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MoguraVR

2018.09.08

まるで光学迷彩 “見えない敵”と戦うARゲーム 開発に込められたこだわり

自分の周りにいるのにその姿は全く見えず、どこから襲ってくるのかも分からない。一瞬の隙も許されない死闘……。そんな「透明な敵」と、現実空間で戦えるARゲームが登場しました。

ゲーム制作などで知られる株式会社アカツキは、AR(拡張現実)技術を駆使し、現実を舞台にして透明な敵と戦うゲームを開発。このARゲームは、2018年8月にバンクーバーで開催されたコンピューターグラフィックスの大型イベント・SIGGRAPH2018でも展示されています。

「現実の歪み」が肝

このARゲームはスマートフォンをヘッドセットに装着し、カメラ越しに現実世界を見ながら襲ってくる敵と戦う、というもの。手にはBluetoothコントローラーを持ち、銃に見立てて敵を攻撃します。メニューで銃の種類を変更することも可能です。

このゲームの肝は、襲ってくる敵が目には見えないという点です。敵がいる場所には「空間の歪み」が発生し、かろうじて輪郭が分かる程度。その見えない敵を打ち破るべく、装着するゴーグルに「索敵モード」が搭載されています。敵が近づくとモードチェンジが可能で、シルエットがよりくっきりと見えるので、敵のいる位置を特定して攻撃できます。さらに立体音響により、敵がいる方角からの声が徐々に大きくなってくる臨場感がスリルをかき立てます。

筆者はホラーが大の苦手ですが、「現実には何も起きていないのに、見えない敵の声が近づいてくる恐怖」はこれまで体験したVRのホラーコンテンツと比べ、圧倒的にリアルで鳥肌が立つ体験でした(すぐにゴーグルを投げ捨てたくなるくらいに!)。

https://www.youtube.com/watch?v=ErKOtOuaWw0

経験値をハックするゲームづくり

「いかに現実となじませるかが重要です」と語るのは、アカツキのR&D(研究開発部)・谷口大樹氏。谷口氏は4年ほどゲーム開発等に従事した後、R&Dに異動。ARやVRなどの新技術を使った技術研究を行っています。今回のARゲームも一人で開発したとのこと。


(株式会社アカツキ R&D、谷口大樹氏)

ARの完成度を高めるためには、「3つの整合性」に配慮することで、3Dモデルの存在感を高めていく必要があります。

1. 幾何学的整合性
2. 光学的整合性
3. 時間的整合性

幾何学的整合性はいわゆる位置合わせです。3Dモデルが床にめり込んでしまっていたら存在感は薄れてしまいます。光学的整合性は、現実の光と3Dモデルの間で光学的に矛盾が起きていないかどうかです。3Dモデルに影ができているか、金属面に反射しているか、といった点が重要となります。そして最後の時間的整合性は、遅延などがなくリアルタイムに描画されたりインタラクションがとれているか、というところ。あまりに遅れてしまうと違和感が強くなります。

谷口氏は今回のARゲーム開発では「特に光学的整合性に重点を置いた」とのこと。見えない敵の存在する空間が歪んでいるように見える仕組みは、かなり「現実になじんだ」体験でした。

身近なデバイスでもあり、オブジェクトの“黒色”を表現できるということから、今回はHoloLensなどのゴーグル型のデバイスではなく、カメラを通して現実を見るタイプのスマホARを採用しています。また半透過オブジェクトの描画について「今回はSIGGRAPHの要項に応じて体験としてのクオリティの高さを重視し、十分なFPSの担保を目指しました。現行のARデバイスでは(ゴーグル型・スマホ問わず)GPUリソースに限度があることを考えると、今回のようなノンフォトリアリスティックレンダリング(NPR)表現は有望な選択肢でした」と語ります。

最も特徴的な見えない敵と戦う仕組みに関しては、「『攻殻機動隊』などですでにユーザーが知っている経験値をハックする」という着想とのこと。確かに、これまで映画やアニメ、ゲームの画面の中でしかできなかったことが現実で可能になる、というのは、プレイする側も理解しやすく、そして何より気分が盛り上がりそうです。

やりたいことを詰めた

「(今回のARゲームは)中二病全開なんですけどね」と照れながら語る谷口氏。ゲームの雰囲気が伝わる印象的なPVに関しても、谷口氏がアカツキ本社があるビルの地下駐車場で深夜に撮影したとのこと。激しく動き回る谷口氏の姿に、「通行人からは不審な目を向けられた、とのエピソードも聞かせてくれました。「でも、こういった試みが未来に繋がって行くと本気で信じて研究開発していますし、実際子供の頃に妄想していた世界が現実になりつつあるという手応えはあります。AR ・VRに携わる醍醐味ですね」と谷口氏。


(PVより。左下が深夜の地下駐車場で走り回りながら見えない敵と戦う谷口氏の様子)

このゲームをプレイすると「武器以外にもグレネードなどの投擲物がほしい」「マトリックスのようなバレットタイム(スローモーション)をしたい」「もっと巨大な敵とも戦いたい」「ほかのプレイヤーとも一緒に戦いたい」などのアイデアが浮かびますが、実は、そういった思いつくものはすでにほぼ実装している、という答えが返ってきました。操作が複雑になるので、初めて体験する人には教えていないとのこと。筆者が遊んだ内容だけでも十分面白いのですが、まだまだ機能が多数あるとのことで、期待が膨らみます。

体験としてクオリティが高く、さらに追加機能も盛りだくさんのこのARゲーム。「このまま本格リリースも可能なのでは?」と尋ねてみたところ、現時点でのリリースは考えていないとのこと。今回はNPR表現を採用した例が表に出ることになりましたが、フォトリアル(写実的)な表現も含めて、AR/光学的整合性に紐づく様々な技術研究を行っているそうです。

アカツキでは、XR(VRやARなどの分野の総称)は今よりもさらにVRやARが普及するであろう3~5年後に、より良い物を出すための研究開発の段階にあると考えていると話しました。

「光学的整合性を重視している研究者・開発者は今は多くないが、質の高いARを実現するために非常に重要な概念なので、今後この分野が盛り上がることを願っている」と語る谷口氏。今後もどのような取組が飛び出すのか注目したいところです。


(SIGGRAPHではVR/ARコンテンツが展示されるVR Villageエリアに出展。絶えず体験者が列を作っていた)

SIGGRAPHでの出展の詳細は、アカツキが運営するメディアVOICEで掲載されています。

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この記事を書いた人

すんくぼ(久保田 瞬)

慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、環境省に入省。環境白書の作成等に携わる。ECベンチャー勤務を経て、現Mogura VR編集長、株式会社Mogura代表取締役社長。VRジャーナリスト。
VRが人の知覚する現実を認識を進化させ、社会を変えていく無限の可能性を感じ、身も心も捧げている。VR/AR業界の情報集約、コンサルティングが専門。また、国外の主要イベントには必ず足を運んで取材を行っているほか、国内外の業界の中心に身を置きネットワーク構築を行っている。Boothにて書籍「寝転んでNetflixを観ると、 VRの未来が見える」販売中

Twitter:@tyranusii

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