新しいモーショングラフィックスへの挑戦
今回紹介する「Tokyo Light Odyssey」は、広告映像やインスタレーション、UIのデザインなど幅広く手がけるビジュアルデザインスタジオWOWが手掛けた作品です。新しいモーショングラフィックスへ挑戦した社内プロジェクト「Beyond Motion Graphics」から生まれました。
このプロジェクトでは、VR映像を主体的に体感できる新時代の表現だと捉えています。たしかに、VRは体験者に深い没入感を与えると共に、身体的な感覚にも影響を与えるものです。体験者がモーショングラフィックスの中に入った時、どのような感覚が生まれ、どのようなデザインが必要なのか。この作品は、それらについて考え抜かれた成果と言えるでしょう。
オススメのポイント
1. 自然に行われる視線誘導
映像では、基本的にオブジェクトが前方から流れてきて、体験者を通り過ぎて、後方へと流れていきます。周囲を見回したい時と、その新たなオブジェクトが流れてくるタイミングがよく、見るべき場所を自然に指し示されていました。
体験者によって見る方向が異なるのはVR映像特有の問題であり、既存の映像手法では通用しない部分であると思います。「Tokyo Light Odyssey」では視界の進行方向や背景の情報量によってごく自然に視線を誘導する方法論の検証など、1年にわたる試行錯誤を行なったそうです。そのため、何も見えない状態から物体を出現させることで観客の注意を引き、視線を誘導するといった方法論の成果がきちんと現れていてました。
2. アイデアをつなぐストーリー
これまでのVR映画と比較すると、お話としてのストーリー性は薄いです。しかし、様々なアイデアをまとめるのに1つのストーリーがしっかりと存在しています。
最初、暗闇から星のように浮かぶ街の光が灯り、そこから体験者は東京の街へと入り込んでいきます。高層ビルの光、東京タワー、トンネルの中の点々と連なる光、電車、船、車、街のネオンと星屑のような街の断片を浮遊しながら巡っていきます。
制作者たちによる座談会によれば、体験者がヘッドマウントディスプレイでモーショングラフィックスの中に入るという企画を構想していたため、アイデアを繋げるためにストーリーが必要不可欠という結論に至ったそうです。
またVRの世界を効果的に感じられるのはファンタジーであるという考察があったようで、暗闇の中を浮遊しながら進んでいくストーリーになったそうです。体験者に無理なく見せるためのストーリーテリングの重要性を感じました。
3. ドーム型映像との差
この作品は2016年に東京・初台にあるICCで開催された、文化庁メディア芸術祭20周年企画展「New Style New Artist -アーティストたちの新たな流儀」にて展示されています。
VRだけだと展示で見れる人数が限られてしまうこともあり、ドーム型スクリーンと、ヘッドマウントディスプレイによる2種類の展示を行ない、同じ映像を流すのではなく、それぞれのメディアの特性に合わせて映像に改良を加えたそうです。
この時ドーム型映像とヘッドマウントディスプレイ用の映像の差のポイントになったのは、カメラワークだと座談会で答えています。ドーム型映像の場合スクリーンは固定され、体験者は座ったり、立ったりと様々な姿勢をとります。
また身長差もあり、目線の高さは様々になることから、シーンの特徴に合わせて消失点を下げるなどの調整を行ったそうです。確かにVR映像はどんな背の高さの人も視線の高さが同じになるのは大きな特徴の1つだと気付かされました。
また、スクリーン映像の方は明度のコントラストを付け、彩度を上げて色を調整したり、テンポ感の違いから尺を調整が行われています。
全天球映像ということで同じように捉えられることの多いVR映像とドーム型映像ですが、体験者の動きや姿勢が異なることから、やはり両者のメディア特性は大きく異なり、安易に横断することができないことがうかがい知れます。
作品データ
タイトル |
Tokyo Light Odyssey |
ジャンル |
アート |
制作 |
WOW inc. |
制作年 |
2016年 |
制作国 |
日本 |
本編尺 |
5分24秒 |
視聴が可能な場所 |
Youtube |
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