Home » 異色のゾンビ系バーチャルYouTuber「カフェ野ゾンビ子」の楽しくて哀しい世界


VTuber 2018.03.11

異色のゾンビ系バーチャルYouTuber「カフェ野ゾンビ子」の楽しくて哀しい世界

2018年1月5日から活動を開始した、異世界バーチャルYouTuberカフェ野ゾンビ子。荒廃した世界に住むゾンビな彼女は、物語性とVR技術を楽しめる異色のバーチャルYouTuberです。

異世界でゾンビになってしまった少女

カフェ野ゾンビ子は、どうして自分がゾンビなのか、なぜここにいるのか、全くわからないまま荒れ果てたカフェバーで暮らしている女の子。異世界である「こっち」に来てから大分たっていて、どうやら今は19歳らしい。一人でさみしくてしかたがない彼女は、パソコンを拾ってきたのをきっかけに、YouTuberとして活動を開始します。
 
「久々に人間とコンタクトがとれるかもしれないと思うと、テンション上がらないわけがない。現世の皆様と通信をはかりたいな、という所存でございます」【自己紹介】ゾンビの国からこんにちわー!」より)

誰かとコミュニケーションをしたいと願い、動画投稿をはじめる彼女。ぼっち生活を緩和させたい、元の世界に戻りたい……。ゾンビ子はカメラの前で終始明るく振る舞い、撮影を続け、発信していきます。

ゾンビ子の物理演算遊戯

ゾンビ子のチャンネルの最大の特徴は、物理演算を利用した動画の数々です。多くのYouTuberのように、彼女もゲーム実況をはじめるのですが、プレイするのは彼女が廃墟群から拾ってきたものを利用した(ゾンビ子いわく)アナログなゲーム
 
彼女が最初にプレイしたのはジェンガでした。カフェバーのテーブルで、ゾンビ子は指や棒を使ってなんとか引き抜こうとします。これが全然うまくいかず、崩れまくっています。

実際には演者がVR機器を使い、何もない空間を手探りし、ピースを引き抜こうとしている……と想像していただければ、相当な難易度であることが理解できると思います。物理演算がしっかりかかっているため、演者の指には触れる感触がなくても、ちょっとした振動や摩擦ですぐ倒れてしまうのです。そこが面白い。
 

バウンスオフ(弾ませたボールをトレーに並べるゲーム)では、ゾンビ子が次々ボールを投げていく様子が、プレイヤー側とトレー側から撮影されます。ボールがフローリングの床を跳ねた後、スポッとはまる様子が気持ちいいったらない。

その他にもゾンビ子によるシッチャカメッチャカな料理や、目玉(?)を使ったビー玉弾きなど、彼女の一人遊びがVR技術でたっぷりと描かれます。



遊び心あふれるカフェがプロデュース

そんなカフェ野ゾンビ子をプロデュースしているのは、茨城県の土浦市にあるTechnology Cafe Singularity(テクノロジー・カフェ・シンギュラリティ)。技術者が自由を謳歌できる環境を作りたい、という狙いで設立されたカフェバーで、飲食をした人はVR機器等を自由に使えるシステムのお店。ソニーのDIYツール「MESH」などをさわることができ、ロボットやAIも置く予定だとか。
 
扱われているメニューも変わり種ぞろい。色が変わる「化学ハーブティ」や「発光する人工知能カクテル」、「燃えるアイリッシュコーヒー」などなど、遊び心満載です。
 
このカフェのVR機器では、実際にゾンビ子がプレイしていたジェンガに挑戦できます。

(Technology Cafe Singularityの店内を撮影した360度動画。マウス操作で見回せます)

ゾンビ子の動画自体が、お店の理念を受け継いだ技術者の遊び場的な作品になっています。時おり演算で思わぬ方向にはじけ飛んでいく物体を見て、ケラケラ笑うゾンビ子の声はとても楽しそうです。

ポストアポカリプスな世界で生きる

ゾンビ子の動画は毎回一話完結のオムニバス形式ですが、トータルで一つの大きな物語になっています。

話が大きく動いたのは「友達を紹介します」の回。一人ぼっちで暮らしている彼女にやっとできた、穏やかなゾンビの友達・たかし。話は通じないけれども、一緒にいられれば寂しくないはず。ゾンビ子はたかしに、鈴をプレゼントします。

ところが動画の撮影中にハプニングが発生。たかしは侵入してきた人間に撃たれ、「死んで」しまいます。以降、ゾンビ子の平和な日々は、ひりついた空気に覆われていきます。

「今まで人間に襲われたことなんてありませんでした。というか、生きている人間を見たのが始めてでした。今まで死体しか見たことがありませんでした」「大変なことが起きました」より)
 
事態は思ったより深刻。彼女はゾンビゆえ「人間を食べる」と公言はしているものの、が今まで食べていたのは人間の死体だけだった様子。初めて見る生きた人間たちは、銃を構えてゾンビ子が住むテリトリーに入り込んできます。問答無用でこちらを撃ってくるので、ゾンビ子は逃げるか反撃するかの二択を迫られます。
 
動画内で機械的に近づいてくる人間は、何を考えているのかは一切わかりません。ただ、たかしを殺したのは紛れもなく、人間。動画に映っているシーンではなるべく明るく振る舞いながらも、ゾンビ子は復讐の念を燃やし始めます。

一度人間を殺してからは、自衛のために銃を常に手元に置くようになります。どんなに笑顔でゲームプレイの撮影をしていても、絶対に銃を手元から離しません。

そしてたまたまカメラのスイッチ切り忘れたある日、ゾンビ子が踏み込んでくる人間をおびき寄せて射殺する様子が記録されてしまいます。

FPSなどでは「襲ってくる側」として描かれる、敵扱いのゾンビ。投稿初期の「人を食べる」設定もあったため、動画は視聴者側に「ゾンビ子は人を襲っている」というミスリードを誘っていました。ところが実際に襲っているのは、探索してくる人間の方。ゾンビ子は自衛のため以外には人を殺していません。
 
本当は、生きた人間とコンタクトを取りたくて動画を撮っていたゾンビ子。しかし運命は皮肉な方向にしか動いてくれない。どうにもならない思いは、彼女がアカペラを歌う回で描かれます。

「ハロハワユ」「きっとこの命に意味は無かった」「ひとりぼっちのひとりごと」など、歌詞にゾンビ子の気持ちが込められています。

基本的に、ゾンビ子は自分の感情を直接語ろうとしません。だからなおのこと、これらの歌を一人きりで歌う彼女を見た後に、底抜けに明るくしている彼女を見ると、心底やりきれない気持ちになってしまう。

ハイテンションな笑いの回と、絶望で病んでいく回のギャップは、彼女の多くのファンを産みました。ちなみにたかしの人気は高く、復活希望の声もあります。
 
今のところは物理演算芸などで、ゾンビ子の楽しい日常を見せていくスタイルがまだまだ続きそうです。ですが、その一人遊びの平和な日々は、人間によって壊される一方。少しずつ、歪みが出てきています。



かなり設定には凝っているようなので、ゾンビ子のいる世界がいったいどのような世界なのか、なぜゾンビになったのか、出てくる人間は何者なのかなど、少しずつ明かされていくことに期待がかかります。ただ、人間に戻って元の世界に戻れる予感は、今のところゼロ。たかしの復活も……。

ゾンビ子の高らかな笑い声が、ふとした瞬間に悲しげな慟哭に聞こえたら、もうゾンビ子ワールドのとりこです。

なお、3月8日に行われた最新の生放送では、新しい試みが公開されました。視聴者コメントがフリップ化して掴むことができ、視聴者の一部は「店長」と呼ばれるクリーチャーになってゾンビ子の前に並べる、というシステムが構築されたのです。他のバーチャルYouTuberである東雲めぐあいえるちぇんねる同様に、映画『サマーウォーズ』さながらのVR技術が楽しめるようになりましたので、こちらも必見です。


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード