YouTubeを中心としたデータ分析・コンサルティングサービスなどを手がける株式会社エビリーは2月19日、「VTuberプロモーション最前線」と題して、ゲーム実況や歌ってみた動画を中心に活動しているゲーム部プロジェクトと、「ヨメミ・萌実チャンネル」運営の二者を招いたセミナーを開催しました。
これまでVTuberの開発については多く語られてきましたが、運営している中で見えた景色を内部事情として明かすことはあまりありませんでした。今回のセミナーでは、独自路線でVTuberとしてチャレンジしているゲーム部プロジェクトやヨメミ・萌実チャンネルがどのように運営を心掛けているのか、タイアップ案件や運用の方向性についての講演が行われました。本稿ではその模様をお届けします。
エビリーが分析するVTuberのタイアップ傾向
まずは株式会社エビリーを代表して春日遥氏が登壇。同社のYouTubeデータベース「kamui tracker」をもとにVTuberがどれだけチャンネル登録をされているのか明かしました。今では7,000人ものVTuberが存在していると言われていますが、登録者が1,000人以上のチャンネルは900ほどしかいないことが語られました。登録者が10万人を越えるチャンネルは全体の上位4.4%しかいないのも驚きです。
では、どんな人たちがVTuberを追いかけているのでしょうか? その疑問に春日氏は、「VTuberを見ている視聴者層は20~30代の男性が大多数で、そしてオーバーラップ率の高さからVTuberを選り好んでいることが特徴です」と答えました。オーバーラップ率というのは、たとえばキズナアイとミライアカリのチャンネルを登録している層がどれだけ被っているのかという数字を表します。それによれば、どのVTuberのオーバーラップ率も高いチャンネルはVTuberであり、70-80%を占めているとのこと。また春日氏は、特定のVTuberが好きというよりは、VTuber全体を追っている人が多いと加えて考察。
その結果を受けてゲーム部プロジェクトは、この数字をどれだけ下げられるか模索していると語りました。そのために普段VTuberを見ているユーザーとは違う層に見てもらうことを意識しているとのこと。第一線で活躍されているゲーム実況者とのコラボもその一環であるといいます。
続く企業とYouTuberのタイアップ動画のデータを見ていくと、2018年はタイアップ動画が計285件あり、内訳としてはゲームが93.3%(266件)という結果になっていました。そのうちの40本はヨメミ・萌実チャンネルがタイアップをこなしている驚きの事実も挙げられました。運営によると、タイアップしたゲームの世界観を崩さないような動画作りを意識しているそうです。
非ゲームジャンルについては昨年の秋から冬にかけて多く見られ、そのことから徐々に一般企業にまでVTuberの存在が浸透してきているのが分かります。
さて、いつからVTuberによるタイアップが増え始めたのでしょうか。こちらについても春日氏がグラフで解説してくれました。まだVTuberが流行り始めて間もない、2018年1月からすでにタイアップをスタートさせていたVTuberも数人おり、その数は初期の頃と比べると、だんだんと増えているのがグラフから読み取れます。
中でも群を抜いて多いのが長期休暇に入る夏。YouTubeでは多くの人が動画を見る時期でもあり、企業側も力を入れているそうです。タイアップも動画投稿をメインにするVTuberだけでなく、にじさんじのようなライブ配信主体のライバーもタイアップをこなしていたとのこと。グループVTuberのタイアップで特徴的なのが、グループであることを活かし、複数人でリレー形式の配信で行うことが多く、ゲームタイトル1本あたりの投稿本数が増えていることも語られました。
また、通常のYouTuberと比較してVTuberのタイアップでは大きな特徴が2つあると春日氏は追及。まず1つ目は生身のYouTuberと比べるとエンゲージメント率が高いこと。これはファンの熱量を表しているとも言えます。そして2つ目が動画1本あたりの視聴回数は低い傾向にあること。これは生身のYouTuberと比較してのデータとなります。
ただ、動画の視聴回数は低いものの、ファンとの関係値が濃く出るゲームというジャンルにおいてはVTuberがプレイしたゲームに対してダウンロードや課金アイテム購入などに踏み切られやすいとのこと。そしてVTuberを見ている層は、VTuberへのスーパーチャット (投げ銭)やグッズの購入など「好きなもの・応援したい対象に課金をする」ことに慣れているような人が多いことも補足されました。
「ロールプレイ型」のVTuberにとって大切なこと
前述の通り、VTuberの動画視聴回数が低い傾向にあることは今や業界でもネックとなっている部分ではあります。そんな中でも、登壇者の運営するゲーム部プロジェクトやヨメミ・萌実チャンネルは数字を出し続けています。どのようなことを意識しながら運営しているのか、そのノウハウについて二者より明かされました。
まずゲーム部プロジェクトは、VTuberのタイプは3種類に分類されると持論を展開。
①“魂”を前面に押し出した動画投稿活動を行うタイプ
②ライブ配信に特化したタイプ
③キャラクターとの体験を意識したタイプ(ロールプレイ型)
①、②はVTuberに宿る魂の性格をもとにキャラクターを構築していますが、③に位置するゲーム部プロジェクトにおいては“キャラクターと一緒になにかをする、体験する”触れ合いを重視していると言及しました。その作りは独特で、立ち上げる段階からプロフィールを決めており、それはまるでキャラクターのプロットを考えているかのようです。それをもとにどのように活動していくのか方向性を示していると語りました。たとえ生放送であっても、キャラクター性は損なわないように心掛けているとのこと。
今では月間視聴回数1位を獲得したゲーム部プロジェクトですが、そのポイントとなったのはやはり“キャラクターとしてYouTubeをやっている体験を与えられたこと”ではないかとも語っていました。
タイアップ動画で意識していることとは?
続いて、これまで行ってきたタイアップ動画の事例をそれぞれ紹介。ゲーム部プロジェクトはタイアップにおいて、その企業としかできないことを見せることを念頭に置いているといいます。
そして、ヨメミ・萌実チャンネルはタイアップ動画を制作するうえで、タイアップであることをツッコまれない作りを心掛けているそうです。その中でキャラクターのトークによる掛け合いであったりを重要視しているとも語りました。
またヨメミ・萌実チャンネルは、少々過激な内容やサムネイルで攻める傾向にありますが、それについてこれまで企業側にNGを出されたことはなく、紹介したゲームのダウンロード数や再生回数などで企業の立場を意識することに焦点を置いていたといいます。
今でこそゲームとのタイアップが多いものの、ゲーム以外のジャンルについて春日氏から質問をぶつけられると、両者ともにどんなジャンルでも実現できるとVTuberが持つ無限の可能性をアピールしていました。
再生数やファンを増やしていくコツ
来場者を交えたディスカッションも行われました。来場者からは「どのタイミングで再生数が伸びたのか」という質問が。これにゲーム部プロジェクトは「日常系のアニメーションを投稿し始めてから」と回答しました。活動初期の頃はゲーム実況に偏っていたものの、組織改革を行ってからはいろんなことにチャレンジできるようになったとのこと。また、さまざまな切り口での演出がなされた動画をアップし始めてから継続率も上がってきたといいます。
ヨメミ・萌実チャンネルは、「どのような動画がそのとき伸びているのか意識して作っている」と明かしました。そして、有名YouTuberの関連動画に載ることも伸びるために一つ重要な点であると、初のミリオン動画を例に挙げて解説。そのためにはYouTubeのアルゴリズムを意識することが何よりも必要だそうです。
「チャンネル登録をしてもらうために意識していること」を尋ねられると、ゲーム部プロジェクトは、どの動画においても登場キャラクターの性格や関係性が分かるような作りを第一に考えていると答えました。そして、それらを知っている人にはさらに楽しんでもらえるような動画を心掛けているそうです。
最後にこれからの展望としてゲーム部プロジェクト、ヨメミ・萌実チャンネルともに、さらにユーザーを楽しませるような企画も考えていると語り、セミナーは終了となりました。
ユーザーが求めているものはなんなのか
今回、VTuber業界の最前線で活躍するゲーム部プロジェクト、ヨメミ・萌実チャンネルの話を聞いて分かったことは、どちらもキャラクターとの触れ合いであったり、アニメチックな掛け合いを重視していることでした。そして、それをユーザーも求めていることがエンゲージメント率といった数字からハッキリと伝わってきました。
アニメーションの中で日常を過ごしている子たちと一緒におしゃべりやゲームができるなんて、まさにファンの理想そのもの。その体現をゲーム部プロジェクト、ヨメミ・萌実チャンネルは行っているからこそ、ユーザーも追い求めるのでしょう。今後、どのような展開がなされるのか期待が高まります。