GoogleのVRアニメーションスタジオSpotlight Storiesが制作した最後の作品
帆船の黄金期が終わり、蒸気船が主流になった時代。一隻の帆船に乗った老人William Averyが故郷を離れ、大西洋をさまよっています。ある日、大型の蒸気船から落ちてしまった少女Laraを救います……。
「Age of Sail」は2019年に閉鎖されてしまったGoogleのVRアニメーションスタジオSpotlight Storiesが制作した最後の作品です。
Google Spotlight Storiesはアカデミー賞アニメ短編部門でノミネートされた「Pearl」や、劇場映画「ワイルド・スピード」シリーズを制作したジャスティン・リン監督制作の「HELP」などVR映画業界を牽引する作品を数々制作していました。特にここまで深く、印象的なストーリーテリングをするVR映画にはなかなか出会えません。
監督はディズニーの短編モノクロアニメ映画「紙飛行機(Paperman)」(2012年)でアカデミー短編アニメ賞を受賞したJohn Kahrs監督です。「紙飛行機(Paperman)」はセリフがなく、紙飛行機を使って男女の距離を縮めていく可愛らしい短編映画でした。
今回の「Age of Sail」は約12分の短尺で、セリフはあるのですが多くを語らず、深く心に残るVR映画になっています。
オススメのポイント
1. 海上にいる体験
波で船が揺れるリアリティはすさまじく、本当に海の上にいるような体験ができます。
船で酔いやすい方は、この作品を体験すると本当に船酔いしてしまうかもしれません。波の表現がリアルで、ストーリーの途中までは晴れていて穏やかな波なのですが、中盤で天候が悪くなり海が荒れるシーンは波が高くなり恐怖を感じます。
また光や影の表現が素晴らしいです。太陽の光の筋が見る角度によって変わり、自分のいる位置によって影の状況が変わり、全編に渡って緻密に作られたアニメーション作品です。
2. 深いストーリー性
「Age Of Sail」の良さは、その時代設定です。帆船から蒸気船へと移り変わった時代で、役目を失ってしまった老水夫。自分の周りから人がいなくなり、生きる場所も失いあてもなく帆船に乗って海を彷徨っています。
帆船と老水夫の境遇が重なって、何とも寂しい気持ちになります。しかし、蒸気船から落ちてしまった少女と出会い、取り巻く状況が変わっていきます。
VR映画作品は短時間で伝わる物語や最後のオチで驚かせるものが多く、深いテーマを描くのはなかなか難しいと思います。しかしVRを使って、ここまで深いストーリーを描けたのはさすがアカデミー賞監督だと思いました。
3. Google Spotlight Storiesの挑戦
Google Spotlight Storiesは2013年からモバイルデバイスのようなライトユーザー向けに3DoFの360度映画作品を制作しています。
「Buggy Night」という作品はカエルから逃げるBugを追いかけることで自然と360度見渡せるようになっており、小さな子供も、何も言わなくても直感的にBugを360度探し回って楽しんでいました。
その後、没入感のある作品づくりを目指し、ハイエンドなVRヘッドマウント向けの作品も制作するように。「Age Of Sail」や「Pearl」などは3DoF作品以外に6DoFのようなハイエンドVRヘッドマウント向けやTheatrical バージョンというフレーム向けの3つのバージョンに作品を制作しています。
同じ内容の作品を3つのバージョンを見比べると、それぞれの環境で作品の感じ方が変わることがよく分かります。Theatrical バージョンは今までの映画のように監督が伝えたいことがよく伝わってきます。
3DoFバージョンは作品の中に入って、それぞれのキャラクターの近くで物語を見つけていくような感覚で作品を鑑賞できます。一方、6DoFバージョンは作品世界に入り込み、その空間の中を自由に動けるため、自分も作品の登場人物になった感覚で物語を体験できます。
同じ内容を3つのバージョンで製作してくれたことにより、フレーム用に制作する映画とVR用に制作する映画の違いが見えてきます。
Google Spotlight Storiesが残してくれたこれらの作品は、今後VRで映画をつくる上での大切なものになっています。
作品データ
タイトル |
Age of Sail |
ジャンル |
アニメーション |
監督 |
John Kahrs |
制作年 |
2018年 |
本編尺 |
約12分 |
制作国 |
アメリカ |
視聴が可能な場所 |
視聴が可能な場所に関しては作品のオフィシャルホームページをご覧ください |
2Dバージョン
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