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Vision Pro 2024.02.08

Apple Vision Proは“完璧”ではない 少しずつ見えてきた課題点とスタート地点という現実

Apple Vision Proは、(アップル自体の息のかかった)一つひとつのコンテンツのクオリティが高く、「他のデバイスで体験したものよりも、空間で体験した方が様々な側面で良い」と思わせられるものだ。その総合点の高さがデバイスとしての非常な好評価に繫がっている。

これまでのどのXRのデバイスも実現できなかった空間コンピューティングを日常的に使えると思わせるという意味で、Apple Vision Proは実用性に耐えうるものだ。

さて、先ほどから他のデバイスと比べたら……という言葉を前の記事から多用している。たしかに、他の企業がまだ到達できないものを実現しにかかっているという意味では、リードしているだろう。

しかし「Apple Vision Proは完璧なのか?」というと、気になる点が多く、完璧には程遠い。「空間コンピュータの“初代機”がようやく現れた」といった方が良さそうだ。

ここから先は大小含め筆者が数十時間使用した時点での課題を挙げてみよう。

(なお、本記事では課題をあげることに注力している。Apple Vision Proのハードウェアとしての質の高さや他のXRヘッドセットが追随できないほどの魅力については他の記事を参考にしていただきたい)

やっぱりキーボードがほしい

初期設定のときから感じたのは、アップルでも文字入力にはまだ大きな課題を残しているということだ。これまでと変わらないバーチャルキーボードが出現し、一つひとつのキーを押さなければならない。目の動きはボタンなどを選択するのには良いが、キーボード入力に利用するにはなかなか難しい。自分の注目したいキーが目線からズレてしまうことも多く、暗証番号を入力する数字キーですら筆者は苦労した。Bluetoothでキーボードを外付けで使うか、Macと接続してMacの操作系を使ってしまうのが便利だ。なお、バーチャルディスプレイを使うと、Macの画面だけでなく、Vision Proの操作もMacのキーボードとトラックパッドを使えるのは非常に便利なポイントだ。

重さとの戦い

すでに各メディアが書いていることだが、ガラスで前面を覆ったApple Vision Proは約600gと、比較的重い。ヘッドバンドなどで重心を調整しているものの、後頭部に重りもなく、どうしても前が重くなる。ヘッドバンドの調整が肝なようだが、締めすぎると逆にきつくて苦しくなり、緩いとずれてしまう。個人用だから一番いいところ(スイートスポット)を見つけられたなら、それで良いのかもしれないが、緩めて締めるという動作が必要なため、毎度調整を行うことになる。装着感に課題を感じる人は少なからず出てくるだろう。

(Dual bandをつけた様子)

Apple Vision Proには初期装備のSolo Nit Band以外に、もう一つDual bandが付属している。こちらのほうが頭頂部があるだけ、マシだがそれでもフィットしないこともあるだろう。なお、購入時に聞いた話だが、Apple Storeに持ち込むとバンドサイズの変更なども可能なようだ。フィッティングに悩んだら購入した店舗に相談するのも手かもしれない。

有線バッテリーの恐怖

Apple Vision Proはバッテリーを内蔵していない。それもそのはず内蔵したらバッテリー分だけさらに本体の重量が増えるわけで、しばらくはこのように外部接続が必要なタイプになるのかもしれない。実際に歩き回るときは、バッテリーをポケットに滑らせてしまえば問題ないが、ポケットのない服をきていた時には、他に入れる手段がないと、困ってしまうかもしれない。

何より使いながら怖かったのは、座っているときにバッテリーを机の上に置いたまま使っていたときのことだ。ふと立ち上がって歩こうとしたときにバッテリーの存在を忘れてしまい、引きずられてケーブルにダメージがあったり、ヘッドセットが落下してしまうかもしれない。

特に自分の近く=机の端に置いてしまうので、バッテリー自体が床へ落下する可能性がある。また、周りから見るとケーブルがだらりと垂れているので、見た目はどうしても悪くなる。これはアップル側の妥協ポイントだったのだろう。

体験そのものを共有しにくい

Apple Vision Proにはデバイスを使い回すための「ゲストモード」が存在している。視力矯正やフィッティングなど、他の人が被ることも想定されるため、用意されているわけだが、筆者が体験した限りはゲストモードにすれば良いというわけではない。眼鏡をかけている人はそもそも被ることができない。一応視界をiPhoneやiPadにストリーミング配信して共有する「ミラーリング機能」はあるが、あくまでも「見ているもの」を共有するだけで、体験そのものが共有できるわけではない。

純正機能とアプリが強くサードパーティのアプリはこれから

ローンチ時には600と言われていたアプリは日に日に増えているが、Apple Vision Pro自体のOSレベルでの純正機能の出来はピカイチだ。また、ローンチ前から連携していたと見られる「ディズニープラス」の3D映画など、セカンドパーティとも言えるアプリも体験の質は高い。

逆にサードパーティのアプリはというと、スタート地点かその一歩手前といった出来のものも多い印象だ。特にスマートフォン向けのARや他のMRヘッドセットのアプリを移植したようなものや、同じユーザーインターフェースのものは、今後淘汰される可能性が高い。Appleの提示する空間コンピュータに最適なアプリがどれくらいのペースで登場するのか楽しみにしたいところだ。

初期設定に時間がかかる

初期設定にはもっと時間をかけないほうが良さそうだ。空間のインターフェース自体が新しいために慣れない中で、設定項目は多い。ちなみに、現時点では英語表記のみなので、日本語状態での設定はできない。またアイトラッキングの設定作業は、視線と指の動かし方のコツを知るまでは、少し苦戦するかもしれない。

今後はMacのTime Machine、iPhoneの機種変更時のコピー機能のように引き継ぎを重視していけば設定は一瞬で終わるようになる。初めてのユーザーの敷居を下げながら2代目以降の改善に期待したい。

どこまでいってもApple製品

個人的に最も気になったのは、Apple Vision ProはAppleの他製品・他サービスユーザーが特に恩恵を受けやすいという点だ。iPhoneやiPadといったモバイル端末、そしてMac、イヤホンであるAirpods Pro(第2世代)。これらを組み合わせていくことでまるでゲームのキャラクターのレベルの上限が開放されていくようなイメージで、どんどんと機能が光りだす。

アプリの連携だけでなく、拡張ディスプレイやAirdropでの瞬時のファイル転送、iPhone15Proシリーズでの空間ビデオの撮影、Airpods Pro(第2世代)のロスレス通信など、挙げていくだけでもきりがない。

さらにその媒介を担っているのがApple IDだ。設定やパスワード共有をはじめとして、iCloudでのファイルの(意識外での)自動同期、そして製品間を繋ぐ諸機能にもApple IDでの連携は必須である。

PCはWindowを使っているユーザー、スマホはAndroidを使っているユーザーなどはその効能を100%享受することができず、使っていると「Apple製品で統一することを強制させられている感覚」になるほどだ。

現時点でApple Vision Proを試して絶賛しているメディア関係者やアーリアダプター、そして言うまでもなくAppleのロイヤリティユーザーは間違いなくAppleの他製品を保持している確率が高い。

Apple Watchなど、まだ連携の弱いデバイスもあるし、各デバイスとの連携はもっと深めてさらに便利にしてしまうこともできるだろう。Appleが今後、どこまで各製品との連携を強めるのか、はたまた空間コンピュータだけでも多くのことが成り立つ状況を作り出そうとしているのかは分からない。連携を深めれば深めるほど、外との垣根が高くなってしまうのは、もったいなく感じてしまう。

ここから先、他のメーカーも黙ってはいない

ここまで、十数時間使った時点でのApple Vision Proへの課題を挙げてきた。ソフトウェアのアップデートで改善されるものも、次世代機で改善されるものもあるだろう。アプリストアにとんでもなく便利なアプリが登場するかもしれない。そもそも、より長い時間使い続けることで、周辺機器を含めた取り回しによって、ユーザー側が慣れてきて身体と意識がApple Vision Proに最適化していくこともあるだろう。

先の記事でも書いたように、課題についても継続的にウォッチしていきたい。

結論として、Apple Vision Proは未来をより見通せるデバイスであるし、何よりAppleという世界最大手の企業が空間コンピュータという名前でXRの世界に本格的に入ってきたその最初のデバイスを体験できる絶好の機会でもある。

Appleでも最初はこのように課題だらけであり、それだけXRという領域の可能性と普及まで長丁場になるのは確定的というのも非常にポジティブな側面だ。

Apple Vision Proが大きくリードしているように感じてしまうが、実際に長時間体験し、その後でXREAL AirやMeta Quest 3を体験すると、価格含めてそれぞれの良さもまた感じられる。

2024年には、アップル以外からも、さまざまな新デバイスが投入される予定だ(Metaは噂レベルだが、XREALはすでに予告が出ている)。GoogleやサムスンもApple Vision Proに対抗するデバイスを作っている。ここから先は他のメーカーも黙ってはいないだろう。Appleが参戦して活況になりそうなこのXR(空間コンピューティング)の世界が、どうやって世に広がっていくのか非常に楽しみだ。

※日本国内におけるApple Vision Proの使用に際しては、総務省へ「技適未取得機器を用いた実験等の特例制度」に基づく届出申請を行っています。


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