ファッションモデルのimmaやアーティストのYELLOCKなど、現在バーチャルヒューマンはさまざまな分野で活躍している。最近ではサントリーコミュニケーションズからバーチャル社員「山鳥水生」がデビューしたことや、immaがIKEA原宿とコラボしたことが大きな話題となった。
今回、imma、plusticboy、Riaなどのバーチャルヒューマンをプロデュースし、今年の9月3日にCoral Capitalより1億円の資⾦調達を発表した株式会社Awwに取材。代表の守屋貴行氏に、バーチャルヒューマン事業の現在について話をうかがった。
きっかけはメディア全体の大きな変動
――まず、バーチャルヒューマン事業に注目したきっかけはどういったものでしたか?
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守屋:
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私は元々映像業界のプロデュースをはじめとしたエンタメコンテンツの制作に関わっているのですが、2012年頃、TwitterやFacebookといったSNSが大きく発展し、既存のテレビ中心文化からメディア像が大きく変わると実感していました。これまでよりも個人のクリエイティビティへの注目度は高まるだろうと。そこで、CG業界に長く携わっていたので、その経験を活かして、新たなメディアコンテンツの潮流に合わせたIPコンテンツを作れないかと考えていました。
そして2018年、VTuberが流行しはじめたタイミングで、私と取締役COO・岸本(浩一)の2人でプロジェクトを始動しました。最初は遊び半分の感じで「こういうのがあったら面白いよね」と相談しながらアイデアを出し合っていたのを覚えています。
――CG業界の経験からバーチャルヒューマンというアイデアへと行き着いたと。
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守屋:
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そもそも、“バーチャルヒューマン”という言葉が世の中に現れる以前、おそらく2015年頃からPS4のゲームで「人間をどのように作るか?」という試行錯誤がずっと行われていました。例えば日本の有名なAAAゲームタイトルでは、元々二頭身だったキャラクターがフォトリアルな姿になって、どう高性能なキャラクターを作るのかが課題となっていました。そう言った試みで生まれたキャラタクーをそのまま自社IPにできれば、ビジネスにも繋がるだろうと思ったのです。なので、メディアが大きく変動するタイミングで発信することになりました。
――コンテンツのアイデアを出しつつ、メディアの切り替わるタイミングを図ったからこそ、今の成功に繋がったと言えそうですね。
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守屋:
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そうですね。クリエイティブな仕事ってどうしてもメディアに依存してしまうんですよ。新しいコンテンツが生まれても、それが広告で宣伝されなければ認知されない状態が続いていました。それが10年ほど前から変化していき、スマホの全盛期になった。僕自身はその頃から以前よりあまりテレビや新聞を見ていなかったのですが、今では多くの人がSNSに一極集中する時代ですね。そういったタイミングを読めたことが良かったと感じています。
――バーチャルヒューマンの潮流としては、2016年リル・ミケーラがデビューしたことから、世の中に浸透しはじめた印象です。当時、そういった流れは押さえられていたのでしょうか?
(リル・ミケーラ)
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守屋:
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その当時は知らなかったですね。岸本の方から「海外でこういうサービスがはじまっているね」と聞いて調べました。「近いことを考える人がいるんだ」と思ったのを記憶しています。
ただ、アプローチ方法はバーチャルヒューマンとは異なりますが、公開された3DCGキャラクターとしては「Saya」の方が早かったと記憶しています(※Sayaのデビューは2015年)。弊社所属のimmaはSNS上で実際に“存在”しているというアプローチである点が異なると思っています。
“不気味の谷”を超えた先に見えてきたもの
――バーチャルヒューマン事業を立ち上げられてから、予想外だと感じられた展開はありましたか?
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守屋:
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弊社所属のバーチャルヒューマンたちをCGだと気づいてない人たちが、未だに大勢いることですね(笑)それほどまでに蓄積された技術で精巧に作られていることに自信が持てます。
それから10~20代の若い世代がバーチャルかリアルかを気にせずコンテンツを楽しんでいる点ですね。大人であれば、その技術力の高さを認めながらも、どこかで「怖い、不気味」と捉えてしまう人がいるのですが、若い世代は私たちの予想以上にすんなりと受け入れてくれている印象です。生まれながらにフルCGの映画に親しんでいた世代ならではの感性だなと思っています。
――かつては、いわゆる“不気味の谷(※人間を模したモノに不安や嫌悪感を持つ現象)”といった言葉がよく用いられていましたが、現在活躍中のバーチャルヒューマンにはそれが薄い印象です。
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守屋:
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そこまで技術が発達したからことが大きいでしょうね。人間として現実の世界にいるような世界観の演出含めて成立していると考えています。
――バーチャルヒューマンが世の中に進出するにあたって、企業側にはどのような商業的メリットがあると言えそうでしょうか?
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守屋:
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immaの場合、化粧品メーカーの「SK-Ⅱ」や中国のアイスクリームブランド「マグナム」、IKEA JAPANの都市型店舗「IKEA原宿」など、さまざまなジャンルのPRに起用されています。バーチャルヒューマンそのものの真新しさから起用したという理由はもちろんあると思いますが、企業の担当者の方に話をうかがうと、immaそのものの発信するオピニオンやストーリーに惹かれたという声もあります。そういった意味では、もしかしたら現実のタレントの方が起用される理由とそんなに変わらないのかもしれません。
――たしかにimmaさんやplusticboyさん、RiaさんはそれぞれSNSを運用されていて、それぞれが現実の世界で本当に生活しているかのような画像や動画を投稿されていますね。
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守屋:
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弊社では企業のコンサルティングなどにも携わっているので、彼女たちのプロデュースも全体的な方針を考えてアウトプットしています。例えば、写真一枚の投稿にしても「このままでは企業宣伝っぽくなってしまうので止めよう」といった細かなところまで気を使っています。
――バーチャルヒューマンはシチュエーションを選ばずに活動できる自由さがあるだけに、企業にとっては使い勝手が良いものではと考えていただけに、マネジメントに力を入れているというお話は少し意外に感じられました。
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守屋:
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そういう一面もありますが、使い勝手の悪さというのも同時にあると思います。弊社の場合は、immaが「やりたいこと」をやり「やりたくない」ことはやらないというこだわわりを持っていますね。そういう意味で、お仕事についてもかなり厳選して行っています。
あくまで意思を持った人間として扱っているので、本人の性格に合わないことや反社会的なことは行わないように気をつけています。SNSに関しても、彼女たちが瞬発的に思っていることを投稿しているようなスタイルにしています。
バーチャルヒューマンの行く先は?
――TikTokやInstagramでは海外のユーザーからも非常に多くの反応が見られますね。海外での需要をどのようにお考えですか?
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守屋:
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インド、マレーシア、フランス、中国など、さまざまな文化圏の国々から反応をいただいていますね。特に南米は盛り上がり方が凄まじい印象です。南米ではアニメや音楽など、日本のコンテンツに親しみを感じてくださる方が多いことから、そういったユーザーの方々が盛り上げてくださっているのかもしれません。
――現在、国内ではVTuber事業も大きなトレンドとなっていますが、バーチャルヒューマン事業とはどういった違いがあるとお考えですか?
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守屋:
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VTuberのビジネスモデルを研究することはありますが、弊社の事業と比較して意思決定することはないですね。アニメ調と実写調というビジュアル面での違いが大きいので、刺さるターゲットも違うのではないかと考えています。
また、VTuberがソーシャルゲームや二次元コンテンツのビジネス事例が多いのに対して、バーチャルヒューマンは現実世界での活動範囲が人間のタレントと同様のため、メーカーやアパレルショップなど、さまざまな業種のお仕事にまで広がっていける点が特徴だと思います。
――ありがとうございます。最後に今後のバーチャルヒューマン事業についての展望をお聞かせください。
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守屋:
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自社のバーチャルヒューマンの技術を洗練させ、活躍の幅を広げていきたいですね。その一方でマネジメントやストーリーテリングについてもより強化していければよいと考えています。
――株式会社Awwの事業は、これまでに活用事例のなかったジャンルの業種まで幅を広げられているように感じられます。
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守屋:
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そうですね。今後、さまざまな企業が自社でバーチャルヒューマンを運用することも多くなると思いますが、キャリアの積み重ねの中でブランディング力を高めていき、特別な立ち位置を確保していきたいと考えています。技術・マネジメント・ストーリーテリング、そのすべてが備わっていないといけないと思っているので、バランスを考えつつチャレンジしていきたいですね。
――例えば、バーチャルヒューマンアーティストYELLOCKは、リアルタイムでのライブパフォーマンスを実施しています。このような音楽事業をしていく可能性もあるのでしょうか?
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守屋:
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去年からそういった音楽方面からのアプローチについては話をいただいていますが、現状では満足のいくプラットフォームや環境が整っていないので、お断りしていることが多いですね。アーティスト方面に進出するには相応のプロデュースが必要なので、今は急がず、しっかりと機をうかがって発表していきたいと思っています。
弊社のバーチャルヒューマン事業に関しては、毎月1つずつ、ユーザーの方を楽しませるようなプロジェクトを発表し続けているので、チェックしていただけると幸いです。
――ありがとうございました。
執筆:ゆりいか