ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)とマーベルのコラボレーションと言えば、2018年にPlayStation 4向けに発売された「Marvel’s Spider-Man(スパイダーマン)」。簡単操作で楽しめるお馴染みのワイヤーアクションと、ニューヨークの街中を縦横無尽に飛び回る作りから、海外のみならず日本でも大ヒットしました。
そんなスパイダーマンに次いで、マーベルとのコラボ作品として登場したのが「マーベル アイアンマン VR」。アメコミシリーズ「アイアンマン」を原作とするPlayStation VR(PSVR)専用タイトルです。開発はステルスアドベンチャー「Republique(リパブリック)」を手掛けた「Camouflaj」が担当。
スパイダーマンがワイヤーアクションの楽しさを追求したなら、アイアンマンは何を求めたのか?それはシンプルに“アイアンマンになれること”。結論から言えば、アイアンマンをVRゲームにする意義が最大限込められた良作・力作に完成されています。
360度飛行可能な箱庭空間をアイアンマンになって舞う!
世界的な軍需産業「スターク・インダストリーズ」の社長であるアンソニー・エドワード・スターク(通称:トニー・スターク、以下トニー)。彼は社長就任後、数々の新技術開発で一躍時の人になりましたが、ある戦地を視察した際に現地のゲリラに襲われ、重傷を負った状態で捕虜にされてしまいます。トニーは自らの命を繋ぎとめるため、その場で特殊なパワードスーツ製作に従事。犠牲を払いながらも、その力を駆使してアジトからの脱出に成功します。そして、自らが開発した兵器が使われる現状を目の当たりにしたのをきっかけに、兵器製造業からの引退を決意。以降は「アイアンマン」として、悪と戦いながら技術開発に専念することになりました。
トニーが世界的なスーパーヒーローになって数年後。彼はプライベートジェット上で社長業を秘書のペッパー・ポッツに引き継ぐことを発表します。しかし、その最中に反企業主義者「ゴースト」と彼女率いるドローンの軍勢が襲撃。トニーはアイアンマンとなってこれを退けますが、ペッパーは負傷し入院してしまいます。後にゴーストが世界各地のスターク・インダストリーズ支社への攻撃を目論んでいることを知ったトニーは、これを迎撃するため出動する……というオープニングと共に本編は幕を開けます。
ちなみにストーリーの設定は本作独自のもの。ただ、トニーがアイアンマンになるまでの経緯が省略されているため、最低でも2008年上映の実写映画版『アイアンマン』はあらかじめ観ることをおすすめします。
(※先述のあらすじは、映画版を元に筆者が独自に加筆しました)
ゲームはアクションシューティング+アドベンチャーとも言える内容。トニーことアイアンマンになって、空中を舞台に繰り広げられる戦闘をこなしながらストーリーを進めていきます。
本編は章単位で用意されたエピソードを軸に展開。各章は戦闘と地表が舞台となる探索の2つのパートで構成され、前者はアイアンマンになって空を舞い、ドローンたちとの戦いを繰り広げていきます。
戦闘における見所は360度自由に移動可能な箱庭空間。VRゲームとしては非常に野心的、かつ開放感に富んだフィールドを縦横無尽に飛び回れます。
“アイアンマンらしさ”を徹底追求した操作も見所のひとつ。PlayStation Move(以下、PS Move)モーションコントローラー2本を両手に持ち、Tボタンを押すと手の平の「リパルサー・ジェット」を噴射。それを後ろに向けるようPS Moveコントローラーを動かすと前進し、前に向けて動かせば後退する、“いかにも”なものになっています。方向転換・調整もヘッドセットを直接動かして行います。ただ、45~90度視点を切り替える(ターンさせる)ボタンもあるので、それほど動かなくても遊べるよう工夫されています。
さらに手の平を前方に向けるようPS Moveコントローラーを構え、中央のMoveボタンを押せば通常攻撃「リパルサー・レイ」を照射。(右手の場合)×ボタンを押しっぱなしにすると拳にエネルギーがチャージされ、そのままPS Moveを振ればロケットパンチが発動します。ゲームが進むと腕に装着されたもうひとつの武器「サブウェポン」、強力な「ユニビーム」も使用可能に。どれもアイアンマンらしい手応えで、開放感のある箱庭空間も相まって圧倒的な”なりきり感”を提供します。まさに本作のキモとも言える魅力が詰まった仕上がりです。
対照的に探索はアドベンチャーゲーム風の作り。ポイントごとにワープ移動し、怪しいものを調べたり、アイテムを回収したりしていきます。次にどこへ向かうかも基本、「!」マークで示されるので、行き詰まることなく進める設計。全体的に幕間の印象が強いパートになっています。ただ、相応にストーリーを掘り下げるイベントや仕掛けは満載。
こんなお遊びネタも随所に用意されています。
またゲームが進むと、トニーのガレージが解禁。ガレージではパワードスーツのカスタマイズが可能です。章クリア時に得られる「リサーチポイント」を消費することで部位に応じたパーツを製作でき、攻撃手段の拡張や基礎ステータス強化などを図れます。
ガレージには地球儀も置かれており、途中からはここで次の章(エリア)を選んで進める流れになります。もちろん、クリア済みの章(エリア)を選択して再プレイするのも可能。本編とは関係ないサイドミッションに挑戦したり、自由に飛行を楽しむ寄り道も用意されています。
他にも数多くの要素があるのですが、総じて”盛り沢山”と表せる内容です。そんな本作最大の魅力を挙げるなら、極上のアイアンマン“なりきり”体験でしょう。
アイアンマンのキャラクターを活かした圧倒的な”なりきり感”
そもそも実際のトニー同様、パワードスーツをまとった1人称視点でプレイする時点でなりきり感抜群です。ただ、そこをより一層引き立てるのがPS Moveコントローラー2本を用いる操作。
さすがに直接手を使ってではなく、物理的なコントローラーを介した“ご都合”が生じたスタイルですが、「リパルサー・ジェット」による飛行、「リパルサー・レイ」を始めとする攻撃手段の全てがアイアンマンの特徴に基づいたコントロールを要求してくるため、否が応にも自分がアイアンマンになっていることを意識します。
操作全般の癖の強さも特筆に値します。アクションゲームで操作に癖がある場合、動かしていて気持ちよくない、ハードルが高いなどのマイナスイメージを抱くかもしれません。実際、始めて間もない頃は思うがままに動かせません。空は飛べても、方向転換などの細かい調整に四苦八苦することでしょう。
しかし、それが当然なのです。だからこそ面白いのです!なぜなら、アイアンマン……手の平に備え付けた噴射装置を制御しながら空を飛ぶ、そのスタイルからして特殊なヒーローですから。
これで思うがまま飛べでもしたら、その個性が薄れること確実。本作はアイアンマンのゲームですから、それらしい操作感を目指さねばならない。一風変わった飛び方をするから、癖も含めて再現してこそ“らしくなる”。そのような確固たるこだわりが操作周りに込められており、唯一無二の“動かす面白さ”を表現しています。数々の失敗に重ねた末にアイアンマンというヒーローが誕生する。まさに極上と言っても過言ではない“なりきり”が描かれているのです。
これほどアイアンマンというキャラクターが持つ魅力をゲームに落とし込んで作られているのは、圧巻の一言に尽きます。アクションゲームとしても、癖があるなりにプレイしていくにつれ、思い通りに動かせるようになる上達の快感が表現されているのが見事。VRゲームとした意義も明確に示されていて、アイアンマンだからこそこれが表現できたとも言える仕上がりになっています。キャラクターゲームかくあるべし、です。
また、箱庭空間を360度自由に移動できる点から懸念されるのがVR酔いですが、これもアイアンマンというキャラクターで対策してしまっているのが凄い。元々、頭部も含めてスーツを被り、視界の四隅にはレーダーなどのディスプレイ情報が表示されますので、必然的に視界が狭くなります。
そして、戦闘開始前にはスーツ装着シークエンスが挟まれるのですが、この時、目の部分が最後に表示され、フィールドが広範囲に広がって表示されるので、必然的に視界が一点に定まります。ゆえに移動中も、そこに目を合わせてプレイしてしまう。キャラクターの特徴がそのまま、酔い対策として効果的に機能しているのです。
この対策しているようで対策と感じさせない作りには、いかにアイアンマンがVRとの親和性が高いかを実感させられます。普通にプレイしていると特に意識することはありませんが、実はアイアンマンだからこそ成し得たものになっている。改めて仕組みをひも解いてみると、本作の計算された設計に驚かされるはずです。
ただ、全く酔わない訳ではありません。主に地表に接近したり、降り立つ時には違和感が襲ってきます。岩肌などの障害物が近くに来た時もそこそこ。
このため、一連の要素がまとめて登場する9章は、人によっては応えるかもしれません(しかも長い)。PlayStation Storeで配信中の体験版でプレイできるチュートリアルにもそんな場面がありますので、違和感を覚えた時は一旦、休憩することをおすすめします。
ある程度、酔いを軽減してプレイしたいならば立ち姿勢がいいでしょう。一応、座りながらでも遊べなくはないのですが、立ってプレイすれば“なりきり感”も相応のものになりますので、強く推奨します。
藤原啓治氏演じる、最期のアイアンマン
そんなアイアンマンになって挑む本編の章数は10以上と、ボリューム満点。メインストーリーだけでも大体7~10時間は要する密度です。さらにタイムアタック、ウェーブごとに襲い来るドローンの襲撃から生き残るサイドミッションが章ごとに用意されていますので、その攻略も含めればプレイ時間は約2~3倍に。VRゲームとしては、なかなかの規模です。
戦闘もドローンとの1対多の展開が大半を占めますが、仲間の援護、装置の防衛、追跡などのイベントが都度発生するなど、変化を付ける工夫が凝らされています。難易度も3種類あり、ストーリーを楽しみたい、ゲームとしての手応えを感じたいプレイヤーそれぞれの欲求をフォロー。メニュー画面から自由に行えるのも嬉しいところです。
ただ、操作の癖から、初めての場合はプレイヤーのゲーム経験値を問わず、最も簡単な「見習い」から始めるのがおすすめです。先の通り、クリアしたミッションは後から再チャレンジ可能で、その時に難易度も変えられますので、まず1周して操作のコツを掴み、ストーリーを楽しんでから通常難易度「ヒーロー」以降に挑むのがいいでしょう。
そんなストーリーも、マーベルが監修しているだけに盤石の出来。特に本作のヴィラン(悪役)「ゴースト」は非常に魅力的なキャラクターとして描かれており、彼女がトニーを恨む背景に迫っていく中盤から終盤の展開は胸が熱くなること請け合い。トニーが自らの過去と対峙し、困難を経験しながら乗り越えていく過程もグッとくるものを感じるはずです。
なお、音声は日本語吹き替え仕様で、トニー(アイアンマン)には2008年の映画版から彼を演じ続けた声優の藤原啓治氏が配役されています。
既報の通りですが、藤原氏は本作発売前の2020年4月12日、癌のため逝去されました。そのため、本作が氏が演じる最期のアイアンマンとなります。もし、その声を耳に焼き付けたいのであれば、ぜひ本作を購入して堪能いただければと思います。
ちなみにトニーだけでなく、好戦的な性格のAI・ガンスミスも藤原氏が演じています。演技もトニーとは真逆で、生前に様々な役柄を演じた氏の凄味を感じること請け合いです。
高いハードルを乗り越えるだけの価値はある良作にして力作
魅力を書き連ねてきましたが、難点も幾つかあります。特にVRで箱庭空間を実現した代償とも言えるロードの長さは、せっかちな人ほどストレスを感じてしまうかもしれません。ただ、時間の長さが逆に休憩時間として機能していたりもしますので、一長一短です。
操作も癖の強さとは別に暴発しやすいアクションが存在します。特にTボタン2度押しで発動するブーストは、噴射加減を微調整する際に何度か意図せず発動させて上昇しすぎたり、ルートから外れてしまうことが多々ありました。Tボタンの仕様(感圧式)も影響している模様ですが、もう少し判定をシビアにして良かったように筆者は感じました。
細かい所でも、カスタマイズは装備の変更限定なため、威力の強化などは不可能で味気ない点や、後半以降、バリアを展開させるサポート型ドローンが多々登場してダメージを与える過程が煩わしくなる点も気になりました。
そして、やはり最も大きな点はPS Moveコントローラー2本が必須なことでしょう。DUAL SHOCK4には非対応のため、未所持の方は別途購入の手間が生じる関係でプレイハードルは非常に高くなってしまっています。ソフト込みなら裕に1万超えしてしまうので、同梱パッケージを用意できなかったものかと、もどかしく感じる次第です。
そんな購入面でもハードルの高さがありますが、それを乗り越えるだけの体験が詰まったゲームになっていることは声を大にして言いたいところです。あらゆる意味で野心的、そしてアイアンマンに“なれる”体験が堪能できる良作にして力作。
特にアイアンマンのファンを名乗る人なら、ぜひプレイいただきたい1本です。VRゲーム、アクションゲームとしても特筆すべき見所が多々あり、それらが好きな人にもおすすめ。PSVRを装着し、アイアンマンになりましょう。今日からアナタはアイアンマンだ!
最後に今後プレイされる方に向けた注意点を。本作を初めて起動する際には最新のパッチをインストールするアップデートが発生するのですが、その容量が22GB強と非常に大きなものになっています。インストール前には必ずPlayStation 4本体の残容量をご確認ください。
ソフトウェア概要
タイトル |
マーベルアイアンマンVR |
発売・開発元 |
ソニー・インタラクティブエンタテインメント / Camouflaj |
プラットフォーム |
PlayStation 4、PlayStation 4 Pro(※PlayStation VR専用) |
対応コントローラー |
PlayStation Moveモーションコントローラー(※2本必須) |
価格 |
パッケージ版:4,900円(税別) |
CERO |
A(全年齢対象) |
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