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VR動画 2022.02.12

【VR映画ガイド第87回】サンドバーグの詩をモデルにしたVR映画から伝わってくるもの

手描きアニメーションと新しいテクノロジーを融合させた表現

第77回ベネツィア国際映画祭VR部門「VENICE VR EXPANDED」でグランプリを獲得、その後も世界の数々の映画祭でも受賞している「The Hangman at Home – VR」が配信開始になりました。

監督はアカデミー賞の短編アニメ部門でノミネートしている「Black Tape」や「Hollow Land」を制作し、近年では「Nothing Happens」や「SongBird」といったVRアニメーション作品を制作し、評価を得ているMichelle KranotとUri Kranotの夫妻です。

20年以上にわたって2人で創作活動をしており、従来のアニメーションの枠を超えて、手描きアニメーションのイメージと新しいテクノロジーを融合させた実験的な表現に挑戦しています。

彼らの作品は詩的な感性と、過去と現在、事実とフィクションを探求する断片的な物語を扱うことが多いのが特徴です。「The Hangman at Home – VR」はアメリカの詩人・作家であるカール・サンドバーグの象徴的な詩をもとに作られています。

作品は5つの小さなエピソードで構成され、5つの異なる環境下で行われる小さな“行い”を目撃した体験者はどう感じ、目撃した前と後ではどのように立場が変わっていくのかを問う、観客、目撃者、共犯者の間のつながりをテーマにした作品です。

オススメのポイント

1. 原作「The Hangman at Home」

作品はアメリカの詩人・作家であるカール・サンドバーグの詩「The Hangman at Home」の一節の朗読から始まります。「夜、絞首刑執行人は仕事から家に帰ると何を考えているのだろう」という冒頭の問いかけは、この作品の持つ歪な感覚を予感させると同時に、詩を映像化している新しい切り口の作品に、最初はどう理解すれば良いのか戸惑いました。

ただ、カール・サンドバーグという存在や彼の書いた詩を読んでいくとこのVR作品の魅力を少しづつ理解することができました。カール・サンドバーグはジャーナリストとして新聞や雑誌にも記事を書きながら詩を発表していて、1916年に出版した詩集「シカゴ詩集」で詩人として一躍有名になりました。

1940年にはエイブラハム・リンカーンの伝記を執筆し、ピューリッツァー賞を受賞しています。この作品の元になっている「The Hangman at Home」は絞首刑執行人の日常生活を想像しながら、そこから感じるなんとも言えない違和感が表現されている詩です。

VR作品ではその違和感を上手く表現している作品だと感じました。

2. 視点の先

体験者は5つのエピソードの中で、5人の登場人物が行うある“行い”の瞬間をただただ覗き見ることになります。その“行い”は罪まではいかない、違和感の残る歪な“行い”です。5人の登場人物は年齢も、性別も、環境も違うのですが、その“行い”によってどこか共通性が見えてきます。

そして、各エピソードの最後には、“行い”を覗き見ている体験者の存在に5人の登場人物は気づき、目が合う瞬間があります。この瞬間、私はドキッとしたのですが、この意味について自分なりに考えた結果、自分もその“行い”の共犯者になったのではないかと考えました。

これについてはぜひ体験してみていただきたいです。

3. 実験的な取り組み

今回のプロジェクトは3つの異なるアウトプットを準備しています。1つ目は今回ご紹介したシングルユーザー用の没入型体験「The Hangman at Home – VR」、2つ目はフレーム用の短編アニメーション映画「The Hangman at Home」、3つ目はより大きな会場を要するマルチユーザー用VRインスタレーション「We Are at Home」です。

アウトプット方法を3つ準備したことについて、Michelle Kranot監督はこのように述べています。

「体験者には、まずアニメーション映画とVRのシングルユーザー用作品を見てもらい、またマルチユーザー用の作品を体験してもらって、それぞれがどのように感じられるかを知ってもらいたいのです。またテーマとしては責任と説明責任の問題を取り上げており、異なる体験によって、どのようにそれらの問題を反映するのかを見てみたかったのです。」

フレーム用の短編アニメーション版はよりテーマやストーリーがわかりやすく、マルチユーザー用VRインスタレーションは同時に複数人が体験できるということもあり、複数のユーザーに作品のテーマを共感させるのと同時に“行い”の責任について疑問を投げかけています。

1つの事象でも体験を変えることで、そこから受ける印象が変化する実験的な取り組みです。

作品データ

タイトル

The Hangman at Home – VR

ジャンル

アニメーション

監督

Michelle Kranot, Uri Kranot

制作年

2021年

制作国

デンマーク、フランス、カナダ

本編尺

約25分

視聴が可能な場所

Viveport:https://www.viveport.com/9ce3ac53-e42d-4fae-8b4e-8251eb7aa5f9

Trailer

The Hangman at Home – VR / teaser from Floreal Films on Vimeo.

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