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にじさんじ 2022.07.20

にじさんじVTuberの新人育成の場「VTA」がおもしろい! 限られた30分配信で磨かれる才能の原石

7月13日(水)にじさんじから、バーチャルライバーユニット「VOLTACTION」がデビューし、すでにたくさんのファンが生まれている。特にプロモーションで目立っていたのは、デビュー前の渋谷駅のピールオフ広告。剥がして持って変えることができるチラシが、ずらりと長く並べられていた。

初配信をTwitterPR広告で宣伝していたり、デビュー時にオリジナル曲を用意していたり、初配信後に公式番組に出演したりと完全なバックアップ体制のもとの、華々しいデビューだ。

メンバーは風楽奏斗渡会雲雀四季凪アキラセラフ・ダズルガーデンの4人。公式番組で、花畑チャイカが「アカデミーで何を学んできたんだ? この花畑チャイカがお前ら全員学校に戻してやるよ!」とヒールを演じて煽り盛り上がっているように、彼らには共通の学生時代があった。

「VOLTACTION」が通っていた「学校」にあたるのが、バーチャル・タレント・アカデミー通称「VTA」。にじさんじを運営するANYCOLOR株式会社が行っている、バーチャルタレント育成プロジェクトだ。

「VTA」には現在バリバリ活躍中のにじさんじライバー、「Ranunculus(ラナンキュラス)」の天ヶ瀬 むゆ先斗寧海妹四葉も所属していた。

ただ「VTA」はデビューメンバーの語り以外で、どんな学校なのかを確認できるものは限りなく少ない。というのも「VTA」からデビューしたメンバーのアーカイブは観られなくなってしまっているからだ。

タレント育成期間「VTA」

公式ページを見ると「VTA」は「Vtuberの勉強をする場所」というだけではないことがわかる。「国内最大級のVTuberグループ「にじさんじ」のノウハウを存分に活かし、バーチャルライバーとして必要なスキル向上と、才能を活かす活動機会の提供を行います」という文言にあるとおり「教育」「支援」「スタートのバックアップ」がセットの、本格的な即戦力バーチャルタレント育成プログラムだ。

「VTA」自体は、にじさんじのライバーにもその実態がほとんど知られていないくらい、謎の組織だった。にじさんじのグウェル・オス・ガールとフミによる「Ranunculus」のインタビューが行われたことによって、具体的な「VTA」の内情が明らかになった。

デビューまでの在学期間はパソコンやオーディオインターフェイスなど配信機器一式貸し出す手厚いサポートをしている。配信自体やったことがない学生もいたらしいが、身一つでOKなくらいだという。

授業ではにじさんじとして、またバーチャルタレントとして、歌、ダンス、演技などの実技レッスンもしっかり組み込まれている。動画内で語られているのを聞く限りボリューム満点のようだ。

座学授業は通学して机に並ぶスタイルと、オンライン授業スタイルの両方ある。オフラインで教室に生徒が通ってワイワイしているまさに学校生活の様子は、生徒たちからもしばしば語られている。アルバイトしながら通えるくらいではあるらしいが、かといって勉強量は少なくはなく課題もしっかり出されている。中には音楽のMIXの授業などもあるそうで、総合タレントとして技術と知識を幅広く学んでいるらしい。

「VTA」は入学費や受講費が一切かからない、というのが「Ranunculus」デビュー時の発言ではっきりした。また配信やPC作業や音楽やダンスを全く知らない人でも熱意があれば入学できる、というのも明かされている。

週一回の配信は、マネージャーが見守る中での実践、いわばOJT(※オンザジョブトレーニング)の場のようだ。配信活動は「VTA」公式で一週間に一回のみなので自由度は高いとは言えないが、その分至れり尽くせりのフォロー体制になっている。

これは「VTA」一期生の面影を観られる貴重な動画。正式デビューから「Ranunculus」「VOLTACTION」を観始めた人からすると、しゃべりの雰囲気やビジュアルが違って新鮮かもしれない。名前が別物になっている人もいる。

現時点では一期生デビューをした7人とも「VTA」時代のアーカイブは残っていない。だからこそ「VTA」で今活動している生徒の配信は、生徒の面白さの質の面でも、成長を追う楽しさとしても、挑戦する若者の青春的な意味でも、そしてANYCOLORの歴史のひとつとしても、残っているうちに少しだけいいので観ておいても損はないと思う。

「VTA」だからこそ見逃せないもの

「VTA」の配信実践スタイルはかなり特殊だ。まず配信は公式ページでのみ行われる。アカデミー生は自身のチャンネルを持っていない。配信時間は毎週1回30分以内の枠。リレー形式で、数人が順番で配信をしていく。なので時間オーバーは出来ない。

Twitterも個人のアカウントは開設することが出来ない。その代わり週に1回公式アカウントを使ってツイート(マネージャー経由で)したり、アンケートや質問を受け付けるフォームは使用できる。つまり視聴者との直接的交流は、基本的に配信内30分の間でしか取れない

しかし、制約が多いからこそ、企画力、トーク力、下準備、サムネ作りなどに特化された技術の洗練ができる。チャンネルの動画一覧を見れば、動かない立ち絵一枚からどう面白いサムネを作るか、自身の個性を出すか、全員が切磋琢磨しているのがよくわかる。

週1回だからこそ、「VTA」で生み出された30分の配信はそれぞれ濃度が高く、みどころが非常に多い。

鏑木ろこ、未来丹音羽、九埜織人…ユニークなVTA生たち

今回は「VTA」生の中から、今観ることができるおすすめの3名を紹介したい。

鏑木ろこ

「VTA」はLive2Dモデルがなく立ち絵のみの配信になる。しかしカーソルをサムネイルに重ねると常に立ち絵が激しく上下左右する「VTA」生がいる。それが一期生の鏑木ろこだ。彼女のパッションとエンタメ精神があふれているのは、配信を見ればよくわかる。

キャンプ、アニメーション制作、アコーディオンと何にでも挑戦する好奇心とフットワークの軽さの持ち主。イラストレポ、募集企画などの下準備もしっかりこなしている。ツイートもイラストメモや漫画形式が多い。

スピーディーに話しながらネタをぽいぽい投げてくる芸人的なトーク力を持ち、茶番も盛り込んでくる。コメント欄とのプロレスもお手の物。一期生のデビュー当初から手の込んだ配信と配信の構成力で注目を集めていた人物だ。

偽スパチャ選手権」では実際に流れないスパチャの代わりの偽スパチャを技術で無理やりコメント欄に流して突っ込む、高度なネタを仕込んでいる。また海妹四葉との偽コラボでは、海妹四葉に事前に録音してもらった音声だけを用いて会話に挑戦する、テクニカルで体当たりなエンタメを見せてくれる。キックボクシング太鼓ビクスなどのイラストレポでは実際に挑戦した珍しい出来事を、エッセイ漫画さながらにかなりの枚数のイラストを準備し、軽快なトークで聞かせてくれる。

毎回何かしらの変わった切り口のネタが盛り込まれている、濃い内容の彼女の30分配信は一見変わり種だが、誰しもが楽しめるよう調整されたエンタメ力を持った王道のものでもある。なので「VTA」がどんなものか最初に知るのにはもってこいだ。

幅広い方面に技術力を発揮しつつ、さらに伸びようとし続ける意欲が感じられる、パワフルな彼女。何にでも挑んで、知識や技術を吸収する楽しそうな姿自体がエンタメとして質が高い。ファンがデビューを待ち焦がれている人物のひとりだ。

未来丹音羽

一見もの静かそうな子に見えるが、口を開くと「~でございます!」とパンチのある口調。イントネーションバリバリ滑舌ばっちりの落語家のような配信を行い、視聴者を圧倒している未来丹音羽。落語や漫談、ときにはバナナ売りのようなノリで、流暢なトークを繰り広げている(なお落語経験は無いとのこと)。視聴者から「よっ!くにお(愛称のひとつ)!」のような掛け声が飛ぶこともある。

変わった食べ物が好きな彼女は、早速「喰らえ!未来丹」という食レポ企画を実施。らくだやらカンガルーやらを早速食べて、レポートを行っている。写真やイラストを盛り込み、視聴者を30分全く飽きさせない。テンションマックスな語りだが滑舌がいいので聴きやすく、最初から最後まで見入ってしまう。

レポやツイートでの撮影(イラスト)にも長けており、様々な自身と「VTA」メンバーのビジュアルを見せてくれるのも楽しい。トークのレベルが高すぎて今すぐにでもデビューできそうな勢いだが、ここに「VTA」で学ぶあらゆる技術が身についていったら鬼に金棒だろう。なんせ彼女が目指すのはデビューの先、スケールは大きく「世界」を取ることなのだから。

九埜織人

初配信でゴリゴリのマゾヒストであることを激白。アカデミー内では「お花摘みに行っていいですか」といって退室したあと、ペットボトルにお花を一輪入れて持って帰ってきた(鏑木ろこアーカイブ25:00くらいから)。その後に花をドライフラワーにした画像を連絡ツールで送る(青桐 美星乃アーカイブ07:45くらいから)。初対面の相手の一メートル眼の前まで迫って大きな声で挨拶を繰り返す(御子柴仁アーカイブ20:25くらいから)など、インパクトが大きすぎる言動で話題の九埜織人。同期はもちろん、にじさんじライバーの間でも「やべーやつ」というVtuber界隈おなじみの褒め言葉で語られている人物だ。

ぶっ飛んだエピソードを残しているだけではないのが彼の才能。それを話の軸にしながら、しっかりとした知識の元で、文学などについて語るテクニックを持っている。話の説得力のもたせ方が抜群にうまい。そのため同期の御子柴仁もその話術を高く評価し「壺とか売らんといてな?」とネタにしている。

彼の頭の良さは男装喫茶体験談の回を見るとよくわかる。序論でいきなり体験談に行かず、一旦自身が「夢女」である話を持ち出し、「夢」ジャンルとはなんなのか考えたことに触れてから話題を広げている。男装喫茶の体験談を語った後に彼が悟った「夢」についての分析を行い、現実から遠ざかることで得る魅力について滔々(とうとう)と語っている。エンタメ上で相手を話の波に飲み込んで、説得する力が半端じゃない。

ラジオ番組またはエッセイ文芸のような語りをする彼は、かなりの読書家でもある。純文学入門では名作をわかりやすくカジュアルに語りつつ、魅力を真面目に伝えている。プレゼン面での才能がかなり高いので、ソロじゃないときどんなトークをするのか楽しみでならない人物だ。

推しを発掘する楽しさ

その他にも、明るく元気かつずば抜けた演技力の立伝都々や、お腹をこわすことが趣味のダウナーガール日下部あずさ、初手で卓越した3DCGと動画編集技術を披露した小柳ロウなど、才能も個性も濃いめの「VTA」生徒たち。ファンの中には「百鬼夜行」と呼ぶ人もいるほどに、全員尖った個性の持ち主だ。

VTuberを追う面白さのひとつに、成長を追うことがある。「VTA」の学生時代からステップアップしてデビューする一連の流れ自体が物語としてドラマティックだし、有名になればなるほど学生時代の思い出は本人にもファンにも特別なものになる。アイドルのデビュー前の下積み時代の映像に、後から価値が生まれるのと同じだ。

視聴者は彼らの情熱的青春をもショーとして楽しめる。誰かひとりでいいので「VTA」生から気になる生徒を見つけるだけで、バーチャルタレントを追う楽しみが見つかるはずだ。また大きく俯瞰(ふかん)して「VTA」を観ることで、群像劇的な楽しみ方もできる。

「VTuber全員が同じ学校に通う」なんて学園モノ的なシチュエーションはそうそう生まれるものじゃない。それを現実のものとして、見ることができるのだ。仮に全員がデビューして大きくなっていったとしたら、彼らがかつて母校として「VTA」に刹那の時間だけいたという事実を思い出せること自体、視聴者にとってもプレミアムな体験だ。


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