Home » AR/VRスタートアップの成功に必要な「7つの共通点」


業界動向 2019.04.25

AR/VRスタートアップの成功に必要な「7つの共通点」

AR/VRやモバイル分野を中心に調査・投資を行うDigi-Capitalは、成功するAR/VRスタートアップに共通する「7つの習慣」を発表しました。本記事では、Digi-Capitalによるこの「7つの習慣」を紹介します。

1. クリティカルなユースケースに取り組む

価値のある(Valuable)ユースケースではなく、差し迫った(Critical)課題に取り組みます。「価値のある」ユースケースは技術的に難しく、またクールに見えるかもしれませんが、ユーザーエクスペリエンスを抜本的に変えることはなく、また多くの場合ユーザーにとって重要ではありません。差し迫った課題の解決は、ユーザーが本当に必要としていることを実現する、唯一の手段なのです。

モバイルARプラットフォームのStreemは、エンタープライズ向けにソリューションを開発しています。同社は遠隔でも顧客の問題を詳細に把握できるビデオ電話システムを提供し、サービスエンジニアの現地派遣を最大42%減少させる効果をもたらすなど、「差し迫った課題」の解決を行ってい折ます。

また、家のリノベーション、設計プラットフォームのHouzzは、家具を試し置きできるアプリを提供しています。同社のツールを使う消費者は、より高いエンゲージメントを示し、購入に結びつく割合も高いということです。

2.初めから利益を上げる

言うまでもなく、収益こそが、資金調達の最良の手段です。

ホログラフィックソフトウェアのVNTANAは、「クライアントの多くは、まず一度限りのサービスから試す」と話します。同社はこのサービスをどのような消費者が利用したか分析し、クライアントに提供、長期の契約に結びつけていきます。例えばトヨタの高級車ブランドとして知られるレクサスは、VNTANAのソリューションを2週間のトライアルから開始し、その後3年以上にわたってショールームの体験に用いているとのことです。

教育用ソリューションを提供するzSpaceは、エンタープライズから教育現場へとターゲットを切り替えて利益を急激に伸ばしました。同社はユーザーテスト等を経て、エンタープライズ市場ではインパクトのある利益を出すのが難しく、採用までに長期の投資が必要となることを発見、強みを活かせる教育市場に転換しました。

利益の創出が設立初期のスタートアップにとって重要な理由として、政府からの資金を得るための指標になる事が挙げられます。モバイル向けジェスチャー認識を手がけるXestoは、「年間の研究開発費のうち、35%を(政府からの)助成金で賄っています」とし、利益を上げ資金を獲得することの重要性を説明しています。

産業向けARソフトウェア/ハードウェア開発のHolo-Lightは、難易度の低い分野をターゲットとすることで利益を増加させています。同社は既にARを重視するクライアント向けに、品質保証と調整不要なソリューションのプロトタイプ化に的を絞り、事業を行っています。

3.ベンチャーキャピタルにどのように見られているかを意識する

ベンチャーキャピタルはスタートアップには好意的ですが、“サービスプロバイダー”に対しては慎重な姿勢です。そのため、彼らにどう見られているかが重要になります。

法人向けのARコンテンツを手掛けるスタジオScope ARは、ARマニュアルを企業向けに提供しています。この事業に専念することでベンチャーキャピタルをひきつけ、2019年3月には970万ドル(約10億円)の資金調達に成功しました。

看護師向けモバイルVRシミュレーターを提供するConquer Experienceは、モバイルサービス企業からのスピンアウトという形を選びました。ベンチャーキャピタルから、サービスプロバイダーとして見なされることを避けるためです。親会社のもとで利益を上げ、その後にスピンアウトを行っています。

4.強力なパートナーを得る

成長を加速するために、既存の協力関係や新たなパートナーシップ構築の機会を利用します。

マイクロソフトのMRデバイス・HoloLensを用いたトレーニングを手がけるTaqtileは、「利益の50%はパートナーシップを通じて得ています」と説明しています。アジアやヨーロッパに地域ごとのパートナーを持ち、軍や行政といった分野での採用までの長いプロセスを短縮化しているといいます。

またスタートアップがエンタープライズ市場のクライアントを獲得するためには、事業が存続する見通しを示すことが不可欠です。企業向けARプラットフォームのRE’FLEKT Inc.は、Bosch、BASFといった大手企業からの資金提供を後ろ盾に、エンタープライズ市場へ売り込んでいます。

一方、収益やベンチャーキャピタルからの資金が不足するスタートアップには、より大きなライバル企業と争うために助成金の活用も必要です。高齢者向けのVRトレーニングを開発するEmbodied Labsはこれまで200万ドル近くの資金を獲得しており、うち40万ドルは助成金によるもの。ビル&メリンダ・ゲイツ財団等から資金を得ていると言います。

5.間接コストを削減する

事業を立ち上げるには、資金が重要です。

施設型VRを手がけるPeriscape VRは、空港や小売店といった場所にサービスを展開しています。同社はニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港(JFK空港)にVR体験スペースを開く際、最初の数週間の収益を最大化すべく策を講じました。「内部データにより、ゲストの89%の往来は10時間の間に限定されていることが分かりました。そこで稼働時間を短縮、スタッフを75%削減することで収益を2倍に押し上げました」とCEOのLynn Rosenthal氏は説明しています。

アミューズメントパークTwo Bit Circusは、施設型VRというよりもむしろモバイルゲームに近いスタイルをとっています。すなわち、ユーザーのライフタイムバリューに重点を置き、継続的な利用を促して利益と顧客満足を最大化しようとしているのです。このパークは入場料を設けず、1回毎のプレイや飲食に料金を課しています。また、グループ客に焦点を当てているのも特長です。「一度の来訪では体験しきれないようなコンテンツを用意し、リピートを促している」とのことです。

6.好きな分野で一番になる

Emblematic MediaのCEO Nonny de la Peña氏は、VR/ARジャーナリズムはかくあるべきという自身のビジョンに基づき、事業を行ってきました。Emblematicはコンテンツ制作・配信プラットフォームのREACHや、「Project Syria」などのシミュレーション作品を手がけています。同氏は、「我々はただ、自分達のしていることがとても好きなのです」と話しています。

VR実写映像専門スタジオのFelix & Paul Studiosは、継続的にハイクオリティなコンテンツを制作し、視聴者にインパクトを与えることを追求しています。CEOのStéphane Rituit氏は次のように述べています。「我々のスタジオのDNAは、常にストーリーテリングと技術的イノベーションを組み合わせ、VR/ARコンテンツを産み出してきました」

7.大きな利益獲得の機会に備える

最後に、常に成功への準備をしておくこと。

VRトレーニングのStrivrは、小売大手ウォルマートでの採用を機に企業向けソフトウェア会社へと転身を遂げました。同社によれば、従来のスポーツ向けトレーニングから企業向けへの転換は、サービス内容としては大きな変化でなかったとのこと。しかしエンタープライズ市場を顧客とするために、より規模を大きく、動きを速くすることが必要になったとしています。従業員を増やすなどの対応を行い、事業拡大に成功しました。

Digi-Capitalはこれらの習慣が必ずしも成功を確約するわけではないと断りつつ、自社を特別たらしめているもの、そして実用的なビジネスの手法を組み合わせることで、成功への道が開ける、と結んでいます。

(参考)Digi-Capital


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード