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ゲーム・アプリ 2019.01.09

イケメンを“さらにイケメンにする”秘密、ジークレストの「王子様のささやき朗読 VR」

2018年10月に開催された「マチ★アソビ vol.21」にて、全世界1000万ダウンロードを突破した女性向けスマホパズルRPG「夢王国と眠れる100人の王子様(夢100)」のVRコンテンツ「王子様のささやき朗読 VR」の体験会が行われました。

「イケメンテックラボ」とは、“女子ゲーNo.1”(女性向けゲーム市場でNo.1)を目指すジークレストが、キャラクターをより魅力的に見せるため、様々な最新技術を研究することを目的として設立した社内チームの名称。その研究の第一弾として制作されたのが「王子様のささやき朗読 VR」です。

今回筆者は「王子様のささやき朗読 VR」を体験、イケメンを“さらにイケメンに感じさせる”ために、どのような研究と工夫がなされているのか、その秘密を紹介します。

いざ体験!「王子様のささやき朗読 VR」

「王子様のささやき朗読 VR」のために、「夢100」に登場する王子たちの中から抜擢されたのは、カエル王国のケロタといつも一緒の物腰柔らかな王子様「ビッキー」です。

「王子様のささやき朗読 VR」は、スマートフォンを差し込むタイプのVRゴーグルで体験します(プラットフォームはGoogleのDaydreamでした)。ハイエンド向けのVRデバイスのように「体験者が動くことで、キャラクターに近づいたり遠ざかったりする」ことはできないものの、「夢100」の世界を360度楽しむことができます。

VRゴーグルを装着し、画面の中の指示に従うと、落ち着いた静かな部屋の中で、自分がソファに腰かけていることがわかります。窓の外には雪、暖炉には火がパチパチと音を立てて燃えており、オレンジ色の柔らかな光に包み込まれるような空間。すると、後方から人の気配が。ドアの開く音と共に、ビッキーが登場……!

筆者が感心したのは、コンテンツの最初から終わりまで、周到に計算されているであろう、ビッキーと体験者の絶妙な距離感でした。ビッキーは後ろから現れ、ソファに掛けている状態の体験者の右側にすっと近づき、こちらを見つめてくれます。そこでまずドキッとさせられるのですが、すぐに近寄ってくることはありません。

ビッキーはそのまま奥へ歩いていき、体験者の正面にある一人掛けのソファに座ります。ゆったりとソファに掛けたビッキーは、分厚い本を広げ、やさしく朗読を聞かせてくれます。組んだ長い足が揺れる動作など、モーションは見ていて引っかかるところがなく、非常に自然。部屋の雰囲気も相まって、なんだか眠くなってくるような、リラックスできる空間……。

しかし、朗読が一区切りすると、ビッキーが立ち上がり、こちらに近づいてきます。腕を伸ばし、体験者の頭をぽんぽんと叩いてくれる仕草。これは効く。そのあと隣に座ってくれるのですが、ここではまだ距離があるので余裕があるな…なーんて思っていると、ずずいと近づいてきて、体験者の心をかき乱します。

この一連の、後方から登場→寄ってくると見せかけて前方に行ってしまう→かと思うと横に来る→更に距離を詰めてくる……のコンボが、非常に効果的に決まっていました。声優さんの声は言わずもがな、足音・効果音などの音響が丁寧で、キャラクターの位置が移動するたびに、実際に彼がそこにいるような気配を生じさせています。

また、ビジュアル面でも、アニメっぽく見せる部分(キャラクターの顔)と、リアルに寄せる部分(キャラクターの服の素材感や、部屋の雰囲気など)が上手くブレンドされていて、違和感のない仕上がりになっていました。

隣に座られた時に、ビッキーの横顔をまじまじと見つめてしまったのですが、顔の造形はどこから見ても破綻がないように丁寧に作られており、鼻、顎、後頭部のバランスの良さに加え、筆者は特に耳の造形に感動しました。2Dイラストが元となるキャラクターを3Dにすることは非常に難しいのですが、耳そのものの形も、その配置にもリアリティがあり、ちらりと覗くピアスがよく映えていたことが印象に残っています。横に座られることで、身長の高い男性キャラクターの顔が間近に感じられ、吐息まで感じられるほどなのではないでしょうか。

開発者の語る3つのポイント

キャラクターの実在感と臨場感がしっかりと演出されていた「王子様のささやき朗読 VR」。今回は開発者の方にお話を伺い、そのポイントや目指すところについて探りました。

1. 最初の難関! できるだけ原作の見た目に近づけたい

ユーザーはゲームの2Dイラストを見慣れているので、なるべくイラストのイメージに近づけるのが第一の難関だそう。精細な三面図(実際は四面図)からモデルを制作してもらい、何度もリテイクを重ね、現在のモデルが完成しました(およそ6万ポリゴンとのこと)。特に顔の造形には、かなり多くのポリゴン数が割かれています。

キャラクターの顔には3D特有のリアルな影ではなくアニメっぽい影を付けるため、ユニティちゃんトゥーンシェーダー(UnityChanToonShader)(© UTJ/UCL)を使用。

また、アニメ的な描写ということで、前髪の下の眉が隠れない表現にも挑戦しています(眼球部分も、顔の向きに関わらず髪の毛の前に見えるようになっている)。

唇は頻繁にリップシンク(OVRLipSync)で動くので、見た目が崩れないように口元にはアウトラインを出さない・髪の毛のアウトラインと顔のアウトラインの太さを変える……など、アウトラインにもかなりのこだわりが。こうした細かい箇所への気づかいが、全体としての違和感のなさやスムーズさにつながります。

正面からだけでなく「360度どこから見ても崩れないビジュアル」を実現するために、様々な工夫がなされていることが分かります。

2. 機械っぽいカクカクした動きではない、実際の人の動きに近い自然なモーションに

細かな所作まで映しとれるよう、モーションキャプチャにはオプティトラック(OptiTrack)を使用。VR内の部屋と同じ縮尺の空間を作り、そこでモーションアクターに演技してもらったため、とても精細で自然なモーションが完成しました。

ここで強調されていたのが、「中の人」アクターもイケメンにお願いしたというところ。というのも、何度か検討を行った結果、「普通のおじさんでモーションを録った場合、イケメンの3Dモデルに入れても、やはり普通のおじさんの動きにしかならない! イケメンの動きはイケメンでないと実現できない!」という結論が導き出され、奥山敬人さん(協力:ソリッド・キューブ)にモーションアクターをお願いしたそう。おかげで、王子様らしい優雅なモーションが実現。持っている本にもセンサーが付いており、本の動きのモーションも録ったのだとか。

3. 自分がこの位置にいて、相手がその位置にいるのがわかる(距離感を感じさせる!)

コンテンツの中でキャラクターの位置関係や空間の奥行きを効果的に演出するために「Resonance Audio」を使用。体験者の正面にある暖炉のパチパチという音は前方から聞こえてきますが、体験者が右を向けば暖炉の音は左耳から、左を向けば右耳から聞こえるようになるなど、立体的な音響が設定されています。

また、ビッキーの喋る音声だけでなく、右足と左足の足音を別々に設定することで、体験者から近づいたり遠ざかったりする位置関係も、リアルに再現されています。

声、吐息、左右それぞれの足音、本を開いた時閉じた時の音など、多くのサウンドをタイミングよく制御できるように、UnityのTimeline機能が使用されています。

次作以降は未定、ぜひ新たな体験機会を!

ユーザーのキャラクターのイメージを大事にするためのビジュアル面での作り込み、実在感を増すための立体音響の工夫など、総じてモバイルVRとは思えないクオリティで完成した「王子様のささやき朗読 VR」。しかし、お話をうかがった時点では、残念ながら今後のイベント稼働予定などは立っていないのだとか……。
今後、高画質のモバイルVRを気軽に自宅でも楽しめるような環境が整ってくれば、「落ち着ける場所でキャラクターとゆったり二人きり」かつ「声優さんの新録ボイスを楽しめる」女性向けVRコンテンツには高い需要があるのではないかと感じさせられました。

イケメンテックラボ自体はVR主体のラボではなく、飽くまで女子ゲーNo.1を目指すためのキャラクター表現の技術研究が目的で、次作もVRとは限らない……というお話でしたが、今回の技術ノウハウをもとに、いずれはビッキー以外の王子様と楽しい時を過ごせるようなVRコンテンツも期待したいところです。


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