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業界動向 2016.12.26

VRアトラクション運営のコツ セガが語るジョイポリスの事例

2016年12月8日、ベルサール六本木コンファレンスセンターで「ベルサールカレッジ VRキャンパス」開催されました。セミナーのテーマは「VRを活用したビジネスモデルの可能性」。主催は住友ベルサール株式会社、企画協力はポリゴンマジック株式会社

今後の市場拡大には何が必要か、事業としてVRを取り入れた先駆者の3人を迎えてVRの活用例と可能性についてのセミナーとなります。

その中の『エンタテイメントにおけるVR事業の現在と発展への鍵』と題した講演では、講師として株式会社セガ・ライブクリエイション(SLC)取締役 兼 施設推進事業部長の速水和彦氏が登壇しました。

東京ジョイポリスで今年7月から約4ヶ月『ZERO LATENCY VR』を運営した経験からの知見と、業界全体で取り組むべき課題がだされました。

セガのVRの取り組み

セガは1994年に横浜ジョイポリス1号店を開店して以来、テーマパーク歴22年。20年前に横浜ジョイポリスで、VRアトラクション『VR-1』を展開しました。「MVD」と呼ばれたVRヘッドマウントディスプレイも自社製です。ここで当時うまくいかなかったため、その後研究等、ストップし他社に後れをとりましたが、最近またVRに注力を始めました。

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『ZERO LATENCY VR』の導入経緯から現在までの収益

ZERO LATENCY VR』をジョイポリスに導入することになったきっかけは、2015年11月に速水氏が『ZERO LATENCY VR』を海外で体験したこと。速水氏は没入感が高く素晴らしいことからすぐに契約に向かって動き、2016年7月23日から稼働となりました。

『ZERO LATENCY VR』とはマルチプレイ(最大6人)、フリーロームで自由に動けるVRガンシューティング。体験時間は約30分。

稼働率は初日から、現在までほぼ100%。1回の売り上げは体験料1人1,800円×6人=10,800円として、今までの累計売上は約3,000万円になります。導入当初からVR単体で事業が成り立つとは思っておらず、入場料やパスポートで単価を上げることを視野に入れていました。

また30分、体験料1800円という価格設定は、同じくお台場で稼働していたバンダイナムコエンターテインメントの「VR ZONE」などを参考に、今後のVRコンテンツの価格が下がることを配慮してのことです。

ただし、固定した価格ではなく、現在の体験料は平日1,800円ですが、休日2,000円にするという料金体系をとっていますし、今後も変更する可能性はあります。

また、売り上げを上げるためには、体験時間を短くすることで、『ZERO LATENCY VR』本来の想定体験時間は15分~20分なので回転率は上げられます。しかしハードウェアに故障が多く、予備がワンセットあっても回転率があげられません。

飽きられることも想定しており、『ZERO LATENCY VR』は、マルチプレイ、フリーロームのプラットフォームとして、現在はゾンビサバイバルゲームをしてますが、新しいゲームを導入していくことを考えています。

現状、VRコンテンツに体験者が集まることは「新しい体験ができる」というイメージがあるからです。

新しい体験に興味があるが、VRデバイスが高価なため、所持している家庭はまだ少数なため一般の体験者はまだ少ないですと速水氏は語りました。

――今後のVR業界が拡大するためには体験者の数を増加していくことが必要です。テーマパークやアトラクション施設はVRデバイスを購入するより手軽に体験でき、体験者を増加する可能性があります。

アトラクション施設でVRを導入してからの得た知見と、今後、アトラクション用コンテンツ開発を考えている開発者への要望が続きます。

VR設備を使用した運営上の注意点

VR装置の装着手順にかかる時間による回転率の悪さと人件費

VRデバイスでは装着に体験者が慣れていないため、脱着に3分かかります。3分は現実でのジェットコースターが1周する時間です。

通常のアトラクションに比べて1人あたりの所要時間の長いことによる、回転率の悪さです。またVRヘッドマウントディスプレイの装着に慣れていないユーザは、脱着が1人でできず常にスタッフがつく必要があり人件費がかさみます。

今後変わるとすればメガネタイプのデバイスなど、装着が簡単なデバイスが将来的に出現することです。

VRデバイス装着時の安全面確保

今後、数年で変わる可能性はありますが、VRヘッドマウントディスプレイを装着すると視界が覆われていることになり、配線は足元にあります。VRデバイスの配線の多さは自由に動けず、破損につながります。視界がふさがれることで、他プレイヤーや壁などにぶつからないようにする安全対策も必要です。

今できる対策はバックパックのようにPCをを背負うこと、ぶつからないよう必ず監視をつけることです。

VR酔い対策

VR酔いには個人差があり、中には酔う人が必ずいます、VR映像の緊急停止方法の事前説明が必要です。説明時間とオペレーションが必要です。

VRアトラクションにかかる人件費・VRデバイスの接触面の衛生管理

衛生用アイマスクは直接、肌にVRヘッドマウントディスプレイが触れないため有効ですが、激しい動きをするコンテンツだとずれてしまうことがあります。対策としては水をはじくようなカバーを付け、体験後にその都度クリーニングをします。

大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンの例をあげると、2016年1月から6月まで稼働していた『きゃりーぱみゅぱみゅXRライド』の場合はバックヤードの清掃係10人で対応し、期間中の人件費が1000万円かかっているとのことでした。

また女性の場合は髪形を気にしたり、ヘッドマウントディスプレイを被れない髪型にしている人もいるので、ケアが必要になります。

未稼働時のPR

の難しさ

VRコンテンツは外からプレイヤーを見ると何をしているかわからないため、見た目のインパクトがない。周りにいるユーザの興味の喚起が難しく体験につながりにくくなります。クロマキー合成で画面を融合させることが一つの解決策ですが、すべてのコンテンツが融合させることを念頭に作られているわけではないため、狙った効果が得られるとはかぎりません。

ジョイポリスのVR設備利用制限について

年齢制限が一番の課題です。12歳以下の子どもが体験できないとファミリー向けのアトラクションにとっては苦しいです。USJの『きゃりーぱみゅぱみゅXRライド』では本国の安全チームが有識者と決定したガイドラインでコースターの身長制限に則って子供にも体験させたということですが、事故例はいまのところないとされています。年齢制限は業界をあげて取り組む必要がある課題です。

VR設備のハード的課題とソフト的課題

ハードウェア面の課題

1.年齢制限・健康への影響

業界全体で取り組むべき課題としてとらえています。

2.面積当たりの処理能力・効率

『ZERO LATENCY VR』は1人に70平方メートル必要で、遊園地のアトラクションとしては効率が悪いです。梅田ジョイポリスに入る『エニグマスフィア~透明球の謎』は必要な面積は『ZERO LATENCY VR』に比べ狭いですが、2人で30分の体験時間は効率が悪いです。

VRコンテンツは大半が1人から2人プレイで、面積が多く必要なので回転効率も面積効率も悪いです。

3.無人運営が難しい

オペレーション、安全面、衛生面からどうしても人手が必要で、人件費がかかります。

ソフトウェア面の課題

1.必要とされるゲーム性

ゲーム性が浅い=リピート性が低いと1回で終わってしまい、繰り返し体験してくれません。これでは投資効率が悪くなります。プレイ時間が短くてもやりこみ要素があるものが求められます。

2.コンテンツの事業性

アトラクションでの使用を視野に入れたVRコンテンツの開発者に向けては、開発段階から事業性・商用性を考慮されていることが鍵になることを挙げました。回転率やオペレーションの簡素化など運営の追求を行い、出口をどこに設定するか、どう収益を上げるかが考慮されていないと、パークでの導入は難しいことになります。

3.ハードとの連動性

ZERO LATENCY自体もまだ完全に体験者の動きと映像との一致はできていないとのことで、今後、動きと映像が完全一致し、さらに没入感のあるVR体験ができればVR酔いがなくなり、体験者も増加、VRヘッドマウントディスプレイに慣れた体験者が増えればオペレーションも、スタッフも減るかもしれません。

VR産業の現状

未完成のハード

ハードの開発には多くの企業が参入していますが、耐久性、安全性を考えられたハードは少ないため、業界を挙げて協力することにより、効率よく開発ができる可能性が考えられます。

脆弱なメンテナンス体制

メンテナンス体制をとれてる会社が少ないうえ、そもそもメンテナンスを考慮していないデバイスは、メンテナンス作業に時間がかかります。『ZERO LATENCY VR』では今までにPCとヘッドマウントディスプレイの半分以上が壊れました。ヘッドマウントディスプレイはオーストラリアに修理に出さないとならないため、非常に時間がかかりました。

アトラクション施設では機材やサーバトラブルで予約を断ることはできないので、『ZERO LATENCY VR』ではメンテナンス専門の正社員を1人つけています。

人件費を減らし安定した運営をするためには、故障しないハードを作ることが一番ですが、配線のつなぎ目など工夫次第でメンテナンスにかかる時間や費用を減らすことはできます。

ソフトの多くがデモバージョン

出口を考えず、とりあえず作ってみようと開発してるところが多い状況があるとのことです。

運営者視点からの開発関係者への提言

速水氏は、人がVRだけで2~3時間遊ぶことは考えづらく、来場者の飲食のためにショップやカフェなどが必要。また、VRのジェットコースターとリアルのジェットコースターがあれば比較して乗りたくなるかもしれないことなど、VRアトラクションは複合事業の中でやることが今の成功系であると考えています。

開発者にはVRコンテンツを複合施設で導入されることを考えるならば、回転率や面積効率、周囲へのアピールなど、事業性をしっかり考えた開発をしてほしいとのことです。

今後のSLCのVR戦略

ジョイポリスのライセンス展開、世界中で展開できる企画から開業までパーク開発支援、VRアトラクションのメンテナンス対策等の教育といった展開をしていく予定とのことです。

ジョイポリスのVRコンテンツ

最後に、現在ジョイポリスに導入されているコンテンツ、導入予定のコンテンツを紹介がありました。

VR生き人形の館』は元々は音声のみでしたが、梅田や中国にも入れており、1つを入れれば横展開が可能なため、CG映像を足してVRコンテンツにしました。

梅田ジョイポリスではロケーションテストとして新たに3コンテンツが設置されます。

青島ジョイポリスについて、中国は今はスピード重視の傾向があり続々新しいものがでています。質は良くないですが、数年後か数か月後には日本のコンテンツの質に追いつくかもしれません。[a][b]

上海ジョイポリスについて、卵型の椅子を使った吊り橋コンテンツが体験可能。質は低いですが、人気があります。なおVRとは違いますがARアトラクションのHADOも導入されています。

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