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VRChat 2023.10.26

リアルとバーチャル一緒にカンパイ! VRChat「ポピー横丁」×新潟県「古町夜市」がつながった一夜

「あ、スマホで写真撮ってくれてる!」
「見せもんじゃねぇぞぉ!!」
「撮って! 撮って!」
「手振ってる!!見えてるんじゃん!」
「一緒にカンパイしようぜ!」
「ビールもってきて! ビール!」

毎夜、VRChatで多くの人でにぎわう酒場ワールド「ポピー横丁」。しかし、どうやらいつもと様子が違う。横丁の突き当りに大きなスクリーンが用意され、そこに映っているのはリアルの飲み屋の様子。現実の飲み屋とバーチャルの横丁が接続されていたのだ。

10月14、15日、Gugenka社協力のもと、新潟県の「古町夜市」とVRChatの「ポピー横丁」を繋ぐという実験的な企画が実施された。現実の飲食店スペースにはプロジェクターでVR内の映像がリアルタイムで映し出され、VRChat側ではバーチャルのスクリーンに現実の人たちの姿が表示される。

「古町夜市」とは、新潟県の文化発信地として、飲食、アート、ファッション、音楽など様々な文化の混交した独特のカルチャースペースだ。80~90年代のバブル期に活況だった新潟古町の地下街「西堀ローサ」を再び盛り上げることを目的に、さまざまな企画を実施しており、今回のVRChatポピー横丁とのコラボもその一環として行われている。そういった意味で、メタバースを活用した地域振興のひとつの実験的な試みと言えるだろう。

お互いの声や音は聞こえない。リアル側もバーチャル側も、お互いに画面に向かって、何かをしゃべりかけてみたり、手を激しく振ったり。不思議なことに、それだけで何となく伝わっているかのようだ。VRユーザーがビールを高く掲げると、リアル側でもビールをカメラに近づけ、お互いに乾杯するという光景を何度も目にすることになった。

興味深いのは、現実の会場に来た人たちの様子だ。じっとそこに留まるわけではなく、お酒を飲みに向かったり、また映像の前に帰ってきたり、マイペースに楽しんでいる。VRChat側もそれは同様で、バーの中に入って友人同士で雑談したり、路上で寝転がったりしながら、「今、リアル側は何をしているんだろう?」と様子をうかがうように戻ってきたりしていた。

お互いの時間が交差し、「向こうも向こうで楽しそうだな」と、場の盛り上がりを共有できるようになっていたのだ。この、ゆるやかな一体感が、この夜を特別なものにしていたと感じる。積極的にコミュニケーションを取る必要がない(そもそも音が聞こえないからできない)ことで、かえって一体感を得られるというのは驚きだった。

ただ、こういった現象に覚えがないわけではない。著者は、新宿のゴールデン街の飲み屋街で、7年ほど働いていたが、ひとつひとつの飲み屋が小さく、密着するように並んだ地域では、店の枠を超えて、街全体にいる人たちと気持ちが繋がっているかのような感覚になることが時折ある。別段、1人ひとりと会話したり、やりとりしたわけでもないのに、それぞれの店の中を少しのぞくだけで「ここにも自分たちと同じ人がいる」と嬉しくなる瞬間があるのだ。今回の試みを体験して得られたのは、そういった時の「店をまたいで交差する感覚」に近かったように思う。

断っておかなければならないのは、「古町夜市」のバーチャル連動企画は、別段初めてのケースではない。これまでにも、メタバース空間とリアルを映像で繋いで中継するといった試みは複数みられた。では、それら過去のケースと今回とで何が違うのかと言えば、古町夜市もポピー横丁側も、それぞれに独特の文化が育ち続け、濃密なコミュニケーションが何夜も繰り返されている場所という点にあるだろう。「ポピー横丁」は国内外から数多くのVRChatユーザーが訪れ、良い意味で混沌とした時間を楽しむ場所となっている。だからこそ、お互いのノリが波長として重なり、良い空気感が生まれていたのではないだろうか。少なくとも、ポピー横丁側から、企画の動向を観察していた著者にはそう思える。

今後こうした試みが再び行われるのかは分からない。しかし、今回のケースを見る限り「リアルとバーチャルの垣根を超えて、お互いの時間をゆるく共有する」といった試み自体は成功していたように思う。

おそらく将来的には、MR技術が導入され、よりリアル側とバーチャル側でシームレスかつリアルタイムなコミュニケーションが可能になっていくだろう。アバター姿のユーザーと、現実姿の人間が、一緒に乾杯する様子は確かに見てみたい。ただし、そのような企画を立てる上で、「それぞれの場所の空気を馴染ませられるか、違和感のないものにできるか」も重要なポイントのひとつに思える。次なる化学反応がどの場所から始まるのか、動向を追ってみたい。

写真提供:Gugenka


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