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メタバース 2023.08.14

描きたいのは「万人に伝わる面白さ」 リーチャ隊長が漫画に込める情熱を紐解く【VRクリエイターズファイル】

「VRChat」などのソーシャルVRをはじめとした、VRの世界で活躍するクリエイターはいま急速に増えつつあります。インディーズの領域で活躍しながらも、その実力はプロに迫る人も多く、VRの認知が広まるのに合わせて、こうしたVR世界のクリエイターたちも大きく注目を集めています。

MoguLive連載企画「VRクリエイターズファイル」では、いま注目のVR世界で活躍するクリエイターたちにフォーカス。彼らがどのようにVRの世界を知り、そこで活動するに至ったかなどを掘り起こします。

今回は、VRの世界の出来事を漫画にして伝える、漫画家・リーチャ隊長にフォーカス。VRChat黎明期から現在に至るまで、”全ての謎を解き明かす”べく活動を続ける、バーチャル探検家の実像に迫ります。

(インタビュー・執筆:浅田カズラ)

「楽しいことを記録したい」――探検家はなぜVRの漫画を描き始めたのか

――まずはじめに、VRあるいは「VRChat」を知り、始めたきっかけを教えてください。

リーチャ:
2018年の6月ごろ、当時知り合いだったイラストレーターの方が「VRChat」で遊んでいる光景を、Twitterで見かけたのがきっかけですね。その方が僕がお世話になった人だったこともあり、「ここに行けば会えるんじゃないのか!?」と思い飛び込みました。

同時に、「キャラクターになれる」ことに魅力を感じたのも大きいです。最初、きっかけになった方のツイートを見ていて「なんかキャラになってるなぁ」と思ってたんですよ。僕、リアルだとこんなにしゃべらないんですが、「リーチャ隊長」というキャラクターになることで、こんなにしゃべることができるんです。これが「VRChat」というゲームの最大の特徴で、すごい大事なことだと思ってます。

――Twitterがきっかけだというのは意外でした。2018年スタートだと、VTuberの動画きっかけで始める方が多いとよく聞くので。

リーチャ:
「ねこますさんの動画とかを見て〜」って始める人は多かったですねぇ。まぁたしかに、当時はVTuber黎明期でしたし、「そういえばバーチャル流行ってるね、ちょっとやってみるかな」とは考えていました。僕自身、ずっと最先端技術に触れて「これからはこれだ!」って乗っかって、バズるために情報を探していたところもあったので(笑)。そこにちょうど当時、VRがやってきた感じですね。

――最初からVRモードで遊ばれていたのでしょうか?

リーチャ:
いや、最初はデスクトップモードの無言勢ですね。その間ずっと「Blender」でアバター作ってました。

――当時から「Blender」自作をやっていたんですか!

リーチャ:
まぁ、あの当時はほぼ「Blender」とか「Maya」とかで自作する人が大半でしたからね!

――そんな感じで「VRChat」を始めたものの、やはりいまリーチャ隊長のコアな活動といえば「漫画」です。漫画でVRの世界を伝える活動はいつごろから始まったのでしょうか?

リーチャ:
2019年の1月です。「VRChat」を始めてから半年くらい経ったころですね。直接的な理由は「正月休みでヒマだったから」なんですけど、大きな理由はやはり「楽しいことを記録したい」という自分の習性にありますね。

僕は自分が面白いと思ったことを、みんなにも共有して、みんなにも面白いと思ってもらいたいんですよね。「VRChat」をいざ始めてみたら、面白い人がいっぱいいる。だけど、動画配信とかをしてるわけではないから、そのままだとあとに残らない。僕が忘れたら忘れちゃうわけですよ。

それはもったいないなと思い、「VRChat探検隊」という動画を作り始めたんです。

――えっ、動画ですか?

リーチャ:
そうなんです。ワールド探検をしている様子を、ロールプレイを交えて紹介する動画を、YouTubeに投稿していました。でも、動画はあまり伸びなかったんですよね。

最近ようやく気づいたんですけど、見てる側からすると「ゲーム画面を映してるだけ」みたいに見えて、そこに生身の人間がいる感覚が多分ないんですよね。だから伸びなかったんだと思います。

そんな感じで、動画は6〜7本ぐらい投稿したもののなかなか手応えがなく、どうしようかなーと考えていた矢先に、「そういや俺、イラスト描いてたわ」と思い出し、正月休みにVRChat漫画を描き始めました。

――漫画そのものはいつごろから描かれていたのでしょうか?

リーチャ:
もともと、僕はニコニコ動画でずっと活動していたんですよ。その当時から、描いたイラストを動画にして動かす作品を投稿していました。いわゆる「紙芝居動画」というやつで、具体的には「東方Project」カテゴリですね。

――「東方紙芝居」! なつかしいですね。とはいえ、漫画とはちょっと違うものですよね?

リーチャ:
そう、厳密には漫画を描いたことなかったんです! なので「CLIP STUDIO PAINT」のテンプレートを使って漫画を描いていました。

――なるほど。これまで長くいろいろなことをやってきた中で続いていたイラストという技術が、うまいこと融合してVRChat漫画としてスタートすることになったのですね。

リーチャ:
とはいえ、実は「VRChat」を始めた当時は、僕は絵に描くことにも疲れていたんですよ。「なに描いても評価されないしやめよう」と思って絵から離れていたところに、「VRChat」という3Dコンテンツが現れた。この世界なら、ただカメラに映すだけでオタクコンテンツっぽくなるぞ!漫画描くのもめんどくさいし、これからの最先端は3Dだ!……と思って動画を作り始めたものの、結局先祖返りしてしまった形ですね(笑)。

なので、本当は3Dの人としてやっていきたかったところはあったので、ちょっと悔しさはあります。すっかり漫画の人になって、チヤホヤしてもらえるのでいいんですけどね!

――でも、一度嫌気が差して離れた領域に戻ってくるというのは、不思議ではありつつ、距離を取ったことで逆に手を出せるようになったのかなと、お話を聞いていて感じました。

リーチャ:
そうかもしれませんねー。あと、当時の「VRChat」ではみんな3DCGをやっていたので、逆に漫画を描こうって人が少なかったのも大きいと思います。あの当時でも、僕をふくめてもたしか3〜4人くらいしか漫画を描いている人はいなかったと思います。

目指すのはスピードと、万人が共感できるテーマ

――ここからは漫画について深掘りしていければと思います。VRをテーマとして描く際、特に注力していることや、こだわっていることはどういったことでしょうか?

リーチャ:
「VRをやっていない人にも伝わるように」という点は常に意識しています。例えば、「HMD」には「ヘッドマウントディスプレイ」、「フルトラ」には「フルトラッキング」と、ちゃんと注釈を書き添えるとかですね。

そして、万人ができる限り共感できるようなテーマを選んで描いています。専門的すぎず、初心者目線でもおもしろい、という目線です。

――隊長の漫画はたしかにストレートにおもしろいと言われていますよね。

リーチャ:
実際、「この光景を切り取るという発想がすごい」って、初期のころによく言われたんですよね。僕からしたらどう考えても興味深いことなのに、意外とみんなすんなりと「普通のこと」として受け止めていること、VRだとよくあるんですよね。

フルトラの人が座ったまま移動しているのって、その時点でおもしろいはずなのに! 常に初心を持って、VRの世界で出会う事象に対してリアクションしていきたいですね。

――隊長の漫画は、登場人物がデフォルメ化されていてもはっきりと特徴を押さえていて、読者にも分かりやすい点が特徴ですが、キャラクターを描く際のコツなどはあるのでしょうか?

リーチャ:
「省力化する」という点は意識しています! 伝わるかどうかを優先して、絵は簡単に描ける形にしてるんですけど、これはVRの世界ではスピードが大事だからだと思っているからです。VRの世界ってやっぱ流れがすごく早くて、半年前にあったことを描いても旬が過ぎちゃうんですよね。だから漫画もできるだけ簡単に描くようにしてます。

――たしかに、隊長と取材現場でお会いすると、ほどなくして漫画が出てくるなと思ってたんですが、やはり速筆なんですね。ちなみに一本描く時間って平均してどのくらいですか?

リーチャ:
だいたい3時間くらいですね。いちおう幅はあって、早ければ1時間くらいで描けることもありますけど、なにを描くか難しいときは6時間とか、ヘタすると1〜2日はかかったりしますね。

――フルカラー1ページで3時間、ってむちゃくちゃ早くないですか!?

リーチャ:
やっぱ「ここでバズるぞ!」ってタイミングが見えてるときは、急いで描きあげようって思うんですよね。チャンスを逃したくない。チャンスの女神の襟足を常に掴んでいきたい。

――ちなみに、過去に描いた漫画のなかでも、特に自分でお気に入りのものってありますか?


(リーチャ隊長お気に入りの一作)

リーチャ:
「Sly Fest」というイベントに行った時の漫画ですね。無言勢の方から「ペンでフレリクのマークを描いて渡す」という体験をしたときのものなんですが、「パブリックに行ったら偶然面白い事が起きた」を体現していて、いまでも気に入っています。

盟友・蕎麦屋タナベとのなれそめ

リーチャ:
まぁそれでも、僕もまだまだなんですよ。フォロワーは少なくとも10万人はほしいっす。テレビのバラエティー番組とかにも出ていきたいですね。そうやって知名度を上げていかないと、VRの魅力を伝えきれないって思ってるんです。

――タレントとしても大成したい、という野望が。

リーチャ:
妥協せずに言えば、教科書に載りたいですね! 歴史の1ページに刻まれたい!

でもね、ほめられても萎縮しちゃうんですよね。ほめられたらちゃんとふんぞり返るくらいはしないとなーって、最近はよく思います。つい口癖で「自分はまだまだなんで」って言ってしまいがちです。

蕎麦屋には勝ちたいですね。やはりそこに尽きます!

――ちょうどいいキーワードがちょうど出てきたので触れたいと思います。リーチャ隊長といえば、VR蕎麦屋タナベさんとの縁が強いなと、見ていて思います。タナベさんと出会ったきっかけなどをお聞かせください。

リーチャ:
たしか2018年くらいに、「VRChatプレイヤーの中に蕎麦屋がいる」っていうウワサを聞いたのが始まりでしたね。「蕎麦屋とはどういうことですか」と話を聞けば、「現実で本当に蕎麦屋をやっていて、蕎麦を打っている人です」って返ってきて。おかしいと思いませんかみなさん!!

「VRChat」と「蕎麦屋」もまったく結びつかないし、ちょーっと説明されただけで「ぶっ飛んだやつがいる」って思いましたし、面白いなと思ってたんですよね。いずれ会いたいなーと思っていたんですが、ほどなくして遭遇したんですよ。「赤ちゃん交流会」というイベントで。

――「赤ちゃん交流会」。

リーチャ:
はい、「赤ちゃん交流会」です。そこに、「僕は42歳です!」って言いながらバブバブ言ってる、蕎麦屋タナベという男がいたんです。これがきっかけで、以降はもうなし崩しでしたね、彼にいろんな配信に呼んでもらうようになりました。そしてやがて起こったのが「万物のファンタズム(※)」だったんです。

「万物のファンタズム」:VR蕎麦屋タナベさんと漫画家・リーチャ隊長による、オールジャンル展示企画。提出された作品をすべて展示するという方針を掲げており、集まった作品を束ねたカオスなワールドが話題に。「万物のファンタズム」「ファンタズムセブン」「ファンタズモール」と続き、最新回「ぽかぽかファンタズム元年」が開催予定。


(2021年実施の「ファンタズムセブン」。「マツコ会議」にも取り上げられ、VR蕎麦屋タナベさんが一躍有名になるきっかけに)

――いまに通ずる「ファンタズム」のはじまりですね。あのイベントについて具体的にお話しいただけますか?

リーチャ:
ある時期まで、VRChatにおける大規模展示・即売イベントは「バーチャルマーケット」一強の時代だったんです。そんな中、2020年ごろに「Vketに続け!」っていう風潮が生まれて、いろいろな展示・即売イベントが開催されたんです。その流れを見て「僕もやりたい!」と思ったのがきっかけです。

で、やりたかったイベントは、「送られてきたものはすべて展示する」「出展ブースとか作らなくていい」「なんでも送ってくれ!」っていうもので、普通そんなイベントを手伝ってほしいと言っても「無理ですよ」と言われるのが目に見えていました。こんなぶっ飛んだイベントの制作を引き受けてくれる人なんて、ヤツしかいない。

こうして蕎麦屋に制作を頼んで生まれたのが「万物のファンタズム」でした。

――開催の経緯を初めてお聞きしましたが、たしかにあの時期に生まれていた「有志の展示・即売会イベント」の流れとして生まれていたんですね。もう少しぶっ飛んでいるものかと……(笑)

リーチャ:
これはずっと言っているんですが、「ファンタズム」は「バーチャルマーケット」のカウンターカルチャーとしてやってるところがありますね。「Vketに勝つ!」って裏目標とともにやっています(笑)。

「もっと人のことを知りたい」――人間嫌いが、”探検家”として見つけたもの

――バーチャル探検家としての活動を通じて、これまでどのようなものを得られましたか?

リーチャ:
僕、子どものころから探検家になりたかったんですよ。だからこそ「バーチャル探検家」を名乗って活動を始めたんですが、それまでは人前で全くしゃべれるようなタイプじゃなかったんです。

でも、蕎麦屋をはじめとしたいろんな配信者・活動者の配信に呼んでもらったことで、ペラペラとしゃべれるようになりましたし、歌を歌ったり、ナレーションをしたり、実況まで担当したりと、いろんなことができるようになりました。このVRの世界で活動する方々に育てられたようなもんです。そこは本当に感謝しているところです。

――「活動者から生まれた活動者」的な。しかし、「人前でしゃべるタイプじゃない」というのはけっこう意外です。

リーチャ:
なかなか信じてもらえないんですけど、僕は「人類は滅んでいい」と思ってるくらい人間が苦手なんですよ。「VRChat」にふれるまでは、いまよりもひどかった。

でも、「VRChat」にやってきてから、「なんか、いい人も面白い人もいっぱいいるじゃん」って気づいたんですよね。そこに気づいてから、人とコミュニケーションをとる機会も生まれてきて、距離感とか、やりとりの仕方とかが徐々にわかってきたんです。そして「もっと人のことを知りたい」と思うようになっていって、さらに人前でしゃべれるようになっていったんです。

――感覚としてはよくわかります。オンラインゲームや通話アプリで「音声通話」することにハードルを感じる人っていると思うんですが、そんな人でもVR空間でのコミュニケーションは意外とこなせることが多い。

リーチャ:
僕なんか人間の顔が怖いので、目を合わせることすらできないんですけど、アバターだったら見ることができるんですよね。

おまけに、お酒飲んでバカ騒ぎできるタイプでもないですからね。そもそも飲めないし。話は少し変わりますけど、「VRの飲み会」もおもしろいし、居心地いいんですよね。別に酒飲んでなくても基本許してもらえるし、乾杯も麦茶で全然問題ない。飲めない身としては助かりますよ。

――なんといいますか、本当に「VRChatに救われている」んですね。

リーチャ:
救われていますよ! それはやっぱり「キャラを被っている」のが大きいからだと思います。自分をキャラクターとして演じることができる。僕なんか常に人生をロールプレイでやってるタイプの人間ですけど、そういう人間でもやっていけるのは本当にありがたいですね。

あと、「これやったら迷惑かな」と思うようなことも、意外と相手は迷惑と思ってない、ということも「VRChat」に来てから感じています。勝手に漫画のネタにされたら怒られるんじゃないかって思ってたんですけど、意外にみんな許してくれるんですよね。それどころか感謝されることもある。なんというか、クリエイター・表現者に対して、すごくほめてくれる風土なんですよね。

――わかります。なにか作ったり、おもしろいことをしたりすると、ポジティブな反応が得られやすい環境だなとは見ていて感じます。

リーチャ:
僕自身、もともと二次創作界隈にいたのでなおさら感じますね。二次創作界隈って、基本的には対価をもとめる空気感があって、どうしても表現者が疲弊してしまいやすいという実感がありました。でも、VR・XR界隈はなにかやったことに対して対価を出す、感謝を伝える、率先してなにか手伝う、といった人が多いですね。だからこそモチベーションを保ちやすいといいますか。ほめられて伸びるタイプにはありがたいですね。

――クリエイターの方に限らず、評価やリアクションが得られないで自己評価が低くなってしまうという人は多いですよね。そしてこの「VRChat」は「助けられたのでお返ししたい」と考えるひとがとても多い。

リーチャ:
僕も最初に漫画を描きたいと思った動機は、「僕を楽しませてくれたVRChatの人にお返ししなきゃ!」という思いからでしたから。やっぱ人間、持ちつ持たれつですよ!

――今後の活動に向けて、なにか目標などはありますか?

リーチャ:
もっともっとVRのことを伝えていきたいですね! なので、有名になることはもちろんですが、今年は「リアルもがんばる」ことを目標にしています。

「バーチャルマーケット2023リアルinアキバ」みたいに、リアルとバーチャルをかけあわせるイベントがけっこう増えていることもあり、そこにもできる限り顔を出していきたいなと思っています。そして、漫画を描き出したときに考えていた、「VRを知らない人に、VRとはなんなのかをどう伝えるか」ということを、リアルにも出てもう一度考えてみたいなと。


(「リアルに出ていく」と意気込みながらも、先日の「バーチャルマーケット2023リアルinアキバ」では……?)

リーチャ:
あとはですね、「漫画以外の表現」についてもがんばっていきたいです。まだ詳細は話せないんですが、お待ちいただければなと。もしダメだったらごめんなさい、ということで!

――最後に、直近で宣伝などあればお願いします。

リーチャ:
「ぽかぽかファンタズム元年」、やります!! ご期待ください!!

――本日はありがとうございました!


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