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活用事例 2017.07.07

これからVRビジネスを始める人が押さえておくべき先行事例

2017年6月29日、東京ビッグサイト会議棟の一室で、これからVRビジネスを始めようと考えている人を対象にしたセミナーが開催されました(イベントページ)。主催は早稲田大学 理工学研究所、および一般財団法人 デジタルコンテンツ協会。

本イベントでは3人の登壇者が、それぞれゲーム・ノンゲーム・学術といった異なる3分野から、「VR酔い」や「プレゼンス」など、VRを考える上で特に重要となるポイントを紹介しました。

本記事では、適宜これまでの関連記事を紹介しつつ、セミナーの様子をレポートしていきます。

登壇者

登壇者は以下の3人です。

玉置 絢氏

 

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株式会社 バンダイナムコエンターテインメント にて、『サマーレッスン』プロデューサー/ディレクターを務める。

氏からは主にゲーム開発に関する知見を共有されました。

秋山 賢成氏

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株式会社 ソニー・インタラクティブエンタテインメント ソフトウェアビジネス部 次長であり、PlayStation VRなどの技術講演、技術デモの制作にも従事。

氏はゲームに限らずVRコンテンツ全般に言えること、およびVR動画コンテンツ制作について言及しました。

河合 隆史氏

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早稲田大学 基幹理工学部 表現工学科 教授で、専門は人間工学。3DやVRなど先進映像技術の評価や応用、コンテンツ制作に関する研究に従事。社会活動として、国際人間工学連合 理事、 先進映像協会 日本部会 会長。

同氏からは学術分野からの見解や研究事例が紹介されました。

1.VRエンターテイメントの現場 – 発想のコツ&実務エピソード

「これからVRに新規参入しようとしている人は、先行事例をよく知っておいた方が良いと思います」

まずはじめにバンダイナムコエンターテインメントの玉置氏から、これまでの開発経験から得られたTipsが紹介されました。

氏は、VRのやっかいなところとして「実装をして体験をしてみるまで、それが本当に面白い・快適であるとは断言できない」という点が挙げられる、と続けました。従来コンテンツとの差別化を図って斬新な企画書を出しても、実際に作ってみたら「想定と違った」ということが日常的に起こり得るのだそう。

「先行事例に学び、従来のアプローチと斬新なアプローチの間で、魅力の均衡がどこにあるのか知っておくことで、コンスタントに良い企画を作れるようになる」と言います。

玉置氏が話した事例は次の3つです。
a.キャラクタープレゼンス
b.アミューズメントVR
c.クロスモーダル

ひとつずつ見ていきましょう。

a.キャラクタープレゼンス

 

『サマーレッスン』は、バンダイナムコエンターテインメントが手掛ける、PlayStation VR(以下PSVR)向けのキャラクターコミュニケーションゲーム。内容は、夏休みの一週間、「宮本ひかり」という女の子の家庭教師としてコミュニケーションを取るというもの。(『サマーレッスン』紹介記事

「彼女は、本当にそこにいる。」という謳い文句から分かるように、「人が、まさに目の前にいる感じ」という、VR独自の新鮮な体験が売りとなっています。

PSVRローンチタイトル 『サマーレッスン:宮本ひかり セブンデイズルーム(基本ゲームパック)』

この「人が、まさに目の前にいる感じ」を、サマーレッスンチームは「キャラクタープレゼンス」と呼びます。彼らはPSVR発売以前から「プレゼンス」を研究し、大切さを主張し続けてきました。

Sense of Presence、または実在感とも言われる「プレゼンス」とは、「本当にそこに存在している」という感じのこと。
 
似た意味の言葉として使われる「没入感」が「あくまで出発は現実で、自分が今いるのは現実ではないどこかである」というニュアンスを含んでいるのに対して、プレゼンスは、「そこが現実と何ら変わりない」というスタンスに基づいています。プレゼンスは没入感を超えた、よりVRらしい概念であり、VRだからこそ実現できるものなのです。

2017年6月22日発売 『サマーレッスン:アリソン・スノウ 七日間の庭(基本ゲームパック)』

玉置氏は、『サマーレッスン』の良かった点として、以下の4つを挙げました。

・「VR空間で魅力的な人と一緒に過ごせる」という分かりやすく斬新なセールスポイント
・「最新技術(VR)の挑戦で生まれた、人間に近い存在」というキャッチーなブランドストーリー
・CGキャラ表現に心血を注いできたバンダイナムコの強みを活かしたプロダクト
・キャラクターにおけるSense of Presenceの発見
 
プレゼンスを感じられることは、従来のテレビゲームとVRゲームの決定的な違いのひとつです。サマーレッスンチームはアニメーションやグラフィックなど、さまざまなパラメタの細かな調整を繰り返し、キャラクターのプレゼンスを実現しています。

【More Info】
プレゼンスについてのこれまでの知見は、元Oculus日本チームのGOROman氏が公開した記事や、こちらにまとめられています。また『サマーレッスン』開発から得られた知見は、これまでにも様々な場所で紹介されてきました。

「VRは空間芸術」バンナム、カヤック、CC2のクリエイターがVRを語る
サマーレッスンはなぜVRをより身近にするのか?SIE吉田修平氏とBNE原田勝弘氏の語るPS VRの未来(前編)

b.アミューズメントVR

バンダイナムコエンターテインメントはまた、VRアクティビティ施設である「VR ZONE」の運営も行っています。

VR ZONE Project i Can」は2016年4月から10月の間、期間限定でお台場にオープンしたVRアクティビティ体験施設(紹介記事1紹介記事2)。大盛況の後に幕を下ろした「VR ZONE」は、2017年7月14日から東京・新宿の歌舞伎町に「VR ZONE SHINJUKU」として拡大して展開されます(紹介記事)。

玉置氏は、こういったアーケード型のVRコンテンツと、PSVRのような家庭用VRコンテンツの特徴的な違いが「マシンの強み」にあるとし、そのポイントは以下の2点にあるとしました。

1.身体の大きな動きを伴うことで、今までにない衝撃的な体験が実現可能である
2.マシンがVR世界の動きと連動することで、VR酔いの軽減につながる

 
(「VR ZONE Project i Can」より、「スキーロデオ」(左)と「アーガイルシフト」(右))

1点目は、たとえば「スキーをする」「巨大なロボットに乗り込んで戦う」といった体験に見られます。VRヘッドマウントディスプレイに従来のマシンを組み合わせることで、より体験の質を高めることができます。

2点目について玉置氏は、「そもそもVR酔いとは何か」という解説から始めました。

氏は「VRの映像から実感する身体感覚に反して、現実の身体が動いていないギャップによって不快感が生じる」と言います。

さらにこの不快感について「個々人がそれぞれに許容量(器)を持っており、不快感(しずく)が溜まっていって、器からあふれた時に気持ち悪さを自覚するのだと考えている」といった経験的な知見が紹介されました。
 

不快感の溜まり方には4つの特徴があります。

・Case1
VRでの動きと現実の身体感覚があまりに違っていると(≒VRであまりに激しく動くと)人は一瞬で気持ち悪さを訴える

・Case2
少ない不快感が長時間与えられ続けた場合、プレイ中は酔いを感じないが、しばらくしてから(終わった後などに)気持ち悪いことに気づく

この第2のケースは、体験者自身が酔いを自覚しにくく、アテンド(案内)するスタッフも気が付けないのがネックなのだとか。体験終了後に「気持ち悪い」という報告がなくても、もしかしたら帰宅途中に酔いが出るかもしれないのです。

・Case3
飲酒と同じく、許容量は人によって異なり、「酔い」が来るときは一気に来る

・Case4
体調や慣れ、または酔い止めの服用などで許容量は変化する
 

こうしたVR酔いの性質から、マシンを利用したアーケードVRは、VRでの動きと現実の動きの不一致を減らすことができ、VR酔いの軽減を図れるのがメリットだと言います。

【More Info】
これまでにはVR ZONE所長である小山氏などを中心に、さまざまなイベントで「VR ZONE Project i Can」の運営から得られた知見が共有されてきました。

【CEDEC2016】VRの ”面白さ”とは?企画のヒントが詰まったVR ZONEの知見
【イベントレポ】 『VR元年に何が起こったのか?』キーマンが語った2016年
【CEDEC 2016】VRビジネスの現在と未来 配信かロケーションベースか?
VRエンタメは「失敗」が楽しい? バンナム小山氏が語る今までのゲームとの違い
【CEDEC2016】防衛本能に訴えかける恐怖、防音室にいるのにライブ会場 VR ZONEこだわりのサウンド演出とは

また東京ゲームショウ2016にてDMMが展示した『刀剣乱舞VR』や、お台場ジョイポリスで体験可能だった『ZERO LATENCY VR』運営の知見など、VR ZONE以外にもさまざまな運営Tipsが共有されています。

なぜ『刀剣乱舞VR』は絶賛されたのか?DMMが目指した“居心地の良さ”
VRアトラクション運営のコツ セガが語るジョイポリスの事例

さらに、VRコンテンツを体験できるアクティビティ施設を運営するにあたって直面する可能性のある法律問題の議論などもされています。
「VR体験施設が直面する法律問題」はどのようなものが想定されるか?VR Safety勉強会レポート

c.クロスモーダル

玉置氏の最後の話題は「クロスモーダル」です。クロスモーダル現象とは、ある感覚Aから別の感覚Bの情報を補完して認知・解釈するという、人間の感覚が持つ特性のこと。

クロスモーダル現象の例として氏は、「『サマーレッスン』で目の前に女の子がいるように見えるとき、あるはずのない吐息や香りを感じることがある」といったことを紹介しました。これは映像(視覚)につられて香り(嗅覚)や吐息(触覚)の感じが生起される例です。

VRコンテンツ開発において、クロスモーダル現象に注目するべき理由はなんでしょうか。玉置氏は「クロスモーダル現象に潜むビジネスチャンス」を2つ紹介しました。

1.これまでにない感覚に驚き、語りたくなる(魔法体験)

本来なら映像を見ているだけの自分が感じるはずのない「キャラクターの“吐息”」、「夏の暑さ」、「触れた感じ」。これらを実際に体験したプレイヤーは、さながら魔法にかけられたような気分になり、それを人に語りたくなってしまうのだとか。「なぜ自分は、単なるCG映像でこんなに……」といった思いが、体験をセンセーショナルなものにするのです。

2.完璧な身体感覚の再現をしなくても、脳の補完現象を利用してコストダウンできる

「VRコンテンツでは、出来る限りの五感情報を提示してやれば、残りの再現しきれなかった部分は脳が勝手に補完してくれる」と玉置氏。すべてを現実と同じようにシミュレーションする必要はなく、適宜人間の脳に任せることで、体験の質を保ちながら、開発コストを減らすことができます。
 

【More Info】
東京大学の廣瀬・谷川・鳴海研究室では、VR技術と認知科学・心理学の知見を融合したクロスモーダルについての研究もなされています。以下は廣瀬・谷川・鳴海研究室の鳴海氏が登壇した講演のレポートです。

東大のVR研究者が語る、VRの仕組みと応用


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