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VTuber 2023.04.24

【アーカイブ転載】VTuberで食べていくために必要なことは? 朝ノ瑠璃&裏方ノリにインタビュー

※この記事は株式会社クリスクが運営していたメディア『Bevista』で2020年12月に公開されたものを、二次掲載したものになります。執筆:ゆりいか、編集:黒木貴啓/ノオト

忍者VTuberとして2018年から活動している「朝ノ姉妹ぷろじぇくと」の朝ノ瑠璃さん。妹の朝ノ茜さんとともにYouTubeで「歌ってみた」やゲーム実況、チャレンジ企画など様々なジャンルの動画を投稿し続け、2020年8月にはチャンネル登録者数が10万人を突破しました(2020年12月時点で12.5万人)。

ゲームやボイスドラマで、他のキャラに声を当てたり“朝ノ瑠璃”役を自ら演じたりする“VTuber声優”としても活躍しており、出演作数はVTuber業界で最多の11本に。2020年11月には、ノベルゲーム『ルリイロデイズ』にメインヒロイン役として出演。同作は、杏仁ミルさんや天開司さんなど人気VTuberで学園ドラマを織りなす新ジャンルとして話題を呼び、クラウドファンディングは目標の12倍以上となる1257万7680円を集めるなど大反響となりました。

配信活動の枠を超えて活躍の場を広げてきた朝ノ瑠璃さんは、日々激動のVTuber業界でどのように活動を続けてきたのか? ぷろじぇくとの裏方として姉妹をサポートしているスタッフのノリさんとともに振り返ってもらったところ、「VTuberにはティール組織が合う」「いかに動画投稿の心理的ハードルを取っ払うか」――様々な知見が飛び出ました。


(インタビューは忍者の里よりリモートで受けていただきました)

「企画をやらせる」ではなく「夢をサポート」

――朝ノ姉妹ぷろじぇくとがYouTubeでデビューされたのは、2018年3月頃と記憶しています。当初はどのようなチャンネルとして運営していこうとお考えでしたか?

ノリ:当時はキズナアイさんやミライアカリさんといった大物VTuberの方々が急速に人気を集めていた時期でしたね。その頃は、スタッフとVTuberがタッグになって「ゲームセンターCX」のように難易度の高いゲームに挑戦する方式を考えていました。長時間やり続けることで一体感を視聴者と共有できるVTuberがいれば、面白いのではないかと。

しかし当時の流れを追っていくうちに、VTuber業界は「VTuber本人がやりたいことをやる、運営はその長所を伸ばしてあげる」方向性が非常に強いと感じるようになって。難しいゲームを嫌々させるのはあまり合わないだろう、なるべく朝ノ姉妹のやりたい夢を実現するサポートをしていこうと、大きく運営方法を変えることにしました。

朝ノ瑠璃(以下:朝ノ): そういえば、そんな話もありましたね(笑)。私も嫌なことは素直に「いやっ!」って言ってしまうタイプだし、今の運営方針になって良かったと思います。わがままだったかもしれませんが。

ノリ:わがままだとは捉えていませんよ。瑠璃さんから「これがやりたいんだ!」「この夢を叶えたい!」という強い意思が感じられたので、それを活かしていこうと考えたってことです。本人がやりたいことをどんどん出してくれるのであれば、(僕らのやりたいこと以上に)それを実現するためにサポートするのが重要だろうと考え、今の運営チームが出来上がったのだと思います。

――朝ノ瑠璃さんはデビュー当時どういったことをやりたいとお考えでしたか?

朝ノ:一番は“歌”ですね。たくさん歌を収録してMVをバンバン発表していきたいなと思っていました。今年はその目標もかなり実現できましたね。

――たしかに今年はかなり多くのMVを出されていた印象でした。

(今年の5月に発表された『chAngE』のカバーは93万再生を突破している)

朝ノ:YouTubeの運営が安定してきたおかげです。今年は生放送でも「歌ってみた」の配信が多めで、特に深夜帯だと海外のファンの方も見に来てくださっていました。印象に残っているのは姉妹のバースデーライブで、つよつよトラッキング(3Dモデルの動作精度をより精確にする技術のことを指す)が導入されて、より自由に動きやすくなった嬉しさを覚えています。

ノリ:裏方としても今年一番力を込めたのはオリジナルMVでしたね。10月に公開した『PLATFORM』は、これまで培ってきた技術の集大成的な作品です。トラッキング技術が向上したことで瑠璃さんがギターを演奏できるようになりました。楽曲については「Suspended 4th」というロックバンドの鷲山和希さんに作曲を依頼したのですが、彼自身がVTuberの文化が好きで、業界に向けてのメッセージになるような歌詞へと仕上げてもらいました。

(歌詞:ここはそう、時代の壇上 いつも電波に乗って見守る 誰のため 野暮だよ聞かないで 新たな、時代の誕生 受け入れてくれた君のため 伝えたいなって思ったの聞いてよね)

朝ノ:その情報、初出しじゃない?(笑)。たしかに、今年は出来ることの幅が広がったターニングポイントだったかもしれないですね。

VTuberは“ティール組織”と相性が良い?

――朝ノ瑠璃さんは普段スタッフの方々とどのようなやり取りをされているのですか?

朝ノ:いつもは私がノリさんたちに「このアイデアどうかな?」って思いついたことをポロっと伝えて、軽く打ち合わせする感じですね。

ノリ:基本的にはVTuber側もスタッフ側も各々で決定権を持っているので、「こういうのやりたいです!」という話が出てきたら、「それ、いいですね」という感じで軽く雑談しながら進めていきます。そのうえで、脚本や記事が必要になったら、それぞれの担当が出しますし、瑠璃さんが単独で進行することもあります。

ーーかなりフットワークの軽いチームですね。

ノリ:フレデリック・ラルーの「ティール組織(※)」という組織の考え方がありまして。簡単にまとめると、各々が決定権を持って自発的な活動をできるような組織づくりをすることを指します。個人的にですが、VTuberはこのティール組織的な活動方法と相性が良いと考えています。

 (※ティール組織…企業における役職の上下関係や売上目標、予算の計画などをあえて決めずに、それぞれのメンバーの裁量に任せて仕事をする組織)


(フレデリック・ラルー 『ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(英治出版))

VTuberは「これをやろう!」と思ったときに、即座に行動に移せるような環境が整っていることが大切です。例えば、保守的な組織体制であれば、瑠璃さんが良いアイデアを出したとしても跳ね除けられたかもしれませんし、裏方側の決めたことに束縛されていては、瑠璃さんの考え方とは合わなかったでしょう。こちらは瑠璃さんのアイデアや行動力にとても助かっていますし、それを潤滑に動かせる体制の方が相性が良いだろうと。

――朝ノ瑠璃さんとしては、現状のチームでのやり取りはどうでしょうか?

朝ノ:我が強いところがあるので、私には合っていると思います(笑)。自由に行動していても「特に悪いことでなければ良いんじゃない?」といった雰囲気はありますね。お互いを信用しているからこそ成立しているんだと思います。

――お互い仲は良い感じですか?

朝ノ:裏方のメンバー同士は仲が良いですね。(私たちとは)どう? 仲いいかな?

ノリ:仲いいですね(笑)。なぜ瑠璃さんを信頼しているかというと「VTuberとして上を目指していきたい」という気持ちが根幹にあって、それに沿って行動されているからですね。

朝ノ:ありがとうございます。お恥ずかしい……(笑)

人の目に触れる工夫と、地道な動画投稿

――VTuber活動で苦労した点はどういったものですか?

朝ノ:動画制作者あるあるだとは思いますが、「絶対に伸びる!」と思った動画がそんなには再生されなくて、「正直微妙だな」と思ったものがバズるっていう現象が去年から今年の前半まで続いて、視聴者のニーズが分からなくなっていました。

ノリ:微妙なのってどれでしたっけ?

<キャプション:姉から妹に聞きたいことがあるようです【無駄にバイノーラル音声】>

朝ノ:妹に心理テストを仕掛ける動画ですね。最後に妹がプリンを食べたのを指摘する内容なんですけど。

ーータイトルとサムネから、視聴者が「事件が起きるのかな?」と期待したのでしょうか。

朝ノ:あー! そうかもしれませんね。

――伸びないときはどうやって対策されますか?

朝ノ:YouTubeのアナリティクス(動画の視聴時間やクリック率などを確認できる機能)をチェックして、その結果をスタッフさんと共有して「この方向性の企画をもっと出してみようか?」って相談する感じです。

ノリ:今の流れをぶった切ってしまうんですが、僕は視聴回数などのデータを深く考えないようにしています。例えば、現状のVTuber界隈では雑談生放送が、視聴者数も再生回数も伸びるんですが「では、雑談こそが最高のコンテンツか?」と言われると、そうでもないですよね。

またオリジナル楽曲とカバー楽曲で再生数に大きな差があったとしても、それはカバー曲本来の知名度が関係しているので、オリジナルが劣っていることにはなりません。だから、あまり深く考えずに動画をどんどん発表した方が正解じゃないかと思います。

――お話を聞いていると、お互いで必要な役割を補完しあっているように思います。

朝ノ:たしかにデビューしたばかりの頃、データを見ては落ち込んで正直泣いたりしたこともありましたね。でもそのたびに、ノリさんに「あまり気にするなよ」と、フォローされています。

ノリ:だいたい焼肉かスイーツを奢れば、瑠璃さんは回復するので(笑)

朝ノ:ちょろいと思われてますね!(笑)

――YouTubeで「動画が再生されない」という悩みは起きがちですが、どうすれば解決に向かうのでしょうか?

ノリ:先ほど、タイトルとサムネイルの話が出てきましたが、その前に「そもそもチャンネルを見つけてもらうには?」を考えなくてはいけません。例えば、違う文化圏の人とコラボしたり、検索ワードに引っかかりやすい言葉を使ったりと、手段はさまざまです。まず基準として「人の目に触れる方法」を考えるのが、登録者数を伸ばす方法として重要だと思います。

――検索されるまでの導線を作る必要があると。

ノリ:SNSを使って有名な方と仲良くなったり、面白そうな企画をつくって参加者を募集したりするのは方法のひとつです。

――駆け出しの動画制作者はコラボを依頼するハードルが高そうですね。

朝ノ:そのためにも一番大事なのは、毎日地道に動画投稿を続けて認知を広げていくことだと思います。堅実に実績を作りつつ、「あ、この人は話しかけやすそうだな」といった雰囲気をつくるのも大事でしょうね。私も、キャリア的には早い時期からVTuber声優(VTuberとしてゲームやドラマに出演すること)として活動している自負があるので、それをもっと全面にアピールして、認知を広げていきたいなと思っています。

――今年の11月に公開された朝ノ瑠璃さん主演の『ルリイロデイズ』はそういった意味でも非常に重要な作品と言えそうですね。

(『ルリイロデイズ』…朝ノ瑠璃さんがヒロイン役を務めるビジュアルノベルゲーム。天開司やアメノセイなど、豪華VTuberが数多く出演した)

朝ノ:もともと声優はやりたいことのひとつでした。元々私は忍者として任務していたんですけれども、暗殺するタイプと暗躍するタイプでいうと、私は暗躍タイプだったんです(笑)。遊芸という忍術で、歌とか舞踊をやっているうちに「もっと表の世界のデカいホールでも披露したい!」と思ったからいろんな活動に挑戦しているんです。今回の『ルリイロデイズ』は私にVTuber声優としての仕事の貴重な経験をいただけたので、これを機にさらに成長していきたいなと思っています。

焦らない、諦めない 相談相手の大切さ

――朝ノ瑠璃さんが「VTuberになって良かったな」と感じた出来事はどういったものでしょうか?

朝ノ:そもそもはデビュー間もないときに、虹乃まほろちゃんのリアルイベント「やみなべっ!」に出演したときに「私って需要あるんだ!」と嬉しくなったのが、モチベーションの生まれた最初の出来事かもしれないですね。わざわざ遠方から来てくださったファンの方もいて、VTuberやって良かったなと思ったんですよね。

ノリ:それはきっかけのひとつと思いますが、そもそも瑠璃さんは、Twitterを開設してファンの人と交流した時点で、1ポイントすでに獲得してたはずですよ。

朝ノ:え、ポイント制なの!?

ノリ:初投稿動画のファンの反応が1ポイント、生放送での交流が1ポイントと、ひとつひとつファンからの反応が積み重なって、今のモチベーションに繋がっているんじゃないかと思います。

朝ノ:たしかにそうかも。どんどん嬉しさが積み重なった結果、先ほどのリアルイベントでバーンって爆発したんだと思います。本当にファンの方々のおかげですね。

――これからVTuberやYouTuberデビューを目指す方にアドバイスできることはありますか?

朝ノ:まずは伸びなくても焦らないことですね。伸びないのが当たり前だと思って諦めずに継続すること。それから、凹んだときに誰かに相談できるようにしておくのは大事ですね。

ノリ:最初の期間は、「案ずるより産むが易し」ですね。動画や生放送に慣れ、投稿する心理的ハードルを取っ払うのが大事です。それができた上で、数字が伸びるような努力を続けると良いと思います。

――そもそも動画のアイデアが思いつかないという方はどうすれば良いでしょうか?

ノリ:有名なYouTuberさんの企画をたくさん視聴して参考すると良いと思います。僕らの場合は「面白い!」と思った動画を見つけたらポストイットにメモって、壁に貼っていますね。

朝ノ:あーやってるね。壁一面ポストイットだらけ(笑)。ネタが尽きたら、メモ書きを見ればいいので、おすすめですよ。

――ポストイットは良いアイデアですね。ありがとうございます。最後に朝ノ姉妹ぷろじぇくとの今後の目標をお聞かせください。

朝ノ:メンバーがご飯を食べるのに困らないよう、いっぱい稼ぐ(笑)。それと新衣装を発表したいですね。ライブ用の衣装だったり、オフのパジャマ姿だったり色んなバリエーションが欲しいです。登録者数は来年30万人を目指しましょうか…!

ノリ:瑠璃さんはこう言ってますが、裏方としては朝ノさんに全てを気負わせるような状況は良くないと思っています。不慮の事故や病気は誰にでも起こりうるので、メンバーの誰かが欠けても無理せず活動が続けられるように体制を整えていきたいと思います。例えば、グッズ展開をもっと広げたり、茜さんの活動をもっと増やせるよう手配したり、姉妹ぷろじぇくとの下に別のグループを展開したり…。

朝ノ:おお!!!??? 別グループ!?

ノリ:解決アイデアのひとつってだけで、明言したものでは全然ありません(笑)。瑠璃さん一人の力だけでなく、みんなで支えあえるようにチーム作りを頑張っていきたいと思います。

――ありがとうございました。

(原案・取材・執筆:ゆりいか 企画・編集・撮影:黒木貴啓/ノオト)


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