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イベント情報 2015.09.02

【CEDEC 2015】『サマーレッスン』から学ぶVRゲーム開発 -開発者ディスカッション編-

8月26日から28日の3日間、パシフィコ横浜にて開催されたゲーム開発者向けカンファレンス『CEDEC2015』。最終日の28日、「VR空間でキャラクターとコミュニケーションする新しい娯楽」をテーマとした技術デモ『サマーレッスン』に関する「プロデュース編」、「テクニカル編」、「開発者ディスカッション編」といった、3コマのセッションが行われました。今回は「開発者ディスカッション編」です。

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このディスカッションでは、モデレーターとして東京工芸大教授でナムコOBである遠藤雅伸氏、サマーレッスンの開発を行った鉄拳プロジェクトから、リーダーである原田勝弘氏、プロデューサーの玉置絢氏、アートディレクターを務めた吉江秀郎氏、リードアニメーションの森本直彦氏、リードプログラマーの山本治由氏、サウンドディレクターを担当した中西哲一氏が登壇しました。

image201509012233322モデレーターを務めた遠藤雅伸氏

中西氏は、当日このセッションが初登壇だったため、「サマーレッスン」のオーディオについて解説しました。「パーソナルスペース」に対していかにこだわるかという点が、今までのゲームと最も大きな違いであるという事を指摘。いままでのゲームでは、10キロ単位で調整していたが、1センチ単位の緻密な距離感の調整が行われた部分が大変だったとのこと。服の動く音に関しても、今までのゲームでは全体で録音していたが、上部と下部で分けて録音がされました。その他、息遣いや心臓の鼓動まで録る試みまでも行われた事を語りました。

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テーマ1:サマーレッスンの「プレゼンス」とは?

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「まず、VRにおけるプレゼンスという言葉の意味を知っていらっしゃる方はどれくらいますか?」という遠藤氏の問いかけがありました。会場の反応としては意味を知っている人少なく、遠藤氏は「プレゼンス」という言葉の定義を会場の参加者と共有しました。
「VR専門の用語なのですが、没入感とはそのソフトの中に深く自分がいるような感じがするといった意味です。プレゼンスとは、もう少し踏み込んだ状況です。この世界がバーチャルである事を頭で理解していながら、意識や体が本当にそこにいるかのように誤認してしまう状態を意味します。VRで重要なのはプレゼンスを維持することです。」と遠藤氏は語りました。その中で「サマーレッスン」がプレゼンスを維持する事に最も成功していると言及しました。

・プレゼンスを生じさせるものとは?

遠藤氏は「サマーレッスン」に関して、女の子が最初に出てきた時には、「CGで出来ているな」としか思わないと言います。しかし、自分のパーソナルスペースに女の子が踏み込んできた時に「近いよ近いよ・・・そんなに近づいていいのかよ」と感じると思います。プレイヤーに女の子が近づくことによって、その子というものが実在のものであるかのように認識してしまう(プレゼンスが生じる)と説明しました。

「そんなに人が自分のパーソナルスペースに入ってくる事は稀だが、何度か経験があると思います。その経験がゲームをやっている時に思い出されてVR内でプレゼンスを感じる事が出来るという流れだと認識しています。」と、玉置氏。

また、自分が動いてしまうとプレゼンスが剥がれてしまう事について、遠藤氏は、「自分が動くという視覚的情報の中で、加速度との差分が出来てしまうとプレゼンスが剥がれてしまいます。」と解説。「サマーレッスン」では、座っている状況でいろいろな事を行うので、剥がれにくいとのこと。「女の子との距離が離れたとしても、実在していると脳が誤認した状態のままになっている」とコメントしました。遠藤氏は、「昔のVRコンテンツでは、歩き回るコンテンツが多かったが、この世代のVRはまわりの物の中で自分が本当にいる感覚(プレゼンス)を意識する事が大切なのではないかと考えている」と言います。プレゼンスを生成するコンテンツのよくできた例として「サマーレッスン」を捉えているとのこと。

テーマ2:VRで陥りがちな失敗

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「企画の段階で、今ある物(ゲーム)をVRでやればいいのではないかという話は出てきやすい。」との玉置氏の発言に対し遠藤氏は、「そこに没入感はあるが、プレゼンスは無い。」と強調して返答しました。また、没入感だけのコンテンツとプレゼンスのあるコンテンツの違いは、動き方や加速度に注意しているか否かという点だと解説しました。「プレゼンスは、自身が日常で経験している知識などの中で形成されているため、脳が想像できない事に対してはプレゼンスは生じません。こういう時にこういう状況になるんだな、という事を脳が知っている場合のみにプレゼンスは生じるということが分かっています。」と語りました。

「サマーレッスン」の中でプレゼンスが生じている男性は、女の子をじろじろ見たり、近寄ったりする事が出来なくなります。それは、現実世界でも、女の子の顔に必要以上に近づいたりなどの行為は常識的にやらないため、誤認している意識と常識が邪魔をして、行動が規制されてしまうと言います。一番典型的な例として、女の子の足元まわりに隙が出来たときに、誰もその足元にスライディングをしてパンツを見ようとしないのは、現実ではスライディングしてパンツを見に行くとなどしないからである、と遠藤氏は解説しました。女性プレイヤーの方が、パンツはどうなってるんだろうなどと真剣に調べる事が多いのは、そういった背景があるため、意識が誤認していても、行動の規制が緩いと認識しているとのこと。

「(プレゼンスによるからではなく)体験会で人の目があるから覗きにいかないのではないか?」というオーディエンスからの意見に対し、原田氏は、「サマーレッスンから離れて考えると分かりますが、例えばホラーゲームなどで、凄い怖いものがやってきた時や、このドアの先怖いですよと言われて開ける事を躊躇したりする行動などは、人の目があるからでは無く目の前にある情報に対して反応している状態なので、コンテンツのプレゼンスは生成されていると思います。」と回答しました。

陥りがちな失敗として、原田氏は、開発者の意識が「VRだからこんな事ができる」というような方向から入ってしまうと、プレイヤーのニーズを無視したものがつくられてしまうことを、最後に補足しました。

テーマ3:サマーレッスンから見えてくる国産VRコンテンツの生存戦略とは?

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3つ目のテーマは「サマーレッスンから見えてくる国産VRコンテンツの生存戦略とは?」というお題でした。

遠藤氏:「日本はVR技術でイニチアチブを取れていない部分があるが、逆に日本でしかできない部分がある事は確かだと感じています。特にリアルでないコンテンツに関して、挑んでいるのは日本だけではないが、日本が一番本気でやっていると思います。日本のお客様は世界の中で一番2次元を愛しくれている人が多い事を考えると、そういう人たちにこそ「サマーレッスン」を体験して頂きたいです。」

玉置氏:「もともと世界のゲーム開発に対して、日本は限られた資源の中でアイデア勝負で尖がったものをつくるという事があり、VRでも一緒だと感じています。」

と、それぞれがコメント。ディスカッションの中では、「歌舞伎の黒子に対して見ない事にする」など、「こういうものですよ」と説明されれば、そう見立てる事のできる日本人の「”お約束”にしたがって行動する」国民性について言及されました。VRHMDがつくる世界を、そこにいると見立てられる文化は、多様な文化を持つアメリカ人などにも価値観を共有できる人がいます。その価値を感じられる人が増えれば、VRも最終的に勝ち取っていけるのではないかと遠藤氏からの話があり、ディスカッションは締めくくられました。

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「サマーレッスン」を体験する筆者

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・CEDEC公式サイト
http://cedec.cesa.or.jp/2015/


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