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VRChat 2022.08.17

思索、瞑想、チルアウト……海外VRChatアーティストたちが表現した夢の世界を訪ねて

VRChatでは出くわした人としゃべったり、ゲームやスポーツに興じたり、オンライン飲み会をしたりといった活発な遊びも楽しめます。しかし今回は、自分のペースで静かに探索を楽しめる、芸術的なワールドの制作者たちにインタビューを敢行しました。

Blue Catさん制作のワールド

まず紹介するのはBlue Catさん。制作しているのは15MB以内のすばらしく軽いワールドばかりですが、どこも異界風の情景を音楽と共に楽しめます。すべてQuest対応済なので、新しくMeta Quest2を買った友人を連れていくのにうってつけです。安らぎを感じるワールドの数々は気分転換やVR睡眠にも向いていそうです。

Breathingというワールドでは、好みのリズムを設定し、合わせて深呼吸することで瞑想の効果が得られます。なおBlue CatさんはTwitter: @VRChatPictures でVRCワールド紹介もされています。また、World Repositoryというおすすめワールドポータル集ワールドも随時更新されているので、美麗ワールドを発掘したい方はぜひチェックしてください。

The Shore [Night]


複数の月がある異境の波打ちぎわ。
URL:https://vrchat.com/home/launch?worldId=wrld_eb488a9b-7fdd-4671-9726-16c4f19552d3

A Night Away


洞窟から眺める星月夜と山々。
URL:https://vrchat.com/home/launch?worldId=wrld_c419bba3-9ebc-4ba2-a82d-9e682864ec8e

Blue Catさんインタビュー

――VRChatを始めるきっかけは何でしたか?
YouTubeの動画でVRChatに惹かれましたが、残念ながらどの動画か正確に覚えていないです。2019年ごろの、二人の人物がきれいなワールドを探索する場面を切りとった素敵な動画でした。なるべくたくさんのワールドを探求するのが、VRCを始めるや否や、私の使命になりました。

――ワールド制作のインスピレーションは何ですか?
実のところ、主に影響を受けているのはお気に入りのゲームですね。『風ノ旅ビト』、『ABZÛ (アブズ)』、『Inside』、『Firewatch』、『No Man’s Sky』などです。ミニマリズムと謎と驚異の組み合わせが大好きです。

――次回作の予定はありますか?
いえ、事前に計画することってほぼないんですよ。ひらめきの火が燃え上がるまで、週に何回かちょこちょこ手を動かすことが多いですね。一旦ひらめいたら、これでワールドが完成したなと思うまで創造性の翼を自由に羽ばたかせます。

オーゼンOzenさん制作のワールド

オーゼンOzenさんが広く知られるようになったのは、2021年に発表されたFogシリーズでしょう。モノトーンな霧や雨を、居心地の良い個室や車内から眺められます。VRChatのプロフィール欄には日本語で「vrchatで雨の世界を作るのが好きです 雨音は本当に睡眠に良いと思うので」とコメントされています。

deep fog


橋と歩道橋のある道路。
URL:https://vrchat.com/home/launch?worldId=wrld_20b24354-d67f-4622-9415-e1d14af60639

fog forest


森の中の霧煙る道路。
URL:https://vrchat.com/home/launch?worldId=wrld_53b27f96-bcc8-4d59-bf80-ca8e94c3ee7b

sunset


水に濡れた路面に太陽が照り映えている。
URL:https://vrchat.com/home/launch?worldId=wrld_a51b8f5e-8c0c-4b58-9d98-6742ddde3db9

オーゼンOzenさんインタビュー

――VRChatを始めるきっかけは何でしたか?
もっと日本語を勉強したかったのでVRChatを始めました!

――ワールド制作のインスピレーションは何ですか?
私の創作は音楽からインスピレーションを得ています。新しくVRChatのワールドを作るときはまず音楽を聴いて、そこから着想を得ます。

――次回作の予定はありますか?
今は特に予定がないです! これまでたくさん作ってきたので、どうやって新しいワールドを作るかちょっと考える時間を持とうかなと思います。

――好きな音楽のサブジャンルや、好きなアーティストがいれば教えていただけますか?
ジェイ・チョウ(周杰倫)という歌手がお気に入りです。でも創作の際はLo-fiからインスピレーションを得ていました。

deaconlineさん制作のワールド

deaconlineさんは美麗ワールドを数多く制作しています。ワールドの8割がたがサイズが大きく、Quest非対応ではありますが、その代わり見ごたえがあります。特徴は精巧でリアルな作風です。空に飛行物が浮かぶシュールなワールドや、ロボット(?)がたくさん乗っている陰鬱な雰囲気の電車などSFっぽいワールドも少なくありません。

Lakeside Retreat


謎の球体が浮かぶ湖畔。
URL:https://vrchat.com/home/launch?worldId=wrld_7b1d6464-3970-4548-9f24-476937f02a93

Desolation Epic Burn


灼熱の荒野の遺跡にさわると?
URL:https://vrchat.com/home/launch?worldId=wrld_086ba33a-76d5-4430-ae1e-32f3cd97bb33

deaconlineさんインタビュー

南アフリカ出身・在住のdeaconlineさんに、VR創作とコミュニティ活動について語っていただきました。

――VRChatを始めるきっかけは何でしたか?
もともとVR/ARのコミュニティやイベントを運営したりしていました。当時はあまり気のりしないまま、「アーティストにとって、すごく自由な場所だと保証するって!」と周囲の友人たちに強引にVRCに引きずりこまれました。そのまま今日に至る感じです。幸運にも、VR界の有名人のワールドやアバターの制作を担当する機会も得ました。

今では(VRCこそが)自分の国で、自分がメタバースに所属している実感があります。時間を過ごすのに最高の場所ですね。

――ワールド制作のインスピレーション源は何ですか?
私のインスピレーション源は芸術と自然です。偉大な芸術家たち(の業績や作品)は、それに匹敵するような美しい創作を作り上げるよう私に挑戦してくるようですし、自然は究極の巨匠です。私にできるのは自然を模倣することくらいです。(コンピュータの)計算結果が果たす役割も、自然の複雑さを模倣する後押しにすぎません。

――次回作の予定はありますか?
会心の一作『Enso』を制作中です。これはVRを介して世界のどこでもリアルな環境で瞑想できるようにする作品です。私は両親をどちらもガンで亡くし、その後、禅の瞑想を熱心に学びました。文筆家のアラン・ワッツ(1915 – 1973、英国)は、西洋と東洋の哲学をとても美しく融合できていたように思います。私はその努力を拡張できるように努めています。

このプロジェクトには長年取り組んできましたが、ようやくアプリのインディー版をリリースできそうです。自動生成されるVR環境で、呼吸法に焦点を当てたマインドフルネスが体感できるものです。進捗はhttps://TeamEpic.orgを参照するか、私のTwitter: @deac_online / VRChat / LinkedInをフォローしてご確認ください。

――携わっている国際的なプロジェクトや、アフリカでのプロジェクトについて少し紹介してください。
私は2019年からJade Adair、Daliso Ngoma、Steve Pinto、Ryan Deacon、Ann Robertsらと共に毎月、地元・南アフリカのヨハネスブルグでXRクリエイター向けのイベントWeAReVR.Joziを開催していました。ローカルのXRチーム、インディーズ、企業に話を聞く内容でした。

パンデミックが始まってからは、Rick Treweek, Jason Stapleton, Sean Devonport, Gavan Eckhartほか多数の人々と共にMetaverse Crewというイベントを開催しています。オンラインでパーティーやハッカソンを開催したり、一緒にアバターを作ったりしています。中央ヨーロッパ時間(CET)で毎週木曜日の21:00からワールドMetaverseMeetupで定例会をやっています。

最近はJudith Okonkwo, Gareth Steeleほかの人々と共に、Metaから資金を得てアフリカ大陸中のパートナーとコラボレートしてAfricaXRレポートを作成しました。アフリカのXRクリエイターを宣伝する300ページ以上のレポートです。アフリカのXRクリエイターやプロジェクトをさらに宣伝することで、より多くの地元のクリエイターに刺激を与えることができれば幸いです。インターネットが大きな変化を遂げようとしているなら、我々クルーはアフリカがそれに乗り遅れないようにしたいと思いますね。

hdorrikerさん制作のワールド

Hdorrikerさんの特徴は、謎だらけの広大なワールド。断片的な情報や読めない文字がちりばめられた場所をさまよう体験は格別です。

Cthonia


広大な異星を駆け回り、廃墟や宇宙船を見つけよう。
URL:https://vrchat.com/home/launch?worldId=wrld_f89c57f2-6c36-4d6b-b83e-c4e2a0547624

Bocuma Station


人間以外が利用しているらしい駅。プラットフォームに発着する様々な列車も見もの。
URL:https://vrchat.com/home/launch?worldId=wrld_0a8ff259-b279-4247-aa28-fd02810dab38

hdorrikerさんインタビュー

――VRChatを始めるきっかけは何でしたか?
愉快そうなゲームをいくつか見かけて、VRヘッドセットを手にとったのは2020年のことでした。それからどんなコンテンツがあるのか試しにVRChatをやってみました。その後、友達も結構VRChatに来てくれたので、パンデミックの最中でも安全に集まって遊ぶ手段としてVRChatを使っています。

――ワールド制作のインスピレーションは何ですか?
場所です。使われたり、放棄されたり、再利用されたりしながら時間を経るうち、場所には命が吹きこまれます。Boards of Canadaなどのアーティストや、Vaporwaveなどのジャンルからインスピレーションを得ていますが、他からも沢山影響を得ています。

VRChatには特定の世界観を採用したシェアード・ワールドが、Zoidsのファンメイドワールドなんかも含めて色々ありますが、私は一般的にメジャーなコンテンツからは距離を置くようにしています。

私はある場所がどのように感じられたか思い起こすのが好きですが、記憶をそのまま使わずにゆがめることによって、なんだか新しく、でもなつかしいものに変え、元の記憶とは異なるものを構築します。つまりは、古いショッピングモールの断片を宇宙船に変えるようなことです(筆者注:hdorrikerさんのAbsolonというワールドは、宇宙船内部がショッピングモールを連想させるデザイン)

VRChatはこういうことができる手段として、すごく可能性があると思います。

――次回作の予定はありますか?
あります。Airportというワールドを制作中です。まだ公開してはいませんが、もうテストしていて細部を仕上げ中です。(ちなみに私の制作しているワールドは全部友達の Twitter:@dekawolf と Twitter:@fraxul に手伝ってもらっています。ふたりは当初の私になかった技術的な専門知識をずっと与えてくれました)

DrMorroさん制作のワールド

Olympia(2021)とORGANISM(2022)の完成度とオリジナリティはVRChat界の度肝を抜きました。残念ですがQuestには対応していません。統一感あるアートワークやリアルな質感が特徴で、まるで制作者の夢の中を散策しているような体験ができます。

Olympia Nights (v 1․0)


自然に恵まれたうるわしき街。ワシの背に乗って遊覧飛行も楽しめる。
URL:https://vrchat.com/home/launch?worldId=wrld_a4ef4165-681c-4f3b-a293-839aebcbc434

Moscow Trip 2002-Night Tram (v 5․0)


2002年ごろのモスクワを再現。
URLhttps://vrchat.com/home/launch?worldId=wrld_3134e231-a8e7-4827-9d32-5390a8e377c4

ORGANISM (v1․5)


集合住宅から始まる、建築物巡りの果ては……?
URL:https://vrchat.com/home/launch?worldId=wrld_de53549a-20cf-4c6f-abea-dcda197e1e16

DrMorroさんインタビュー

ロシアのモスクワにお住まいだというDrMorroさんにも回答していただきました。(英語がわからないとのことで、英語の質問に機械翻訳をベースに手直したロシア語の質問を添付し、機械翻訳で回答をいただきました)

――VRChatを始めるきっかけは何でしたか?
私は長年、伝統的な絵画(筆者注:油絵など昔ながらの手法で描かれたアナログ絵画をこう呼ぶ)を描いてきました。でも2D(平面)でやれることは限られていて、完全には表現しきれないんですよね。その点、VRはすごいツールだと思いました。そこで私は3D制作に打ちこむようになり、今では主に3Dを仕事にしています。
VRは、まちがいなくアートの未来のひとつですね。あらゆる種類のアートを融合できる環境です。願わくば、この技術がさらに進歩する時まで生きていたいものです。

――ワールド制作のインスピレーションは何ですか? ワールドMoscow Trip 2002-Night Tramの本棚には、ヴィクトル・ペレ―ヴィンやウラジーミル・ソローキン、ストルガツキー兄弟といった作家たちの本が並んでいますよね。
いかなる創作者も、生まれ育ったり、住んだりした場所の環境からインスピレーションを得ていると思います。景色、細部、本、人々の顔ぶれ、場所――これらすべてが消化され、創作者の中で芸術として育まれるのです。私のVRCワールドの場合もそうです。いろんな時期に自分が感じたことをただ伝えているだけです。ソビエト時代の小児病院の空虚な廊下とそこで点滅する照明、ヒビの入った家屋の壁、玄関の古いタイル、冬の窓辺の黄色い明かり等々、これらすべてがORGANISMを作る土壌になりました。

書籍についてはおっしゃる通りです。これらの本はかつて私をある種、満たしてくれました。
ところでORGANISMの第二弾ではもう少し理解のヒントを出そうかと思います。もっとも第二弾を作れたらの話ですが。

――ひとつのワールドの完成にどれくらい時間をかけていますか? というのも、大半のモデルが自作ではないかと思うのですが。
ORGANISMの完成には、中断をはさみつつ約10ヶ月かかりました。これは自分史上最長でした。その前までは大体3~4ヶ月でひとつ完成させていたので。おっしゃる通り、大半のモデルはレベルデザイン、壁、建築も含めて自作しています。完全にひとりで作り上げるのには限界があるので、既成のモデルやアセットも多少使っています。

――次回作の予定はありますか?
ORGANISMの補完となる作品を少し作り始めています。いわばエピローグ(後日談)です。そんなに大作にはならないと思いますが、ORGANISMの主役たちに焦点を当て、別の面からもう少し解き明かすようなものになるでしょう。ORGANISMがより明らかになるかもしれませんし、あるいは逆に、より謎めいてしまうかもしれない内容です。ぜひ補完作品を作りたいのですが、残念ながら私の周りで――家族と世界情勢の両方で――悪いことが起こっていますから、ひょっとすると完成できないかもしれません。

――OlympiaやORGANISMで特にお気に入りの場所はありますか?
いや、思いつかないです。ワールドを完成させて投稿する時点でもう完全燃焼しているので、自分では自分のワールドに入ることもありません。私にとってもっとも重要なのは制作の「過程」です。ワールドの各地にはそれぞれ別の感覚(feelings)がこもっています。それぞれのために素材を集め、文献を読み、鑑賞したり、写真を撮ったり、絵を描いたりしています。私にとっては、その部分が作業の中で何より最高なのです。

――Q4(次回作の予定)の回答について非常に残念に思います。DrMorroさんが今後とも創作活動を満喫できるよう祈っております。
お気づかいなく。人生には過酷なことがつきものです。苦難を恐れないでください。新しい考えや行動の原動力になるかもしれないので。もしかすると私を奈落の底に引きずりこむかもだけしれませんが、まあどちらに転ぼうと構いません。

――改めて、この度はご回答ありがとうございました。
ありがとうございました! あなたとプラットフォーム(筆者注:MoguLiveのこと)読者の幸運を祈ります。みなさん健康等に気をつけて、新しい体験を楽しんでください。

国境を越えて“体感”で繋がる

今回ご紹介したのは壮大な風景をじっくり味わい、深い思索を楽しめるワールドの制作者たちでした。複数人の回答で「瞑想」や「人生の苦難」というキーワードが共通していました。2Dや3Dのアートからではなく、実体験等からインスピレーションを得ている方が多かったのは少し意外でした。

VRでは、視覚だけではなく、聴覚やインタラクティブな操作と合わせて作品に没入することが可能です。そのおかげで私たちはいまや自宅でも母国語や文化の異なるアーティストたちの世界観をまるごと体感できます。

VRが、そしてVRChatが、個人の創作追求の場として充実しつつあるのを改めて実感しました。


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