2012年にスマホ向けアプリとして誕生した脱出ゲーム「The Room(※邦題:ザ・ルーム)」。ミステリアスな世界観とストーリー、趣向を凝らした謎解きで人気を博し、数多くのシリーズ作品が生まれました。
2020年、遂にシリーズ初のVR専用の新作が登場。その名も「The Room VR: A Dark Matter」です。Steam、Oculus StoreでWindows PC、Oculus Quest(Quest2)向けに販売中で、いずれも日本語に対応しています。
その中身はまさに「さわって感じる」という演出が光る作品。どういうことなのか、紹介していきましょう。
VR特有の操作感で楽しむ「The Room」新作
舞台は1908年のイギリス・ロンドン。ある日、英国考古学研究所フェローで、エジプト考古学の権威であるルパート・モンゴメリー博士が謎の失踪を遂げました。異変を察したロンドン警視庁は捜査を開始。しかし、警察官の主人公が事件を担当するものの、捜査は行き詰まった状況に。
そんな中、巡査部長より奇妙な年配の紳士が主人公を訪ねてきたとの連絡が。男性は包みを持ってきたとのこと。その中身を調べ始めるところから謎めいた物語の幕が開きます……。
本編はエリアごとに様々なパズルを解いていきます。最終的に「遺物」と呼ばれるアイテムを手に入れるとクリア。次の舞台で新たなパズル攻略が始まります。(このあたりは旧作シリーズと共通の構成です)
このゲーム最大の特色は、レバーやスイッチなどの仕掛けを手で掴んだり、引っ張ったりできること。Oculus Quest(Quest2)版では、グリップボタン長押しのワンアクションでモノを掴んで動かせます。自分の手を動かすことに特化したパズルゲームと言えます。
ちなみに移動もシンプルです。スティックを倒して行きたい場所をポイントして、そのまま離せばワープ。スティックを傾ければ、視点も自由に切り替わります。移動スペースが制限されているのでVR酔いの心配も皆無。移動を気にせず、パズルに集中できます。
前作を知っていると、まさにVR版「The Room」という感じです。バーチャルになったことで臨場感と操作の楽しさがプラスされたという印象でした。
絶妙な塩梅の難易度
引っ張ったり、回したり、押し込んだり、触り倒したり……。本当に直接手で触っているかのような操作は、自分が「The Room」の世界にいるような気持ちにさせてくれます。
仕掛けの作り込みも丁寧で細かいところまで動きます。蓋や扉が開いたり、変形したり、新しい仕掛けが出現したりするので「これはどうだろう? こっちも動くかな?」と、どんどん触ってみたくなります。
仕掛けを触ると何かが動き出す……こうしたインタラクティブな反応がゲームの原体験的な楽しさを感じさせてくれるはず。
グラフィックの描き込みの深さも、触る楽しさを引き立たてくれます。もともと「The Room」シリーズはグラフィックの美しさが特徴ですが、本作でもそれは健在。まるで本当に仕掛けがそこにあるかのような実在感があります。背景も描き込まれており、舞台の雰囲気がよく伝わってきます。
筆者は初代Questで本作をプレイしましたが、それでも十分美しいと感じる仕上がり。性能上の限界に挑んでいるような印象でした。PC向けVR版ではより高精細なグラフィックで楽しめるそうです。本作の魅力をたっぷり楽しみたいなら、PC向けVR版でプレイしてみるのも一興かもしれません。
また「The Room」シリーズでは、普段は目に見えないものを浮き上がらせて視認できるようにする「アイピース」が定番ですが、本作でも健在です。モノを透視してその奥にある仕掛けを動かしたり、失踪した人の幻影を出現させるといった荒唐無稽なネタも用意されています。
このネタはゲームが進むにつれて仰々しさが増し、中盤の「教会」では非現実的にも程がある展開が繰り広げられます。その無茶苦茶さには苦笑いすると同時に、これはVRでしかできない演出だと、ちょっとした感動も覚えるかもしれません。どんな感じかはぜひ体験してください。
難易度はちょうど良く、何かしら触っていれば解法が見えてくる絶妙なバランスにまとまっています。制限時間があるようなパズルがないので、ゆっくりじっくり取り組めるのも嬉しいところ。時間経過と同時に解禁されるヒント機能も完備されているので、「もうお手上げ!」と、行き詰まってしまうこともないでしょう。(ヒントも簡単でも難しくでもない表現でまとめられています)。もちろん、この機能はオプションでON/OFFを切り替え可能です。
実はホラー!? 奇怪で謎だらけのストーリー展開
本作はミステリアスな世界観とストーリーも魅力のひとつで、ホラー作品っぽいおどろおどろしさも追加された、インパクト絶大な仕上がりになっています。
中でもあるパズルを解くと出現する、黒くて禍々しい”何か”が飛び出す演出には思わずギョッとすること請け合い。グラフィックと演出も生理的に気持ち悪い(褒めています)ものになっていて、制作陣のこだわりが見て取れます。
パズルの中にも、解くことでゾッとするアイテムが手に入るものが。それがどの舞台で、どのような場面で手に入るのかは秘密ですが、色んな意味で本作の生易しくない実態を思い知るでしょう。突然ゾンビが現れるみたいな驚かしは皆無ですが、雰囲気で怖がらせる演出はそこそこありますので、念のためご注意ください。
ストーリーも失踪事件の捜査を進めていくにつれ、どんどん異次元の世界へと迷い込んでいく流れが不気味。また、現状や背景設定などは随所に現れる「手紙」を通して断片的に語られる手法を取っているため、その全体像をひも解く面白さがあります。
ただ、登場人物らしい登場人物が出てくることはなく(幻影としては出てきますが)、会話なども最小限なので、単純に受け入れるがまま追っていくと、何が何だか分からないままエンディングを迎えてしまうかもしれません。物語が断片的に語られるためですが、スッキリ謎を解き明かして終わる内容を期待すると肩透かしとなるので、あまり求めない方がいいかもしれません。
ちなみに本作、音楽はほぼ無音です。それゆえ、寝静まった深夜帯にプレイすると相応に雰囲気も倍増します。好きな人にはきっとたまらないでしょう。もし、雰囲気も一緒にパズルを楽しみたいのであれば、夜ふかししすぎない程度にお試しください。
VRならではの操作感と遊びを堪能したくばこの1本!
気になる点としては意地悪なパズルの存在です。中でもオルガンを使ったパズルは酷いと1~2時間詰まる恐れも。答えに繋がる仕掛けの視認性が悪すぎるためですが、せめてもう少し、ユーザーに視認しやすいよう配慮をしてくれればと思いました。また詳細はボカしますが、その後に登場のオルガンでも同時押しが誤動作しやすくなっていました。それ以外がよく出来ていただけに、もったいないと感じました。
ボリュームは、じっくりプレイしても4~5時間程度。人によっては物足りなさを感じるかもしれませんが、多彩なパズルネタと荒唐無稽な展開もあって、内容は充実しています。
これまでの「The Room」シリーズと比較しても同じくらいなので、経験者なら安定の物量と感じるかもしれません。
完成度の高さに関しては揺らぎなし。シリーズの最新作としても、ひとつのVR脱出ゲーム(もしくはパズルゲーム)としても非常に見どころ満載。遊び応えも申し分ない傑作です。
激しいアクションが要求されることもないので、VRならではの操作感もじっくり味わえます。謎解きが好きな人や脱出ゲームにハマっている人、もちろん「The Room」シリーズが好きな人にも幅広くおすすめできる1本です。
色々こねくり回してパズルを解く楽しさは格別! ぜひ、この不気味なロンドンの街へ足を踏み入れてみてください。
ソフトウェア概要
タイトル |
The Room VR: A Dark Matter |
発売・開発元 |
Fireproof Games |
対応ヘッドセット |
Valve Index、HTC Vive、Oculus Rift、Windows Mixed Reality、Oculus Quest/Quest2 |
プレイ人数 |
1人 |
価格(税込) |
|
IARCレーティング |
7歳以上対象 |