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業界動向 2022.01.28

Unityはメタバースにどう関わるのか?大型買収の背景をインタビュー

2000年代、ゲームを開発する統合ツールとして登場したゲームエンジンは、今や広く3DCGのインタラクティブコンテンツを作れるツールとして成長しつつある。ゲームのみならず、映像制作、産業活用など様々な領域で使われる3DCGのコンテンツ制作に使われている。

そして、ゲームの延長として登場したVR/ARの開発ツールとしても広く使われており、昨今注目を集めているメタバースを構築するためのツールにもなる。

2021年11月11日、ゲームエンジンの一角であるUnityを提供するUniy Technlogiesは、ニュージーランドのVFXスタジオWeta Digital(以下、Weta)を16億2500万ドルで買収した。高品質な3DCGコンテンツ制作をさらに強化するための買収だが、そのプレスリリースの中にもメタバースの言葉が見られた。

この他にはない世界的な VFX ツール群を世界中のクリエイターとアーティストに届け、さらにツール群が Unity プラットフォームに統合された暁には、次世代の RT3D を生み出し、メタバースの未来を形作ることが私たちの目的です。メタバースが何であり、どんなものとなるにせよ、それを作り出すのは皆さんのようなコンテンツクリエイターであると私達は信じています。

Weta Digital買収の結果Unityはどう変わっていくのか、そしてUnityはメタバースのトレンドにどう関わっていくのか、Unityのクリエイト部門のシニアバイスプレジデント、マーク・ウィッテン氏にメール・インタビューで話をきいた。


マーク・ウィッテン / Marc Whitten
マーク・ウィッテンは、Xbox Liveサービスを指揮し、3世代にわたるXboxコンソールとプラットフォームを支え、XboxのVP兼Chief Product Officerを務めました。SonosのCPOを2年間務めた後、Marcはこの5年間、Amazonのエンターテイメントデバイスのうち、特にFire TV、Kindle、新しいLunaゲームサービス、Fire Tabletなどを幅広く指揮してきました。
彼は、2021年2月にUnityに入社し、クリエイト部門を担当しています。クリエイト部門には、Unityのエンジンとエディターのほか、テレビ・映画、建築、エンジニアリング・建設、小売・eコマース、製造などの分野をサポートするためにUnityが推進している業務を包括する、さまざまなサービスやツールが含まれています。

買収のキーワードは”クラウドレンダリング”

――Wetaの買収はサプライズでした。買収を計画/検討し始めたのはいつ頃からだったのでしょうか?

マーク・ウィッテン氏(以下、ウィッテン):

2021年の初めに話し合いが行われていました。

――買収のリリースには「これらのツールをクラウド化し、アーティストが既に使用しているワークフローと容易に統合できるようにすることが我々の意図である」とあります。Unityのツールは具体的にどう変わるのでしょうか?

ウィッテン:

私たちが提供するSaaSソリューションには、ワークフローの一部としてクラウドレンダリングが含まれます。Wetaは、最終フレームのレンダリングから作業レビューまでサポートする、優れたレンダリングツールを持っています。これらのツールとUnityのストリーミング機能を組み合わせ、Unityのリアルタイムレンダリングの橋渡しにすることで、完全なクラウドレンダリングソリューションを提供する予定です。

――2015年に、UE4でWetaが作成した「Thief in the Shadows」という非常に高品質なVR体験デモを試しました。買収後もWetaの独立性が保たれるとありますが、今後WetaのツールはUnityのみ対応することになるのでしょうか?

ウィッテン:

Wetaのツールは、できるだけ多くのクリエイターに使ってもらいたいと考えています。Unityは常にこれらのツールやソリューションの民主化を目指しています。また、私たちの提供するツールの多くはエンジンに依存せず、Unity上で動作させる必要はありません。クリエイターが増えることで、世界がより良くなると考えているため、クリエイターが自分とプロジェクトに適したツールやソリューションを自由に選択できるようにしたいですね。

――Wetaのツールは、XRのリアルタイムレンダリングに対応するために、クリエイターがコンテンツを調整する機能を搭載するのでしょうか?

ウィッテン:

私たちはDCCツールを置き換えるのではなく、むしろこれらのツールの力を拡張し、制作とコラボレーションのための新しい機能を提供することで、DCCツールを使用しているアーティストの生産性を加速させることを目的としています。既存のDCCツールも積極的にサポートする予定です。

Wetaは最近、SideFX(3DCGソフト「Houdini」の提供元)との提携を発表し、WetaHを発売しました。前例のないレベルの創造性を可能にし、特にアーティストがHoudiniとWetaの受賞歴のある技術との深い統合を活用できるようにします。この買収によって(提携関係が)変わることは何もありません。

さらに、WetaとAutodeskは最近、Wetaが設計・開発したツールをAutodeskのMayaプラットフォームに完全に組み込んで提供する画期的な製品であるWetaMを発表しました。Wetaは、近い将来プライベートベータ版としてWetaMを展開する予定です。

――今回の買収を受けてUnityがWetaの技術を応用して作るツールや機能はいつから利用可能になるのでしょうか?

ウィッテン:

時期についての詳細はまだお伝えできません。我々は、現在の超高品質なVFXツールとコンテンツを幅広いRT3Dアプリケーションで使用できるようにすることに集中しており、配信のタイムラインについては随時更新していきます。

Unityが考える、メタバースで起こるエキサイティングなこと

――Unityが考えるメタバースとはどのようなものでしょうか。

ウィッテン:

メタバースとは、現在のインターネットと同義だと思っています。そしてその新たなインターネットをメタバースたらしめているのは、リアルタイム3D(RT3D)です。(3DCGの)世界はRT3Dになりつつあります。私たちは今、ポケットの中に処理能力を持っています。 3Dグラフィックスが登場し、ゲームやエンターテインメントにとどまらず、コンピュータ体験のあらゆる側面に浸透しています。インターネットもそこに向かっており、私たちはメタバースをインターネットの3D進化版と考えています。

メタバースは、世界が見たことのないような、コンピューティングプラットフォームにおける最大かつ最も強力な革命となるでしょう。モバイル革命よりも、ウェブ革命よりも大きなものです。

私たちはメタバースの出現を信じます、それは必然です。RT3Dの採用により、人々のデジタルコンテンツへの接し方が変化する中、Unityはすでにメタバースがどのように形成され続けるかを決定づける大きな役割を担っていると、私たちは理解しています。そして、メタバースは実際に構築する必要はなく、すでにあることを認識することが重要です。

――メタバースがインターネットと同義とのことですが、メタバースはオープンになるのでしょうか?どのようにつながっていくのでしょうか?

ウィッテン:

メタバースというと、企業や場所について語られることが多いですが、本当にエキサイティングなのは、何億、何十億というクリエイターたちが、自分たちの望むメタバースを作り始めたときに何が起こるか、です。

Unityは、メタバースがシームレスで没入感のあるものになり、日常のスクリーンや表面、そしてクールなメガネを通して、デジタルとフィジカルな世界が融合されるという希望的観測を持っています。

メタバースには何百万もの目的地が存在し、そのほとんどがリアルタイムで、3Dで、インタラクティブで、空間的で、ユーザーが意識するものになるでしょう。しかし、この世界がオープンであるかクローズドであるかは、私たち自身に問うべき重要な問題です。

――現在、ゲーム、VRSNS、アバターなど、様々なコンテンツがメタバース領域/市場への参入を目指しています。メタバース・ビジョンの実現に向けて、どのようにお考えでしょうか。

ウィッテン:

メタバースは、次のクリエイティブの波です。メタバースの核心は、現実世界とデジタルを混ぜ合わせ、壁に囲まれた庭を取り除き、アクセスを分散させることで、人々があらゆる新しい方法で創造することを可能にするムーブメントにあります。

メタバースは壁に囲まれた庭やウェブサイトではなく、分散化され、誰でも利用でき、アンビエントで、物理的なものとデジタルが無理なく混ざり合っているものなのです。私たちが正しく行えば、それはクリエイターによって所有され、彼らがこの新しい世界を本当に定義するものになります。

――メタバース構築に向かっていく中で、Unityはどのような役割を果たすのでしょうか?

ウィッテン:

Unityは、プラットフォームの力よりもクリエイターの力を信じています。個人のクリエイターが持つ本来の良さ、そしてクリエイターが集まって明日に向けた発明をするチームの良さを信じています。そして、メタバースがよりオープンで、より豊かで、より参入障壁の少ないものになるよう、Unityがポジティブな力になれると信じています。

私たちは、メタバースを作ることをサポートしていくつもりです。コンテンツ制作、クロスプラットフォームアクセス、クリエイターと消費者の間の距離を縮め、摩擦を減らすことに重点を置いていきます。

――Wetaの技術を「メタバースのための技術」と呼ぶのはなぜですか?

ウィッテン:

私たちは、メタバース、もしくはそれを何と呼ぼうとも、それに貢献したいと願う世界中の何百万人ものクリエイターによって構築されると信じています。Wetaのツールをこうしたプロやコンシューマのクリエイターの手に渡すことで、私たちはメタバースに必要なツールを提供しているのです。

――メタバースに参加するクリエイターは、今後どのような作品を作っていくのでしょうか?

ウィッテン:

RT3Dの技術で、デジタルな自分自身にオンラインショッピングや試着ができるようになるでしょう。いまはNetflixで”見ている”コンテンツとインタラクションができるようになります。より多くの産業がRT3Dに取り組み、RT3Dで構築すればするほど、デジタル世界が現実世界とつながるのです。Unityはその中心で、クリエイターが物理世界と仮想世界をまたぐコンテンツ、体験、製品を作ることができるようにします。

――今回はありがとうございました。


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