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VTuber 2018.04.08

儚げな少女バーチャルYouTuber「鳩羽つぐ」がネットを大いに騒がせているワケ

小学生のバーチャルYouTuber(バーチャルユーチューバー)、鳩羽つぐ。彼女はいま、動画を出す度に、ネットをざわつかせる存在になっています。

YouTube上で見れる動画はまだ2本しか出していませんが、彼女の周りで何が起きているのか、追っていきます。

鳩羽つぐとグランドピアノ

はじめての動画があがったのは、2月28日の夜20時でした。キャラクターデザインは、人気イラストレーターのLM氏。

セピアとモノクロの中間くらいの色合いで、音楽はピアノのみ。吊りスカートにリボン、ベレー帽に白タイツに革靴。私立小学校に通うような、いいところのお嬢さま的な出で立ち。

首がしっかり座っていない感じや、手や足に筋肉が付ききっていないのか、上手く姿勢を保ち続けられない不安定さが目に入る。微妙にとかせていない髪の毛も特徴。手を振る時、身体が傾くのも生々しい。

動画後半に出てくる光景。後ろにはカバーのかかった物体があり、人が普段入らない倉庫の中のように見える。

たくさん並ぶ、何に使うのかわからない機器。誰か別の人が撮影しているんだろうか。左側の電源が入っている機械が置かれているのは、グランドピアノの上だ。

…などなど、深読みさせる釣り針的なネタが、あちこちにばらまかれています。



Twitterにあげられた2本の動画

はじめての動画投稿の後、しばらくYouTubeに動画はアップされませんでした。代わりに、Twitterに短い動画が2本アップされます。

3月2日にTwitterにアップされた動画。どうやら、倉庫の外のよう。本人の自撮りでしょうか。

車の走る音にかき消されて、何を言っているのか聞き取れないのがまた、視聴者の好奇心をくすぐります。ノイズ除去を試みて言葉を分析している人たちもいますが、統一された分析結果はまだ挙がっていないようです。

3月9日にアップされた動画は、雨の日の撮影。これまた雨音でかき消されて全然聞き取れない。

たった6秒の動画のためにコート衣装が作られているのも見逃せない点。3DCGで服装を作るのは、非常に労力がかかります。それだけ、このシーンは「雨の日」じゃないとだめだった、ということです。

児童であることを強調するため、傘を片手で持てず両手で抱きかかえているのも芸が細かい。彼女の身長も、ここから推測できます。

3本目の違和感

YouTubeに新作があがったのは、3月26日。タイトルは「#03 Morning Routine

自己紹介が00なのに、いきなり03。Twitterであがった二本を1、2とするのか? 欠番なのか? 公的には何も発表されていません。

「Morning Routine」とは、直訳すると「毎朝の日課」。海外では女の子たちが朝起きてから着替え、食事、身支度する様子を撮影したMorning Routine動画を、YouTubeにアップするのが流行ったことがあります。つぐちゃんがやっているのは、ほぼそれと同じ。

本人のツイートによると「宿題で撮りました」とのこと。そんなネットにアップするような宿題、あるはずがない気もするけれど……。

シックな色合いの少女の、撮影日記チャンネルになっていくはずだった。けれども#03の動画で、引っかかりを覚えた人が続出。一度気になると、今までの動画すべてに伏線があるように見えてきます。

鳩羽つぐの謎

#01で語られている、鳩羽つぐの住んでいる場所、「西荻窪」。1970年までは正式に使われていた地名ですが、現在は地名として残っていません。ただし駅名である「西荻窪駅」を中心に、住んでいる人には俗称として今も使われています。

存在しない街、というほどではない。でも明確に存在する街とは言えない。視聴者次第でどうとでも取れます。なんともモヤモヤさせられる。

そのほか、鳩羽つぐ動画の中でも、ネットで論点になっている部分をいくつかあげてみます。

・食事風景と二段ベッド
つぐが食事しているシーンでは、後ろに普段からかぶっているベレー帽がかかっており、二段ベッドが置かれています。

下はつぐが寝ているようですが、上は布団がない。かわりにトランクが置かれています。さすがに意味もなく二段ベッドを買うということはないでしょうから、兄弟姉妹がいたのか、あるいはつぐが自室ではない別の誰かの部屋にいるのか……?

また、宿題の撮影とはいえ、彼女がベッドのある自室で食事しているのは、小学生の一般的な光景としては不自然。そもそも親は一体どこに? つけものをかじっているかのような音がする、日本的なリアルなシーンなだけに、背景との組み合わせに違和感が残ります。

・鏡の映りがおかしい
#03では、なぜか歯を磨くシーンが二回映されています。

二回目を見ると、タオルがしわになっているのが見えます。一回目に使った痕跡をわざわざ見せて時系列をはっきりさせている、丁寧な映像です。

ところが目の前の鏡に映っているつぐちゃんがおかしい。彼女は左の頬に泣きぼくろがありますが、鏡の中では右側です。また左側に置かれているポット(?)の取っ手の向きも、鏡の中ではわざわざさかさまに。

単なるミスなのか、意図してやったのか。二回に分けてこのカットを撮るほどこだわる制作者が、間違えるなんてあるんだろうか?

・誰が撮っているのか?
#00の動画が、あからさまに「誰か別の人が撮影している」と演出されているのが曲者。本人が固定カメラで撮っているわけではなさそう。もし#00とTwitterの動画投稿がつながるのだとしたら、家の外にある物置的な場所で撮影していることになります。

撮影者にあたる人間が親だったらいいのだけれども、だとしたらなぜグランドピアノの上に機器を並べるんだろう? むしろ並んでいるのは監視用のモニター機器みたいにも見えます。

・ルイヴィトン
鳩羽つぐのTwitterには、すでに4万人以上のフォロワーがいます。しかし彼女がフォローしているのは1人だけ。キャラデザイナーのLM7氏ですらなく、ルイヴィトンのアカウント。

とても無意味とは思えない。これはミスリードを誘っているのか、視聴者への解読挑戦状なのか。ファンの間では、ルイヴィトンの命日は2月28日であり、鳩羽つぐが動画投稿を開始した日と同じ、という指摘があがっています。現時点では動画内ではなにも明示されていません。



鳩羽つぐの仮説

動画のもつ儚い空気感と、つぐの感情のわからなさ、謎の多い絵面により、数多くの仮説がTwitterやpixivなどであがりました。

鳩羽つぐは誰かに誘拐されて、この動画を誰かに撮られているのではないか。あるいは彼女を探すため過去に撮影された映像が流されているのではないか。

西荻窪があった70年にまでさかのぼり、鳩羽つぐは亡くなっているのではないか。あるいはどこかに住み着いている幽霊的存在ではないか。彼女について撮影されたこの動画は、都市伝説、超常現象的なものではないか。

かつて深夜アニメとして放送され、プレイステーションのゲームにもなりカルト的な人気を誇った作品Serial experiments lainに近しい雰囲気も感じます。

「lain」のアニメでは「Real_World(現実)」と「Wired(ワイヤード・ネットの仮想世界)」をつなぐ精神世界や、ハッカー文化が描かれます。
そしてゲーム版は、日記や精神病のカウンセリングカルテなどの断片的な情報から、何があったのかの情報を類推する、短編動画集に近い作品となっています。

鳩羽つぐは、VTuberという仮想世界の住人。彼女と一緒に映る映像には様々な情報が見え隠れしており、受け取り手はあれこれ想像できる。情報のカケラだけを見せて想像は視聴者に任せる、という映像表現の手法は「lain」と鳩羽つぐに通じるものがあります。

「攻殻機動隊」を連想した人も、ネットで多かったようです。視聴者は、ないはずの誘拐事件があったかのように感じ、SNSで広めてミーム化していく。
劇場版にあった、いないはずの家族が、あたかもいるかのように感じられるシーンのように、鳩羽つぐという存在自体、ハッカーが誰かの脳に偽の情報として植え付けるデータなのでは?

……とか考えるの楽しくて仕方ない。

2017年の「けものフレンズ」では、廃墟の実写が出てきたり、墜落した飛行機が見えたりしたことで、多くのファンが背景を考察し、話題になりました。こういうスタイルの作品は、正しい解答はあまり提示しません。考えさせること自体がエンターテイメントだからです。

同様に、鳩羽つぐの背景に何があるのかを考察させる幅があるのが、動画の魅力のひとつになっています。

もっともこれら全て「そんなことないって」「かわいいからいいじゃん」と笑い飛ばしてもいいさじ加減なのがうまい。「意味のわからない雰囲気動画」という捉え方もできる。ストーリーがあるわけではないので、どうとでも取れる。

鳩羽つぐは、視聴者の数だけ遍在する存在になりつつあります。


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