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VTuber 2022.12.28

新宿東口駅前広場で、なぜ通行人たちは足を止めたのか? ボーカルユニットNornisの前代未聞の挑戦

「え、すごいすごい、何あれ?」
「VTuberのイベント? 何かやってるみたい」
「今日は人が多いね……」

新宿東口駅前広場、普段であれば歌舞伎町方面へと向かう人々の往来する場所だが、この日の夜は少し様子が違っていた。多くの若者が歩みを止め、ビルの巨大スクリーンに映る映像に釘付けになっている。

 

その視線の先には、“現実側にせり出す”ようにして手を振るVTuber3名の姿。バーチャル音楽ユニットNornisによる前代未聞のライブがリアルタイム配信されていたのだ。

前代未聞の生放送ライブ

12月27日(火)、にじさんじ発のボーカルユニット「Nornis(ノルニス)」が、1st Singleのリリースを記念したライブを開催した。そのライブの模様が映し出された場所は新宿東口駅前広場からほど近い場所に設置された巨大パネル「クロス新宿ビジョン」。ピンと来ない人には“新宿東口の猫”と言えば伝わりやすいかもしれない。

クロス新宿ビジョンは4K相当画質の巨大な湾曲ディスプレイとなっており、特定の角度から見上げると奥行きのある3Dの映像になっている。この奥行き感がなによりの特徴で、戦艦がこちらに向かってくるような映像や巨大なモンスターがこちらを本当ににらみつけてくるような映像など、迫力のあるコンテンツを放映できる。

普段は定期的に巨大な猫の動画が放送され、その愛らしい様子が大きな話題に。今年の9月に開催された第25回文化庁メディア芸術祭では「エンターテインメント部門ソーシャル・インパクト賞」を受賞。今では新宿の新たな目玉スポットとして定着しつつある。このビジョンの特徴を活かした映像広告も数多く発表され、中でも「ポケモン」「サンリオ」などのPVは通行人たちの注目を集めていた。

そんなクロス新宿ビジョンでVTuberがリアルタイムのライブを実施する。もちろん、VTuberがこのスクリーンを利用して音楽ライブを行ったという前例はこれまでにない。しかも、収録ではなく生放送だ。前代未聞の内容であるだけに、本番までどのようなかたちで放映されるのかは想像ができなかった。噂を聞きつけて、駆け付けたファンはスマホのカメラを上に向けながら、固唾をのんで見守っていた。

巨大なVTuberが我々を見ている

19時半、スクリーンにはNornis3名の巨大な姿が現れた。こちらに向けて嬉しそうに手を振る。彼女たちの目線の先には、足を止めた人たちの手を振る姿があることから、出演者側からもファンの姿が見えていると分かる。

これは後からYouTube側の配信アーカイブを確認して分かったことだが、人が多く集まっていた一帯ではカメラによる視聴者への街頭インタビューが行われており、その内容を本人たちが聞きながらリアクションを送っていたようだ。本人たちが何かしらの声に耳をかたむけて返答していることは察せられたが、まさかファン1人ひとりの声に耳をかたむけていたとは思わなかった。

広告看板用のスクリーンで、出演者とファンを繋げる企画をすること自体が驚きだ。巨大なVTuber3名がファンを見下ろしながら、寒空の中にたたずむ1人ひとりの声に耳を傾けるという構図も、YouTubeの小さな画面でVTuberを見る普段の構図と真逆のように感じられて、奇妙な緊張感があったように思う。

ライブ本編にも企画側のこだわりが見られた。細い瓦礫の上に立つ3名の姿は、肉眼でみるとビルから飛び出して見えるような構成となっており「新宿全体に向けて高らかに歌い上げるNornis」という構成になっていた。歌のクオリティに関しては言うに及ばず、3名の堂々としたパフォーマンスには迫力を感じられた。それにはもちろん、スクリーン自体の立体感も影響しているように思う。

残念なことに写真や動画で撮影した時点で、現地の迫力はなかなか伝わりにくいかもしれない。配信では3名の後ろ姿やズームなども映し出されたので、そういった意味では見どころがあるところなのだが「彼女たちの“巨大さ”」みたいなものは現地で見た時の方が感じられた。そういった意味でも「現地観覧」にこそ意味があるライブだったと言えるだろう。

ライブ全体は30分程度。正直もう少し見ていたい気持ちもあったが、短時間で残したインパクトは大きい。冒頭の通り、ライブのことを何も知らなった通行人たちが足を止めて、カメラで撮影している姿が印象的だった(自分も何も知らない状態でこのライブに遭遇する側に回りたかった。絶対に強烈な驚きがあったはずだから)。

今回のNornisのライブを見る限り「VTuber×立体スクリーン」という試みはかなり相性が良いものと言えるだろう。何より「立体感があって巨大な姿のVTuberを見上げる」構図は、かなり新鮮だった。立体スクリーンの設置自体は、1月中旬にも大阪の梅田に「梅田BS3Dビジョン」が新設予定で、今後は全国各所で増えていく可能性がある。これを皮切りにして、様々な立体スクリーンでVTuberのゲリラ的なライブパフォーマンスが見られるようになることに期待したい。

©ANYCOLOR, Inc.


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