お年寄りに元気になってもらうために。福祉でVRをツールとして使う登嶋 健太氏インタビュー

VRというとゲームや映像コンテンツなどいわゆるエンターテインメントの分野に注目が集まりがちですが、VRの活用はエンタメに留まりません。既に世界では教育、医療などにVRを使おうとする試みが始まっています。

日本では、お年寄りにVRを体験してもらおうと活動している1人の若者がいます。登嶋健太氏。介護施設で働いている登嶋氏は、2014年にVRと出会いました。スマホを挿すだけで簡単に使えるハコスコでお年寄りたちに思い出の場所の360度映像を見せたいと、2014年末にはクラウドファンディングサイトReady Forにて目標金額75万円を超える85万円でゴール。2015年には360度カメラを片手に世界を旅し、世界各地で360度映像を撮影してきました。

帰国後は、福祉でVRを活用する取組を本格的に進めています。お年寄りたちにVRを体験してもらいたいという原点はどこにあるのか、そして福祉×VRにどのような可能性を感じているのか、話を聞いてきました。

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VRはツールで「お年寄りに元気になってもらう」のがゴール

――登嶋さんは福祉の現場で働いているんですよね。

登嶋健太氏(以下敬称略):
そうです。高校を出たあと柔道整復師の免許をとって、最初は接骨院で働いていました。そこでおしゃべり好きなお年寄りたちと出会ったことで福祉の世界に興味を持つようになり、デイサービスでリハビリのスタッフとして働きはじめました。VRは運動の休憩時間に使っていました。

――2014年くらいでしょうか。

登嶋:
最初はOculus Riftでした。それも開発者版のDK1です。一度体験したらすごすぎて、これは凄いと感動して、当時働いてた施設のお年寄りにもやってもらおうと思ったんです。PCごと担いで施設に持って行きました。

――デイサービスにPCとOculus Rift……。

登嶋:
白い目で見られました(笑)リハビリへの気持ちを維持してもらうために、目標を持ってもらう事が大切です。それでVRを使ってみたかったんです。360 度動画を見せて「ここに行って、歩けるようになりましょう。それにはこの運動プログラムがいいですよ」と。

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――リハビリをがんばってもらうためのVRなんですね。

登嶋:
お年寄りが元気になるのがゴールです。VRはあくまでもツールですね。

――現在対象にしているのは比較的元気なお年寄りということでしょうか

登嶋:
はい、ターゲットはアクティブシニアと呼ばれるような積極的に情報を欲しがる人たち。運動もしながら、スマホも使いたいなっていうくらいの人たちです。

――まさに元気になるモチベーションが一番ある人ですね。

登嶋:
シニアと言うと一括りにされがちですが、70歳から100歳までカバーしてたら本当に色々な人達がいます。いま、介護に差し掛かる前の介護予防が重視されていて、僕もVRに関してはその人達に絞っています。お年寄りの皆さんがリハビリを頑張った結果、施設に来なくなるというのは彼らにとってもゴールですから。

――なるほど

登嶋:
寝たきりの人にやったことがありますが、首があまり動かせないのでせっかくのVRHMDの良さが活かせません。FOVEのようなアイ・トラッキングだとまた違うかもしれません。寝たきりの人は、VRを体験中に気づいたら寝てることもありますし…。

「ハコスコを組み立てる」プロセスが鍵

――VRを初めて体験した時のお年寄りの皆さんの反応はいかがでしたか。

登嶋:
Oculus Riftの体験は確かに楽しいのですが、デイサービスでの実施は難しいです。まず設置に時間がかかります。あと個人で装着して楽しむので、体験している人が孤立してしまいます。みんなで楽しむということができません。

――確かにVRHMDをかけるVRはパーソナルな体験ですね。

登嶋:
一番最初の開発者版(DK1)だったということもあり、酔う人が多かったです。お年寄りは、もともとめまいを感じてらっしゃる人も多いため酔いやすい印象です。あとメガネの割合も多く、かぶせると見え方がイマイチだったり、デバイスにメガネが入らなくて「うーん」ってなってしまうことも。とはいえ、VRは面白いしどうしようかと思っていたところに、ハコスコと出会いました。

――それからはハコスコ一筋ですね。

登嶋:
はい。色々試した結果、ハコスコがぴったりハマりました。ハイエンドなものもありますが、リハビリのモチベーションを上げるという目的を考えるとハコスコで十分です。お年寄りの思い出の場所を見せることが目的なので、クオリティはほとんど関係ありません。

――一手軽ですものね。

登嶋:
ハコスコは一眼なのがいいですね。メガネの人でもできるし。Oculus Riftみたいな頭にヘッドバンドがあるとがんばっちゃいます。気を遣うひとが多いので外しちゃいけないと思うみたいで…ハコスコは自分でパッと止めれるのが良いです。

――皆さんでハコスコに飾り付けをしたり、作ってますね。

登嶋:
アメリカの日系老人ホームでハコスコ体験会をやりました。組み立てることが実は鍵です。みんなで一緒に作ることにしました。「今日のテーマは夏」とか言って、題材に合わせた飾り付けをしてもらったり。そして最後の落とし所として、作ったハコスコをみんなで見るという流れが良かったですね。

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――先ほどの課題だった個人でしか楽しめないVRを、ハコスコを作るところからやる事でみんなで楽しめるものにしたんですね。

登嶋:
意外とそちらの方が重要でした。例えば1日型のデイサービスだと、1時間くらいレクリエーションの時間があります。入浴や食事の後にやるので疲れてる利用者様も多いんですよね。気分が乗らなくてハコスコを見るのを嫌がる人もいます。でも工作も楽しめる人は多いです。気持ちを徐々に盛り上げていきハコスコをします。工作していると時間もつぶれますし(笑)VRを見ているだけでは15分も続かないです。

VRが思い出を引き出す

――ハコスコを使う中で、2014年末に世界一周でクラウドファンディングを決意されたのは何がきっかけだったんでしょうか。

登嶋:
最初は日本で撮った映像を見せていたんですが、やってみると「次はここ行きたい」みたいな話がドンドン出てきました。昔その場所に行った時の思い出話が始まるんです。他の普段のプログラムでは聴いたこともなかったような情報でビックリしますね。お年寄りたちの思い出をまとめて「じゃあ行こう」と。

――そこでクラウドファンディング(笑)思い切りましたね。お年寄りに360度の写真を見せると他の見せ方とは違う反応なのでしょうか。

登嶋:
クラウドファンディングは勢いでした(笑)別にVRじゃなくてもツールはなんでも良いと思っていましたが、360度のコンテンツは写真よりも昔のことを思い出しやすいですね。

――ハコスコでもOculusでも反応は変わらなかったのでしょうか。

登嶋:
色々試した結果、ハコスコがぴったりハマりました。ダイレクトに思い出の場所なので。360度だと、景色だけじゃなくてあえて僕が移りこむことで自分も一緒にそこにいるよって。それが彼らのリハビリのモチベーションを上げるんです。また行きたいって。ハコスコで十分ですね。

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――世界一周の際は使用した360度カメラRICOH THETAも一世代前のm15でしたが、画質などは気にならなかったのでしょうか

登嶋:
撮影しているとより高画質なSの方がよかったなと思ってしまいますが、結果的にリアクションは余り変わらない(笑)お年寄りにとっては画質よりも大切なのは思い出を引き出してあげることが重要なんです。そのヒントを見つけてもらうことが大切です。画質じゃないなって最近思いますね。使い方次第です。

お年寄り向けのVRとは

――お年寄り向けのVRというところを詳しく聴きたいと思います。いろいろな方に試していただいてお年寄りならではの気をつけなければいけないことなどありましたか。

登嶋:
二眼は酔っちゃいます。2,3割の人が酔いますね、もっとかも。二眼で立体視をするとやはり頭を使いすぎてしまうようで。うっ、となってしまうんです。子供には13歳という線引がありますけど、逆に上の情報は出ていません。その辺りはもう少し探っていきたいです。

――確かに上限の議論はされてないですね。

登嶋:
もう少し調べて高齢者用のVRのガイドラインも作ってみたいですね。

――ほかにもありますか。

登嶋:
持ち方です。スマホを入れると意外と重い。無意識に腕をあげちゃうんですけど、かなり重く感じると思います。脇を締めるといいってアドバイスをします。

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――先ほどバンドが無いほうがいいという話でしたね。

登嶋:
はい。バンドがあると外したらいけないと頑張って、酔っちゃいます。距離も好きに変えられたりして遊びがあるのもいいですね。ヘッドバンドがあったほうが没入感がありますが、彼らにリハビリのモチベーションを上げてもらうことを中心に考えると、手で持ってもらってある程度自由に体験できることが非常に大切です。

――コンテンツの撮り方はどうでしょう。

登嶋:
自分もあえて映ることを心がけています。ハコスコで見た時は、僕と一緒に旅行した気分になってもらって、旅行にいきたいと思ってもらう。最初は隠れたりしてたんですけど、最終的にリハビリがんばってもらうためには、そちらのほうがよかったんです。「ここに行くために一緒に頑張りましょう!」みたいな。

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――登嶋さんが映ると反応が良さそうですね。

登嶋:
たまに左右を見てもいなくて下にいたりして、「今回はいないー」「下見てみてよ」と(笑)コミュニケーションがとれます。

――今ハコスコストアにアップロードしているのは動画ですが、静止画は使ったりするのでしょうか。

登嶋:
いきなり動くと酔う人がいるので、最初はワンクッションで静止画を30秒くらい入れています。そした徐々に動き出す動画に。

リアルからバーチャル。そしてもう一度リアルへ

――TVへもとりあげられたりと活動が広まってきていますね

登嶋:
徐々にですね。提携もしつつ、そして広めることを考えて、マネタイズも考えながらやっています。旅行会社との取り組みも始めてます。

――バーチャルで見た後はリアルに旅行ですか。

登嶋:
ハコスコで見ると「行きたい」ってなるんですよ。人によって行ける行けないはありますが、出口は用意してあげたいなと思います。僕も一緒に同行して360度で撮りに行きます。シニアの旅行には車いすの対応とか色々配慮がありますが、カタログに書いてあっても実際どうなってるのか分かりにくい。景色も見ながら、ツアーしてる人たちの状態も見えると360度の意味も出てくると思っています。景色もツアーの様子も見えて、さらには僕もいるから一緒に行った気になれる。春には桜を見る日帰りツアーをやる計画です。

――桜いいですね

登嶋:
ただ撮るだけではないことをしていきたいですね。

――今はお一人でやられているんですか?

登嶋:
はい。早稲田イーライフという介護予防型デイサービス(全国で100店舗を展開)にご賛同いただき、現場で試行錯誤を繰り返しています。

――今後はどういったことをしていきたいですか

登嶋:
まだお話できないコトもありますが、共通して言えるのは「バーチャルを見たからこそ◯◯したい」とリアルに近づけること。リハビリも旅行もその1つです。VRを経由して実生活に結びつけることをしていきたいですね。

――お年寄りたちに元気になってほしいという目的で一貫しているのが素晴らしいですね。本日はありがとうございました!

(参考)
夢を叶える福祉機器 -
http://www.ittaki.com/

この記事を書いた人

  • KFtb1VIM

    慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、環境省に入省。環境白書の作成等に携わる。ECベンチャー勤務を経て、現Mogura VR編集長、株式会社Mogura代表取締役社長。
    現実を進化させることができるVRに無限の可能性を感じ、身も心も捧げている。これまでに体験したVRコンテンツは展示、配信合わせて500作品以上。現在ももちろんコンテンツを体験し続けており、VR業界の情報集約と提供、コンサルティングに強みがある。また、海外の主要なVRイベントでは必ず現地に足を運び、取材やネットワーク構築を行っている。2016年は6回渡米。

    Twitter:@tyranusii

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    http://www.moguravr.com/writers/