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VRゲーム・アプリ 2023.05.22

【PSVR2】柴犬が人間を導く不条理パズルゲーム『HUMANITY』レビュー 湯水のごとく湧き出る群衆の“うごめき”は圧倒的

気が付いたら柴犬になっていたあなたは謎の声に人間を導くよう命じられ、湯水のごとく湧き出る人間を工夫してゴールまで運び、大量の人間が歩いて跳んで泳いで落ちるさまを見届ける。『HUMANITY』はそういうアクションパズルゲームだ。

なんといっても大量の人間がうごめく光景の奇妙さとコミカルさ、それでいてパズルのゲームプレイを通じたシュールさと神妙さ、わずかなバイオレンスさを同時に醸し出す、本当に唯一無二のゲームだ。

本作のビジュアルの強さは本作の原作者であるデザイナーの中村勇吾氏によるものである。中村氏はUnityで制作した『HUMANITY』のプロトタイプ映像2017年12月に公開し、これをきっかけにEnhanceの水口哲也氏(VR対応ゲーム『Rez Infinite』『Tetris Effect』を制作)と2018年から共同開発を開始した。

つまり、「群衆が歩く映像(群衆を制御するアルゴリズム)」が先にあって、ゲームプレイは後から作られたのだ。開発初期の映像からすでに製品版に近い人間の群れの見た目はほぼ完成している。

むろん、本作は見た目のインパクトだけでなくゲームプレイのパズルも骨太であり、5年以上の開発期間をかけて磨き上げた「ギリギリでクリアできるパズル」のクオリティを実感させられる。なお、本作は通常の平面モードに加えてVRでもプレイ可能で、PS4/PS5/Steam版はすべてVR対応だ。本レビューではPS5版をプレイし、PSVR2で体験したVRモードにも言及している。

ゲームのシステム:犬が吠え、足場と人を制御する

『HUMANITY』の基本ルールは「柴犬を操作し、ゴールまで人間を導く」である。プレイヤーは左スティックで柴犬を動かし、×ボタンでジャンプ、□ボタンで誘導アクションを起こし、L1 / R1ボタンで誘導アクションの種類を切り替える。この4種類の操作で主なゲームプレイはほぼ完結するが、HUMANITYに用意された6つのワールドはそれぞれステージのルールやモチーフが異なる。また、その変化に沿ってストーリーが展開されていくのも楽しみの一つとなる。

ゲーム前半の主なパズルは「どのグリッドに何を配置するか?」となる。ステージの床は正方形のグリッド状に区切られており、プレイヤーはグリッドに合わせて誘導用アイテムを配置できる。

アイテムには「方向転換」や「ジャンプ」、「重力の半減」に「列の分割」など、基本的には群衆の方向と高低差を調整するアイテムが用意されていて、これらをステージに配置して群衆をゴールまで導く。ステージによってはプレイヤーが使えるアイテムの種類が異なっていたり、アイテムの設置個数に制限があったりする。

ゲーム前半では”クリア不能”になる条件が存在しないため、気兼ねなく試行錯誤したり気の向くまま眺めたりできる。なんとなく四角形のループをただぐるぐる歩かせるとか、無意味に行き止まりの壁に衝突させて人だかりのダマを作るとか、高いところから落下させて死なせるとか、人の群れに何をするかも見出すかもプレイヤーの自由である。

とはいえ、漫然とプレイしているだけでは進むことができない。道中のステージで歩く黄金像「GOLDY」を集めないとワールドの最終ステージを解禁できないからだ。GOLDYはステージに1体から3体が配置されていて人間に触れることで歩き始めるのだが、人はいくら死んでも代わりがいるもののGOLDYは死んだら復活しない。どうやったらGOLDYに人間を合流させられるか、GOLDYを死なせずにゴールまで導けるかがゲーム攻略のカギとなる。

本作はパズルゲームとしてプレイヤーを挫折させずに挑戦を促す設計が巧みにしかけられている。なんとすべてのステージで攻略のヒント映像を見ることができ、そのとおりにプレイすればクリアできる。ただし、ステージによってはヒント映像を見てもGOLDYの誘導方法は教えてくれないので、ヒント映像だけ見ていれば楽々にクリアできるとはいかない。

また、パズルの試行錯誤を円滑にするための配慮として「いつでもゲームを倍速できる機能」と「配置したアイテムをリトライ後も残すかどうか選べる(基本は”残す”が優先)」が入っている。この二つの機能が入っていなければ本作の試行錯誤は恐ろしいほどの手間になっていただろうし、製品版に始めから搭載されていたことを筆者はとても評価したい。

ゲームの後半からは前半のシュールで牧歌的な雰囲気とはうってかわって、パズルもストーリーも緊張感と複雑さが増していく。グリッドと関係なく人間を誘導できるようになり、敵対勢力が現れて人間を攻撃してくるようになり、人間というリソースが有限になるからだ。

ゲーム後半でスキル「フォロー」を習得すると、プレイヤーである柴犬が人間を連れて歩けるようになる。それまでアイテムの配置通りにしかた道しか歩けなかった人間を自由にコントロールできるようになった瞬間は爽快だが、これがグリッド状の誘導よりもよほど難しいことに気が付くまで時間はかからないだろう。

まず、自由移動がゲームプレイに組み込まれることで「アイテムを配置しておけば、群衆は勝手に動いてくれる」状況がほぼなくなるので、リトライ時の操作の手数が格段に増える。また、群衆の中の人間は、それぞれの当たり判定や挙動が個別に設定されており、一挙一動が同じ群衆はほぼ存在しない。

つまり「同じ操作をしたつもりでも同じ結果にならない」ことがそれなりに起こりはじめるので、リトライ時に「さっきと同じ操作をしたはずなのに、なぜかうまくいかなかった(あるいは、なぜかうまくいった)」ということも起こる。一度導いた人間を部分的に列から切り離したり、あるいは部分的に回収するなど、テクニカルな操作も要求される。

そして、ゲームの後半では人間と敵対する勢力が現われ、人間を攻撃してくる。ステージによっては「人間の人数が一定以上でないとクリアできない(GOLDYが開放できない)」ので、限りある人間を保護しながら誘導しないといけない。「人間が一体でも攻撃されて死亡するとクリア不能になる」といったステージも出てくる。

ただし、敵が現れると同時に人間も剣や銃といった武器を手に取り、闘い始める。数百から数千規模の大量の人間が敵対勢力と入り乱れて戦うさまは圧巻で、これがゲーム後半のカタルシスである。前半では無限に湧き出る人間をのんきに誘導していた時間を思い出すと、ゲームプレイやストーリーのギャップに懐かしささえ覚える。

このように、本作はゲーム前半と後半でゲームプレイのルールや緊張感、複雑さがガラっと変わる。とはいえ、本作のパズルがアイディアを使い切れずに終わるような尻切れや同じネタを使いすぎるようなマンネリのどちらも起こさず、推定4~6時間のボリュームにちょうど落とし込めたバランス感覚はとても優れている。

本作にはステージ作成機能も搭載されており、メインストーリー以外にもオリジナルのステージを作ったり他ユーザーが作ったステージをプレイするやりこみも楽しめる。

高度に磨かれたゲームと不条理な群衆

『HUMANITY』をプレイしていて感じたのは「非常によく調整されている」ということだ。プレイヤーキャラクターやUIのカーソルを動かしたときのサクサクとした挙動や効果音に合わせたコントローラの細かな振動、ゲームを早送りしたときや一時停止したときのBGMの再生スピードの変化など、ゲームの手触りの品質はEnhance(代表作:『Rez Infinite』、『Tetris Effect』)が共同開発であることを強く思い出させる。

実際のパズルのステージの多くが「初見だと解法に気がつかず、何度目かの挑戦で正解だと思いきや見事に罠に引っ掛かり、めげずに試行を重ねてクリアしてスッキリ」という素晴らしい謎解きの体験になっているのも、約5年の開発期間による謎解きの品質向上を感じられる。

「群衆」の描写の絶妙なラインも味わいがある。本作の群衆は見た目通り大量の人間が生まれては死ぬ(落下するだけでなく、潰れたり、敵に切られたり撃たれたりする)のだが、作中で丁寧に「肉体が滅んでも魂は不滅であり、すぐに生まれ変わる(ので安心して落下させてよい)」とわざわざ説明している。

一方でノルマ用アイテム「GOLDY」は落下で壊れたり敵に奪われたりしてしまうので、プレイヤーはGOLDYを守ることに必死になり、より人間の命の軽さとゲームプレイのバイオレンスさが浮き彫りとなる。そしてゲームが後半に入ると敵対勢力が現われ、人々は武器を手に持ち、二元を導く柴犬と柴犬を導く謎の声はただならぬ事態へと進んでいく。

ただし、ブラッシュアップされた手触りや群衆の裏で、筆者は発売日前のビルドで操作不能に陥るバグを何度か体験した。ステージクリア時のリザルト画面でコントローラ(PSVR2 Sense、DualSense問わず)のボタンを連打するとメニューの遷移が正しく機能せず、どのボタンを押しても反応しなくなってしまうのだ。

幸いにもPSボタンを押せばPS5本体のメニューに戻ることができ、ステージをクリアした直後にセーブデータは自動的に保存されるので大事には至らなかった。今後アップデートによりこの不具合が修正されるか、もしくは記事公開時点で修正済みの可能性がある。

EnhanceのVR対応ゲームの強みと『HUMANITY』

『HUMANITY』の共同開発かつ販売を担当するスタジオ「Enhance」は2016年の『Rez Infinite』や2018年の『Tetris Effect』など、VR対応ゲームの実績で名高い。Enhanceは公式サイトやインタビューなどで「共感覚(シナスタジア)」というフレーズを掲げており、サウンドが触覚と視覚に連動し、プレイヤーとゲームがシンクロするような体験がVRとの親和性の高いと評価されている(むろん、非VRモードでプレイしても素晴らしい体験である)。

これに加えて、粒子(パーティクル)を中心にした流体表現のグラフィックスと質の高いサウンドトラック、およびボタン操作とサウンドが連動することでゲームプレイがまるで楽曲を演奏しているように感じられる体験も特徴だ。

一方、『HUMANITY』は共感覚的な要素、つまりゲームプレイとサウンドの密接な紐づきが前面に押し出されているわけではない。本作の特徴的なビジュアルやサウンドトラックは素晴らしいものではあるものの、『Rez Infinite』や『Tetris Effect』のように「VR空間で心地よい音楽とビジュアルに包まれる多幸感」があるとは言い難い。

本作のVRモードの味は「現実で見られない”ミニチュアサイズの人間の群れ”を見られる」ことに尽きる。なぜなら普通のミニチュアは歩いたり落っこちたり剣や銃を手に取って戦ったりしないし、数百や数千の人間が融合して巨大なボス敵になることもないからだ。もし本作をVRでプレイできる環境があるならば、見る価値はある。

ただ、本作は非常にVR酔いを誘発する。VRモードでの操作方法は平面モードとほとんど同じ(ゲームパッドとVRコントローラのどちらでもプレイ可能)で、キャラクターを移動させながらカメラを回転してステージを見回す。しかし、このカメラ操作がVRモード最大の障害となっている。本作はプレイヤーによるカメラの内回りの旋回とプレイヤーキャラクターの移動によるカメラの位置の水平移動が同時に行われるため、プレイヤーの三半規管にとてつもない負荷がかかる。人間の頭は視界の水平移動か旋回のどちらかだけなら耐えられるが、両方を同時には耐えられないのだ。

カメラの酔い対策として画面を暗くしてからカメラを任意の角度だけ回転させて切り替えるスナップモードも用意されているが、今後はプレイヤーキャラクターが移動するたびにプレイヤーのカメラ位置が数秒ごとに暗転して切り替わるため集中してプレイできず、このカメラの挙動も酔いを誘発する。

筆者としては、カットシーンやボス戦のみVRモードでプレイし、それ以外のステージは平面でプレイしてからもう一度プレイするときなどにVRモードでプレイすることを推奨する。また、『HUMANITY』のステージ作成機能はVRモードだと利用できない(自分や他プレイヤーが作ったステージをVRでプレイすることはできる)。

総評:歯ごたえのあるパズルと不条理な群衆のビジュアルがどちらも強い

残念ながら本作はVRでのプレイが最適な環境と断言することは、はばかられるものの、唯一無二の群衆のビジュアルと質の高いパズルを誇る。

シュールな群衆のビジュアルと、歯ごたえのあるパズルに食らいつくプレイヤーの真剣み、神妙で壮大なストーリーが組み合わさることで唯一無二の奇妙でスタイリッシュで面白いゲームプレイが体験できる。「普段と違う良質なゲームをプレイしたい」と思うプレイヤーであれば、満足できる一本となるだろう。

なお、『HUMANITY』は発売日の2023年5月16日からPlayStation Plusのサブスクリプション「ゲームカタログ」に収録されるので、PlayStation Plusのエクストラプランおよびプレミアムプランの加入者はサブスクリプションでプレイすることもできる(エッセンシャルプラン加入者は対象外)。

公式サイトはこちら。
https://humanity.game/ja/
PS5、PSVR2:https://store.playstation.com/ja-jp/concept/233011/
Steam:https://store.steampowered.com/app/1581480/Humanity/

HUMANITY® / © 2019-2023 ENHANCE EXPERIENCE INC. © THA LTD. ALL RIGHTS RESERVED.


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