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セミナー 2025.02.25

成長しているのに、ピンと来ないのはなぜ? 知られざるVRゲーム市場最前線を攻め手とともに語る

株式会社Moguraは、無料ウェビナー「今年も成長中!VRゲームの最新市場動向を語る」を2024年9月10日に開催しました。

本ウェビナーでは、ゲーム開発スタジオであるMyDearest株式会社および株式会社UNIVRSの各代表2名をゲストに迎えて、現在の市場動向や今後の課題について議論。開発者自身が感じる「今」の市場感覚を共有することで、VRゲームの現在と未来を探ったディスカッションの様子を、この記事ではお届けします。

登壇者一覧(敬称略)

岸上 健人(MyDearest株式会社 代表取締役CEO)

「東京クロノス」「ディスクロニア」「アルトデウス」などオリジナルIPのVRゲームを開発するMyDearest株式会社のCEOで総合プロデューサーも務める。

Xアカウント:@tokimekishiken

藤川 啓吾(株式会社UNIVRS CEO)

CIデザイナーとしてキャリアをスタート。「0からプロダクトを作り出せる力が欲しい」と感じ、エンジニアに転向。エンジニアとしてゲームアプリなどの開発に携わる。株式会社Logbarにてウェアラブルデバイス「Ring」の初期開発メンバーとしてジェスチャー認識とVRを掛け合わせたソフトウェアの研究開発に従事。2015年にVRに出会い「VRは世界を変える技術になる」と確信し、弟・駿と共に株式会社UNIVRSを創業。兄弟でVR酔いを防止する技術を構築。その技術を活かして、アニメ、漫画などの日本発IPコンテンツのVRゲーム事業を展開している。

Xアカウント:@k5concept

ファシリテーター / 久保田 瞬(Mogura VR 編集長)

株式会社Mogura代表取締役社長、Mogura VR編集長。著書「メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤」(日経BP、2022)

毎日100万人がオンラインで遊んでいるVRゲームがある

※冒頭:久保田より、欧米と日本では、VRゲーム市場に対しての意識が大きく異なるという指摘が入った後、ゲストが登場。

久保田 瞬(以下、久保田):
では早速、ゲストのお二人をご紹介します。MyDearestの岸上さんと、UNIVRSの藤川さんです。

岸上 健人(以下、岸上):
MyDearestの岸上です。久保田さんが冒頭で話されていた「欧米と日本のVRゲームについての肌感が乖離している」という指摘に僕もすごく思うところがあったので、今回はこうしてお声がけいただけて嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。

藤川 啓吾(以下、藤川):
UNIVRSの藤川です。今日はこういう機会をいただいて本当にありがとうございます。新しいゲームがリリースされるまではあまり目立たないようにしていたのですが、ゲームも無事にリリースされ、こういう場に呼んでいただけて嬉しく思います。

VR市場は今、世界的に盛り上がっているにもかかわらず、日本にはほとんど波及していません。そのことを特に歯痒く思っている2人が僕と岸上さんだと思うので、今日はすんくぼさん(久保田)のモデレーションのもと、VR市場の盛り上がりについてお話しできればと思います。よろしくお願いします。

久保田:
お二人の共通点としては、長年にわたってVRのゲームを作り続けている会社を牽引していること、また直近でも、新しいコンテンツを市場にリリースされていることが挙げられます。言ってしまえば「リリースしてどうでしたか?」という部分をうかがいたいなと。後ほどゲームの紹介もしていただきつつ、ディスカッションできればと思います。

僕からVRゲーム市場の概況についてお伝えしますが、お二人も遠慮なく突っ込んでください(笑)。

最初に、市場の大きさを論じる際には数字がいろいろな形で出てきますが、「VRゲーム」に関して一般の方がキャッチできるデータは多くありません。有料のレポートには書いてあるかもしれませんが、あれも企業による推測値ですので「実際はどうなの?」と。

例えば、取り上げたい数字の1つに、「20億ドル」があります。日本円にしてだいたい3000億円ですが――これは、Quest Storeの累計売上ですね。2023年9月時点の数字ですが、Metaが運営しているVRコンテンツプラットフォームで3000億円くらいのコンテンツが売れている。そういったマーケットがある、ということになります。

久保田:
念のために補足しておくと、「VRゲーム市場」というのは決してMetaのQuest Storeだけを指すものではありません。パソコンにVR機器を接続してプレイする人たちはSteamという別のプラットフォームを利用していますし、ほかにもPicoなどの複数のプラットフォームが存在しています。なので、あくまでも「一番大きな有力プラットフォームの2023年時点での規模感」として受け止めていただければと思います。

続いて取り上げたいのが、「100万人」という数字です。これは直近の数字なのですが、とあるVRゲームのDAU(Daily Active User)ですね。「毎日100万人がオンラインで遊んでいるVRゲームのタイトルがある」ということです。これがどのようなゲームかというと――こちら。Quest Storeのランキングのトップをご覧ください。かわいい動物の描かれた黄色のアイコンがありますが、『Gorilla Tag』というゲームです。

久保田:
簡単に説明すると、ゴリラになってみんなで鬼ごっこをするマルチプレイのゲームなのですが、毎日100万人がヘッドセットをかぶり、ゴリラになって、このゲームで遊んでいるわけです。

収益についても公式が発表している数字がありまして、今年の6月時点で1億ドルを突破しています。日本円にして140〜150億円という売り上げを、リリース後の3年間で、VRゲーム1本で叩き出していることになります。レビューの数も12万件を突破していて――藤川さんや岸上さんにはこの数字のヤバさがわかると思うんですけども――これはもう、圧倒的なレビュー数だと言えます。

詳しくない方向けに説明をすると、ゲームのレビュー数というのは、基本的にはダウンロード本数に対して一定の割合でついていきます。ある意味では「プレイヤーの人数やダウンロード数を示しているもの」と考えていただければと思いますが、おそらくQuest Storeでレビュー数が10万件を超えているコンテンツは、まだ『Gorilla Tag』だけかと思います。

岸上:
だいたい「レビュー数×100=実際にプレイしたユーザー数」って言われていたかと思います。ただ、『Gorilla Tag』はFree-to-playなので、実際には「ユーザー数の200分の1とか300分の1ぐらいがレビューをしている」くらいの塩梅かもしれません。

藤川:
リリースして半年とか、最初の頃にレビューを書く人が多くて、その後は逆にダウンロード数のほうが増えていく、という印象もありますね。

久保田:
そうですね。とにかくこの『Gorilla Tag』は圧倒的なコンテンツになりつつあります。誰でもヘッドセットを持っていれば無料で体験できるので、もしよかったら遊んでみてください。

ちなみに、MoguraVRの提携メディアであるRoad to VRが公開しているデータによると、3年間で売上のグラフの傾斜が少し急になってきています。Free-to-playのゲームの売上が上がってきている――ということは、つまり課金ですね。ハロウィンの帽子などのような限定アイテムもあるのですが、そういったものを買っていると考えられます。

VRゲームのプレイヤー層は10代のティーンが中心で、没入型のコンテンツを、マルチプレイで楽しんでいる

久保田:
最初にゴリラの話をしましたが、「VRで流行ってるゲームって、もうちょっと違うものだったんじゃないの?」と疑問に感じている方もいらっしゃるかもしれません。

先ほどのQuest Storeのランキングでいうと、4位に位置している『Beat Saber』がそれですね。これは、正面から流れてくるキューブを、リズムに合わせて、ライトセイバーのようなものでバンバン切っていくリズムゲームです。『Gorilla Tag』が出てくるまではまさに「キングオブVRゲーム」というか、「VRゲームといえば『Beat Saber』!」というイメージが長らくあったかと思います。

『Beat Saber』は公式で具体的な売上額は出ていませんが、追加楽曲などの有料コンテンツでどんどん売上を増やしていき、早いタイミングでMetaが直々に買収しています。もし今も「VRゲームといえば『Beat Saber』だ!」と思っている方がいたら、ぜひこの機会に認識をアップデートしてください。ゴリラになっているので(笑)。

せっかくなので、人気VRゲームの3番手も紹介しておこうと思います。ランキング上では別のタイトルもいろいろ挟まっているのですが、7位の『Blade and Sorcery』ですね。日本では「めっちゃプレイしてる!」と話す人と会ったことがないのですが……PCVRのランキングで見ると、上から2番目ですね。

岸上:
ゴリラとかはまだわかるかもしれませんが、おそらくは『Blade and Sorcery』が一番、日本の人には理解しにくいかもしれないです。

藤川:
そうですね。「これはどんなゲームなんですか?」って聞かれたときに、一言で答えることはできるのですが……口にするのが憚れますからね。「人間を××するゲーム」っていう説明になっちゃうんです(笑)。

岸上:
正直、だいぶ野蛮なゲームなので……!

久保田:
ゴリラもそうですが、「より本能に近づいていったほうがVRはおもしろい」ということなのかもしれませんね。

藤川:
「タブーを体験できる」というか、「現実では絶対にダメなことをできる」というのがVRのモチベーションの1つだと思うのですが、その点で突き抜けているのが『Blade and Sorcery』なのかなと。

久保田:
「今はこんなゲームが売れてるの!?」という驚きもあったかもしれませんが、現在のVRゲームのトップ3はこういったタイトルになります。

では、「誰がそれらのゲームを遊んでいるか」というメインのプレイヤー層についてお伝えするために、また1つの数字を出そうと思います。「33%」という、アメリカの統計調査で出てきた数字です。

久保田:
複数の調査でほぼ同じ割合の数値が出ているのですが、一言でまとめると、「アメリカでは、10代の3割がVRヘッドセットを持っている」という話になります。アメリカのティーン層は約2000万人いると言われているので――つまり、VRヘッドセットを持っている10代がアメリカには600万人もいて、先ほどのゴリラのゲームなどで遊んでいるわけです。いずれにせよ、アメリカの若い世代にVRが普及しつつあることは間違いありません。

その一方で、参考にお伝えしておきたいプラットフォームとして『Roblox』の存在があります。こちらはVR専用のタイトルではなく――VRにも対応していますが――メインはスマートフォンやPCでプレイするようなゲームですね。

『Roblox』は非常に巨大なプラットフォームになっていて、まずDAUが約8000万人(※本講演当時)。「ゲーム版YouTube」なんて言われることもありますが、ユーザーがゲームを作ってアップロードすることができ、アップロードされたゲームは友達と集まってマルチプレイで遊べます。

あとは顕著な特徴として挙げられるのが、「平均プレイ時間が非常に長い」という点ですね。去年よりは減っているようですが、それでもユーザーの大多数が2時間以上遊んでいる、というデータがあります。比較対象としてTikTokを挙げると、1日の平均接触時間が1時間程度と言われているので、とんでもなく長いことがわかるかと思います。

それと、これはちょっと変な統計なのですが、「『Roblox』をやったことがないアメリカの10代は22%」という数字があります。裏を返せば「アメリカのティーンの78%は『Roblox』を触ったことがある」ということなので、知らない人はほぼいないレベルで普及しているんじゃないかなと。アメリカには今、そんなプラットフォームがあるわけです。

『Roblox』についての説明はここまでにしておきますが、VRゲームとRobloxには、「プレイヤー層が若い」という共通点があります。10代もしくは20代前半がメインのプレイヤー層である、ということ。

『Roblox』もVRゲームも「没入型のコンテンツである」という特徴もあります。そして――これは個々のコンテンツにもよりますが――往々にして「マルチプレイである」という共通点ですね。なので、これからお二人にVRゲームのお話をうかがうにあたっては、「一緒に遊べるゲーム」あるいは「コミュニケーション」といった部分が、1つのキーワードになるのかなと。

30〜40代の人たちではなく、ギークでもハードコアゲーマーでもない若い層が、VRのゲームを今遊んでいる。その人たちは、より没入できるコンテンツや環境に強く引き付けられていて、それをマルチプレイで楽しんでいる。そういったユーザー像がまず見えてくるかなと思っています。

「すべての人をHEROに」

久保田:
簡単にではありますが、「VRゲーム市場の今」というテーマでお話をさせていただきました。ここからは藤川さんと岸上さんに詳しくお話をうかがっていこうと思います。まずは藤川さん、お願いします。

藤川:
改めまして、UNIVRSの藤川と申します。UNIVRSは実は2人の兄弟から始まっている事業で、僕がCEOで兄の藤川啓吾と申します。

藤川:
現在は40人くらいの企業になっていますが、VRは「できない」を「できる」に変える技術だと僕らは考えています。VRは確実に世界を変える技術になると確信して、2016年に創業しました。創業から8年が経ちますが、「VRは世界を変える!」という確信を疑ったことはなく、徐々にその足音が近づいてきているのを感じますし、むしろ自分たちで引き寄せるくらいの気概で事業をやっています。

事業としては主に「日本の漫画やアニメをVRゲーム化する」ことに取り組んでいて、現在は『進撃の巨人』のVRゲームを開発しています。世界で最も人気な日本のIPのひとつと言ってもいいタイトルですが、7月24日にアーリーアクセス版を発売して、ご好評の声をいただいております(※記事公開時点では本編が発売済)。Moguraさんにも取り上げていただいたのですが、嬉しいことに、Meta Questストアで週間ベストセラー1位を獲得しました。これは日本初の快挙で、先ほど話題に出た『Blade and Sorcery』と『Beat Saber』も抜いております!(笑)

久保田:
ちなみに、ランキングにゴリラがないのは、有料コンテンツのランキングだからですね。

藤川:
次はゴリラを超えたいので、がんばります。

久保田:
でも、この2つを下しているのはすごいですよ。

藤川:
そうなんですよ。次はMyDearestさんのゲームが来ると信じているので、よろしくお願いします。――という売上もそうなのですが、レビューもすごくみなさんの評価をいただいていまして、国内外のユーザーさんから嬉しい言葉を頂戴しています。

なかでも嬉しかったのが、「A dream come true」と言っていただけたことですね。『進撃の巨人VR』を作ろうとしたそもそもの理由が、「立体機動装置で巨人と戦うことが、世界中の『進撃の巨人』ファンにとっての夢なんじゃないか」と考えたからでした。なので一番の褒め言葉だと感じましたし、今後もみなさんの夢を叶えるためにゲームを作っていくつもりです。

藤川:
そんな私たちUNIVRSには、「すべての人をHEROに」というビジョンがあります。

HEROとは、理想の自分のこと。VRのテクノロジーを使えば理想の自分になれますし、VRには、もうひとつの世界、経済圏を生み出す可能性があると思っています。「あの世界に入りたい!」「こういう自分になりたい!」という、みんなの夢を叶えられるような世界をUNIVRSに作っていく――「UNIVRS(ユニバース)」という名が表すような、もうひとつの宇宙を作りたいと私たちは考えています。

VRゲーム市場は「信じられない状況になっている」

久保田:
ありがとうございます。続いて岸上さんお願いします。

岸上:
改めまして、MyDearestの岸上です。僕は藤川さんのことを「啓吾さん」って呼んでいて、2016年から一緒に同じ業界にいて仲が良いのですが……。でもやっぱり、先に世界一を取られるのはめちゃくちゃ悔しいので! もちろん嬉しさもありますが! だから「次はMyDearest」って言われるのは屈辱なんですよ!(笑)

藤川:
すみません(笑)。

岸上:
いやいや、これで良いんですよ。こうやってお互いに殴り合って、高め合いながらやっていくことが、一番伸びるマーケットの姿だと思ってます。

そんな我々MyDearestがどういう会社かと申しますと、ほかのVRゲームの会社とはちょっと毛色が違うようなところもあります。まず、自分たちで作るゲームに加えて、他社のゲームを販売するパブリッシング事業をやっていること。そして、オリジナルIPを使ったコミュニティ事業もやっていること。この3本柱でやっています。

岸上:
先ほど、久保田さんと啓吾さんが市場の話をしてくださったのですが、僕は今、VRゲームに関して大きな危機感を持っておりまして……。というのも今、アメリカを中心にVRゲームが非常に盛り上がっていて、僕たちが8年間かけて築いてきた地位が一瞬で崩れてもおかしくないような状況なんです。そのくらい市場が伸びていて、『Gorilla Tag』を中心に売上100億前後のタイトルがどんどん出てきています。

その震源地は、アメリカの10代ですね。なので、「VR市場はいつ盛り上がるんですか?」って聞かれることがよくあるんですが、そのたびに「もう盛り上がってるんだけど!?」って思ってます(笑)。啓吾さんもそうだと思いますが、僕らのユーザーの9割は海外なんですよ。だから、もう来てます。すごく盛り上がってます。

岸上:
でも実際、「もう来てる」と言われて、ピンとこない人の気持ちもわかるんですよね。僕は30代なのですが、「アメリカの10代のことを語れますか?」って聞かれて話せる人はそうそういないと思います。アメリカでVRゲームが盛り上がっていて、大勢のティーンがユーザーとしていることなんて、わからないじゃないですか。そのようなマーケットの現象があるので、日本の開発者目線で考えるとものすごく危機感があります。

投資家の方に最近よくお話ししているのですが、アンドリーセン・ホロウィッツというベンチャーキャピタルが、iPhoneの普及台数とQuestシリーズの普及台数を比べたデータを出していまして。iPhoneの初代が5年でだいたい4000万台、対するQuestシリーズが約3500万台なんですね。これだけ見れば、初期の普及台数はあまり変わらない、という見方もできます。あとはAppleの参入もありましたが、「最高のデバイスを高価格帯で出す」という形なので、廉価なQuestシリーズとは戦略が明確に異なりますね。

それで、「VRゲームはいつ来るの?」という話ですが――これは多分、「VR元年」と呼ばれた2016年の頃の印象を引きずってしまっている部分もあると思います。当時も多くのタイトルがリリースされましたが、そこまでは伸びきらなかった。2017年もまたVR元年と言われ、2018年が「ここ数年で一番のVR元年」と言われ、ボジョレー・ヌーボー化したのをすごく覚えています(笑)。僕らも最初のヒット作は2019年の『東京クロノス』なので、創業からヒットするまで3年かかったんですよね。

しかし2024年の今、当時と比べれば市場は本当に大きく変わっています。『東京クロノス』の頃は7人だったMyDearest社も70人ぐらいになり、累計25億円ほどの資金調達もしています。

会社としては、IP事業とVRゲームからスタートして、IPを活用したメディア展開――小説化、舞台化、グッズ、イベントなど――も行いつつ、Nintendo Switchやモバイルへのゲームの移植もしています。いろいろありますが、ドンズバで伸びているのはVRゲームですね。

岸上:
ここでまたアンドリーセン・ホロウィッツが出している数字を参照するのですが、現在は大人よりも子供の課金額が多くなっています。その理由の1つが、コロナ禍で外出できなかった時期にQuest 2が登場したこと。その価格も最終的に199ドルまで下がり、アメリカの人にとっては買い求めやすい価格帯だったことなどが挙げられます。

それと、どうやらコロナ禍以降のアメリカの治安が悪くなっていて、子供が外で遊びにくくなっているらしいんです。だから、放課後は『Roblox』や『Gorilla Tag』といったオンライン上に集まって遊んでいるそうなんですよね。

しかも子供って、そういったVRゲームを毎日遊ぶんです。VRを毎日遊ぼうとしても、働いている大人だとキツい人も結構いると思うんですよ。でも、子供は元気があるから、毎日遊ぶ。毎日遊ぶと、必然的に課金額も増える。コメント欄でも書かれている方がいらっしゃいますが、オンラインのVRゲームで遊ぶと、ほぼ100%の確率でアメリカの子供と会うんですよね(笑)。

現在のVRゲーム市場をたとえるなら、ソーシャルゲーム黎明期のような状況だと思います。ゴリラになって鬼ごっこをするゲームなんて、「こんなのはゲームじゃない」って言われてもおかしくないタイトルだと思うんですよ。でもそれがすごくおもしろいし、子供たちに遊ばれているし、めちゃくちゃ売れているんですよね。

そこでみなさんにお聞きしたいのですが、ソシャゲ黎明期に戻りたいですか? ――多分、戻りたい人も多いんじゃないでしょうか。それが、VRゲームの今なんですよ。「アメリカの10代」という新しいユーザーが入ってきて、市場がすごく伸びていて、新しいゲームジャンルが出てきている。10代の子供が作ったようなゲームがランキング上位を占めている。そんな信じられない状況になっているので、かなり危機感があります。

岸上:
僕らの最近のタイトル(※)としては、『ブレイゼンブレイズ』というマルチプレイのVRゲームがあります。見た目は『Overwatch』や『VALORANT』のようなシューターゲームなのですが、ゲーム性はどちらかと言えば『大乱闘スマッシュブラザーズ』に近い感じですね。ビジネスモデルとしては15ドルで販売しつつ、ゲーム内課金でコスチュームを買えるようになっています。

他社のゲームを販売するパブリッシング事業もやっています。サムネイルにもあった『8番出口』のVRゲームもそれですね。『8番出口』自体がそもそもグローバルでヒットしていたタイトルなので、VR版も全世界でベストセラー7位になるくらいには売れました。……1位がいるので、あれなんですけど(笑)。『8番出口』は日本のゲームですが、ほかにも中国やベルギーなど、世界中からいろいろなタイトルを発掘してきて販売しています。

※編集注:Mydearestは2024年11月に「クローバークライマー」をリリース。発売2ヶ月ですでにレビューの数は1,000を超えている。

岸上:
ちなみに――最近になってオープン化してきましたが――Metaのプラットフォームでは当初、全世界で毎月5〜10本くらいしかリリースの許可が下りず、「ゲームを出したいけれど出せない」という状況が続いていました。

そこで、2016年からこの業界にいる僕らは、Metaよりもストアでの販売経験が豊富だったので、世界中から発掘してきたタイトルを「これ、出しませんか?」とMetaに提案するようなこともしています。そういうことを世界中の会社と一緒にやりつつ、手数料をいただいている格好ですね。

パブリッシング事業をやっている理由としては、ゲーム事業の開発にかかる期間の問題もあります。ゲームの開発ってやっぱり時間がかかりますし、自社ゲームだけだと、年に1本出せるか出せないかとかになってしまうので。

他社のタイトルも販売すれば本数もたくさん出せますし、数を出すことで得られる経験値や市場の感覚もあります。その経験を自社タイトルに反映することもできますし、逆に、自社タイトルの経験を他社の方にアドバイスすることもできます。そんな一石二鳥みたいな事業ですね。

VRゲームは長期間にわたって売れ続ける傾向にある

久保田:
今回のセミナーでは、VRゲームに長年にわたって携わってきたお二人から、現場の声をお届けできればと考えております。

「現在のVRゲーム市場、伸びている印象ある?」というスライドを用意させていただいたのですが……「伸びている」という結論ではあると思います(笑)。

そのうえで、特に複数のタイトルを次々に発売している岸上さんにうかがいたいのですが、ヘッドセットのユーザーが増え続けていることで、たとえば「数年前に出したタイトルが売れ続けている」というようなことはあるのでしょうか。そのような面でも「伸びてきている」という実感値がもしあれば、お話しいただければと思います。

岸上:
これは明確に伸びてきていると思いますね。僕らのタイトルはまだそこまでいけていないのですが、メインのアメリカの10代に刺さったゲームだと、本当にすぐに100万本とか売れたりするらしいです。

あと、過去タイトルについてはずっと売れ続けています。特にセールのタイミングで一気にユーザーが入ってきますね。Nintendo Switchでも販売しているのですが、正直、VRのほうが売れています。――って言うとみんな驚くんですけど(笑)。

久保田:
Switchはライバルが多いですものね。藤川さんはどうですか?

藤川:
そうですね……今、ぶっちゃけて話すか迷っていたのですが、『進撃の巨人VR』がヒットしたことで、ちょっと気づいたことがありまして。Quest Storeのベストセラーのランキングで、1日目は10位、2日目は3位、3日目は1位になったんです。そこで初めて、『Beat Saber』が1週間単位でかなり売れていることがわかったんですよ。5年経って(笑)。

そう考えると、VRゲームのポテンシャルの高さを感じますし、市場の盛り上がりと一緒に定番タイトルも伸び続けている、という現状があります。そのトップラインまでいかなくても、ランキングのもう少し下のタイトルも確実に売上が積み上がっていると思います 。

岸上:
長い期間をかけてずーっと売れ続けるのは、VRゲームの特徴だと思います。あと、藤川さんからもお話がありましたが、7〜8月が一番の閑散期なんですよ。基本的にはアメリカの市場と連動していて、みんなバカンスとかに行っているので。だから、VRゲームはクリスマス商戦のある冬に売れます。

たしかクリスマスの時期って、『Gorilla Tag』でもDAUが500万人くらいになっていたような気がします。普段が100万人で、クリスマスが500万人とかなんですよね。数年前の数字で500万人だったので、今年(2024年)のクリスマスは1000万人を突破してもおかしくないと僕は考えています。


久保田:
コメントで「どうしてアメリカの子供たちが遊んでいるのでしょうか?」という質問をいただいていますが、「クリスマスプレゼントになるから」というのが1つの理由としてあります。価格としては家庭用のゲーム機と横並びで、もしかしたらそれよりも安いぐらいなんですよね。

そこで、年末のタイミングで「今年のクリスマスはQuestが欲しい!」とお願いをする子供に対して、サンタさんがヘッドセットをプレゼントしてくれる。ただ、ゲームをダウンロードしようにも、子供はお金がないので、まずは無料で遊べる『Gorilla Tag』をダウンロードしたり、YouTubeを見たりして楽しむ――という挙動になっているようです。

藤川:
たしか2023年のAmazonの年末のベストセラーで、Quest 2がSwitchを抜いて1位だったんですね。8位あたりにも容量違いのQuest 2が入っていて。そう考えると、数字でも証明されていると言えます。

岸上:
「VRゲームは高い!」という印象もありますが、タイミングによってはSwitchよりも安いことがあるんですよね。特にアメリカの感覚では、Switchよりも安いと考えてもらったほうがいいかもしれません。

久保田:
物価の差もあるので、「アメリカ発のデバイスが日本に入ってくる」となったときに、為替レートの影響を受けて割高に見えることはあると思います。「ゲームをプレイするもの」として家庭用ゲーム機と横並びに考えてみると、価格的にはおトク感がありますし、マルチプレイで遊べるコンテンツもたくさんあります。

「友達が持っているから遊ぶ」という、要はモンハン現象ですね。「『モンスターハンター』をみんなと遊びたいからPSPを買う」あるいは「『スプラトゥーン』をみんなと遊びたいからSwitchを買う」という動きが、VRゲームとそのハードウェアでも起きているわけです。

日本だとあまり考えられないのですが、アメリカでは、VRゲームが普通に街中で大きな広告を出しています。ニューヨークの目立つところにも「次はこれが来るぞ!」みたいな感じで。すでにそれだけのユーザー数がいるし、新規ユーザーが「そのゲームをきっかけにデバイスを買う」ような素地もできている。そのあたりの感覚値は、やはり日本とアメリカとでは違うのかなと思います。

「アメリカの10代に刺さらないと伸びきらない」

久保田:
では、次のテーマです。市場全体が伸びている一方で、その盛り上がりは個々のコンテンツやプレイヤーと連動しているのかどうか。岸上さんから「Switchよりも売れます」というお話もありましたが、「全体が伸びているから、ある程度はみんな伸びている」という理解でよろしいでしょうか?

藤川:
そのとおりだと思います。

岸上:
補足として、VRゲームを作っている人やこれから作ろうと考えている人には、「アメリカの10代に刺さらないと伸びきらない」ともお伝えしておきたいです。遊んでくれるのは本当にアメリカの10代ばかりなので、その層にどのようなVRゲームが受けているかを研究するのが一番良いと思いますね。

久保田:
地域の話でいえば、コメントで「中国はどうなんですか?」という質問がありましたが、こちらはいかがでしょうか。

岸上:
みなさんが思っているほどは中国のシェアは高くないと思います。そもそも中国ではQuestがまだ正式には販売されていないので、見るとすれば、PCゲームプラットフォームのSteamのほうになりますね。

藤川:
実際、「どの国で何パーセント売れている」というデータも出てきつつありますが、中国はまだ出ていないですね。

岸上:
中国と比べるなら、日本のほうが多いんじゃないでしょうか。基本的にはアメリカ――北米ですね。カナダは思ったよりも多いです。思ったよりも。

藤川:
そう、カナダと……あとはイギリスですね。英語圏は結構あります。

岸上:
僕らのユーザーデータで言うと、アメリカ、カナダ、イギリスが同じぐらいで、次に日本――みたいな感じですね。

藤川:
一緒です。

岸上:
その後ろにヨーロッパの国々が続く感じです。

久保田:
現在はマーケットを牽引しているのがMetaであり、デバイスもQuestが中心となっているので、そのMetaが入れない中国のマーケットは未知数――という感じでしょうか。もしかしたら中国国内では動きがあるのかもしれませんが、市場としては断絶している感じはありますね。

VRゲームは難しいほうが評価される?

久保田:
この流れでグローバルの話をしたいのですが、ここまでのお話のなかで、すでに「日本のユーザーよりも北米のほうが圧倒的に多い」という結論が出ていたかと思います。「ゲームをうまく売るためには、北米の10代を理解すべき」というご指摘もありましたが、岸上さんは北米の10代をどのように捉えていますか?

岸上:
元も子もないのですが……TikTokでバズるコンテンツが売れます(笑)。

藤川:
(笑)

岸上:
でも本当にそうなんですよ。VRゲームは、TikTokでバズるものが売れます。「VRゲームとTikTokに何の関係があるのか」と思われるかもしれませんが、アメリカの10代は本当にみんなTikTokを見ています。日本では、VRゲームがTikTokでバズってもそんなに売れるようなイメージはないかもしれませんが、アメリカでは、TikTokでバズったときにいきなりユーザー数がめちゃくちゃ増えました。

ほかに日本とアメリカの違いとしては、年齢層も違いますね。日本とヨーロッパであれば大きくは変わらないと思いますが。10代が圧倒的なアメリカに対して、日本は20〜40代のユーザーが多く、コアゲーマーや新しいものが好きなアーリーアダプターなどの属性が強い印象です。

藤川:
『Gorilla Tag』と少し似ている『Yeeps: Hide and Seek』というタイトルが最近出たことで再確認したのですが、やっぱり「放課後の居場所になるコミュニティ」は強いですね。

本当に公園へ遊びに行く感じと近いです。お互いに顔見知りでもなんでもない子供たちが一緒に遊んで、友達になって――僕もアメリカの子と友達になったんですけど――チャットをして。朝4時とかに電話がかかってきたりするんですけど(笑)。英語圏のコミュニティでは、外に出づらい、屋内で遊ぶしかない子供たちの居場所になっているので、「居場所を作る」こともVRゲームの大事な要素なのかなと思いますね。

年齢に関係ない全体の話としては、「ユーザーが求めているVRゲーム」をしっかり作ることが重要だと考えています。当たり前の話のようですが、「普通にあるゲームをそのままVR化する」ような考え方で作ってしまうと、ユーザーの希望からはかなりズレてしまうように感じておりまして。

というのも、『進撃の巨人VR』を作るときにVRゲームのレビューを徹底的に調べたことがあったのですが、難易度の高さで酷評されているゲームって実はあまりないんですよ。むしろVRゲームの難易度の考え方としては、簡単であるよりも難しいほうが評価される。VRでしかできない、かつ挑戦的な体験を求めているユーザーが意外と多い。そんな実感があります。

岸上:
僕、啓吾さんからこのお話を聞いたときに、痺れちゃって! ゲームって普通は、誰でも遊びやすいように簡単にするじゃないですか。でも違うんですよね。

啓吾さんの仰ったとおり、レビューを調べてみると、「簡単」で酷評されているVRゲームはあるのですが、「難しい」で酷評されているVRゲームはないんですよ! これはVRゲームならではの特徴であるように感じられて、ゲームを作る側の人間としてめちゃくちゃ興味深く感じています。

藤川:
『進撃の巨人VR』のリリース後のレビューにもその傾向が現れていて、「最初は『キャラゲーかな?』と思ったけど、これは歯応えがあるゲームだ! ゲーマーにこそプレイしてほしい!」といったコメントでおすすめいただいているんですよね。

そういう意味では、「これはVRヘッドセットをかぶってまでプレイする体験価値があるゲームなのか」ということを、ユーザーはしっかりと吟味しているように見えます。ティーンの子たちはそこまで考えていないかもしれませんが、「限られた時間内で、友達とおもしろい体験をできるか」という部分は重視しているのではないでしょうか。使えるお金も限られていますしね(笑)。

VRゲームは「マルチプレイ」がトレンドなのか

久保田:
次のテーマはマルチプレイについてです。前半にゴリラの話ばかりしてしまったのですが、MyDearestさんの『ブレイゼンブレイズ』も対戦ゲームですし、UNIVRSさんの『進撃の巨人VR』もたしか将来的には……?

藤川:
そうですね。冬のフルリリースのときにはマルチプレイ要素が入ります。

久保田:
――ということなので、「やっぱりトレンドはマルチプレイなんですかね?」という部分は聞いておきたいなと思いまして。

藤川:
「マルチプレイがトレンド」というのは少し前の話で、今はもう「必須」という印象がありますね。マルチプレイを前提として、さらに何を追加できるかが重要だと思います。

ただ一緒に遊べるだけではなくて、たとえば『Yeeps』だったら、そこが「居場所」として機能していること。『進撃の巨人VR』なら「1人が足を斬って、1人がうなじを斬る」という役割分担をさせることで、VRアクションならではのカタルシスを生ませる――といった感じですね。

久保田:
岸上さんはどうですか?

岸上:
マルチプレイがトレンドなのは間違いないのですが……参考に、僕が全社会議で喋った資料を画面に映しますね。

岸上:
まず、最近のもう1つのトレンドとして、「『Gorilla Tag』likeゲームの大流行」があると思っています。というのも、『Gorilla Tag』はボタンを使った操作がなく、コントローラーを持った両手を動かして操作するのですが、今年流行った『I AM CAT』というゲームが似た操作方法を採用しているんですよね。

ただ、『I AM CAT』はシングルプレイなんです。『進撃の巨人VR』も現時点ではシングルプレイですが、めちゃくちゃ売れている。なので、マルチプレイはトレンドですし、今後さらに進化していくと思いますが、それ以上に大事なのが「友達と話題にできること」だと考えています。遊んだゲームについて「おもしろかったね」と友達に共有できたら、それもある意味では“マルチ”じゃないですか。そちらのほうがはるかに大事です。

藤川:
たしかに、コミュニティで話題になるのは大事ですね。

岸上:
そのような話題性があれば、マルチプレイでなくても大丈夫――ってところですね。1人で遊ぶゲームなのだけれど、プレイ中に得た体験を共有できて、みんなで喋っていておもしろいタイトル、みたいな。

『I AM CAT』はプレイヤーが猫になって自由に動けるゲームなのですが、飼い主のおばあさんにめちゃくちゃいたずらできるんですよ。驚いたことに、普通に殴れます(笑)。だから、これもTikTokで動画にするとおもしろいんですよね。「これおもしろかったね」とか「こんな遊び方できた!」と口々に話しながら、友達同士でシェアしまくっているんです。

そんなシングルプレイのゲームがめちゃくちゃ売れているので、「友達と共有したい」という気持ちになれるかどうかは大きなポイントですね。マルチプレイの要素も重要ですが、「自分はシングルプレイのゲームで遊びたい!」というユーザーに対しても、友達とシェアできる体験を提供することがすごく大事だと思います。

久保田:
たしかに、VRではないゲームもそうですよね。マルチプレイゲームが盛り上がっているのは間違いありませんが、1人で遊ぶゲームも依然として売れ続けています。それがなぜ盛り上がっているのかを考えると、学校などで話す共通の話題として機能していて、結局は「みんなで遊んでいる感」が出てくるからなのでしょうね。

岸上:
マルチプレイの話に関連して、VRChatの質問も多く来ていますね。日本のVR市場の一番の特異性って、やっぱり「圧倒的にVRChatが強い」ことにあると思うんです。スタンミさんたちストリーマーの参入もあり、今まさに国内でバズっている状況ですよね。

VRChatに関しては、「マルチプレイゲーム」というより「メタバース」と言ったほうがしっくりくるかもしれませんが、やはりあの、VRヘッドセットをかぶって「会う」感覚は大きいですよね。Zoom飲み会が話題になったことが一時期ありましたが、ぜんぜんその場にいる感覚がないし、「一緒に飲んでいる」という感覚も薄かったかと思います。

でも、VR飲み会っておもしろいんですよ。本当に会っている感覚があるんですよね。そういう意味では、「同じ空間で一緒に何かをして過ごす体験」こそがマルチプレイVRゲームの一番のミソだと思います。

久保田:
いわゆる「ソーシャルプレゼンス」ですね。自分自身だけでなく、ほかの人と一緒に同じ空間、同じ時間を共有できている感覚が、VRは極めて強い。ザッカーバーグもたしかそれでVRの可能性に惚れ込んで、確信を持ってOculusを買収した、という話があります。VRはそのくらい強烈な体験であり、それが今、一般のコンテンツにもどんどん入ってきていると言えます。

一点お伝えしそびれていたのですが、『Gorilla Tag』はもともと1人の開発者が1人きりで作ったオンラインのVRゲームでした。今は100人くらいのスタジオになっていると聞いていますが、「1人でもマルチプレイのVRゲームは作ることができてしまう」いう意味では、技術的にも実装しやすくなってきている俎上があるんだろうなと思います。

「おもしろいゲーム」であり、「おもしろそうなゲーム」でなくてはならない

久保田:
次はPRの話ですね。『Roblox』もそうなのですが、プラットフォームが拡大すればするほど、いかにしてほかのタイトルよりも目立たせて売っていくのかを考える必要が出てきます。これからVRゲームを作る人たちにとってもPRは大事な観点かと思いますので、お二人にうかがえればと。

藤川:
いろいろな軸での話がありますが――おそらく結論は一緒になると思うので――僕からは、普遍的なところから話しますね。

まず、VRゲームを売る際に、マス向けにPRするために巨大な予算をかけるのは、現時点ではまだ非効率だと思います。ですが一方で、最適なタイミングでグローバルな発信ができるメディアやインフルエンサーにリレーションして、取り上げてもらうための地道なPRは必須です。

そのうえで、VRのPRにおいて一番大事なのは、ストアのビデオですね。ストアページで表示されるビデオの、最初の10秒がすべてです。なぜなら、VRは実際にヘッドセットをかぶらないと、おもしろさが伝わらないから。それが「本当におもしろいゲーム」であり、かつ「おもしろそうなゲーム」でなくてはならなくて、その両方を満たしていないとVRゲームは売れません。

これはVRの命題でもあるのですが、「かぶってみないとわからないけれど、かぶる前に興味を持ってもらわないといけない」というジレンマがあります。だからこそ、ビデオの最初の10秒で、「おもしろそう」だと思ってもらえるかどうかは大事です。ただ、これは普遍的な戦略ではあるのですが、それだけでは不十分でもあるのかなと。

おそらくこれから大事になるのは、先ほど岸上さんが仰っていたTikTokと、Discordコミュニティ。この2つにどれだけ注力できるかが、広がりと深さのある人気コンテンツになれるかどうかを左右すると思います。

岸上:
啓吾さんが仰った「おもしろいゲームである」と「おもしろそうに見えるゲーム」の話は、すごく大事な言語化だと思います。「おもしろい」と「おもしろそう」は別ですし、売れるためには両方が必要なんですよね。僕も社内で「これは『おもしろい』けど、『おもしろそう』ではないよね」みたいな話をすることがあります。

『ブレイズンブレイズ』は半年弱にわたってベータテストをしていたのですが、そのどこでバズったかというと、アイテムアップデートのタイミングだったんです。対戦中にランダムで手に入るいろいろなアイテムを実装したのですが、それでビジュアル的にすごく賑やかになったことで、TikTokでバズりました。それまではユーザー数が伸び悩んでいたのですが、バズった瞬間にガコンと伸びましたね。その動画がこちらです。

https://www.tiktok.com/@brazen.blaze/video/7390494375555452191

この動画が数十万回再生されて、Metaの公式アカウントからもコメントがあり、それ以外にも何百ものコメントがつきました。ほとんどがアメリカの子供からのコメントですが、これがおもしろそうに見えたんでしょうね。

久保田:
ちなみに、これは別に何かアド(広告)をかけたわけではなく、たまたま『ブレイゼンブレイズ』の公式アカウントでTikTokに投げ込んだ動画の1つがバズった、ということですか?

岸上:
TikTokに関してはアルゴリズムがすぐに変わりますし、真偽は定かではないのですが……。アドをかけたほうが、伸びない印象があります。正直、オーガニックでしかユーザーが増えた試しはないですね。

実際、アドをかけたバージョンとかけていないバージョンを投稿しているのですが、後者のほうが圧倒的にバズります(笑)。もちろんバズるまでは時間がかかるのですが、一度ユーザーを掴めばガコンと跳ねますね。あとはインフルエンサーマーケティングも大事ですが、どちらかといえば、オーガニックなアカウントがバズるほうが断トツで効果があります。

久保田:
ぶっちゃけていただいてありがとうございます(笑)。

岸上:
それと、これは裏情報ですが、アメリカ向けにバズらせないといけないので、SIMもアメリカで買ってくるか、あるいはアメリカにいる人に投稿してもらうか、そういうレベルでやっています。そうしないと、アメリカのタイムラインで出てこないので。

TikTokと、あとはYouTubeショートもですね。近頃はYouTubeショートのアルゴリズムがTikTokに近づいてきているので、同じものを投げてもいいんじゃないかなと思います。

久保田:
少し話が逸れるのですが、3月にアメリカのゲームデベロッパーカンファレンスに行ったときに、プロモーション系の講演をいくつか聞きまして。

VRではないのですが、ゲームに詳しい方ならみなさんご存知の『バルダーズ・ゲート3』(※)の講演でも、TikTokの運用担当者が「地道にすごくがんばった」と話されていました(笑)。「どういう絵作りをするとうまくいくのか」を考えて、イテレーションを毎週まわしていたそうです。そういう意味ではVRに限らず、北米圏では今、TikTokがすごく大きな存在なんだろうなと。

※2023年の「ゲーム・オブ・ザ・イヤー」を受賞したゲーム

岸上:
そうですね。コメントでも質問が来ているように、TikTokをアメリカで制限する法案の問題もありますが、制限がないうちはTikTokをがんばるべきだと考えています。あとはYouTubeがその後釜をYouTubeショートで狙っているので、もしTikTokが制限されたとしても、そこで得たノウハウは生きると思います。

ユーザーとの距離が近いコミュニティには「なぜ」が凝縮されている

久保田:
同じ素材で縦動画を作って両方に投稿しよう、ということですよね。藤川さんからのバトンでDiscordコミュニティの話もありましたが、そちらはどうですか?

岸上:
Discordもめちゃくちゃ重要ですね。実際、啓吾さんは現状どうですか?

藤川:
僕らは今のところ、参加人数が2,000人を超えたぐらいですかね。UNIVRSのDiscordサーバーに『進撃の巨人』のチャンネルを作ることになったので、そこにどんどんユーザーを集めて、コミュニケーションを促していこうと考えています。まだ始めたばかりではあるのですが、バグ報告やフィードバックも頂戴していて、あったかい人が多いと感じています。

なので「コミュニティが大事」というよりは、場所を用意しないとそもそも何も生まれないので、「まずは絶対にやったほうがいい」と確信しています。

岸上:
DiscordとTikTokって、対極にあるんですよね。「拡散」の極みがTikTokで、「凝縮」の極みがDiscord、みたいな。

Discordに集まってくれるのは、ディスカッションやコミュニケーションをしたい、あるいは自分のノウハウをシェアしたい本当にコアなユーザーでありファンなので、一番大切です。そのうえで、TikTokでをバズらせる。その両軸でやっていかないといけません。

ゲームビジネスの観点でも、最近はDiscordの人数をすごく見られます。リリース前に「Discordに何人いるの?」って普通に聞かれますね。なので、そもそもファンがいない新規IPの場合はアルファやベータの段階でゲームを公開して、Discordに人を入れて、フィードバックをもらいながら磨いていくのがいいと思います。

Discordにいらっしゃる方々って、一緒にゲームを育てるだけじゃなく、外に拡散する方法を一緒に考えたりもしてくれて、めちゃくちゃ協力してくれるんですよね。「ファン」というよりは「味方」になってくれます。「俺のほうが開発者よりもゲームがうまい!」みたいな人もたくさんいますし、僕も『ブレイゼンブレイズ』で普通にDiscordの人に負けています(笑)。

久保田:
ちなみに、MyDearestさんとUNIVRSさんが運営しているDiscordは誰でも入れるはずなので、気になる方は覗きに行ってみてください。

一方で、昔ながらの見方でいえば、Discordをいわゆる「お問い合わせフォーム」のよりインタラクティブなものだと捉えることもできます。おそらくはいろいろな声が集まっているかと思いますが、個々のユーザーの声にはどこまでしっかり向き合っているのでしょうか。

藤川:
フィードバックに関してはいただいた内容はすべて確認してまして、順次対応しております。「こういうのは作れる?」といったご提案についても、もともと作る想定だったものも含めてお答えしている格好ですね。

岸上:
僕らはもともとオリジナルIPでやってきた企業なので、ユーザーの声はもちろん大事にしています。「こうしたほうがゲームがよくなる」というご意見も参考になりますし、ゲームを広めてくれるのも、そうやって積極的に声を届けようとしてくださる方たちなので。

それと、今はおもしろいものが世の中に溢れまくっているので、「なぜ自分がこれをプレイするか」の「なぜ」の理由がすごく重要だと思うんです。そこで、開発初期から参加して、自分の声が反映されているようなゲームがあれば、もっともっとプレイしたいと思っていただけるのではないかなと。

つまり、「なぜこのゲームを遊ぶのか」の最高の理由付けが、「俺がこのゲームを作った」なんですよ。積極的に意見をくださる方って、ユーザーであると同時にほぼ「開発者」でもあるんですよね。

だから、Discordはお問い合わせフォームではなく「一緒にゲームを作る場」であり、「ゲームをやる理由」でもあるんですよね。「このゲームをなぜ広めたいと思うのか」「なぜ遊ぶのか」という、「なぜ」の理由が詰まっている場所だと感じています。なので、僕らはDiscordを本当に重視していますし、その重要性は今後さらに高まっていくと思います。

久保田:
そういえば、最初に取り上げた「『Gorilla Tag』で遊んでいる人が100万人いる」というトピックですが、これはとあるXR業界イベントのなかで開発チームが登壇して発表したんですよね。そのパネルディスカッションでも同じ話をしていて、「Discordのユーザーの声だけと向き合っている」と言っていました。自分たちがどのようなゲームを作りたいかよりも、ユーザーのフィードバックこそが命であると。

QuestはライトVRユーザーで、SteamはコアVRユーザーで、PSVRはゲーマー

久保田:
ディスカッションテーマとしては最後になりますが、「どのプラットフォームで出せばいいのか」という部分についてもうかがえればと思います。Quest StoreにSteam、あとはPSVRなどのプラットフォームもありますが、お二人はVRゲームのプラットフォームについてどのように考えていますか?

藤川:
事業を進める立場からすると、やっぱりQuestを最優先にしないといけませんね。みなさんも「そうですよね」ってなると思うんですけど(笑)。

ほかにはPSVRやPicoもありますが、PCVRの特殊性がひとつ挙げられるかと思います。というのも、クリエイティブ目線で見ると、スペック制限が緩和されるPCVRでしかできない表現があるんですよね。VRChatにはPCVRでしか入れないワールドもたくさんありますが、未来のVR表現の可能性を見出すためには、PCVRは貴重な存在ではあります。

「本当はこういう表現をやりたかったけれど、Questのスペックではできなかった。だからPCVRで試してみよう」ということができるので、そのような観点では、PCVRも重要なプラットフォームですね。もちろん、一定数の市場もありますので。

岸上:
先ほどのDiscordの話とも若干繋がるのですが、PCVR――まあ、PCVR=Steamですよね。DiscordにはSteamユーザーが多く集まる傾向があります。

啓吾さんも多分、Quest Storeでゲームを出したときに、「売れている本数と比べると、Discordに入っている人が少ないな」と感じられたのではないでしょうか。やっぱりPCVRでわざわざ遊んでいる層って、相当なコアゲーマーなんですよね。機材の価格もぜんぜん違うので。あとはQuestに関して言えば、「配信がしにくい」という問題もあります。

藤川:
あー、それはそうですね。

岸上:
ライブ配信をしながらプレイしようとした場合、やりやすいのは圧倒的にPCVRなんです。だから、インフルエンサーからも「できればSteam版で遊びたい」ってよく言わます。

ビジネス的に考えるのなら、ユーザー数が圧倒的なQuestで売ることが、たしかに一番大事ではあります。でも同時に、熱心なファンになってくれるユーザーやインフルエンサーは、SteamVRで遊ぼうとする。それぞれに良さがあるわけですね。それと、コア層を中心とするSteamユーザーがDiscordに集まりやすい一方で、QuestユーザーはTikTokに集まっている印象があるので、両者のユーザー属性も若干異なるように感じています。

また、僕はPSVRが個人的に好きで、もっとがんばってほしいと思っているので、ファンとして強めの意見を言わせてもらうのですが(笑)。PSVR2で遊んでいる人たちが、一番純粋なゲーマーです。断トツで。ゲーマーはPSVRにいます。ユーザー属性がまた絶妙に違うんですよね。

整理すると、QuestはライトVRユーザーで、SteamはコアVRユーザーで、PSVRはゲーマーなんですよ。VRかどうかに関係なく、純粋に「ゲーム」が好きな人がPS5を持っているし、PSVR2で遊んでいるんですよね。だから、ゲーマーとしての意見をめっちゃくれますし、ゲームとしても評価してくれます。

久保田:
マーケットサイズだけを見ると「やっぱりQuestでしょう」というわかりやすい話になってしまいますが、プラットフォームごとにユーザー層が異なり、それぞれに良さがあるわけですね。このあたりのお話は参考になった方も多いのではないでしょうか。ありがとうございます。


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