

シーンは徐々に展開する角度が変わっていくため、回想している間に体験者はこの家の様子をグルリと見回したことになります。

終盤に気づく「物語」

回想が終わると目の前の鏡に映っているのは一人の老婆でした。家にはもう家具の1つもありません。そして外から聴こえてくる娘の声「お母さん、もう行くよ」。そう、この回想は夫を亡くした妻が、思い出の詰まった家を去るにあたって、これまで起きていたことを走馬灯のように思い出していたのです。

この物語に気づいた時は、まるでパズルのピースがハマった瞬間で、一気に様々な感情が押し寄せてきました。

引っ越す前に何もなくなってガランとした家をぐるっと観ることがあるかと思いますが、「Cycles」はそのシーンを使って1つの物語を、過去に遡る形で描いた作品でした。

ときに「周りを見回すことができる」VRの特徴は、特定の物語を見せるには向かないとも考えられますが、「Cycles」は物語の語り方(ストーリーテリング)に見事に組み込んだ作品と言えます。

なお、回想中に物語が描かれている方向から視線をはずすと、時間の流れが止まったように背景は灰色になり、物語は止まります。

グラフィックは美しく仕上がっていますが、一つ一つの3DCGのグラフィッククオリティが高いというよりは、窓から入る光の入り方の描写など「空間をうまく表現している」印象がありました。

本作品の今後は不明ですが、一般配信に期待したいところです。


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