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VTuber 2022.07.08

VTuberデビューを目指す人へ 現役VTuber5名が語る、これまでの戦略、ここからの生き方

VTuberとしてデビューして、お仕事として活動する。そんな生き方を選んだ方々が徐々に増え続け、その活躍ぶりに憧れてデビューする新人も多く見られるようになりました。

しかし一口に仕事と言っても、動画投稿や生放送だけでなく、企業案件の受注やコンテンツ制作、イベント実施など多種多様な仕事があり、どういったものを選ぶべきか、ファンに向けて何を発信していくべきか、働き続けるためには何が必要なのか……悩ましい問題は数多くあります。

今回はさまざまなスタイルで働くVTuberの方々に参加してもらい、これまでのお仕事の話や活動スタイルに対する考え方、これから必要になるアイデアなどについて、座談会形式で語ってもらいました。

座談会出席者

朝ノ瑠璃

声優事務所「クロコダイル」所属の忍者系VTuber声優。歌動画の投稿や演劇イベント出演など多方面で活躍中。7月から放送されるTVアニメ「邪神ちゃんドロップキックX」でアニメ声優デビュー。

今酒ハクノ

個人で活動する「酒クズ系」VTuber。お酒や料理のレビュー動画を積極的に投稿。オリジナルグッズや楽曲の発表なども行っている。「金! 名声! 滅びよ人類!」がおなじみのセリフ。

夏川あき(私立いちご女学院)

株式会社DONUTS運営のVTuberプロダクション「MIKUCAN」所属。相方の冬乃サヤとともに活動中。イベントの体験レポやホビーを使った企画動画などを発表している。

冬乃サヤ(私立いちご女学院)

株式会社DONUTS運営のVTuberプロダクション「MIKUCAN」所属。相方の夏川あきとともに活動中。イベントの体験レポやホビーを使った企画動画などを発表している。

レオン・ゼロミヤ

個人で活動するVTuber兼Vクリエイター。VR機器を利用したネタ動画の投稿や身体を使ったチャレンジ系の動画を多数投稿。大型配信企画「ぽんぽこ24」ではCM審査員を担当。

司会:ゆりいか

VTuberはどのようにして稼ぐのか?

――先に今回の企画趣旨について説明いたします。現在MoguLiveでは「職業欄はVTuber」という特集記事を制作しています。今回の座談会はその企画のひとつでして、VTuberの方々がどういったお仕事をしているのか、活動の裏側ではどのような苦労があるのかといった現場サイドの話を中心にお聞きしたいと考えております。

一同:
よろしくお願いします。

――まずは、参加者の方の自己紹介からお願いいたします。

朝ノ瑠璃(以下:朝ノ):
忍者系バーチャルYouTuberとして活動しながら、声優事務所クロコダイルに所属して声優のお仕事もさせていただいてます。朝ノ瑠璃と申します。普段はYouTubeでの配信活動が主となっておりまして、それ以外にはゲームだったりアニメだったりの声優としてのお仕事をさせていただいております。2018年5月に専業VTuberになってから、もう多分4年以上経ってるかな……と思います。

今酒ハクノ(以下:今酒):
酒クズの方をさせていただいております、今酒と申します。主にですね、お酒ですとか、お酒に合う食い物ですとか、そういったものレビューやチャレンジっぽい企画を中心に活動しております。デビュー時期なら、たしか朝ノさんとそんなに変わらないくらいで、2018年の5月でしたね。

夏川あき(以下:夏川):
私立いちご女学女学院というチャンネルで、相方のサヤと活動している夏川あきです。活動歴は2年半ほどで、去年の秋頃から株式会社DONUTSという事務所にも所属しています。活動としてはゲーム配信だったり企画の配信などをやっています。

冬乃サヤ(以下:冬乃):
同じく、私立いちご学院の冬乃サヤです。相方と2019年の11月ごろから活動を始めて、立ち上げは個人からだったんですけど、今、同じくDONUTSという事務所に所属させていただいてます。活動内容的には、アーカイブなしで15分配信したりする企画が多いです。よろしくお願いします。

レオン・ゼロミヤ(以下:ゼロミヤ):
某国の王子、企画動画VTuber、そして、Vクリエイターのゼロミヤです。普段は実験検証動画とかネタ動画をYouTubeに投稿してる動画勢です。2019年5月から活動していて、生計を立てている仕事は別にあるので、兼業VTuberです。僕の場合は収益に対して、あまり重きを置いていない立場なので、今回は皆さんの話を興味津々に聞きにきた感じです(笑)。

――さっそくですが、VTuberさんのお仕事についてお聞きします。普段メディアで仕事をしていると、あまりVTuber文化を知らない方から「VTuberさんってスーパーチャットでガツガツ稼いでいるんでしょ?」といった素朴な質問をもらうことがあるのですが……。

朝ノ:
VTuberガツガツが稼いでるってのはものすごい勘違いですね(苦笑)。たしかに私の場合は生配信でのスーパーチャットが収入のメインとなっていますが、そんな簡単なものではないので「VTuberをやれば儲けられる」というわけではありません。

基本的にYouTubeからはスーパーチャットとメンバーシップの割合が大きくて、動画アーカイブからの広告収入は微々たるものという印象です。なので「配信しなくても稼げるか?」って言われたら、そんなことは全然ないと思います。もちろん、私のような生配信メインではなく、動画投稿をメインにされている方では収益形態がそもそも違うとは思いますが。

一度驚いてしまったのが、普段のVTuber活動で得られる収益より、声優としてのお仕事の方がギャランティーが良かったということがありました。ありがたいことに声優としてのお仕事もさまざまなものをいただけて、自分の活動の幅を広げられています。


(7月から放映される『邪神ちゃんドロップキックX』に朝ノ瑠璃さんがエキュート役で声優として出演)©︎ユキヲ・COMICメテオ/邪神ちゃんドロップキック製作委員会

今酒:
私の場合は、朝ノお姉さまとは逆にスーパーチャットをそれほど貰って無くて、動画収益が主に入っている分になるのかなと。もちろん、生放送もやっているのですが、動画のほうが見られているなっていう感覚はあるところですね。また、お酒のレビューをきっかけにKURANDなどのお酒販売サイトの案件につながったこともありますし、新宿の飲食店から案件をいただいた際も、(担当者の方が)私の動画のファンでぜひ宣伝してほしいといったお声がけをいただいたこともあります。

――「滅びよ 人類」というおなじみのフレーズの入ったお酒関連グッズも販売されていますよね。


今酒ハクノ公式「滅びよ人類」ジョッキ

今酒:
そうですね。自分のやる気にムラがあるのですが「出すぞ」というときには出したりもしますね。買ってくださる方がいるのは、ありがたい話です。また、やる気が湧いたら出すと思います。

夏川:
私の場合はアルバイトとVTuberのふたつを兼業していますが、(VTuberの仕事で入る)収益にはまだ波があるかなと思います。誕生日記念などの特別なイベントのときと、そうでない平時のときで差があって、その時その時で収益の比率が変わってきていますね。バイトのときが多いときもあれば、VTuberの方が多いときもあります。

冬乃:
私たちの場合は、スーパーチャットよりもpixivのFANBOX(ファンボックス)での収益が大きいですね。(いちご女学院は)2人で1つのチャンネルをやっているので、収益的には1つのチャンネルの収益をで2人で割って、そこから事務所さんと調整するというスタイルです。なので、特別なイベントごとがあるときの収益は大きいですが、まだまだ安定化はしていないと思います。

夏川:
FANBOXは収益の土台にはなるんですけど、その土台だけでアルバイトを止めて専業化できるかというと厳しくて、案件の数などが安定してくるようになるまでは辞めづらいという気持ちが結構ありますね。

冬乃:
うんうん。そうですね。


(去年7月には、池袋HUMAXシネマズで私立いちご女学院のオリジナルムービーが公開された)

――月ごとのイベントや案件の増減によって月収が大きく変わってくる傾向にあるということですね。ゼロミヤさんはいかがでしょう?

ゼロミヤ:
王子は……そうですね、特に動画でも配信でも今収益を得ていない状態なので、特に……特にない……。

一同:
(笑)

ゼロミヤ:
そもそも「VTuberを仕事にする」という発想が本当になくて。だんだん「みんな、そんなにVTuberにお金を払うんだ」っていうのを活動していくうちに知ったんですよね。それを見ながら「すごいなぁ」って思っていたんですけど、僕はやっていないし、もし仕事にしようとしても、僕のチャンネルの規模で、動画投稿だけで生活していくのは無理だと思います。なので、今は別の目的でVTuberをやっています。

(レオンゼロミヤさんは、VRChatやVTuberをネタにした動画を投稿。大規模配信企画「ぽんぽこ24」のCM企画の選考委員などにも携わっている)

――今、皆さんがお話した以外で、VTuberの収益方法として考えられるものは何かあるでしょうか?

冬乃:
VTuberさんによっては音楽販売などもありますよね。

朝ノ:
うんうん、たしかにありますね。

今酒:
あぁー自分もやってたわ!(笑)。

――なかにはボイスを収録して販売する方もいらっしゃいますね。

朝ノ:
以前はやってましたけど、今はやってないなー。

夏川:
うちらはそういうボイス出すタイプじゃないな……。

ゼロミヤ:
それから、創作活動系でお仕事になっている方はよく見ますね。動画編集、イラスト、音楽のMIX、最近は3Dモデリングのお仕事も出てきてる。僕がユニットを組んでいる衛星ライトくんは、クリエイター活動でバリバリがんばってるし、そういうVTuberさんも増えてきている。

――今後、新しく開拓してみたいお仕事の分野などありますか?

夏川:
YouTuberやタレントの方々って、ご自身のインフルエンサー的な能力を活かしたブランドを立ち上げて、飲食店やアパレルを経営されるじゃないですか。VTuberとしてすごく成長していった先に、何か自分たちの名義でのブランドを立ち上げるのは面白そうだなと思いましたね。

ゼロミヤ:
たしかに、YouTuberさんってみんなアパレル出しますよね。

夏川:
アパレルならファンじゃなくても購入してもらえる可能性があるから賢いなって思います。

朝ノ:
VTuberだとブランドを立ち上げた方はまだ少ないですよね。

今酒:
「(ブランドを立ち上げることに関して)やれたらおもろいな」ってことは前々から思っちゃいるんですよね。お酒のラベルに自分を出してもらったりしたことはこれまでもあったので、マジで自分ブランドのお酒出せないかなって。

夏川:
私たちとよくコラボしてくださってるホビー系動画投稿者のてちさんという方は、革製品のハンドメイドされているんですが、動画でブランドを告知して、その販売で収益を出されていますね。そういったアパレルの個人版的なスタイルに目指すものが近いのかなと。

これから専業VTuberを目指すのはアリか?

――この座談会記事はVTuberデビューを目指している読者の方を想定した無いようなのですが、もし、これからVTuberとしてデビューして専業化したいという方がいたとして、そういった方々にどのように声をかけますか?

朝ノ:
「遅い!」って言っちゃいます。

一同:
(笑)

朝ノ:
その考えを抱いて良かったのは、2018年の上半期まで。今はVTuberがすごく増えているし、それゆえに新人が見つかりにくい問題があります。「VTuberをやれば儲かるんでしょ?」という上澄みの部分しか見ずに入ってきた方が玉砕することもあるので、本当に専業化したいのであれば「自分の生活を切り売りできる覚悟」を持つ必要があると思います。そうでなければ、メンタルが病んでしまう危険もありますし。個人でデビューするとなると、泥水をすすって生き残る気持ちがないといけないので。また企業に所属したとしても、その企業が全然サポートしてくれないケースもあり得ます。

夏川:
そもそも企業に所属するのも大変ですしね。

――今酒さんはいかがですか?

今酒:

……ホロを受けぃ!

(※VTuber事務所ホロライブ)

一同:
(笑)

今酒:
個人勢をはじめるなんて考えず、ホロを受けぃ! 今はそれしか生きるルートが思いつかない……! 朝ノお姉さまが全部言ってくれたけど、初期にデビューしたVTuberの枠に自分もギリギリ入れていたから良かったという感じで、あの頃はまだ視聴者の側もデビューした新人をゆっくり追う余裕があったんですよね。今はデビューしても、ほぼ見つからないです。もし今からVTuberデビューするなら、まず兼業からですね。そこから「(収益的に)いけそう」ってなってから専業は考える感じで良いと思います。もしくは、最初から大手VTuber事務所を狙う。その道も審査があるので大変だと思うけど、そこで頑張れなかったら、個人はもっと大変だろうなと。とにかく、いきなり漕ぎ出さないほうがいいだろうと思います。

冬乃:
朝ノさんが言ってくださったのですが、うちらはデビューが結構遅くて2019年後半だったので、その大変さは分かります。まだ私たちは運が良かったほうで。

夏川:
そうだね、運良くバズった企画が生まれて、何度か波に乗れました。

冬乃:
それでもまだまだ知ってもらう機会っていうのは、もうたくさんVTuberの方とかいらっしゃるので、すごい難しいなっていうのを感じています。

夏川:
私たちの場合、兼業から専業化したいという気持ちはもちろんあるんですけど、先ほど話したように月ごとの収益が安定しなければ踏み出せないんです。だから「このまま活動を続けても大丈夫なのかな」とか、「活動一本になってしまったらどうなるんだろう」といった葛藤する時間が長いんですよね。例えば、正社員で務めながらVTuber活動をされている方の中にも「転職したら活動を続けられるのか?」や「VTuberと本職のどちらの方が成功する機会はあるんだろう?」といった悩みは多いと思います。

冬乃:
私が専業でVTuberをやりたいという人に言いたいのは、まず兼業ではじめてみることですね。活動が波に乗るまで兼業でがんばってみるのがいいと思います。

夏川:
うちらは、もう1年以上、「専業になりたいけど踏み切れない」ぐらいの収入状態で、いろいろ悩みも生まれながらも、どうにか活動しているみたいなところがあるからね。

冬乃:
それでも「VTuber活動がつらい」ってなったことは1回もないので、配信活動が好きな方はまず両立して、兼業でやってみたほうがいいかなと!

――最初は兼業で始めたほうが良さそうですね。

夏川:
もちろん、すでに貯金が1000万とかあったら別にいいと思います(笑)。初月でいきなり30万稼げたりするようなことは滅多にないので、最初は消耗戦を覚悟で、ちゃんとフォローできるようにしておくってことですね。2年間専業出来るように貯金し続けるのも方法のひとつだと思いますね。

――「本業でメインの収入を得つつも、VTuberでもお小遣い程度に稼げることを目指す」という目標設定であれば、ストレスなく活動できる人も少なくないかもしれません。

ゼロミヤ:
それはそれで全然いいですよね。

夏川:
最初から「兼業で2、3万入る程度でいいや」っていう目標設定ならそれでいいんですよね。うちらの場合は、そういうバランスではちょっと難しいサイズ感になっているのが問題で、ありがたいことに案件いただく機会もあるし、もっと配信して欲しい視聴者もいるだろうなと思いますし……ちょうどよく兼業するのって結構難しい……。中途半端に「VTuberとして専業化したい」と思っている方ほど、活動に疲れてしまうかもしれません。

――この話はVTuberに限らず、ダブルワークで働いている方にも共通する葛藤のような気がしますね。

「何者かになりたい」という気持ちは大事

――ゼロミヤさんはVTuberの専業化については、いかがですか?

ゼロミヤ:
僕からすると(最初からVTuberを専業化するのは)「なんで?」って感じですね。だって、VTuberって別に「リアルで何をしていようができる」のが良いところじゃないですか。僕は亡国の王子で、リアルな顔バレをすると敵国に襲われるので出せないんですけども、そういうリアルで性別や年齢、職業を出せない人もできるのがVTuberのいいところなので「仕事やりながら活動すればいいじゃん」って思いますね。

時々、ネット掲示板で「高校を卒業したらVTuber事務所のオーディションを受けて、VTuberになりたいんです」っていうのを見かけると「思い切るな―!」って。逆に選択肢を狭めてないか、もっと色んなことやればいいんじゃないかなーって。まず兼業で良いんじゃないかなって。

――先日、某大手事務所のオーディション合格を目指す高校生の方にお話を聞いたのですが、そもそも「VTuberになりたい」以上に「有名になりたい」という気持ちを強く持たれていた印象でした。

ゼロミヤ:
いやいやいや! 落ち着いて(笑)!!

朝ノ:
すごいなー!!

今酒:
でも、若い子ってそんな感じですよ。私は「金、名声、滅びよ人類」って、自己顕示欲の塊でやらせてもらってるんですけど、そもそも自分も学生時代はエゴが爆発してましかたらね。「何者かになれる!」と思って、周りを巻き込んで空回りしちゃって、色々失敗したことを思い出しますね。だから、私と同じような気持ちを抱えている10代の子はいるだろうなと思います。

――最初の活動の動機として「自分を世の中にアピールしたい」というポジティブな自己顕示欲は必要ですよね。

今酒:
それはそうです。さすがに無から「VTuberになりたい」は出てこん!

ゼロミヤ:
表に出たくない人はそもそもやらないですからね(笑)。

朝ノ:
うんうん、それはその通り。

今酒:
やっぱり、ホロを受けぇ!

ゼロミヤ:
そうだなぁ……。まず自分で1回やってみよう。それで飽きるかもしれないから、色々やってみたらいいよ。YouTubeのアカウントなんて誰でもすぐ作れるんだから。オーディション待たずにやってみようよ。

今酒:
たしかに、温度感が分かるからね。

冬乃:
最近のVTuberオーディションって条件欄に「配信経験あり」っていう項目があることも多いですよね。

夏川:
VTuberって、コメントもない状態で喋れる頭のおかしいヤツばかりが結局配信してるんだから。そこで自分ができるか試してみたらいいよ。

VTuberの仕事で忘れてはならないこと

――VTuberを仕事にするために必要となるスキルやコツはどういったものがあるでしょうか?

夏川:
私は投稿するジャンルを絞るのは大事かなと思います。ハクノさんのお酒レビューみたいに、企業側からみて、どういう案件が適切か分かりやすくするって感じですかね。

冬乃:
オールマイティーなVTuberさんは、もう大手企業さんが需要を全部満たしてくれているので、今からお仕事にしたいなら「どういうお仕事が来るようにするのか」「どういう層に狙っていくのか」といった作戦を立てないと難しいなって思います。

夏川:
自分がやりたい得意なゲームをプレイしたとしても、それが収益につながるのかといったことも想像した方がいいのかも。

今酒:
「マインスイーパー」が得意でも、あんまり収益にはならんでしょうね。

朝ノ:
そうね(笑)。

ゼロミヤ:
特技がある人は強いですよね。動画編集ができるのであれば、それでもお金になるし、例えば、VRoidを趣味ではじめて3Dモデリングを覚えるきっかけになったり、VRChatを体験してからUnityをさわるようになってエンジニアになったという方もいますし。

――朝ノさんは、VTuberのお仕事で大事なことってどういったことだと思いますか?

朝ノ:
まず一番大事なのは礼儀だと思います。私があちこちでやり取りをさせていただいて思ったのが、例えば、大手企業さんが絡むような案件で、自分のいつもの配信中のキャラを守ってスタッフの方にタメ口で話しかけちゃうみたいなケースが見受けられたんですよ。やっぱり、スタッフの方も驚いてしまうので、ある程度の線引きや礼儀は必要かなと思います。

また、本当に仲良くなりたい人だったり、自分が好きって思っているVTuberさんにはSNSなどで積極的に声をかけるべきですね。この業界は周囲に知られないと埋もれていく傾向にあるので、まず周囲に自分のことを知ってもらうことが大事かと思います。もちろん、行き過ぎたことをすると売名行為に思われてしまうので、そこは注意が必要ですが、恐れずにやったほうがいいですね。

あとは、Twitterでそこまでプライベートなことをつぶやかないこと。

ゼロミヤ:
たしかに……!

朝ノ:
別に「マックがうまい!」っていう気軽な感じのは良いのですが、自分の悩み事まで全部垂れ流しにしたり、ファンが反応しづらい内容のものは控えた方がいいです。限定公開のコンテンツでポロッとこぼす程度ならセーフかもしれないけれど、Twitterって名刺代わりになってしまうので、何をツイートするかを一字一句ちゃんと確かめて、脳の回路を通してから「よし! これは問題ないな!」と思ってからツイートした方が安心ですね。

そのツイートを見て、仕事をくれる人たちがいるので、そこは気をつけたほうがいいと思います。安易に攻撃的なことを言わないのも大事、政治宗教にも触れないようにする。

夏川:
それをされると気軽に絡みづらくなっちゃいますよね。

朝ノ:
そうですね、絡みづらくなっちゃうから、基本的に発信するほどはポジティブでいた方が良いなと思いますね。

ゼロミヤ:
講座が開けるレベルの話だなー!

朝ノ:
自分のこれまでの失敗をもとに学んで、今こうやって喋ってるって感じです(笑)。

――今酒さんはお仕事する上で大事にしていることは何でしょうか?

今酒:
日々仕事するって思ったときにまず前提として、それなりのマメさがいりますよね。ある程度のペースで出力し続ける必要があって、毎日配信するのも大事だし、動画を出すなら「週に何回は出す」みたいな出力ペースを基本的に守った方が良いです。私もたまにペースを崩すと視聴者が一気に減ったりしますからね。だから、やる気にムラがあるとヤバい。

私も生来面倒くさがりなんで、常にMAX全開ってわけじゃないですよね。だから、いきなりできることではないんですけど「どうしても自分がやらなきゃいけないクリティカルな部分を減らす」ようにすると、続けやすいです。

今の私は動画の編集をほとんど編集担当さんにおまかせしているんです。自分で喋ったり録画したりは絶対しなきゃいけないけど、編集部分はそうではないんです。そもそも編集ってすごく果てしない作業で、私の動画の場合だと馬鹿みたいに編集する量が多いんですよね。

冬ノ:
効果音とかすごく入れられていますよね。

今酒:
そうなんですよ。私もちょっと気持ち浮き沈み激しい自覚あるんで、これを自分で常にやるってなったら、やる気があるうちは良いんですけど、「まず無理だな」と思っていて、だからお金は必要ですけど、編集の人にお願いしているっていうところがありますね。それだけの価値があると思っているので。

グッズ制作も、私がタスクを後回しにしがちなので、直発送なんて絶対ムリなんですよ。だからBOOTHの委託サービスを利用しています。自分がやらなくていいことの部分は減らして、自分ができることに集中できる環境になると、やりやすいんじゃないかなって思います。ゆくゆくはそのシステムを目指した方がいいです。

――個人で活動しているVTuberこそ、周りの人に業務を委託したり、自動化できるシステムを使うことが重要になりそうですね。

今酒
あとはそうだな……友達はいたほうがいいですね。なんて説明すればいいのか…要するに誰とも一緒に走っていないから、自分がどのへんにいるのか分からなくことがあるんです。暗闇の中をずっと走り続けているみたいになっちゃうので。ちゃんとした友達であれば、コネクションも増えていくんで、例えば、グッズ出したくて困っているときに、それに詳しい人に繋いでもらえる可能性も増えますし。

自分の場合、非正規の仕事しか勤めたことが無かったから、社会に出てからやるべきことが何も分からなくて、ちょっと仕事が色々でてきたときに、領収書の書き方もよくわからないみたいなところからスタートだったんです。

アポの取り方も分からなかったし、マジでそういうのに詳しい知り合いがいなければ、どこに相談すべきかも分からなかった。特に社会経験が乏しい人間にとってはそういった苦労があるんですよね。だから、ちゃんとした知り合いや友達が業界内にできることで、ひとりでは届かないところに届くようになると思います。

――今のお話はフリーランスで仕事している方々全般にも参考になるお話だと思います。非正規雇用状態では一人で必要な情報にアクセスするのが非常に難しいので「詳しい知人や友人に話を聞く」ことの大切さは個人的にも身に染みるものがありますね。

今酒:
実務的な意味だけでなく、気持ちの面でも安定しますね。

――ゼロミヤさんはいかがでしょうか?

ゼロミヤ:
僕の場合、お仕事って感じじゃないんですが「自分はこれができます」っていうのをはっきり言った方が良いかなと思いますね。今はもう「声がかわいい、歌も上手い、話も面白い」みたいなVTuberがいっぱいいるので、そのなかでもアピールポイントを出すのは大事ですよね。僕は動画企画のアイデアをお手伝いする機会が多いのですが「ゼロミヤさんといえば、おもしろ企画を考える人ですよね」って声かけてくださる方もいるので、やり続けて良かったなって。ちょっと企画だとフワッとしすぎているかもですが、例えば、今酒さんなら「お酒」、瑠璃姉さんなら「声優」、いちご女学院なら「2人コンビ」みたいに分かりやすいと、お仕事頼む側の人も「あっこの人に頼めば、ファンも見てくれるな」って気づいてくれると思いました。

VTuber業界をより良くするために

――初心者の方の参考になる濃厚なお話をいただき、ありがとうございます。最後に参加者の方のVTuberとしての将来の目標や夢についてお聞かせください。

朝ノ:
私は家の事情というか、元々生まれたときから忍者という仕事をしなければいけないと決められていて、両親の敷いたレールを歩いてきて「そのレールから外れることは絶対に許さない」って言われて育ってきていたんです。今、バーチャルYouTuberとして専業でお仕事をさせていただけるようになるまでには結構な波乱があったし、両親に土下座もしたしみたいな状況で今ここにいるんです(笑)。

私はそのバーチャルYouTuberという職業を「第2の人生」だと思って楽しんで今活動しているところなので、すごく重いかもしれないんですけど「朝ノ瑠璃として生き、朝ノ瑠璃として笑って死にたいな」っていうのが目標です。ご縁があって声優としての仕事という、ずっとやりたかったことを実現できているので、「何を残して死ねるんだろうな」っていうのをわくわく考えながら毎日を生きています。

まだまだ世間一般的には「人間じゃなきゃいけない」「バーチャルYouTuberだから駄目」っていう考えもいっぱいあるんですよね。だから「バーチャルYouTuberは、1人の人間として認められる存在だ」って思ってもらえるようにしていきたいなって。もちろん私だけの力でできることはたかがしれているかもしれませんが「VTuber&声優」という二足のわらじを履く選択肢を開拓できたので、それを受け入れてもらえるように試行錯誤しています。「バーチャルYouTuberをアニメに起用しても全然おかしくないよ」っていう時代が来るように精一杯努力して、残せるもの残していきたいなと思っております!

今酒:
私はこれまで「金、名声、滅びよ人類」でやらせてもらっているんですけど、最近あんまり自分の金や名声ばっかりじゃ良くないなと思い出したんですよね。「普通にVTuber業界良くなって欲しいな」って思うんです。そうでないと自分の活動が回らなくなるっていう気持ちもありますが、VTuber業界に回る金の量や人の量が増えていけば、それによって生きていきやすくなる人も多いんじゃないかなと思っているんです。

私も社会で本当にやっていけなくて、先ほど非正規雇用の話を出しましたが、その仕事も別にうまくはいってなくて「VTuberをやっていなかったらどうなってたんだろう?」と思ってしまうんですよね。だから、そんな自分みたいな人たちに「VTuberってなんか調子良いっぽいぞ、こういう道もアリらしいぞ」って思ってもらうように、自分がアピールしていきたいですね。

「VTuberに何か仕事を頼むと良いらしいぞ」ってなれば企業からの案件も増えるし「VTuberって面白いらしいぞ」ってなれば、視聴者も増えるでしょう。狭い市場で少ないパイを奪い合うのは大変なので、VTuberはある程度活動規模が大きくなったら市場自体を拡大していく責任があるなと思っています。

夏川:
私はまだまだおふたりほど大きくないので、そんなに大層なことは言えないんですけど、目標としては自分たちが大きくなって、朝ノさんたちのような考えに至れるぐらいに大きくなることが目標なんじゃないかなと思います。まだ兼業なのもあるので、まずは成長! 自分たちの成長が目先の目標かなとは思います。

冬乃:
夏川が言った通り、まだ全然大きくもないし、専業でやれてるほども潤ってはいないんですけど。ただ私達が今まで大きくなってくる過程において、色んな人たちに引っ張ってもらったり、先輩方に助けてもらったりすることが多かったので、私達が成長するという目標を達成できたら、また新しく頑張っているVTuberさんたちに還元していければ、良き循環が生まれるのかなと思っています。「私も頑張って大きくなって循環させていくぞ!」って気持ちです。

ゼロミヤ:
将来、王子は「企画作家」のような側に回りたいんですよね。「ぽんぽこ24」のCMの選考委員とか、驚天動地倶楽部さんの動画に関わらせて持ったりしているうちに「僕が表に出なくてもいいな」と思うようになってきて(笑)、舞台裏でアイデアを練る側を目指してみたいです。

最初に「VTuberを趣味ではじめた」って話しましたが、今年に入ってから自分の家来に「こんなに頑張ってるのに、何も見返りが得られないのはおかしくない?」って言われちゃって(笑)。「そうか、今の活動を自分の夢に還元していけば良いのか」って思いはじめたんです。

YouTuberデビューする人って昔は「YouTuberになりたい人」が多かったんですけど、最近は本業のある人が宣伝目的で利用するうちにYouTuberになっているケースも増えているんですよね。VTuberもそんな感じで、本業のある方が色んな目的で入ってくるような土壌になるのかなって予想しています。

だからVTuberとして表に出るっていう以外にも、兼業している仕事の方にも経験を活かせるように頑張っている感じです。「面白い企画といえば、王子だよね」みたいに信頼してもらうのが大きな目標です。

――ありがとうございました。


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