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イベント情報 2016.12.26

【イベントレポ】 『VR元年に何が起こったのか?』キーマンが語った2016年

12月21日、VR元年と呼ばれた2016年を振り返るイベント「『VR元年に何が起こったのか?』2016年のVR業界を総括的検証&コンテンツ体験会」が虎ノ門ヒルズで行われました。主催はMogura VRとHIP、そして一般社団法人VRコンソーシアムが後援をし、来場者は200名を超える大規模なイベントとなりました。

同イベント内のセッションでは「『VR元年』という年に一体どんなことが起きたのか、また今後の課題」をテーマに、下記の4名によるディスカッションが行われました。

  • 吉田修平氏(ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデント)
  • 田宮幸春氏(株式会社バンダイナムコエンターテインメント AM事業部 VR部VRコンテンツ開発課 マネージャー)
  • 藤井直敬氏(株式会社ハコスコ 代表取締役 / VRコンソーシアム代表理事)
  • 新清士氏(株式会社よむネコ代表)
  • またセッションのモデレーターはMogura VR編集長の久保田が務めました。

    VR元年はファミコン登場前の時代に似ている!?

    2016年はハイエンドの主要なVRヘッドマウントディスプレイが一般販売に成功した年とも言えます。しかし、VRゲーム『エニグマスフィア』を開発する株式会社よむネコの代表であり、ゲームジャーリストでもある新清士氏は、ヘッドマウントディスプレイの競争は来年以降も続くと考えているとのことです。

    結局、VR元年と呼ばれたものの、市場でディファクト化を取れる圧倒的優位な方式が定まらないまま、来年に競争は持ち越される可能性が高まってきている。ゲーム機に例えるなら、まだファミコンが出ていない頃にいろんな実験的なゲーム機がアーケードも含め登場していた時代の状態に近くも思える。

    — 新清士-エニグマスフィア 12/6発売 (@kiyoshi_shin) 2016年11月6日

    モデレーターの久保田から、上記の11月に新清士氏がツイートした内容について真意を問われると「今はまだ、VRゲームのフォーマットがまだ定まっていない状況。Oculus Rift・HTC Vive・PlayStation VR の3つのハードに収斂していくだろと1年前は思い描いていたが、マイクロソフトや中国のメーカーの動きも出てきている。例えるなら、1983年のファミコン、スーパーマリオが出てくる前、ゲームのフォーマットがまだ全く定まっていなかった時代と似ているのではないか」と述べ、2016年VR元年以降も新規参入企業も含めた各メーカーによるハードの市場競争が続く予測をしていると、上記のツイートの意図について説明をしました。

    『VR ZONE』は6ヶ月間で3万7千人が来場

    新清士氏以外の登壇者は、想像以上にVR元年で市場の盛り上がりがあったと実感していることが語られました。

    SIEの吉田氏は、PS VRの人気が過熱し生産が供給に追いつていない現在の状況を「予想を超えていた」と説明。また、ソフトに関しても「VRは今までにない全く新しいメディアなので、ハードが発売されてから2・3年経った時期にVRの特徴を活かした作品が出てくるのではと思っていた。しかし初年度から『これはスゴイ!』と思えるような、しかも作品によって『スゴイ!』と思えるポイントも違う、VRの金脈を掘り当てた作品が商品として出されている」と、VRならではの体験を楽しめるコンテンツが発売されていることが、PS VRの需要に繋がった一因でもあると考えを示しました。

    ハコスコ社の藤井氏は、同社の2016年の売上が昨年比で4倍に伸びていることを明かしました。しかも全て営業を行わずにインバウンドの問い合わせからの売上で、「ハイエンドでスゴイ体験のVRを楽しみたいというものもあれば、最初の1歩としてVRを体験してみて欲しいというアプローチもある」とVRにも様々な需要があることを語りました。

    バンダイナムコエンターテインメントが運営する、VR体験施設『VR ZONE』は、6ヶ月間の運営期間で約3万7千人が来場したことが『Project i Can』室長である田宮氏から語られました。従来のアーケードとは違う高額な価格設定や事前予約制などのチャレンジが不安に感じるのもあったと心情を吐露しながらも、「良い結果が出たので、次のステップができると思う」と次への展開も示唆しました。『VR ZONE』に訪れる人は最新のテクノロジーに興味を持っている人よりも、テーマパークのアトラクション感覚で驚くような体験を楽しみたいという人の方が多く「本当に楽しそうで見ていて羨ましい思いになった」と、従来のアーケードとは違った魅力を引き出せていたことが語られました。そして現在、愛知県のイオンモール長久手に設置している『VR ZONE』のアクティビティの回転率が非常に高く、チケット予約制で待ち時間をショッピングモールで過ごしてもらう手法が成功していることを明らかにしました。

    VRはゲームに関心の少ない人にも刺さる

    また、吉田氏からは『Project i Can』が発表したVRコンテンツ“ドラえもんVR「どこでもドア」”について田宮氏に問いかける一幕も。田宮氏は「Oculus Touchを体験した時にゲームではなくても『こんなに楽しいのか!』と衝撃を受けた。そこから企画を考えました。ある種、憧れていた夢の世界を体験できるというのが、VRでできることの1つだと思っている」とゲーム以外での取り組みについての背景を語りました。

    ゲームに興味の薄い層にも、VRならばコンテンツ次第で感心を呼び起こすことができるという事例も紹介されました。吉田氏は「私の奥さんはゲームに興味がなくて、PS VRにも全く興味を示さなかったのですが『Littlstar VR Cinema』でブロードウェイミュージカルの『ライオンキング』の360度動画を子供と見ていたら、奥さんが興味を示したんですね。そして見せてみたら『スゴい!』と。『一曲しかないの?』と言うんですね。やはりコンテンツ次第でゲームに興味のない人でも刺さるものはありますね」と家庭でのエピソードを紹介。

    藤井氏からはハコスコが付録のAAAのムック本を発売した時のファンの熱量についての事例が紹介されました。一般のファンにとってはハコスコを組み立てて、アプリをダウンロードし、PINコードを入力して360度動画をダウンロードするという一連の手順のハードルが高く、ムック本の販売直後には問い合わせの件数が急増したとのこと。そして「ファンの素晴らしいのは見れるまで質問を止めないこと。魅力的なコンテンツ次第で、非常に一生懸命になってくれる」とコンテンツによってハードルの高さを乗り越えられることを語りました。

    北米はツール系、日本はコンテンツ系、海外とのVRの盛り上がりの違い

    『日本と海外でのVRの盛り上がりの違い』というテーマでは、吉田氏が「去年の年末まで、海外と国内の盛り上がりに違いを感じていた」と指摘。特にフェイスブック社がOculus社を買収した時期に差を感じていたとし、欧米では大きなスタジオからプロフェッショナルが独立していたり、ベンチャーに大きな資金が流れていたりといった動きがある中で、日本は取り残されている印象があったとのこと。しかし、今年くらいからビジネスとしてVRに参入する企業も増えてきて「日本もついに来たな」と感じていることが語られました。

    新清士氏は地域によって開発されるVRサービスに特色があることを指摘しました。新清士氏によると「北米、西海岸はツール系の開発をする企業が多く、コンテンツを開発をする企業は少ない。日本は逆で、ほとんどがコンテンツを開発している。北欧もコンテンツを開発する企業が多い」と地域によりVR開発の特色があるとのこと。また中国の特徴として若者が市場を牽引している点を挙げました。

    VRコンテンツの話題になると、藤井氏が「予想していた範囲で、今までに考えたこともないようなコンテンツは出てこなかった。そういう意味で、もうちょっと驚かしてほしいなと。私はやってることはローエンドなVRなのですが求めているのはハイエンドなので(笑)」と、VRコンテンツの可能性についてまだまだ余地があることに言及。またハードの面においても田宮氏は想定していたよりも普及のスピードは遅かったと述べました。その理由として、今でもヘッドマウントディスプレイを体験できるだけの施設でもビジネスとして成り立つことが挙げられました。『VR ZONE』ではヘッドマウントディスプレイの家庭への普及を考慮して、VRと体感マシーンとを組み合わせる戦略をとったと明かし、そういう意味ではハードの普及スピードは遅いのかもしれないと考えを示しました。

    ゲーム以外にも注目しているコンテンツとしては、医療でのVR/ARを活用した取り組みが話題に。医療分野での活用について事例を出したのは新清士氏。新清士氏は、自身が取締役を務める Tokyo VR Startups のインキュベーションプログラムに参加するHoloEyes株式会社について紹介をしました。HoloEyes社では、医療用のCTスキャンのデータを使って医療のトレーニングや手術中のナビゲーションでVR/AR技術を活用しているとし、医療分野のVR活用にも注目していることを話しました。

    ハコスコ藤井氏「モバイルVRはVRを牽引しない」

    「○X形式」でモデレーターからの質問に答えていくという展開で進行していたところ。「モバイルVRがVRを牽引するか」というお題には、ハコスコでモバイルVRを展開する藤井氏が「×」を上げて疑問を呈するという回答をして、壇上からも驚きの声が上がりました。

    藤井氏は「モバイルとハイエンドのVR体験は根本的に違う」とし、さらにモバイルVRには大きな課題として熱処理の問題があり、今の最新機種でも処理が重いと起動して10分や20分で落ちることを指摘。藤井氏は“ユーザーから見て”と前置きをした上で「スマホのVRで得られる感動とOculus RiftやHTC Vive、PS VRといったハイエンドのVRで得られる感動は違うもの。モバイルVRによってVRが牽引するかと言われると、入り口としては機能するかと思うが、牽引するかと言われると、それには疑問を持っている」と、モバイルVRが普及したとしても、ハイエンドなVR体験がVRを牽引するだろうと考えを示しました。

    新清士氏はモバイルVRの一定の市場ができるだろうが、コンテンツとしては視聴体験型が中心になるだろうと語りました。現状のモバイルVRではポジショントラッキングができなく、VRゲームの体験としてはそれでは厳しいものがあると指摘。熱処理とポジショントラッキング、この2点を解決する技術がモバイルVRでは求められているとのこです。

    また実際にVRはビジネスとして儲かるのかという質問には、今はまだ将来的にビジネスとしてどう展開していくかという知見とポジションを確立する時期という意見が大半に。吉田氏は今年に登壇したJapan VR Summit にあった投資家によるセッションが非常に面白かったと話し「セッション内で、今ベンチャーで頑張っている人は2年間我慢しなさいという話があった。その先に上手くスケールするところはガンと伸びる時期があるからと。私もその目線が正しいと思います」と述べました。

    新清士はiPhoneの時も販売された当時もGDCのセッションでも非常に期待値が高かったが、翌年落ち込んで、しかしさらにその翌年には期待値が戻って「やっぱりiPhoneは儲かるぞ!」となっていたことを話し、今はまだ投資としてもリターンを考える時期ではなくポジションを獲る時期であるという考えを示しました。

    黎明期の社内は“ヒッチャカメッチャカで面白い”

    「VRは“あたりまえ”になるか」という質問に対しては、田宮氏を除いた全員が○の札を上げました。田宮氏は○の札を上げなかった理由として「“あたりまえ”という言葉に引っかかる。ツールとしては当たり前になるかもしれないが、コンテンツ提供者としてはVRで得られる経験や体験は当たり前ではない貴重なものになると考えている」とその理由を説明しました。

    吉田氏は「普通に日常のシーンで使われるようになると思う」とポジティブな見方を示し、藤井氏は「VRという言葉自体がAR/MRと混ざり溶けていくだろう。テクノロジーと現実の境界が分からなくなって、そこで技術が生活に溶け込んだと言える。VRは空間を拡張する技術として色んなところに溶け込んでいくだろう」と将来的にはARとVRが混ざっていく可能性を語りました。

    新清士氏は「スマートフォンと同じように乗数的に発展していくものなのでどこまで浸透していくかを正確に予測するのは難しい。ARの分野でもOculus Riftのように外部のカメラから映像を取り組んでという可能性も出てきている」とその予測の困難さを述べ、生活に浸透していく時期についても予測は困難と語りました。

    セッションの最後は来年の2017年についてのテーマに。このテーマではコンテンツに関する話題が中心になりました。バンダイナムコ社内でVRの開発ラインが活発であることが伺えたり、PS VRでの来年発売予定のタイトルについての話題などが出てきました。

    田宮氏からは「今のバンダイナムコ社内は面白いですよ。ヒッチャカメッチャカで。本当は色んなコンテンツをやりたいのですけれども、社内で作ったり試したりしていることが本当に面白いので、そういう意味ではこれから何が出来上がってくるのか、期待していただければと思います」と新たな体験への含みを持たせた発言がされました。また、ハコスコはVRプロモーションのハードルを下げる取り組みを行っていくとのこと。ハコスコのアプリの機能を充実させて、1つのアプリでもVRとして使いたい機能をパッケージする戦略が藤井氏から語られました。

    吉田氏は来年の目標について最初に「来年はPS VRの生産数を増やします!」と宣言。その上で「良いコンテンツを制作した方々が利益を出せて、次のステージにステップアップできる」エコシステムを作ることが「プラットフォーマーとしての第一の目標」と語りました。エコシステムを創るためにもソフトは重要であり、吉田氏は今後リリースされるもののうち自身が試プレイしたソフトの中からオススメの作品として下記の3つを紹介をしました。

    Farpoint

    SIE Americaが発売するFPSゲーム。ガン型コントローラー「PlayStation VR Aim Controller」に対応する作品で、吉田氏は両手でガン型コントローラーを持ってプレイすると「盛り上がる」とオススメしました。

    http://www.moguravr.com/psvr-farpoint/

    BIOHAZARD 7 resident evil

    カプコンが発売するバイオハザードの最新作。全編VR対応が話題の作品です。吉田氏は「全編VR対応なのに快適に酔わないようにできています。やっぱりVRであのゲームをやると怖いですね」とオススメしました。

    http://www.moguravr.com/biohazard7-demo-vr-review/

    エースコンバット7

    バンダイナムコエンターテイメントが発売する人気フライトシューティングゲームシリーズの最新作。吉田氏は「すごい好きです。めちゃくちゃ盛り上がります。すごい勢いで飛べるのですけれども、下に島が見えたりしてそこが『高い!』と思わず感じてしまうほどで、めちゃくちゃ盛り上がります」とオススメしました。また、同社の田宮氏からも「戦闘機のゲームで離陸が面白いと思ったことなくて、あそこがワクワクするというのはVRならではだなと、期待していてください」とオススメがされました。

    体験展示会も活況!

    本イベントでは合計で10のブースで体験会が展示されました。各ブースには、モバイルVRヘッドセットからハイエンドのVRヘッドセット、一体型のスタンドアローンのVRヘッドセットやリュック型のVR Ready PCなどの様々なデバイスとコンテンツが並びました。

    ・株式会社 ワンドブイ『VRリズムアクション SEIYA』

    ・株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント『Littlstar Japan』

    ・株式会社講談社『VR Idol stars project”Hop Step Sing!”』

    ・株式会社クリーク・アンド・リバー社「IDEALENS K2」

    ・PICO

    ・株式会社Project White(TSUKUMO)MSI バックパックPC『VR One』

    ・ウダサンコウボウ『ソード&プリンセス』

    ・H2L株式会社『UnlimitedHand』

    ・サークルハイドレンジャー『ガンナーオブドラグーン』


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