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VRChat 2023.08.08

CAPSULEのVRライブは“FREEDOM”だ! ステージの概念を破壊し、見えてきた「ニュー・レトロ」の精神

「このライブが初めて見るVRライブだった」という人がいるなら、その人はなんて幸せものなんだろう。

CAPSULE初のVRライブ「CAPSULE Live in VRChat “メトロパルス”」が8月5日(土)にVRChatで開催された。

現在のVRChatにおける映像技術をフル活用した内容で、VRでしか体験できない演出の連続。これがVRの面白さで、CAPSULEのかっこよさだ、と突きつけてくる迫力のあるライブになっていた。

主にVR演出面から、今回のライブの面白さを掘り下げてみたい。

会場のサイズを完全に無視できるライブ

今回のライブは最初こそステージ的なサイズ感があったものの、始まって一瞬でステージの概念は破壊された。「VR空間なのだから、空間サイズに縛られる必要なんてない」とばかりにほぼ全編に渡って、ステージの枠を取り払った演出だった。

それどころか観客の客席の概念すらも消失。一応客席の段に立っていたはずなのに、気づいたらどこにいるのかわからなくなってしまった観客がほとんどだろう。

「空間全部がステージだった」というファンの感想がSNSであがっていた。まさに音を軸として空間を自在に操れるのがVRライブの魅力だと熟知した人間たちの演出が、観客の感覚を異世界にいざなった。


(始まる前は、MVにも出てきたステージが眼前にあった)


(始まった途端、ステージも観客席も激しいウェーブに飲み込まれ、形を失ってしまう。一瞬で今回のライブが普通ではないことを悟らせる演出だ)

VRでいかにリアルなライブステージを再現するかは、ひとつの命題になっているところだろう。その一方で、どこまで想像力をはたらかせて既成概念を取り払えるのか、自由すぎるがゆえに何を見せられるか、それもVRエンターテインメント表現のテーマだ。

今回のCAPSULEのライブは、完全に後者全振り。どうやったら驚かせることができるか、ワクワクさせられるか、新しいものを作れるかに表現が終始していた。
今回披露された楽曲のひとつ「バーチャル・フリーダム」の言葉の意味を、自分たちの手でしっかり追求している。

(壁も天井も関係ない。明滅する巨大な電球も、現実に作ったらものすごい金額になるだろう。これを出しまくれるのがVRの面白さだ)

レトロフューチャーな世界観

CAPSULEのアルバム「メトロパルス」の世界観を再現している今回のライブ。「“シンセ・ウェーブ×シティ・ポップ” なアルバム」と公式で掲げており、懐かしさを感じさせるシンセサイザー・ドラム・ベースの音の使い方、ポップさを大事にしたボーカルがとても印象的だ。

MVではいわゆるローポリゴンのふたりのモデルが登場している。レトロポップ感をあえて強めにしている映像表現だ。

https://www.youtube.com/watch?v=64if05DaQTs

https://www.youtube.com/watch?v=2ox44j_QADc

このMVの中に入り込むような体験が、今回のライブのコンセプトだと感じられた。それどころか「ギヴ・ミー・ア・ライド」のワクワクするステージのテイストはそのままに、このイメージにあらゆるテクニックを盛り込んで、イメージを遥かに超えるようなとんでもないステージを繰り広げることこそが、今回のライブの挑戦だったのだろう。


(中田ヤスタカのVRの姿。PCがブラウン管なのはこだわりポイントだろう)


(ワイヤーフレームのベースとドラムもレトロチック。背景から飛び出してくる巨大オブジェクトのひとつがYAMAHA DX7のシンセサイザー)

「ギヴ・ミー・ア・ライド」のMVに登場し、今回のライブでは背景に巨大に映し出されているもののひとつが、YAMAHA DX7というシンセサイザー。右側上部にROMカートリッジを差し込む拡張スロットがあったり、「DXグリーン」と呼ばれるパネルが再現されていることから、初代機であることがわかる。発売されたのは1983年。新しいデジタル時代の到来を意識して作られた名機だ。

そのキーボードをデカデカと掲げてVRに舞い降りるCAPSULE。80年代のシンセサイザーポップスを現代の感性で組み上げているふたりが、最新の世界でレトロを再現しているのは、CAPSULEが掲げる「ニュー・レトロ」なシンセサウンドの進化系だろう。

パーティクルをフル活用した演出

今回のライブ制作監督は、実写MVからXRライブまでたずさわってきたReeeznD。演出監修としてSANRIO Virtual Festivalに出演したVTuberのキヌが参加したことも話題になっていた。

ふたりのファンや、VRChatのパーティクル(※)を活用したライブが好きな人は、かなりワクワクできるポイントが多かっただろう。

特にキヌの今までのライブは音にあわせたパーティクル演出が多く、音楽を聴いた時の感情の高ぶりをそのまま空間で体験させるのが特徴だ。今回のライブは全てが体感型ではあったが、中でも「ギヴ・ミー・ア・ライド」はハイウェイを疾走する映像の中にステージと観客全てを巻き込む大胆なものだった。

(※:一般に粒子のこと。VRChatでは光る粒子やオブジェクトをなどを空間に表示させること全般を指すことが多い)


(ハイウェイを走り抜ける「ギヴ・ミー・ア・ライド」の演出は、文字もオブジェクトとして次々登場。観客は楽曲を爆速ですり抜けていく体験をすることになる)

ステージのサイズ感をぶち抜いて、新しいステージ空間を生み出すのも、パーティクルを活用したライブでの見せ方のひとつ。曲ごとに光を用いて、ステージそのものをまるごと次々に作り変えることは、VR空間でしかできない。

だから、どんなに今回のライブの写真を撮って貼ろうと、ライブの映像を撮影して見せようと、このパーティクルを活用したステージの迫力は、絶対に伝わらない。


(前の方で歌っているこしじまとしこやバンドメンバーの後ろに、巨大に映し出されるCAPSULEのふたり。光によって生み出されたパーティクルの空間はVRで体験してはじめて迫力がわかるものだ)

ネットをイメージさせる小ネタ

シンセサイザーやパソコンなどに加え、フロッピーディスクなどの小ネタが散りばめられているのは、往年のPCユーザーには楽しいポイントだ。

先程も取り上げたCAPSULEの「ニュー・レトロ」の精神は、レトロミュージックそのものの再現ではない。レトロな記号の中にあるかっこいいもの、かわいいもの、面白いものをピックアップして、並べ替えて、新しいテイストの作品を作ることだ。

VR空間に飛び交うフロッピーディスクは、なんとも味わい深い。もしかしたらVR世代だと、見たことがない人もいるかもしれないアイテムだ。


(楽曲だけではなく、映像のパーツにも「ニュー・レトロ」が漂っている)

最後の曲「バーチャル・フリーダム」で飛び出した映像は、VRChatユーザーに向けてのものだった。VRChatではワールドの読み込み時に容量の数字とパーセント表示がされる。それがそのまんま登場し、ステージ上でワールドの読み込みが始まる。CAPSULEの疑似ワールドにあるのは、バーチャルな自由空間。選択できるのは「Go to FREEDOM」の文字。

「VR空間に行くことは自由に向かうことだ」というメッセージは、VRChatでこのライブをやった最大の理由だったように見える。


(見慣れたゲージと「Go to FREEDOM」の文字。VR空間は自由への入り口だ)


(インターネットのブラウザに表示されるCAPSULEのビジュアルが、そのまま手前に飛び出してくるのはかなり面白い演出。過去に夢見た未来感に溢れている)

VRChat初心者への配慮

今回のライブで初めてVRChatに来た人は多かったようだ。初体験の人たちへの配慮は、かなり徹底していた印象がある。

CAPSULE Live in VRChat “メトロパルス” 参加方法」のページは、今後VRChatを0から始める人には今後も役に立つ内容だ。

またイベント終了時の帰り道にセットリストが表示されるのはとても親切な設計だった。会場の会話を聴いていると、VRChatユーザーでCAPSULEをあまり知らない人がそこそこいた。だからこそ新規ファンが見てあとから曲をチェックできるのは、非常に上手な見せ方だ。中には来場記念として一緒に自撮りする人の姿もあった。

スタッフロールもそのまま半透明の看板のようにステージに貼り出されていたので、これも撮影して後から確認できる設計になっている。今後のVRライブで積極的に取り入れてほしい、こまめな気遣い演出だ。


(出口に表示されたセットリスト。VRだから簡単に出せる、というのを簡単ながらもうまく活用した部分だ)

一点だけ気になったのは、一部のあまりVRライブに慣れていない人から「短い」という感想があがっていたことだ。VRライブをよく見ている人なら、その労力や技術的な部分を理解して「このくらいだろう」と納得できる分量だと思う。しかしCAPSULEのファンで一般的なライブを見てきた人なら1時間以上を想定しているだろうから、どうしても20分に満たないライブは短く感じられるのは仕方ない。最初から時間を周知するか、演出の分量を増減して長くするか、今後のVRライブの課題かもしれない。

再演も予定されているので、見ていない人でVR環境がある人は、以前のSANRIO Virtual Festivalのキヌのライブと同じくらい見ておくべきライブだ。バーチャルがどのくらい「音楽」を「空間」として表現できるかを語る際に、欠かせない例として今後話題に取りあげられていくだろう。

「CAPSULE Live in VRChat “メトロパルス”」再演情報

2023年8月12日(土) 20:00 開場19:00、開演20:00開演
2023年8月19日(土) 20:00 開場19:00、開演20:00開演
アクセス方法などの詳細はこちら。


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