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イベント情報 2019.03.20

現実を豊かにするものから生命への介入まで テクノロジーの可能性を多面的に見せる「Media Ambition Tokyo」

2019年2月22日から3月3日まで公開された「Media Ambition Tokyo」。「最先端のテクノロジーカルチャーを実験的なアプローチで都市実装するリアルショーケース」と銘打ち、今年で7回目の開催となりました。「都市の未来を創造するテクノロジーの可能性を東京から世界へ提示し、未来を変革する」ことを目指しています。

Media Ambition Tokyoは、既存の表現メディアにテクノロジーがどのように関わっていくかを見せています。立体作品や写真、彫刻、絵画に、AIやヴァーチャルリアリティのようなテクノロジーが加わることで、さながらサイボーグのような印象を残していました。

ARの精霊たち

面白い点は、「そもそもの展示全体を見て回るという体験自体にも、テクノロジーを介入させたとしたらどうなるだろうか?」と考えさせる仕掛けが施されていたことです。それがジュリー・ステフェン・チェンの「裏窓―タヌキのめざめ」です。

この作品はARを利用して、会場全体に描かれた精霊の絵を見つけていく体験を提供しています。会場の壁や窓の側、床に羊や猫のような絵が描かれており、スマートフォンを向けると動き出すのです。

それだけではなく、動き出した精霊たちは、参加者に質問を投げかけていきます。質問はいずれも不思議なもので、「精霊たちと会話した」ことが重視された試みのようです。このように、他の展示を観ていく中で、ひっそりと精霊を見つけていく体験を絡めることで、通常のイベント展示を観る行為を変えようとしていました。


(精霊たちが、参加者に奇妙な質問を投げかけます。)

「裏窓―タヌキのめざめ」の意図は、精霊たちとの出会いを通じて、参加者たちの世界の捉え方を見せていくことだといいます。ここではARをテクノロジーとして押し出す形ではなく、「見えないものが目に映る」精霊として描いた点も興味深い作品でした。

東京の地平線に現れるパリ

六本木ヒルズの窓の向こうは、地平線までビルが広がっています。そこへ他の国の風景が混ざりこんだらどうなるでしょうか?「The Watchers-眺めるもの」はテクノロジーによる風景の変化を描いた、3人のデジタル・アーティストによる映像作品です。

The Watchers-眺めるもの」では、東京をライブカメラで映した映像をもとに、作家それぞれの切り口で作品を制作しています。まず最初に印象深いのは、マリー・ジュリー・ブルジョワの作品です。モニターを利用して、東京の風景が広がる地平線の向こうを、パリの都市風景と入れ替えて見せます。

またマリーヌ・パジェスの「浮遊する身体」では真っ白なモニターに指で触れた間だけ円形に風景が表示されるものになっていたりと、いずれもテクノロジーにより現実の風景に対してまったく別の視線を提示して見せています。

テクノロジーによるファッションの提示

ファッションの展示に、テクノロジーはどう絡められるのでしょうか?MINOTAUR INST.の展示では新しい見せ方を行っていたといえます。

INOTAUR INST.は「伝統とされる物の持つ普遍的な要素を再認識した上での、現代的な日常着として必要な機能・タフさ・着心地などのクオリティー向上」をコンセプトに掲げたブランドです。ここでは、そんなウェアに組み込まれている機能を、視覚的に理解させる構成となっていました。

壁には「HEAT」や「COOL」といった、多くの機能を説明するアイコンが貼り付けられています。プロジェクターを利用し、それらのアイコンから展示されているウェアにラインが繋がる演出が行われていました。展示されたウェアに、どんな機能があるかを見て理解させる演出を取っています。


(壁に張り付いた様々な機能を記したプレートから、展示されている衣服にラインが繋がります。)

ファッションを見るときには、いかに質の高い素材やデザインか、あるいは安価で使いやすいかといった価値基準があるでしょう。ここでは機能そのものを押し出すMINOTAUR INST.の方向も相まって、テクノロジーとファッションを絡めた展示をシンプルな形で提示しています。

生命に介入するテクノロジーは、時にグロテスクである

文字通り“サイボーグ的”な展示だったのは、Digital Nature Groupによる「蝉-Canon」です。こちらは生きた蝉に電極を刺し、鳴き声でパッヘルベルのカノンを演奏させる作品でした。制作した佃優河氏は“BioPunk”とこの試みを名付けました。

Digital Nature Groupはその他にも「幽物質」にて、敵対的生成ネットワークによって生成されたゴキブリの声を作品化。いずれも心地よいものではなく、グロテスクな印象さえ残します。

Digital Nature Groupの作品は、総じて生命にテクノロジーがハッキングしたとすれば、どのような光景になるかを垣間見せていました。そこには現代美術の展示を観たり、あるテクノロジーの試作品を観たりする感覚とも違う、座りの悪い後味が残ります。テクノロジーが現実や肉体を侵食し、変えてしまう不気味な側面を見せたといえるでしょう。

続く「Modified Paradise」では青いライトが照らされ、全体に糸が張り巡らされた立体作品が提示されています。国内外で活躍する現代美術家の尾崎ヒロミ(スプツニ子!)氏と、ファッションデザイナーの串野真也氏のアートユニット・Another Farmによる本作は、遺伝子操作をテーマに制作されました。

暗い部屋で白く輝く西陣織は、蚕とクラゲの遺伝子を使い、発光する箇所を遺伝子操作で織り込んだ生糸で織られています。室内にはUVカットグラスが用意されており、それを通すと模様が見える仕掛けが施されています。

その他にも遺伝子操作を象徴する動物として、「ニワトリ」と「猫」をモデルにした立体作品も展示。同じく遺伝子操作で作られた生糸で作られており、全身に張り巡らされた糸が不気味さを醸し出しています。

そこからは「我々が何気なく目にする動植物の多くは人間の手で改良され続けている。特に、人間と共生してきた家畜やペット、観葉植物は、それらの意思とは無関係に変えられてきた」ことのおぞましさを、視覚で理解させようという意図を感じさせます。

テクノロジーが現実と生命を変えるということ

Media Ambition Tokyoは、会場の最初こそ「Pokémon GO AR展望台」のように馴染みやすく、明るい印象を持つ展示が並んでいました。テクノロジーが私たちの現実を豊かにするだろう、と考えられたものです。

しかし奥へ進むごとに、テクノロジーが生命や現実に介入していくことへの批判を含んだ作品も観られるようになります。そこでは痛々しく、違和感を残していく作風も見られました。総じて、明るいテクノロジーと、現実の見方を変えてしまうテクノロジー、あるいはテクノロジーそのものを批判的に見つめるものなど、多角的に見ることができる展示だったといえます。

今後もテクノロジーが私たちの現実を書き換えていくことは続くでしょう。会場の出口の近くにも「裏窓―タヌキのめざめ」の精霊たちが潜んでいました。アプリの中で浮かぶ精霊たちを見ながら、それを可愛らしいものとして捉えるべきか、あるいは不気味な示唆として捉えるべきなのか、曖昧な印象を残していきました。


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