一体型VRヘッドセットの「Oculus Quest 2」が発売され大きな話題となるなど、VRがさらなる進化を遂げた2020年。今VRヘッドセットを買うならどれがオススメなのか、Mogura VR News / MoguLive編集長のすんくぼと、Mogura VR News副編集長の水原由紀が対談形式で語ります。
しばらくは「Oculus Quest 2」の独壇場に?
- 水原:
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2020年は一体型の新モデルとして「Oculus Quest 2(Quest 2)」が発売されましたね。
- すんくぼ:
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Quest 2は……なんというか、「こんなに安くていいの?」みたいなVRヘッドセットだったね。「フェイスブックの次のデバイスは、初代Questの廉価版になる」みたいな噂は結構あったけど、蓋を開けてみたら廉価版どころかだいぶスペックが上がってた。
- 水原:
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プロセッサーは倍くらいの性能で、ディスプレイは両眼合計で4K近くになりましたよね。おまけに最安モデルは税別33,800円と。初代Questの最安モデルと比較しても、3分の2程度にまで下がりました。正直驚きましたね。
- すんくぼ:
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いやびっくりだよ。今までは「一体型だし、スペックやトラッキングが……」という理由でハイエンドなPC向けVRヘッドセットを好む層と、PCなしで手軽にできて価格も安い一体型のQuestを選ぶ層があったと思う。でも、一体型VRヘッドセットのQuest 2にはOculus Linkがあって、しかもヘッドセット側の解像度も高くなったので、PC向けVRヘッドセットを好んでいた層もかなり取り込めるレベルになってきた。
- 水原:
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全身トラッキングしたい、みたいなケースは別として、「どっちがいい?」って聞かれたら、安い上に一体型としても使えるし、Quest 2を選んじゃいますよね。しかも家電量販店でも売っているわけですし。
- すんくぼ:
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2019年にQuestが出た時は「情勢が変わった」「この値段でこれは破格」って言ってたのに、2020年もまた同じことを言ってる気がする(笑)
- すんくぼ:
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「VR初心者の人は何を買ったらいいの?」って聞かれたとき、去年なら「Oculus Questがいいよ!」って返してたけど、2020年は「Oculus Quest 2を買おう!」って結論になるね。「PCVRをやってみよう」って人にもオススメできるVRヘッドセットになってるし。
- 水原:
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QuestやQuest 2とゲーミングPCと接続し、PCの方で描画を処理することで高画質・高品質なVR体験ができる「Oculus Link」という機能があるんですが、Quest 2はディスプレイ解像度が上がったことで、Oculus Linkをさらに活かせるようになったんですよね。
- すんくぼ:
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初代QuestにもOculus Linkはあったんだけど、ディスプレイ解像度等の都合でPC接続型の「Oculus Rift S」あたりに画質が負けてた。今は「もうQuest 2だけで良いよね?」的な状況で、フェイスブックもRift Sの2021年終売を決定してる。
- 水原:
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もう「Quest 2買おうぜ」ってのはしばらく揺るがないですね。
- すんくぼ:
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ただ固定するところがスポンジになったり、ヘッドバンドやIPD(瞳孔間距離)の調整スライダーが変わったり、数字に出ないところの作りが甘くなってるんだよね。この価格で提供するために切り詰めたんだろうけど。
「対応コンテンツ」は増加、「最適化されたコンテンツ」はこれから
- すんくぼ:
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ただ、Quest 2はデバイス的にはかなりすごいものが出てきたんだけど、「Quest 2に最適化されたVRコンテンツ」はまだそんなに多くないんだよね。今はQuest向けに最適化された、若干解像度が粗いVRコンテンツが多い。これが原因で「Quest 2は若干ぼやけた感が残ってる」と誤解されるケースもありそうだと思ってる。
- 水原:
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せっかく良いディスプレイになったのに使いこなせてないと。しかしQuest向けのコンテンツをQuest 2にそのままポンと出したら解像度上がる、というわけではないですし、Quest 2の真価を発揮できるコンテンツがもっと増えてくれると嬉しいですよね。
- すんくぼ:
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コンソールゲーム機と同じだよね。新しいハードウェアが出た時は、だいたいソフトウェアはスペックを完全に使い切ることができてないけど、時間が経つにつれてレベルがどんどん上がっていく。同じ現象が起きるんじゃないかな。
- 水原:
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コンテンツの数の話をすると、初代Questのリリース時よりは圧倒的に増えましたよね。
- すんくぼ:
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Questも最初の頃はコンテンツ不足気味だったね……。Quest 2は正式に量販店でも販売がスタートしたし、日本発タイトルが結構出てきたり、今までのQuestのゲームで日本語対応したものも増えた。たった一年だけど、だいぶ隔世の感がある。
プレミアム路線はやはり「VALVE INDEX」か
- すんくぼ:
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今まではいろんなデバイスが発売される群雄割拠の時代だったけど、最近は平定に向かってる。高性能・低価格で攻めるフェイスブックについていけるメーカーがない。
- 水原:
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2016年にはPC向けVRヘッドセットの他にも、PlayStation VR(PSVR)もリリースされてましたよね。翌年にはマイクロソフトと提携したメーカーがWindows Mixed Reality(Windows MR)ヘッドセットを出していましたが、2020年では一部を除いてほぼ開発が止まっていたり、新規に出ていない状態です。
- すんくぼ:
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一般ユーザー向けはOculus、もといフェイスブックの独走状態だよね。ペースよくデバイスを出してたHTC VIVE系列で、2019年に出た「VIVE Cosmos」あたりもなかなか難しくて。低価格に走らず、価格はフルセット9万8000円ほど。Oculus Rift Sと比べて見え方もきれいで良かったけど、価格帯と質感がちぐはぐな印象がある。
(PC接続型ヘッドセット「VIVE Cosmos Elite」。「SteamVR」向けのベースステーションで外部センサーを使ったトラッキングができる)
- 水原:
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その後にベースステーション対応の「VIVE Cosmos Elite」がリリースされましたが、最近はベースステーションを使ったトラッキングを行うデバイスは「VALVE INDEX」に軍配が上がるイメージはあります。
- すんくぼ:
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ベースステーションを使ったトラッキング精度の高さを求めるなら、つまりプレミアム路線のVRがやりたいなら今年もVALVE INDEXだね。10万円以上するけど「お金を出してでも、いいVRやりたい」層の有力な選択肢だと思う。
(PC向けのVRヘッドセット「VALVE INDEX」。5本の指をトラッキングできるコントローラーが特徴)
- 水原:
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VIVE Cosmos EliteやVALVE INDEXは、VIVEトラッカー等の追加トラッキングデバイスが使いたい人の需要が強いと思います。ただ、そうじゃなければQuest 2で話が済んでしまうんですよね。
- すんくぼ:
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ゲーミングPCとVALVE INDEXをセットで買うか、Quest 2を単体で買うかってなってくると、値段が全然違うんだよね。
- 水原:
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Quest系列のデバイスでも気軽に全身トラッキングできるようにならないですかね。
- すんくぼ:
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Questみたいに上半身のみトラッキングできるVRヘッドセットと、追加のトラッキングシステムを組み合わせて……みたいなデバイスを開発している人がいるから、有力な選択肢になるかもしれない。
Windows MR系列の「HP Reverb G2」にも注目
- すんくぼ:
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2020年をちょっとはみ出しちゃうけど、来年頭にはもう一つVRデバイスが出るよね。
- 水原:
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Windows MR系列でほぼ唯一後継機を出している、HPの「HP Reverb G2」ですね。PC接続型、解像度はほぼ4K、価格は約6万円。Quest 2よりも解像度が高く、視野角も一定以上あり、コントローラーもセットになっています。さらにインサイドアウトのカメラベースのトラッキングだから、ベースステーションも不要ですね。
(マイクロソフトとValveが共同開発した「HP Reverb G2」)
- すんくぼ:
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プレミアムなVR体験というとVALVE INDEXだけど、HP Reverb G2も期待値は高いね。
あとHP Reverb G2は、Windows MRという規格で動くデバイスなんだよね。
- すんくぼ:
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簡単に説明すると、Windows MRという同一の仕組みで動くデバイスのグループがあって、ヘッドセットは各社異なるけれどコントローラーは全部同じ。サムスンだけちょっとカスタムしてたけど、基本的なところは変わらない、というデバイス群。
(Windows MR系ヘッドセットはDell、HP、レノボ、サムスン、エイサーなど様々な企業が開発・販売していた)
- すんくぼ:
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コントローラーの形が他のデバイスに比べると独特なんでちょっと使いづらかったけど、Reverb G2のコントローラーはデザインが変更されてるみたいだから、使いやすくなってるかもしれない。
- 水原:
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初代Reverbのカメラは2つだったので、トラッキング範囲が狭く、たまにコントローラーの位置がズレたり飛んだりしてたんですよね。今回はカメラが4つになっているので、だいぶ改善するのではないかと思っています。Questも4つですし。
- すんくぼ:
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2019年に発売された初代Reverbも映像がきれいだったけど、さらにこなれてレベルアップしたのがHP Reverb G2かなと。レンズとオーディオはVALVEが設計していて、ヘッドホンもVALVE INDEXと同じく「オフイヤー」、つまり浮く形になっている。
- 水原:
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ベースステーションを使わないVALVE INDEXみたいなイメージですね。
- すんくぼ:
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コントローラー部分の懸念が解決されるなら、ミドルラインの唯一の星になるかもしれないね。今後さらに続けていくとしたら、「G3」とか「G4」的なデバイスも出てくるかも、と思うと結構楽しみ。
- 水原:
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企業向けの「HP Reverb G2 Omnicept Edition」はアイトラッキング(視線追跡)や心拍センサー、フェイスカメラも搭載されてますね。
- すんくぼ:
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企業がVR研修やシミュレーターの類の効果測定に使うんだろうね。他にもクリエイターの人たちが意表を突くような使い方をしてくれそう。
PSVRのソフトも遊べるPS5
(2020年11月12日に発売されたPlayStation 5。PSVRにも対応している)
- すんくぼ:
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よく聞かれる「PSVR2はいつ出るの?」という質問だけど、2020年末にPS5が発売されたね。ただ、PS5とPSVR2を合わせて出すことはないと思うし、しばらくは発売されないんじゃないかな。
- 水原:
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気になるのは「PSVR2」よりも「PS5で出てくるPSVR対応・PSVR専用コンテンツ」ですね。
- すんくぼ:
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そうだね。PS5でPS4とPSVRのソフトも遊べるわけだし、「PS5のPSVR用ソフト」がどれぐらい出てくるかは気になる。PS4とPS5でスペックが全然ちがうし、PSVRは4年前のデバイスなんで解像度はだいぶ劣るけど、どこまでリッチなVRができるのかなと。
- 水原:
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ソフトで言うと、例えば「ASTRO BOT」なんかはすごく良いタイトルでしたよね。
- すんくぼ:
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PSVRはいいゲームが結構出てるよね。最近出た「アイアンマンVR」とか、他にも「マインクラフト」が対応してたり。「みんなのゴルフVR」とかのプラットフォーム限定タイトルもある。「PSVRのコンテンツを遊びたいからPSVRを買う」は十分ありえるんじゃないかな。Quest 2と比べても、まだPSVRの方が日本語のコンテンツが多いと思うし。
結論:2020年の「今」買うべきVRヘッドセットはこれだ!
- すんくぼ:
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今年は「VRは初めて」とか「PCVRもちょっとやってみたい」という人にはOculus Quest 2がオススメかな。プレミアムなVR体験にこだわりたい人はVALVE INDEXを狙うべし。在庫切れのケースも結構多いから入荷を見逃さないように。
あなたはどんな人? |
オススメのVRヘッドセット |
VRが気になる、VRを試してみたい |
Oculus Quest 2 |
PCVRも体験してみたい |
Oculus Quest 2(+Oculus Link) |
プレミアムなVR体験がしたい |
VALVE INDEX |
- 水原:
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先ほど話していたように、PCVRをやってみたい人は「HP Reverb G2」もオススメできますね。解像度も高いし。フルトラッキング等はできないけれど、十分プレミアムな体験になると思います。
- すんくぼ:
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去年のVRヘッドセット比較記事を読み返してたんだけど、今年はだいぶスリムな記事になっちゃったね。慌ただしい年だったということもあるけど、何よりOculus Quest 2がすごすぎた。
2019年は「このデバイスはこれができるけど、ここが弱い」という話がたくさんできた。今年は良くも悪くもOculus Quest 2の価格の安さ、スペックの高さ、ニーズの対応範囲の広さが圧倒的だったように思う。
- 水原:
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2020年はOculus Quest 2がかっさらっていった年ということで。2021年もどんなデバイスやVRコンテンツが出てくるのか楽しみですね。
(終)